客室を案内したのは、アスルだった。
特例で、二人の世話係りになったのだ。
右舷にあるその部屋は、作り付けのテーブルとチェスト、二段ベッドが、二つ並んでいて十分に広い。
左舷側も同じ作りになっているが、今回は埋まっているという。
「二人で同じ部屋・・・・」
頬をポッと赤らめたセランの頭を、アスルが後ろからどついた。
「えっ?えっ?」
目をぱちくりさせるセランを、アスルが上目遣いで見た
「すみません。淫らな行為は海神の怒りに触れるんです。だから怪しい気配を感じたら、どつくようにと、船長からの厳命なんです」
申し訳なさそうに言う割には、遠慮ないどつき方ではないかと思いつつ、セランは一定の理解を示した。
「船長命令なら仕方ないですね。一瞬の迷いもなかったような気もしますが」
「間を開けないのが習慣付けのコツだと、船長が」
「そういう法則があるんですね。子供でも大人でも効果は同じなんですか?男女差は?」
叩かれたのが自分の頭だということは、もう忘れている。
新しい情報に目を輝かせ、アスルの肩を揺さぶらんばかりだ。
困るアスルにルージュサンが助け船を出した。
「ドラフさんのお父上は、軍用犬の調教師なんです」
「成る程」
セランが頷く。
「人間にも援用できるんですね。面白いことを聞きました」
「その推論には穴があります」
ルージュサンが事務的に指摘した。
「貴方を犬として扱った可能性が抜けています」
セランが華麗に四分の一回転をしてルージュサンを見る。
「そうですね。貴女は本当に素晴らしい!。ドラフさんに確認しなければ!」
「行ってらっしゃい。私は昼寝をしています」
「一人で行けと?」
子犬の様な目で、セランが見つめる。
「皆さんの邪魔をしないように、気を付けて下さい。それと、貨物室には近付かないように」
ルージュサンはすげなかった。
「貨物室?そう言われると、余計気になります」
「船は信用第一です。特にここは厳しい。以前何日も海が荒れて、お腹を空かした乗組員が、輸送中の干し肉に手をつけてしまったんです」
「そして?」
セランが身を乗り出す。
「見つかって即刻、海に放り出されました」
セランが身を引いた。
「気を付けて行ってらっしゃい」
ルージュサンがにんまり笑って手を振った。
「はい。行ってきます」
セランは元気よく手を振って、客室出ようとし、振り返った。
「まるで新婚みたいですね」
そう言って嬉しそうに笑う。
ルージュサンはその腰に、ピンピン振られる尻尾の幻を見た。
生暖かい風に、ルージュサンが昼寝から覚めると、目の前にセランの寄り目があった。
反射的に突飛ばし、壁に張り付く。
上のベッドに頭を打たなかったのは、二十数年前とはいえ、さすが元船乗りと言うべきだろう。
「寄り目!なぜ寄り目!」
ルージュサンは動揺していた。
美麗が取り柄のセランが、寄り目になるなんて。
笑ってしまうではないか。
「ごっ、ご免なさいぃっ!!。貴女ともあろう人が、そんなに動揺するなんてっっ!」
尻餅をついたまま、セランが慌てて謝る。
「睫毛の本数を数えようとしただけなんてす!ちゃんと寄り目にならないように、数えますっ!」
「数えなくていいっ!。今度数えたら、全部抜きますよっ!」
「どつきますかっ?」
扉を勢いよく開けて、アスルが入って来た。
二人の体勢を見て、言い直す。
「どつきますね?」
「大丈夫です。睫毛を数えていただけだそうです」
「そんな話信じられますか。変態でもあるま・・・」
そこまで言ってはっとした。ルージュサンが重々しく頷く。
「大変失礼致しました。お食事の確認に参りました。それぞれ一人前で宜しいのでしょうか」
セランがにこにこと答えた。
「勿論です。昨晩の様子を見て、心配してくれたんですね。僕は美味しいものは別腹なだけで、一人前で足りるんですよ」
別腹とは、もう少し控え目なものを指すのではないかと思いつつ、アスルはルージュサンにも聞いた。
「船長が『ルーには食いだめさせといたから、一月は水だけで大丈夫だ』・・・って、本当ですか?」
ルージュサンもにこにこと答える。
「試したことはありませんが、出来れば一人前頂けると、有り難いです」
試す価値はあるのか、と、思いつつ、アスルは二人の『にこにこ』に力ずくで納得させられ、部屋を後にした。
特例で、二人の世話係りになったのだ。
右舷にあるその部屋は、作り付けのテーブルとチェスト、二段ベッドが、二つ並んでいて十分に広い。
左舷側も同じ作りになっているが、今回は埋まっているという。
「二人で同じ部屋・・・・」
頬をポッと赤らめたセランの頭を、アスルが後ろからどついた。
「えっ?えっ?」
目をぱちくりさせるセランを、アスルが上目遣いで見た
「すみません。淫らな行為は海神の怒りに触れるんです。だから怪しい気配を感じたら、どつくようにと、船長からの厳命なんです」
申し訳なさそうに言う割には、遠慮ないどつき方ではないかと思いつつ、セランは一定の理解を示した。
「船長命令なら仕方ないですね。一瞬の迷いもなかったような気もしますが」
「間を開けないのが習慣付けのコツだと、船長が」
「そういう法則があるんですね。子供でも大人でも効果は同じなんですか?男女差は?」
叩かれたのが自分の頭だということは、もう忘れている。
新しい情報に目を輝かせ、アスルの肩を揺さぶらんばかりだ。
困るアスルにルージュサンが助け船を出した。
「ドラフさんのお父上は、軍用犬の調教師なんです」
「成る程」
セランが頷く。
「人間にも援用できるんですね。面白いことを聞きました」
「その推論には穴があります」
ルージュサンが事務的に指摘した。
「貴方を犬として扱った可能性が抜けています」
セランが華麗に四分の一回転をしてルージュサンを見る。
「そうですね。貴女は本当に素晴らしい!。ドラフさんに確認しなければ!」
「行ってらっしゃい。私は昼寝をしています」
「一人で行けと?」
子犬の様な目で、セランが見つめる。
「皆さんの邪魔をしないように、気を付けて下さい。それと、貨物室には近付かないように」
ルージュサンはすげなかった。
「貨物室?そう言われると、余計気になります」
「船は信用第一です。特にここは厳しい。以前何日も海が荒れて、お腹を空かした乗組員が、輸送中の干し肉に手をつけてしまったんです」
「そして?」
セランが身を乗り出す。
「見つかって即刻、海に放り出されました」
セランが身を引いた。
「気を付けて行ってらっしゃい」
ルージュサンがにんまり笑って手を振った。
「はい。行ってきます」
セランは元気よく手を振って、客室出ようとし、振り返った。
「まるで新婚みたいですね」
そう言って嬉しそうに笑う。
ルージュサンはその腰に、ピンピン振られる尻尾の幻を見た。
生暖かい風に、ルージュサンが昼寝から覚めると、目の前にセランの寄り目があった。
反射的に突飛ばし、壁に張り付く。
上のベッドに頭を打たなかったのは、二十数年前とはいえ、さすが元船乗りと言うべきだろう。
「寄り目!なぜ寄り目!」
ルージュサンは動揺していた。
美麗が取り柄のセランが、寄り目になるなんて。
笑ってしまうではないか。
「ごっ、ご免なさいぃっ!!。貴女ともあろう人が、そんなに動揺するなんてっっ!」
尻餅をついたまま、セランが慌てて謝る。
「睫毛の本数を数えようとしただけなんてす!ちゃんと寄り目にならないように、数えますっ!」
「数えなくていいっ!。今度数えたら、全部抜きますよっ!」
「どつきますかっ?」
扉を勢いよく開けて、アスルが入って来た。
二人の体勢を見て、言い直す。
「どつきますね?」
「大丈夫です。睫毛を数えていただけだそうです」
「そんな話信じられますか。変態でもあるま・・・」
そこまで言ってはっとした。ルージュサンが重々しく頷く。
「大変失礼致しました。お食事の確認に参りました。それぞれ一人前で宜しいのでしょうか」
セランがにこにこと答えた。
「勿論です。昨晩の様子を見て、心配してくれたんですね。僕は美味しいものは別腹なだけで、一人前で足りるんですよ」
別腹とは、もう少し控え目なものを指すのではないかと思いつつ、アスルはルージュサンにも聞いた。
「船長が『ルーには食いだめさせといたから、一月は水だけで大丈夫だ』・・・って、本当ですか?」
ルージュサンもにこにこと答える。
「試したことはありませんが、出来れば一人前頂けると、有り難いです」
試す価値はあるのか、と、思いつつ、アスルは二人の『にこにこ』に力ずくで納得させられ、部屋を後にした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます