それからの旅は順調だった。
ルージュサンとムンは健脚で、セランとオグは疲れても、回復が早かったのだ。
《ルージュは山賊にも強いんですよ。知人になったこともあるんです》
セランは自慢げにそう言ったが、スリの一人にさえ出会わなかった。
やがて手が悴む寒さになって、小さな集落に着いた。
後は小さな山を一つ越えれば、エクリュ村だ。
村に一軒の民宿に入ると、鱗編みのストールを巻いた女将が言った。
《山向こうに行くなら着替えなさいな。ここ数年どんどん春が遅くなって、まだ雪が積もったままだから》
《ああ、そうだな。俺と背の高い男はいい。袋に入っているからな》
サス語圏に入ってから、ムンは少しほっとしている様で、今までより口数が多い。
《あら、エクリュ村の方?》
女将がムンの顔を染々見た。
《やっと帰るところだ》
《じゃあ待っている奥さんも大喜びね》
愛想よく笑う女将の後は木の壁だ。
節穴から吹き込む風が冷たい。
《そうかもな》
ムンが薄く笑った。
女将が奥に入ると、セランが首を傾げた。
《奥さんは村にいないんですか?》
《オグの嫁の実家に行っている筈だ。オグの嫁と息子の三人でな。村は針の筵だ。俺達のすぐ後に出た筈だ》
《町は遠いんですか?》
《女の足でも二日で着く》
《じゃあ良かった。もう少しで奥さんに会えるんですね》
セランの笑みで、回りに光の珠が散る。
《そうか。良かったか。そうだな》
ムンが伏し目がちに言った。