事故に涙
大型連休明け直後の5月8日、滋賀県大津市内の交差点で、保育園児ら16人が乗用車と軽乗用車との衝突事故に巻き込まれ、死傷した。10日間が過ぎても連日続報されるニュースに、多くの国民が涙したに違いない。2歳児の2人が死亡し、1人が重体のまま(10日現在)。この世に生まれ来てコトバを覚え始め、歩くことを覚え始めた矢先、一瞬にして閉ざされてしまった、あどけない生命(いのち)。日々事件事故は起きるが、幼い生命が犠牲になるケースほど暗たんたる気持ちにさせられるものはない。こちらも年齢(とし)のせいか涙もろくなり、心が激しく痛んでいつまでも尾を引く。
直進・右折の交差点事故
交通事故は交差点内で発生することが多く、特に直進車と右折車の衝突事故は起きやすい。今回の大津の事故のように右折車の運転手が「前をよく見ていなかった」ケースは論外にしても、片側2車線同士で交差する十字路では、中央寄りで待つ対向右折車の陰から後続の直進車がふいに現れることが多く、慎重にも慎重を要する。特に交差点内でのバイク事故は、右折4輪と直進バイクが衝突するケースが過半だ。筆者もかつては中型バイクに乗っていたが、バイクで交差点を直進するときは対向右折ドライバーの技量などハナから信用せず、十分過ぎるほどスピードを落とし、恐る恐る通過した。それでも1度、直進しようとして右折車と衝突して転倒、軽症を負ったことがある。
ちなみに信号機のある交差点で4輪同士の直進・右折事故が起きた場合、警察や保険会社が判断する過失割合(責任割合)は、直進車の2に対して右折車は8。右折車の分が圧倒的に悪い。大津の事故では当初、双方の運転手が逮捕されたが、直進車の運転手はその日のうちに釈放された。理由は、直進車側の過失責任の度合いは軽度、との判断からであった。
今回のような事故を機に警察もメディアも、交差点内での直進・右折事故の危険性について、広く注意喚起すべきだった。筆者が購読している全国紙は、毎日のように大津の事故を報じているものの、直進・右折事故の危険性には1行も触れていない。これでは事故が今後の教訓として生きない。どのドライバーも「直進車優先の原則」は運転免許取得時に自動車学校で教え込まれているはずだが、どれだけ徹底されたかは人それぞれだろう。対向の直進車が近づいているのに「右折出来そうだから、今のうちに右折しよう」と判断しがちなドライバーは、結構多いかもしれない。
自転車は左側走行を
つい2、3年前まで右側走行する自転車が実に多かった。筆者の住む街は特にその傾向が強いのか、若いお母さんの右側走行が目立ち、後方から子供の自転車が右側走行で従(つ)いて行く光景も、しばしば見かけた。これでは子供の交通教育にはならず、子供だけで走る場合も右側走行ばかりだった。「自転車は車両だから左側走行」のルールに忠実なオールド自転車乗りの筆者は、右側走行の自転車と正面衝突しそうになったことが何度かある。
思うに右側走行する自転車乗りの心理は、背後に迫る4輪車と距離をとりつつ、対向車の動きも見やすいので安心、というものだろう。左側走行では背後から追い越しを掛けて来る車が視界に入らないため、不安なのである。さらに路側帯についての誤解もあったはず。「歩道と同じく路側帯内なら自転車の右側走行もOK」と勘違いしている人が多かったかもしれない。2、3年前に警察庁が自転車への交通法規徹底方針を打ち出すと、以後自転車の右側通行はめっきり減った。警察サイドがその気なら、法令順守のユルミを正すことは出来るはずである。
さらに最近は電動アシストの自転車が普及し、歩道内をスピードを上げて走る光景も目立つ。耳が遠くなり背後の動きに気づきにくくなった高齢歩行者にとって、スピードの出やすい電動アシスト自転車の歩道内走行は脅威である。運転にはマナーを守りたい。かつては「地球にやさしい乗り物」と呼ばれた自転車だが、今は「歩行者に厳しい乗り物」になってしまっている。
歩行者は左側、右側?
人はなぜ道路の左側を歩きたがるのか。俗説だろうが、その昔「身体の中でも特に大事な心臓を、無意識に守ろうとするため」という話を聞いたことがある。左側を歩けば、すれ違う人とは遠い位置に心臓を置くことになる、と。ただし心臓が左半身にあることは解剖学の知識が普及した後のことだろうから、日本人は江戸時代ぐらいまでは右側を歩く傾向があった、ということになってしまう。ちょっとヘンだ。もう1説は、武士は左の腰に刀を差すから、左側を歩いたほうが、すれ違う人に対して刀を抜きやすい、というもの。しかし、これもヘン。刀を腰に差さない商人や農民、武士階級でも女性には無関係だし、なにより武士が刀を差さなくなってから150年も経つ。
理由は不明ながら人には確かに左側を歩きたがる習性がある。筆者は趣味のウオーキングで、なるべく遊歩道の右側を歩くようにしている。というか、閑散とした時は遊歩道の中央を歩くが、すれ違う人がいると進行方向の右側へ避ける。他のウオーカーも大半は同じで、暗黙のマナーになっているようだ。ところが、ある日こんな光景に出くわした。
「右側を歩きましょう!」
右側を歩いていた年配の御仁が、周囲にも聞こえるほどの声で注意を促した。左側を歩く壮年の御仁と遊歩道で相対してしまい、どちらが道を譲るかで一悶着起きたらしい。
「こんなに広い遊歩道に、右側も左側もないでしょう!」
言いつつ壮年の御仁は、狭い方の左側をすり抜けようとする。年配の御仁も右側に避けようとしたから、ゴッツンコしてしまい、互いに照れくさそうに別れた。
理は双方にあるように思えるが、筆者は年配のお方に与(くみ)したい。左右どちらにも避けやすい広い遊歩道では、かえってゴッツンコの原因となる。この点、狭い道なら立ち止まって譲り合うからトラブルも起きにくい。歩行者同士が正面衝突してもケガはないが、右側歩行の原則を「暗黙のマナー」として心得ておけば、少なくとも不愉快な目に遭うことはない。クルマ対クルマの交通法規も、人対人の歩行マナーも、根本とするところは同じ気がする。
大型連休明け直後の5月8日、滋賀県大津市内の交差点で、保育園児ら16人が乗用車と軽乗用車との衝突事故に巻き込まれ、死傷した。10日間が過ぎても連日続報されるニュースに、多くの国民が涙したに違いない。2歳児の2人が死亡し、1人が重体のまま(10日現在)。この世に生まれ来てコトバを覚え始め、歩くことを覚え始めた矢先、一瞬にして閉ざされてしまった、あどけない生命(いのち)。日々事件事故は起きるが、幼い生命が犠牲になるケースほど暗たんたる気持ちにさせられるものはない。こちらも年齢(とし)のせいか涙もろくなり、心が激しく痛んでいつまでも尾を引く。
直進・右折の交差点事故
交通事故は交差点内で発生することが多く、特に直進車と右折車の衝突事故は起きやすい。今回の大津の事故のように右折車の運転手が「前をよく見ていなかった」ケースは論外にしても、片側2車線同士で交差する十字路では、中央寄りで待つ対向右折車の陰から後続の直進車がふいに現れることが多く、慎重にも慎重を要する。特に交差点内でのバイク事故は、右折4輪と直進バイクが衝突するケースが過半だ。筆者もかつては中型バイクに乗っていたが、バイクで交差点を直進するときは対向右折ドライバーの技量などハナから信用せず、十分過ぎるほどスピードを落とし、恐る恐る通過した。それでも1度、直進しようとして右折車と衝突して転倒、軽症を負ったことがある。
ちなみに信号機のある交差点で4輪同士の直進・右折事故が起きた場合、警察や保険会社が判断する過失割合(責任割合)は、直進車の2に対して右折車は8。右折車の分が圧倒的に悪い。大津の事故では当初、双方の運転手が逮捕されたが、直進車の運転手はその日のうちに釈放された。理由は、直進車側の過失責任の度合いは軽度、との判断からであった。
今回のような事故を機に警察もメディアも、交差点内での直進・右折事故の危険性について、広く注意喚起すべきだった。筆者が購読している全国紙は、毎日のように大津の事故を報じているものの、直進・右折事故の危険性には1行も触れていない。これでは事故が今後の教訓として生きない。どのドライバーも「直進車優先の原則」は運転免許取得時に自動車学校で教え込まれているはずだが、どれだけ徹底されたかは人それぞれだろう。対向の直進車が近づいているのに「右折出来そうだから、今のうちに右折しよう」と判断しがちなドライバーは、結構多いかもしれない。
自転車は左側走行を
つい2、3年前まで右側走行する自転車が実に多かった。筆者の住む街は特にその傾向が強いのか、若いお母さんの右側走行が目立ち、後方から子供の自転車が右側走行で従(つ)いて行く光景も、しばしば見かけた。これでは子供の交通教育にはならず、子供だけで走る場合も右側走行ばかりだった。「自転車は車両だから左側走行」のルールに忠実なオールド自転車乗りの筆者は、右側走行の自転車と正面衝突しそうになったことが何度かある。
思うに右側走行する自転車乗りの心理は、背後に迫る4輪車と距離をとりつつ、対向車の動きも見やすいので安心、というものだろう。左側走行では背後から追い越しを掛けて来る車が視界に入らないため、不安なのである。さらに路側帯についての誤解もあったはず。「歩道と同じく路側帯内なら自転車の右側走行もOK」と勘違いしている人が多かったかもしれない。2、3年前に警察庁が自転車への交通法規徹底方針を打ち出すと、以後自転車の右側通行はめっきり減った。警察サイドがその気なら、法令順守のユルミを正すことは出来るはずである。
さらに最近は電動アシストの自転車が普及し、歩道内をスピードを上げて走る光景も目立つ。耳が遠くなり背後の動きに気づきにくくなった高齢歩行者にとって、スピードの出やすい電動アシスト自転車の歩道内走行は脅威である。運転にはマナーを守りたい。かつては「地球にやさしい乗り物」と呼ばれた自転車だが、今は「歩行者に厳しい乗り物」になってしまっている。
歩行者は左側、右側?
人はなぜ道路の左側を歩きたがるのか。俗説だろうが、その昔「身体の中でも特に大事な心臓を、無意識に守ろうとするため」という話を聞いたことがある。左側を歩けば、すれ違う人とは遠い位置に心臓を置くことになる、と。ただし心臓が左半身にあることは解剖学の知識が普及した後のことだろうから、日本人は江戸時代ぐらいまでは右側を歩く傾向があった、ということになってしまう。ちょっとヘンだ。もう1説は、武士は左の腰に刀を差すから、左側を歩いたほうが、すれ違う人に対して刀を抜きやすい、というもの。しかし、これもヘン。刀を腰に差さない商人や農民、武士階級でも女性には無関係だし、なにより武士が刀を差さなくなってから150年も経つ。
理由は不明ながら人には確かに左側を歩きたがる習性がある。筆者は趣味のウオーキングで、なるべく遊歩道の右側を歩くようにしている。というか、閑散とした時は遊歩道の中央を歩くが、すれ違う人がいると進行方向の右側へ避ける。他のウオーカーも大半は同じで、暗黙のマナーになっているようだ。ところが、ある日こんな光景に出くわした。
「右側を歩きましょう!」
右側を歩いていた年配の御仁が、周囲にも聞こえるほどの声で注意を促した。左側を歩く壮年の御仁と遊歩道で相対してしまい、どちらが道を譲るかで一悶着起きたらしい。
「こんなに広い遊歩道に、右側も左側もないでしょう!」
言いつつ壮年の御仁は、狭い方の左側をすり抜けようとする。年配の御仁も右側に避けようとしたから、ゴッツンコしてしまい、互いに照れくさそうに別れた。
理は双方にあるように思えるが、筆者は年配のお方に与(くみ)したい。左右どちらにも避けやすい広い遊歩道では、かえってゴッツンコの原因となる。この点、狭い道なら立ち止まって譲り合うからトラブルも起きにくい。歩行者同士が正面衝突してもケガはないが、右側歩行の原則を「暗黙のマナー」として心得ておけば、少なくとも不愉快な目に遭うことはない。クルマ対クルマの交通法規も、人対人の歩行マナーも、根本とするところは同じ気がする。