自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★アベノマスクと内閣支持率

2020年05月31日 | ⇒メディア時評

   テレビ・新聞のメディア各社が調査発表する内閣支持率、その読みどころを探ってみる。きょう31日付の共同通信社Web版によると、全国緊急電話世論調査(今月29-31日)で安倍内閣の支持率が39.4%となり、前回調査(5月8-10日)から2.3ポイント減となった。不支持率は45.5%。支持率40%割れは2018年5月の38.9%以来と報じている。

   NHKが今月19日に報じた電話による世論調査(15-17日)では安倍内閣の支持率は前回調査より2ポイント下がり37%だった。不支持率は7ポイント上がって45%だった。「支持しない」が「支持する」を上回ったのは、2018年6月の調査以来となる。もう一つ、読売新聞と日本テレビ系列による電話調査(今月8-10日)では安倍内閣の支持率は42%、不支持率は48%で、それぞれ前月に比べほぼ横ばいだった。

   3つの世論調査の傾向を読むと、トレンドはすでに支持率40%割れだ。支持率がここまで下がったのは「2018年5月」「2018年6月」以来と。森友学園への国有地売却や財務省の文書の改ざんをめぐる問題が沸騰していた時期だ。

   当の安倍総理はこの数字をどう読んでいるのだろうか。メディア業界でよくささやかれるのは、内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」と。第一次安倍改造内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売新聞の内閣支持率は29.0%(2007年9月調査)だった。その後の福田内閣は28.3%(2008年9月退陣)、麻生内閣は18.6%(2009年9月退陣)と、自民党内閣は支持率が20%台以下に落ち込んだときが身の引きどきだった。民主党政権が安倍内閣にバトンタッチした2012年12月の野田内閣の支持率は19.0%だった(数字はいずれも読売新聞の世論調査)。

   今後、コロナ禍が安倍内閣にもっとも影響を及ぼすのは「アベノマスク」でないかと憶測している。4月7日に配布を閣議決定し、あすから6月だというのに、我が家にも国家支給のマスク2枚がまだ届いていない。政府目標は確か月内配布だったはずだ。厚労省公式ホームページによると、27日現在の配達率は25%だ。マスク支給予算は466億円。緊急事態宣言が全面解除(25日)となって以降、ドラッグストアなどではマスクの安売りが始まっている。多くの有権者にとって、いまだに国家支給のマスクが届かいない状況は政権の体たらくと映って見えてしまう。「安倍さん、いったいマスクはどうなっているの」と。

   そして、夏の暑さが増せば、布マスクには見向きもしなくなる。起死回生の一発がない限り、アベノマスクの風評とともに内閣支持率は今後も下がり続けるだろう。読売調査で20%台に落ちるのはあと半年、12月まで持つか持たないか。「アベノマスク解散」もありうるのではないか。

⇒31日(日)夜・金沢の天気    くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

2020年05月30日 | ⇒メディア時評

   まさに前代未聞の展開になっている。今月27日付のブログで、BBCニュースWeb版(27日付)の記事「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)を取り上げた。トランプ大統領の投稿のうち、26日付で11月の大統領選挙でカリフォルニア州知事が進める郵便投票が不正につながると主張した件で、ツイッター社は誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした。大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をする、との同社の新たな方針だろう。

   これに対しトランプ氏は27日、SNSを規制もしくは閉鎖するとけん制した。ツイートで「共和党はソーシャルメディアプラットフォームが保守派の見解を全面的に封じ込めていると感じている。こうした状況が起こらぬよう、われわれはこれら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」「今すぐ行いを改めるべきだ」と述べた(27日付・ロイター通信Web版日本語)。 

   ツイッター社もひるんではいない。29日にトランプ氏のツイートを初めて非表示にした。ミネソタ州ミネアポリスで今月25日、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起きた。騒動が広がり、トランプ氏は「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」という部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たるとツイッター社は判断した。ただ、削除ではなく、「表示」をクリックすれば読める。すかざす、トランプ氏はツイートで同社を牽制した=写真・上=。「“Regulate Twitter if they are going to start regulating free speech.”」(言論の自由を規制しようとしているなら、ツイッターを規制せよ)

   表現が適切ではないかもしれないが、大統領選に向けた論戦がそっちのけになり、トランプ氏のツイートをめぐる攻防に、有権者やSNSユーザーの関心が集まり始めている。どちらが正しいかという評価ではなく、どちらが勝つかというリング観戦の様相になってきた。

   トランプ氏は28日、SNSを規制する大統領令に署名した。連邦通信品位法(CDA)の第230 条ではプラットフォーマーがコンテンツ発行者として保護される一方で、コンテンツの「管理権限」を与えている。これが撤廃されると、ファクトチェックの警告などは法的な根拠を失い、訴訟が多発するのではないだろうか。一方のトランプ氏とすると、この戦いが大統領選のライバルである民主党のバイデン氏に票が流れ込むという事態になれば、ほとぼりが冷めるまではツイートは休止ということになるかもしれない。

   ツイッター社のファクトチェック方針は、ある意味で「きれいごと」ではある。というのも、大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は​相手の落ち度を責める、まさにデスマッチではある。このデスマッチにはテレビメディアも参戦する。FOXテレビは共和党、CNNは民主党がその代表選手だろう。

   誹謗中傷合戦の選挙状況にファクトチェックは通用するのだろうか。もし、こうしたアメリカの大統領選の状況をなんとか改革したい、質したい、論戦で有権者に訴える本来の大統領選であって欲しいと、ツイッター社が壮大な社会実験に挑んだのであれば、それはそれで一目を置きたい。

⇒30日(土)夜・金沢の天気    くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★取材手法の転換期なのか

2020年05月29日 | ⇒メディア時評

   このブログでも書いてきた、東京高検の黒川・前検事長と産経新聞記者と朝日新聞社員(元記者)の賭けマージャン問題(今月21日付、22日付)。朝日新聞社はきょう、経営企画室に勤務していた管理職の社員50歳に対し停職1ヵ月の処分を記事として発表した。「定年延長や検察庁法改正案が国会などで問題となっており、渦中の人物と賭けマージャンをする行為は、報道の独立性や公正性に疑念を抱かせるものだった」(29日付・朝日新聞Web版)と処分理由を述べている。

   記事では、同社執行役員編集担当兼ゼネラルマネジャーの話として、「読者の皆様から『権力との癒着ではないか』といった厳しいご批判を多くいただいています」「社員は黒川氏とは社会部の司法担当記者時代に取材先として知り合っており、記者活動の延長線上に起きたことでした。報道倫理が問われる重い問題と受け止めており、取材先との距離の取り方などについて整理し、改めてご報告いたします」と。この問題についての検証記事などを予定しているようだ。

   一方の産経新聞社は「主張」で「新聞倫理綱領は、すべての新聞人に『自らを厳しく律し、品格を重んじなくてはならない』と求めている。本紙記者2人が、取材対象者を交えて、賭けマージャンをしていたことが社内調査で判明し、謝罪した。取材過程に不適切な行為があれば、社内規定にのっとり、厳正に処分する。取材のためと称する、不正や不当な手段は決して許されない。」(22日付・産経新聞Web版)と自覚を欠いた行動だったとの論調だが、記者の処分などの発表はホームページを見る限り見当たらない。

   新聞やテレビの記者は「夜討ち朝駆け」でネタを取る。ネタを取るのにもスピード感が必要で、相手方(ライバル紙)に先んじればスクープとなり、同着ならばデスクにしかられることはない。先を越されれば、「抜かれた」と叱責をくらう。新人記者は警察取材(サツ回り)を通じて、そうトレーニングされて育つ。また、「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」と教え込まれる。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない、と。権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込む。日本の報道独特のプロフェッショナル感覚ではある。

   今回の一件で、こうした記者による警察・司法の関係者との接触が自主規制され、取材手法そのものが変化していく可能性もある。日本の報道、あるいはジャーナリズムの有り様そのものが変革期を迎えたのかもしれない。

⇒29日(金)夜・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆「非日常」から見えてきた「日常」の不都合

2020年05月28日 | ⇒ドキュメント回廊

   けさ地元紙を開くと、新型コロナウイルスの感染防止のため全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)は中止となったが、石川県独自に代替の大会を開催するとの記事が目を引いた。7月中旬から8月上旬の土日と祝日に試合を行う。併せて、これも中止となった全国高校総体(インターハイ)も、剣道や柔道、相撲など選手が密着する5つの競技を除き県大会の実施を検討している(28日付・北陸中日新聞)。

   確かに、選手には3年生が多いだろうから、このままでは「不完全燃焼」で卒業することになる。何とか競技の場に出してやりたいとの県大会の運営に携わる教諭サイドの配慮だと察する。

   今月6日付のブログで紹介した国立工芸館のオープンが9月半ばの開業にめどがたったと、同じ紙面で紹介されている。本来は東京オリピック開会前の7月開業を予定していたが、コロナ禍の影響で人が集まる公共施設が休館を余儀なくされたことから、オープンも見送られていた。工芸館は東京国立近代美術館の分館だったが、地方創生の一環として金沢に移転、分館から独立した国立美術館となる。

   人間国宝や日本芸術院会員の作品を中心に陶磁や漆工、染織、金工、木工、竹工、ガラス、人形など1900点の収蔵品も金沢に移される。金沢には伝統的な工芸品に目の肥えた「うるさい」人たちが多い。オープンが待ち焦がれる。

   こうしたニュースに接すると、緊急事態宣言が全面解除されて、生活や行動、そして発想が「非日常」から「日常」に戻りつつあると感慨深い。一方で、非日常を経験して、はっきりと見えてきたこともいくつかある。たとえば、働き方の在り様だ。タイムカードを押す出勤、対面での会議、会議出席のための出張、印鑑での決裁などは、自宅の通信環境さえ確保されていればリモートワーク(在宅勤務)やオンライン会議、パソコン決裁で事足りることが分かってきた。営業マンも自宅から訪問先に向かう、あるいは、リモートセールスの手法があってもいい。ただ、製造現場に携わる人たちの在宅勤務が難しいことは理解できる。

   もちろん、全ての会議をオンラインで済ませるのではなく、数回に1度の割合で意思疎通の観点で対面があってもよい。在宅勤務にしても、週1回くらいは職場に顔出ししてもよいかもしれない。働き方改革が叫ばれながらその改革ぶりが日常の風景として見えてこなかった。表現は適切ではないかもしれないが、コロナ禍がきっかけで動き始めた。

   ここからは想像だ。日本人の働き方の尺度や人事評価も大きく変化していくのではないだろうか。これまでの勤務態度や能率、成果主義から、たとえば、ビジネスに立ちはだかる課題の検証力や、事業展開の巻き込み・推進力、ビジネスマッチィングを企画する発想力などコンピューターでは処理できない、クリエイティブな仕事ぶりが評価される時代になるのかもしれない。むしろ、変化していかなければ日本のビジネスに未来は拓けないかもしれない。

⇒28日(木)朝・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★不適切な投稿に警告をタグ付け

2020年05月27日 | ⇒ニュース走査

          今月7日付のブログで紹介したが、11月のアメリカ大統領選挙に向けて、トランブ節がさく裂している。トランプ氏の26日付ツイッター。「There is NO WAY (ZERO!) that Mail-In Ballots will be anything less than substantially fraudulent. Mail boxes will be robbed, ballots will be forged & even illegally printed out & fraudulently signed. ・・・」(郵送による投票が実質的に詐欺的なものではない、なんてことには全くならない。郵便箱は奪われ、投票用紙は偽造され、さらには違法に印刷され、不正に署名される。・・・)

   何のことかと調べると、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)が新型コロナウイルス対策の一環として郵送投票を採用すると発表した。すると、トランプ氏は大統領は偽造や不正署名など詐欺の可能性があると問題視したのだ。

   BBCニュースWeb版(27日付)で関連記事=写真=が。「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)。これも何のことか調べる。
ツイッター社はトランプ氏の投稿のうち、郵便投票が不正投票につながると主張した件について、誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした(写真下の青文字)。要するに、大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をします、との意味だ。

   もう一度トランプ氏のツイッタ-に戻って青ラベルを探したが見えない。何度更新しても出てこない。ホームページが日本語で設定あるとラベルが表示されないようだ。

   この青ラベルはもともとは新型コロナウイルスに関するデマ情報への警告としてスタートした。それにしても、さすがツイッターだ。たとえアメリカ大統領であれ、怪しい投稿にはファクトチェックを入れる。その方法を前回のブログで述べた、女子プロレスラーへの誹謗中傷の書き込みなどに適応できないのだろうか。「警告!不適切な表現」と赤ラベルをタグ付けすればいい。すると、誹謗中傷を受け方側は気分的に少しは救われるのではないか。

⇒27日(水)午後・金沢の天気   はれ時々くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆「サイバーいじめ」とSNSプラットフォーマーの責任

2020年05月26日 | ⇒ニュース走査

   テレビ番組に出演していた女子プロレスラー22歳がSNSで誹謗中傷を受け死去したことに関し、高市総務大臣はきょう26日の記者会見で、ネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するため制度改正を検討する意向を示した。年内に改正案を取りまとめる方針だという(26日付・共同通信Web版)。

   一連の報道が気になり記事に目を通すが、死に至るまでの状況が記されていないので「事件」の概要がつかめないでいる。たとえば、SNSでの誹謗中傷はどのような内容だったのか、遺書にはどのようなことが書かれていたのか、そして、どのように死に至ったのか詳細な報道が見当たらない。本人の尊厳を守る意味で知りたいと思うのだが。

   さらに、テレビ番組のどのような女子プロレスラーのシーンがSNSで「炎上」のきっかけになったのか、その原因がメディアでは報じられていない。うがった見方だが、そのシーンがテレビ局側の「やらせ」だったとしたら、局側の責任も問われるのではないだろうか。

   高市大臣が会見で述べた制度改正とは、「プロバイダー責任制限法」のことだろう。匿名で権利侵害の情報が投稿された場合、被害者がインターネット接続業者であるプロバイダーに発信者の氏名など情報開示を直接請求できる。ところが、権利の侵害が明白でないとの理由から開示されないケースが多い。今回の会見で大臣が示した改正のポイントは、投稿者の特定を簡素化し処罰すること。しかし、こうなると権利侵害をめぐる裁判が多発することにもなり、新たな社会問題になる可能性もある。

   問題性はむしろSNSのサイト運営者、プラットフォーマーにもある。総務省が制度改正すべきは、誹謗中傷を放置状態にしているSNSのプラットフォーマーに自主規制の強化を促すことではないだろうか。削除要請があった場合に24時間以内に人権侵害などに抵触するかどうか判断し、削除に相当すると判断すれば実行する。表現の自由の範囲であれば、その旨を要請者に説明して放置する。もし、それにプラットフォーマー側が応じなければ高額の罰金を科すことだ(ドイツの事例)。

     女子プロレスラーが出演する番組が動画配信サービス「ネットフリックス」で流されていたことから世界でもファンがいる。イギリスのBBCニュース(23日付、Web版)も女子プロレスラーの死を取り上げている=写真=。「Hana Kimura: Netflix star and Japanese wrestler dies at 22 」の見出しで  「彼女の死のニュースについて、ファンや関係者は、サイバーいじめとその精神衛生上の影響について多くの声を上げている」と論評している。サイバーいじめはもはや、国際問題になっている。

⇒26日(火)夜・金沢の天気    くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★10万人の数字より、1%の実名が訴えること

2020年05月25日 | ⇒ニュース走査

   夕方のテレビのニュース番組で、午後6時から始まった安倍総理の記者会見の模様を中継していた。新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を全国で解除すると述べ、さらに、第2波に備え、医療体制の充実に2兆円の予算を積み増すと説明していた。先月7日に出された宣言が1ヵ月半ぶりに全国で解除され、今度は防御に徹するという次なるステージに入ったとの印象だ。それにしても「空前絶後」と称した200兆円におよぶ第1次と第2次補正予算案の方が心配になった。将来、このツケを払うのか、と。 

   きのうのニュースで、感染による死者の数が10万人に迫るアメリカで、NYタイムズ紙が24日付けの紙面1面でコロナ禍で亡くなった千人の名前や年齢、居住地、故人をしのぶ一文を掲載していると報道されていた(25日付・NHKニュースWeb版)。同紙のホームページをチェックすると、写真などはまったくなく、全面が活字で埋め尽くされている=写真=。ある意味で、紙面の迫力に圧倒された。見出しは「U.S.DEATHS NEAR 100,000,AN INCALCULABLE LOSS」(アメリカの死者は10万人に近づく、計り知れない喪失)。

   アメリカの感染者は世界最多の165万人、死者も最多の9万7千人。NYタイムズ紙は、ローカル紙の訃報記事などから亡くなった人の情報を集めた。「千人はアメリカの死者数の1%にすぎないが、人の死は単なる数字ではない」と掲載の意義を強調している。短文ながら丁寧な表現だ。「Lila A. Fenwick、87、ニューヨーク市、ハーバード大学ロースクールを修了した初の黒人女性」「Harley E. Acker、79、ニューヨーク州、スクールバスの運転手で天職を見つけた」など 。こうした故人をしのぶような記述は死者への尊厳とも言える。

   このNYタイムズ紙(Web版)を読んで、日本の地方紙の「おくやみ欄」をイメージした。死亡者の実名や居住地、人となりを簡潔に伝えている。また、事件や事故でもあっても、日本のメディアは実名報道が原則だ。記者が直接に遺族の了解が得て報道する、あるいは警察が遺族の了解を得て公表した実名をメディアが報道するといった仕組みになっている。ところが、アメリカや各国はそこまで実名にこだわらず、大がかりな事件や事故となると死者の人数を最優先する。なので、NYタイムズ紙が実名と人となりを記事にするのは異例中とも言える。

   今回は1%の千人だが、ではあと99%を実名報道するかというと、そうではなく今回はピンポントでのアピール記事だろうと察する。そのアピールとは、コロナ禍への強い憤りの表現だろう。いかに多くのアメリカ人がウイルスによって命を落としたか、国家が直面する事態の重大さを、死者の実名を公表することで伝えたかったのではないだろうか。この矛先がさらにどこに向かっていくのか。初動で対策が遅れたとされるトランプ大統領なのか、あるいはパンデミックをもたらした中国なのか。

⇒25日(月)夜・金沢の天気    くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆現金嫌いへ意識変化、そしてデジタル通貨へ

2020年05月24日 | ⇒トレンド探査

          けさ新聞を広げると広告チラシが落ちてきた。地元のスーパーの特売チラシが2枚、総菜の通販のチラシ1枚の合わせて3枚だが、何だか久しぶりのように感じた。

   4月7日に新型コロナウイルスの感染防止対策として緊急事態宣言が発令され、16日には全国拡大した。石川などは「特定警戒県」に指定され、地域でも緊張感が高まった。この頃からスーパーの特売日やポイント還元の折り込みチラシを見なくなった。買い物客の混雑を招くため、チラシを自粛していたようだ。今月14日に39県で宣言が解除され、石川でも「非常」から「日常」に徐々に戻りつつある。チラシを見て感慨深い。

   きのう金沢市役所から特別定額給付金の申請用紙が郵便で届いた。国が国民1人に10万円を配る特別定額給付金。先週、オンライン申請をしようとPC画面に向ったが、「ICカードリーダー」が必要とあり、持っていなかったので諦めた。スマホによる申請も可能とあったがまるで複雑なゲームのようだったのでこれも諦め、申請書が郵送されてくるのを待っていた。

   送付された申請書(請求書)に銀行口座の番号を記入し、預金通帳とマイナンバーカードのコピーを添付し、返信用封筒で返送した。ごく簡単だが、まったくのアナログ。やはりオンライン申請でOKとしないと、この国際的なデジタル時代に乗り遅れるのではないか。本人確認の書類の添付は不要で、入力も短時間で済むなど、デジタルの利点がまったく活かされていない。

   コロナ禍で日常の変化がある。それは「人が触ったものには触らない」という行為が共有された行動規範として定着したことだ。ドアノブやエレベーターのタッチボタン、そして何より現金だ。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だと指摘はあった。もちろん、現金を粗末してはいけないという国民性もあった。それが、コロナ禍で現金は手にすること自体が不快感を伴う存在になった。この意識変化で、今後キャッシュレス化がさらに進み、現金しか受け付けないという店舗には入らなくなるだろう。

   さらに、政府と日銀はアフター・コロナの政策として、デジタル法定通貨へと急ぐのではないか。2024年に予定している新札発行をデジタル法定通貨へと舵を切るのではないかと憶測する。政府としてのもくろみもある。税務申告されていない現金、いわゆる「タンス預金」が数十兆円もあると言われる。政府が銀行での預金分しかデジタル通貨と交換しないと発表した時点で、タンス預金は一気に消費へと回る。アフター・コロナの経済対策になればまさに「一石二鳥」とほくそ笑むのではないか。

⇒24日(日)午前・金沢の天気    はれ 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★「旅するユリ」の生存戦略

2020年05月23日 | ⇒ドキュメント回廊

   きょう庭の手入れをしていて気がついた。タカサゴユリ(高砂ユリ)の先端が枯れている。4年ほど前に突如咲き始めた、いわゆる外来種だが、花がきれいなので伐採せずにそのままにしておいた。旧盆が過ぎるころ、花の少ない季節に咲き、茶花としても重宝されている=写真=。雑草の力強さ、そして床の間を飾る華麗さ。したたかなタカサゴユリではある。

  その生命力ある植物が若くして枯れようとしている。連作障害だ。同じ場所に何年も生育すると、土壌に球根を弱める特定のバクテリア(病原菌)が繁殖して枯死してしまう。そのため、タカサゴユリは風に乗せて種子を周辺の土地にばらまいて新たな生育地に移動する。いわゆる「旅するユリ」とも称される。

   以前、植物に詳しい知人にタカサゴユリの花の話をすると、外来種をなぜほめるのかと苦笑いされたことがある。確かに、立場が異なればタカサゴユリは外敵、目の敵だ。国立研究開発法人「国立環境研究所」のホームページには「侵入生物データベース」の中で記載されている。侵入生物、まるでエイリアンのようなイメージだ。日本による台湾の統治時代の1923年ごろに、観賞用として待ちこまれたようだ。

    それにしても、バクテリアで枯死する前に種子をばらまいて次々と拠点をつくり、侵入生物と敵視される一方で、床の間に飾られるような見事な花をつける。人間社会に入り込んだ植物として、その生存戦略は実に見事ではないだろうか。

⇒23日(土)夜・金沢の天気    はれ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆賭けマージャンなのか取材なのか

2020年05月22日 | ⇒ニュース走査

    東京高検の黒川検事長がきのう夜、安倍総理あてに辞表を提出したとメディアが各社が報じている。緊急事態宣言の中で産経と朝日の新聞記者らと興じた賭けマージャンのニュース(20日付・文春オンライン)が急浮上し、辞表提出につながった。

   「安倍(総理)はうまくすり抜けたな」と直感した人も多いのではないだろうか。黒川氏は63歳で、ことし2月に定年を迎えるところだった。総理官邸の信任が厚く、さらに半年間(8月7日まで)の勤務延長が国家公務員法の規定で閣議決定し、さらにそれを後付けするように検察庁法改正案を国会に提出した。ことし7月に勇退予定の検事総長の後任になるのではないかとも取り沙汰され、「三権分立の原則を壊す不当な人事介入」との批判が沸き起こった。今月18日に政府は法案成立を見送ったが、国会での追及は止まらなかった。このタイミングでのいわゆる「文春砲」だった。

   この問題はさまざまに波及するだろう。賭けマージャンの事実認定だ。当事者である朝日新聞は賭けマージャンに加わった社員(元検察担当記者)から事情を聴き、詳細を以下公表している。「13日は産経新聞記者と社員が数千円勝ち、産経の別の記者と黒川氏がそれぞれ負けた。1日は社員が負けた。4人は、5年ほど前に黒川氏を介して付き合いが始まった。この3年間に月2、3回程度の頻度でマージャンをしており、集まったときに翌月の日程を決めていた。1回のマージャンで、勝ち負けは1人あたり数千円から2万円ほどだったという」「2017年に編集部門を離れ、翌年から管理職を務めていた。黒川氏の定年延長、検察庁法改正案など、一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」(21日付・朝日新聞Web版)

   もう一方の当事者である産経新聞もコメントを発表した。「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」としている(22日付・NHKニュースWeb版)

   賭けマージャンは刑法の賭博罪(50万円以下の罰金)となる。飲食代など「一時的な娯楽に供するもの」を賭けた場合だと処罰されないという例外規定もある。今回、朝日新聞は賭けた金額も発表しているので事実関係は明らかだろう。黒川氏がいちやはく辞表を提出したのも、はやめに法務省から処分(訓告)を受けた方が、今後、刑事告発などを受けたとしても、罪は軽微で済むとの判断ではなかった。

   ここからは憶測だが、これが記者たちによる「接待マージャン」だとしたらどうなるだろう。事実、黒川氏の帰りのタクシー代を産経の記者が負担している。話の場を持たせるために、賭けマージャンという接待をしていたのだと記者たちが主張したら、賭博罪に問えるだろうか。むしろ贈収賄罪かもしれない。この場合、その対価は検察の内部情報だが、これは記事を検証すれば証明できる。黒川氏は「マージャンを通じて、メディアの知りたい情報とは何かを確認したかった」と主張するかもしれない。単なる賭けマージャンなのか、あるいは接待マージャンという取材なのか、そこが問題だ。

   朝日側は「一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」とコメントを発表している。卓を囲んだ社員は確かに記事は書いてはいなかっただろう、しかし、担当記者に黒川氏からの情報を流していたと考える方が自然ではないだろうか。

⇒22日(金)午前・金沢の天気    はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする