ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園 Fの物語ー気持ちの良い天気ー

2020-08-28 22:00:00 | 大人の童話
「今日は気持ちの良い天気ですね」
窓から街並みを眺めて、セランが歌うように言う。
振り向く動きで、銀色の髪がサラリと揺れた。
柔らかな声、端麗そのものの容姿、非の打ち所がないことが非、といった外見だ。
「そうですね」
愛用している布張りのソファーで、ルージュサンが相槌を打つ。
整ってはいるが、少し丸みを帯びた愛らしい顔立ちは、三十路半ばとは思えない。
三つ編みにしているのは、真っ赤な巻き毛だ。
満ち溢れるエネルギーが、回りの温度を上げているように見える。
そして老練な執事のように、落ち着き払っている。
「だから、結婚しましょう」
輝く笑顔で、セランはルージュサンを見つめる。
「話の繋がりがよく解りませんが」
「結婚日和なのでそうしましょう。という話です」
「成る程。今日求婚されれば誰もが結婚するのですね」
セランが眩しい笑顔のままで答える。
「はい。運命の相手であれば」
そして満面の笑みになる。
「勿論、貴女の運命の相手は僕です。なぜならば」
「「僕がそう決めたのだから」」
ルージュサンがセランの言葉を横取りしようとした。
「その通りです。やっと分かってくれたんですね」
セランはひざまずき、ルージュサンの右手を取った。
「いえ、何度も聞いたので、覚えてしまっただけです」
ルージュサンはさりげなく、右手を引き戻す。
セランはめげずに目映い笑顔のままだ。
「そうですね。貴女に愛を語っていられる。僕はなんて幸せなんでしょう」
こんなやりとりがこの四年、休日の度に繰り返されている。
それはもう、ルージュサンの住む屋敷では当然のことになっていて、来られない時には、セランから連絡が来るようになって久しい。
「ところで、先程の続きなんですが」
始めは困惑していたルージュサンも、彼が教授であることを思い出し、折角だからと勉学に勤しんでいる。
ルージュサンは船育ちだ。
船員達に寄ってたかって、何でもかんでも教え込まれた。
お陰で、一般教養としての知識は十二分にあるが、専門的に学ぶとなると、基礎に穴があったのだ。
セランの顔つきが、教授モードに変わる。
「そうですね。気候と宗教の関わりについては、ハウザー教授の名著があります。僕が要旨を説明しますか?それとも読んでみますか?」 
「まず、読んでみたいです」
ルージュサンも生徒の顔だ。
「では今度、本をお貸ししましょう。どんな質問が出てくるのか、今から楽しみです」
セランか満足そうに微笑んだ時、扉がノックされた。
礼儀正しく、執事のテーバが入ってくる。
「お嬢様。カナライのフレイア様より、お使いの方が、馬車でいらっしゃいました」
ルージュサンは一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐにセランに向き直った。
「セラン、急用が出来たので、悪いけど帰ってくれませんか?」
「分かりました。次の休日は予定通りですか?」
「後で連絡します」
「では、又。愛する人」
蕩けるような笑みでキスを投げ、セランは出ていった。
右手の二振りと義務的な笑みで、それに応えると、ルージュサンがテーバに尋ねる。
「応接室ですか?馭者の方も?」
「馭者の方は、馬車からお降りになりません。応接室にはアージュ様という方、お一人です」
「そうですか、有難う。今行きます」
そう言いながら、歩き出した。