春に霞む空の下、見送りに出たのは共に暮らすフレイアとユリア、ナザル、ドラ、フィオーレ、オパール、通いの家政婦アンとローシェンナだった。
今回の旅は、最小限の相手にしか知らせなかったのだ。
二人が順に抱擁を終え、オパールを残すだけになっても、トパーズは起きてこなかった。
「起こしに行きましょう」
家に戻ろうとするドラを、オパールが止めた。
「ねかせといて。おきるまではパパとママがいるゆめを見てられるの。わたしのぶんも」
「オパールっ」
セランがたまらず抱き締めた。
「ザーザーぶりならよかったのに」
オパールが呟く。
「僕もそう思う」
セランの抱擁が強くなる。
「パパ、だいすき!」
オパールも強くしがみつく。
「僕もだよ、オパール」
セランの腕に、更に力がこもった。
「く、くるしい」
オパールの顔が赤くなる。
「うわっ、ごめんっ!」
セランは慌てて腕を離すと、オパールが肩で息をした。
「大丈夫?」
セランがおずおずと覗き込む。
「へいきじゃないけどなれてるわ」
オパールは諦めの目だ。
「いっつもごめんね」
セランがオパールの額にキスをした。
「どういたしまして」
オパールが頬にキスを返す。
そのすぐ横に、ルージュサンが屈みこんだ。
「ご免ね。オパール」
ルージュサンが優しく抱き締める。
「トパーズの分も、抱き締めさせてね。本当はいくら抱き締めても足りないのだけれど」
「ママ、だいすき・・・きらいになりそうだけど、きらいなところもだいすき」
オパールの言葉が、涙に詰まった。