ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーFの物語ー本当思い

2020-12-18 22:45:19 | 大人の童話

 ルージュサンは足音を忍ばせて廊下を渡り、玄関の扉を開けた。

 静かに戸を閉め門に向かうと、物陰から声が掛けられた。

「お早いお帰りだな」

 少し欠けた月が、その姿を照らし出す。 

 ダコタだった。

「書斎の物音で目を覚ましたら、やっぱりこれだ。交渉決裂だな」

「その通りです」

「手紙を返せ」

「お断りします」

「だろうな。いいぞ!出て来い!」

 庭のあちこちから、男達が立ち上がった。

 使用人達ではない、崩れた身なりをしている。

ルージュサンが懐に手を入れた。

「もう遅い」

ダコタが鼻で笑う。

「手を組まないなら邪魔なだけだ。殺せ」

 ルージュサンが取り出したのは、二本の筒だった。

 二つに折って、門と後方に放りなげる。

 煙が勢いよく吹き出した。

紫色の煙が上がる。上がり続ける。

「開門っ!!開門っっ!!」

突然、銅鑼に似た声が響いた。

 「フレイア=カナライ、客人を迎えに来た!開門っ!」

 男達が動きを止める。

 躊躇するダコタに襲い掛かるように、男の声が響き渡る。

「急ぎである!開門せねば、こちらで開けるっ!宜しいかっ!!」

 ダコタは腕を組んで横を向いている。

 門からガチャガチャと音がした。

 そして門が開けられる音。

 先頭は赤毛の女だった。夜目にも分かる血の色だ。

 そのすぐ左後ろにナザル、隣にセランだ。

 堂々と進む姿に、男達が道を開ける。

 女がルージュサンの前に立った。

「お待たせしました。姉上」

「初めまして。妹殿」

 二人はよく似ていた。

 見事な赤毛。愛くるしくも、整った顔立ち。均整が取れた体つき。

フレイアの方が少し、全体的に柔らかい。

 ダコタが嗤ってフレイアに行った。

「事が事だけに、父親に内緒で姉を呼んだか。さもなきゃたった三人で、乗り込みはすまい」

「こちらの事情には構わないで頂こう。客人は連れて帰る」

「構わないでいられるか。今四人とも始末しても、誰にも分からないということだろう?」

 ダコタが嫌な薄ら笑いを浮かべた。

「二人を殺せ!」

 男達が動くと同時に、セランが矢を吹いた。

 ルージュサンが、蹴りで、肘で、相手を倒していく。

ナザルは鞘を着けたまま、剣を奮う。

十人の男達は呆気なく、地に伏せた。<

ナザルが懐から縄を出すと、ルージュサンとセランも手伝い、素早く全員を縛り上げる。

 その間フレイアは、微動だにしない。

「外の兵を呼ぶまでもなかったな。この十人は預かっていく」

 淡々と言うフレイアを、ダコタの血走った目が、睨み付ける。

「この跳ねっ返りが!私が先に生まれた。私が兄だ。私こそが王なのだ!なのに私達は冷遇されて、デザントとお前達は!」

「少し違うでしょう。殿下」

 ルージュサンが手の埃を叩きながら言う。

「貴方は王になりたかったのではなくて、双子の片割れと離れたくなかった。 引き裂かれ、置いていかれた痛みでしょう。全ての元は」

 フレイア達が、ルージュサンを見る。

「その気持ちを誤魔化すため、あれやこれやと理屈を付け。五十三年?随分と迷走しましたね。だだ漏れですよ。貴方は謀に向きません」

 ダコタが低い声を絞り出す。

「分かったような口をきくな。お前達の次の代になれば、フォッグは王族ですらなくなる。直系の姓の『カナライ』どころか『カナライア』の姓まで奪われ、僅かな手切れ金でポイ、だ」

「大いに結構です。父上」

全員が一斉に玄関の方を見る。

横にフォッグが立っていた。

「私もじきに四十です。父上に付き合うのはもう止めて、愛する人と静かに暮らしたい」

 ダコタが目を剥いた。

「愛する人?女の影など一度も!」

 フォッグが寂しげに微笑む。

「父上は息子のことも、よくはご覧になってない」

 そして口をつぐんだ。

 セランが横からカラッと言う。

「メロです。メロ=ラットン。気付かなかったんですか?」

 ダコタが目を丸くして、フォッグを見た。

 フォッグがゆっくりと顎を引く。

 セランが続ける。

「使用人だから?男だから?そんな膜ばっかり張りたがるから、面倒なことになるんです。大体貴殿方は王の器じゃない。目が二つしかないじゃありませんか」