本文その夜、船長と子爵は居酒屋にいた。
テーブルに並んだ、野菜の甘酢漬けと、羊肉の煮込みが放っている、癖のある匂いが、居酒屋特有の空気に溶け込んでいく。
「まずはあの娘、ルージュサンのことですが」
船長が微発泡する酒を置いて、本題に入った。
「赤ん坊の時、積み荷に紛れ込まされていたのです。血の付いた麻袋に入れられていたので、知人に調べてくれるよう頼み、そのまま出港したのですが……カナル事件をご存知ですか?」
「え?おおよそは」
「その身代わりにと、追われていたようです。連れていた母親は、行方知れずです」
「それはまた…」
子爵は嘆息した。
「ですがそれであれば、4、5年で解決したのでは?」
船長が苦笑した。
「その時にはもう、私達が手放せなくなっていました」
「皆さんに、可愛がられていた」
「はい。こぞって目に入れたがる程に。ですが、女は船乗りになれない。それが私達の祖国の掟です。あの娘もあと2年で船からおりなければなりません」
「有能な補佐を失って、不自由はないのですか?」
「幸い、服船長の息子達が、順調に育っております。今暫くの辛抱です」
「全て分かった上での即断だったのですね。大人びてます」
「あの娘が貴方に見せているのは、表向きの顔なのです。まだまだ子供で、普段は無邪気に跳ね回っています。あの娘にとって、船員全てが父であり、兄なのです。普通の家庭も職場も知りません。それだけが心配なのです」
真っ直ぐな船長の視線に、子爵は目を伏せた。
「私は跡取りが欲しかった。そしてあの娘か気に入った。ただそれだけでした。申し訳ありません」
子爵は両手で船長の右手を包んだ。
「私はあの娘の父として、しっかりと守り、育てます。ですから改めてお願い致します。ルージュサンを私の娘に、養女に下さい」
船長が左手を添えた。
「よろしくお願い致します。子爵」
居酒屋の女将が、油で煮た魚の皿を持って来た。
…………………………………………………………………………
居酒屋の女将は異国の出身で、船乗りだった恋人の無事を祈って腕輪を編んで、かけていました。
恋人が夫となり、船を降りてからは、単なる趣味で作っています。
客達に、その都度答える願掛けの内容も、お互い承知の楽しい嘘になりました。
テーブルに並んだ、野菜の甘酢漬けと、羊肉の煮込みが放っている、癖のある匂いが、居酒屋特有の空気に溶け込んでいく。
「まずはあの娘、ルージュサンのことですが」
船長が微発泡する酒を置いて、本題に入った。
「赤ん坊の時、積み荷に紛れ込まされていたのです。血の付いた麻袋に入れられていたので、知人に調べてくれるよう頼み、そのまま出港したのですが……カナル事件をご存知ですか?」
「え?おおよそは」
「その身代わりにと、追われていたようです。連れていた母親は、行方知れずです」
「それはまた…」
子爵は嘆息した。
「ですがそれであれば、4、5年で解決したのでは?」
船長が苦笑した。
「その時にはもう、私達が手放せなくなっていました」
「皆さんに、可愛がられていた」
「はい。こぞって目に入れたがる程に。ですが、女は船乗りになれない。それが私達の祖国の掟です。あの娘もあと2年で船からおりなければなりません」
「有能な補佐を失って、不自由はないのですか?」
「幸い、服船長の息子達が、順調に育っております。今暫くの辛抱です」
「全て分かった上での即断だったのですね。大人びてます」
「あの娘が貴方に見せているのは、表向きの顔なのです。まだまだ子供で、普段は無邪気に跳ね回っています。あの娘にとって、船員全てが父であり、兄なのです。普通の家庭も職場も知りません。それだけが心配なのです」
真っ直ぐな船長の視線に、子爵は目を伏せた。
「私は跡取りが欲しかった。そしてあの娘か気に入った。ただそれだけでした。申し訳ありません」
子爵は両手で船長の右手を包んだ。
「私はあの娘の父として、しっかりと守り、育てます。ですから改めてお願い致します。ルージュサンを私の娘に、養女に下さい」
船長が左手を添えた。
「よろしくお願い致します。子爵」
居酒屋の女将が、油で煮た魚の皿を持って来た。
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居酒屋の女将は異国の出身で、船乗りだった恋人の無事を祈って腕輪を編んで、かけていました。
恋人が夫となり、船を降りてからは、単なる趣味で作っています。
客達に、その都度答える願掛けの内容も、お互い承知の楽しい嘘になりました。
女将がかけていた腕輪

ミサンガ(1本分)
材料
刺繍糸 80cm 6本
『ハンドメイドのお守り!改定版*今すぐ作りたい大人ミサンガ』
の52番を参考にさせて頂きました。
結び紐を変えながら右輪結びを繰り返し、始めと終わりを三つ編みにするだけなので、初心者の私も、気軽に取り組めました。
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