「やあルー!。何年ぶりだ?。大きくなったな!」
エルムの宿に付いている料理屋で、髭もじゃの男が手を振った。
ドラフだ。
ルージュサンも手を振り返す。
「二年半ぶりです。ドラフさん。大きさはもう変わりませんよ」
ドラフが立ち上がって、ルージュサンと抱き合い、背中をバンバン叩く。
「俺にとっちゃずっと、七つ八つの餓鬼だ。もじゃもじゃの赤毛も、細っこい体も、昔とちっとも変わらねぇ」
「もじゃもじゃはドラフさんの髭でしょう」
軽口を楽しげに叩き合っていると、ドラフの横に座っていた男が、席をずれた。
「ああ、有難うアスル。こいつはルー。子爵んちの養女になって、貿易商社をやってるんだが、俺の友人が船で育てたんだ。こいつはアスル、見習いだ」
「宜しく、アスルさん」
ルージュサンが右手を差し出した。
その手といわず、瞳といわず、全身に満ち溢れている力が、ハレーションを起こしている。
握手をすると身体中に、熱がぶわりと回るようだ。
「こちらこそ。噂に聞いてはいましたが、『掃き溜めに鶴』ってとこですね」
「『鶴』は、後から来ます」
怪訝そうなアスルに、悪戯っぽい笑みを見せ、ルージュサンがドラフに向き直る。
「私用でジャナに行きたいんです。二人乗せてもらえませんか?」
「いいよ。貸し切りなんだが、信用出来る奴なら、一人二人乗せても構わないって話だ」
アスルが目を丸くした。
「もう一人の身元は、聞かなくていいんですか?」
ドラフが事も無げに言う。
「ルーの連れだぞ。で、どこにいるんだ?」
「道に置いてきました。宿の名は言っておいたので大丈夫です。出発はいつですか?」
「さっき、最後の荷が着いたんだ。明日の昼前には出る。だから酒はお預けだ」
ドラフが片目をつぶってみせた。
「その分今夜は存分に食おう!」
「はいっ」
喜ぶルージュサンを優しく見つめ、ドラフがオーダーする。
「旨い料理を全部、持ってきてくれ!」
「うちのは全部、美味しいよ!」
長身の女将が答える。
「そうだったな。じゃあ宜しく」
アスルが又、目を丸くする。
何十皿になるんだろう。それを三人で?。
「大丈夫です。私はここで、美味しくない料理に出会ったためしがありません」
ルージュサンが力強く言う。
「そうですか。それは良かった」
アスルはほっとした。
彼女が言うなら、大丈夫なのだろう。
何が大丈夫なのか、さっぱり分かりはしなかったが。
生魚と青菜の和え物、衣にナッツを使ったプフライ、野菜とイカの炒め物、肉団子入りのスープ。
取り分けられるものは一皿、それ以外のものは三人分運ばれてくる。
自分の分を早々に止めたのは、一番若いアスルで、次がドラフだった。
その後は味見程度で、残りはルージュサンがが平らげる。
敬意と親愛の情を込めて、集まって来る船乗り達と、楽しげに語らいながら、いつの間にか食べ終えているのだ。
ドラフはお茶を片手に、上機嫌でそれを眺めている。
二十三皿目が運ばれて来たとき、扉が大きく開かれた。
「愛しのルージュサン!お待たせしました。只今到着しました!」
皆一斉に入口入口を見る。
そこに立っていたのは、布袋とリュートを背負った、美しすぎる男だった。
通った鼻筋、滑らかな肌、黒子の一つも見当たらない。
セランは瞬時にルージュサンを見つけた。
「なる程。『鶴』だな」
ドラフの呟きに、アスルも同意する。
セランはルージュサンへと一直線だ。
他の客のどよめきも、視線も目に入らない。
「私の部屋も、取っておいてくれたんですね」
「船もお願いしてあります」
セランが喜びに満ち溢れる。輝く笑顔だ。
「有難う!。置いてきぼりにされた時には、悲しみに打ちひしがれましたが、こうして僕に、楽をさせてくれる為だったんですね!貴女の愛を疑った、僕はなんて愚かだったんでしょう!」
皆一斉に身を引いた。
スプーンごと両手をがしっと包まれた、ルージュサンだけが平然としている。
「単に効率を取っただけです。こちらお世話になるドラフ船長とアスルさん」
ルージュサンの両手を一度、胸に抱いて彼女に返すと、セランが爽やかな笑顔を二人に向けた。
「初めまして。セラン=コラッドと申します。宜しくお願い致します」
差し出された、小指の爪まで美しい。
握手をしながらドラフが言う。
「
「こちらこそ。しかし、何事も度が過ぎると呆れるもんだな」
セランは爽やかな笑顔のままだ。
「はい。皆さんすぐに諦めて慣れて下さいます」
ドラフは眉を八の字にした後、豪快に笑った。
「よしっ、好きなだけ食え!」
「ご馳走さまです!遠慮なく頂きます!」
セランが嬉しそうに言う。
一体、何人分の食料を船に積めばいいのか。
その食べっぷりを見て、アスルは空恐ろしい気持ちになった。
エルムの宿に付いている料理屋で、髭もじゃの男が手を振った。
ドラフだ。
ルージュサンも手を振り返す。
「二年半ぶりです。ドラフさん。大きさはもう変わりませんよ」
ドラフが立ち上がって、ルージュサンと抱き合い、背中をバンバン叩く。
「俺にとっちゃずっと、七つ八つの餓鬼だ。もじゃもじゃの赤毛も、細っこい体も、昔とちっとも変わらねぇ」
「もじゃもじゃはドラフさんの髭でしょう」
軽口を楽しげに叩き合っていると、ドラフの横に座っていた男が、席をずれた。
「ああ、有難うアスル。こいつはルー。子爵んちの養女になって、貿易商社をやってるんだが、俺の友人が船で育てたんだ。こいつはアスル、見習いだ」
「宜しく、アスルさん」
ルージュサンが右手を差し出した。
その手といわず、瞳といわず、全身に満ち溢れている力が、ハレーションを起こしている。
握手をすると身体中に、熱がぶわりと回るようだ。
「こちらこそ。噂に聞いてはいましたが、『掃き溜めに鶴』ってとこですね」
「『鶴』は、後から来ます」
怪訝そうなアスルに、悪戯っぽい笑みを見せ、ルージュサンがドラフに向き直る。
「私用でジャナに行きたいんです。二人乗せてもらえませんか?」
「いいよ。貸し切りなんだが、信用出来る奴なら、一人二人乗せても構わないって話だ」
アスルが目を丸くした。
「もう一人の身元は、聞かなくていいんですか?」
ドラフが事も無げに言う。
「ルーの連れだぞ。で、どこにいるんだ?」
「道に置いてきました。宿の名は言っておいたので大丈夫です。出発はいつですか?」
「さっき、最後の荷が着いたんだ。明日の昼前には出る。だから酒はお預けだ」
ドラフが片目をつぶってみせた。
「その分今夜は存分に食おう!」
「はいっ」
喜ぶルージュサンを優しく見つめ、ドラフがオーダーする。
「旨い料理を全部、持ってきてくれ!」
「うちのは全部、美味しいよ!」
長身の女将が答える。
「そうだったな。じゃあ宜しく」
アスルが又、目を丸くする。
何十皿になるんだろう。それを三人で?。
「大丈夫です。私はここで、美味しくない料理に出会ったためしがありません」
ルージュサンが力強く言う。
「そうですか。それは良かった」
アスルはほっとした。
彼女が言うなら、大丈夫なのだろう。
何が大丈夫なのか、さっぱり分かりはしなかったが。
生魚と青菜の和え物、衣にナッツを使ったプフライ、野菜とイカの炒め物、肉団子入りのスープ。
取り分けられるものは一皿、それ以外のものは三人分運ばれてくる。
自分の分を早々に止めたのは、一番若いアスルで、次がドラフだった。
その後は味見程度で、残りはルージュサンがが平らげる。
敬意と親愛の情を込めて、集まって来る船乗り達と、楽しげに語らいながら、いつの間にか食べ終えているのだ。
ドラフはお茶を片手に、上機嫌でそれを眺めている。
二十三皿目が運ばれて来たとき、扉が大きく開かれた。
「愛しのルージュサン!お待たせしました。只今到着しました!」
皆一斉に入口入口を見る。
そこに立っていたのは、布袋とリュートを背負った、美しすぎる男だった。
通った鼻筋、滑らかな肌、黒子の一つも見当たらない。
セランは瞬時にルージュサンを見つけた。
「なる程。『鶴』だな」
ドラフの呟きに、アスルも同意する。
セランはルージュサンへと一直線だ。
他の客のどよめきも、視線も目に入らない。
「私の部屋も、取っておいてくれたんですね」
「船もお願いしてあります」
セランが喜びに満ち溢れる。輝く笑顔だ。
「有難う!。置いてきぼりにされた時には、悲しみに打ちひしがれましたが、こうして僕に、楽をさせてくれる為だったんですね!貴女の愛を疑った、僕はなんて愚かだったんでしょう!」
皆一斉に身を引いた。
スプーンごと両手をがしっと包まれた、ルージュサンだけが平然としている。
「単に効率を取っただけです。こちらお世話になるドラフ船長とアスルさん」
ルージュサンの両手を一度、胸に抱いて彼女に返すと、セランが爽やかな笑顔を二人に向けた。
「初めまして。セラン=コラッドと申します。宜しくお願い致します」
差し出された、小指の爪まで美しい。
握手をしながらドラフが言う。
「
「こちらこそ。しかし、何事も度が過ぎると呆れるもんだな」
セランは爽やかな笑顔のままだ。
「はい。皆さんすぐに諦めて慣れて下さいます」
ドラフは眉を八の字にした後、豪快に笑った。
「よしっ、好きなだけ食え!」
「ご馳走さまです!遠慮なく頂きます!」
セランが嬉しそうに言う。
一体、何人分の食料を船に積めばいいのか。
その食べっぷりを見て、アスルは空恐ろしい気持ちになった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます