斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(37) 【続・悩ましい記事】

2022年02月09日 | 言葉
 小泉純一郎氏ら5人の元首相が福島原発事故で「多くの子供たちが甲状腺がんになった」とする書簡をECへ送ったことに対し、自民党の政調審議会は8日、「差別や偏見を助長する」との非難を決議した(2月9日付け読売新聞朝刊13S版4面)。5日付け記事の続報。

 非難決議の根拠として「福島県の専門家部会や国連科学委員会は『事故当時18歳以下だった住民の甲状腺がんは、放射線の影響とは考えられない』としている」との見解があるようだ。2011年3月11日の福島原発事故から、ほぼ11年。「福島県の専門家部会」がどの時点で、つまり何年に発表した見解なのかは、この記事からでは不明。見解を裏付ける材料はデータ数、分析技術とも最新のものほど信頼度が増すはずだから、肝心の点が明記されていないのでは、主張としての説得力に欠ける。

 やはり数字の裏付けを
 前稿でも触れたが、記事には、甲状腺がん患者数の明記が必要だ。数が他県より多いからと言って原発事故の影響だと即断出来まいが、数字は雄弁に真実を物語る。ぼんやりとであっても事故が影響しているか否かぐらいは伝わる。それで充分。たとえ輪郭に過ぎずとも、怪しげなフェイクニュースより単純な数字の比較の方が、何倍かぶんの信ぴょう性がある。

断想片々(36) 【悩ましい記事】

2022年02月06日 | 言葉
 小泉純一郎氏ら5人の首相経験者が、福島原電事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を、欧州連合(EU)の執行機関あてに送った。これに対し政府は「誤った情報」と強く批判しているという(2月5日付け読売新聞朝刊13S版4面)。分かりにくい記事だ。

 5人は小泉氏(自民)のほか菅直人(旧民主)、細川護熙(旧日本新党)、鳩山由紀夫(旧民主)、村山富市(旧社会)の”超党派”各氏。まず、なぜEUへ送ったのかが、記事からでは分からない。まして現在のEUはウクライナ問題で大忙しのはずで、タイミング的にもどうなのか。政権側からは「誤った情報を広めている」(西銘復興相、高市自民党政調会長)といった強い批判が出ているらしい。

 補強取材は必須
 補強取材の必要は他にもある。福島原発事故のせいで「多くの子どもが甲状腺がんに苦しんでいる」という部分の数字的な裏付けだ。重大な実態の告発か、無責任なフェイクニュースか--の分岐点は、「多くの子ども」の数字的裏付けの有無である。そもそも最初から書簡内に数字的な裏付けの件(くだり)は無かったのか、あったのに記事にする段階で削られたのか--も重要な点だろう。
 
 元首相たちでさえ数字的裏付けが出来ないとなれば、かえって5人連名の重みは薄れ、書簡を送る意味も薄れる。「元首相が5人もいて、なぜデータを調べられないのか?」と、欧米の人たちは不思議がるだろう。一方、政権側が数字を出せないなら、事実の隠ぺいとしか言いようがない。記者は、双方にこの点を確認してから記事にすべきだった。