「フェイク」発信元は個人の時代へ?
トランプ前大統領とともに世に出た観がある「フェイク」や「フェイクニュース」といったコトバ。ホワイトハウスを去った後もコトバは消えず、ウクライナ戦争や新型コロナ禍に場を変えて、より広く人の口の端(は)に上るようになった。
トランプ前大統領の頃は、米CNNなど大手メディアの流す情報が標的だった。しかし現在の日本で標的になっているのは、ネット上にあふれる個人発信の虚偽情報である。非難は個人レベルへ。コトバそのものも変質しつつあるように思える。
チェック機関OPの発足
耳慣れない「オリジネーター・プロファイル(OP)」という語。originatorは「創作人」「発起人」の意味。profileは、ご存じ「プロフィール」、つまり「横顔、輪郭、人物寸描」だ。2語を合わせて「発信者のプロフィール」「発信元(発信者)の信用度・信頼性」といった意味だろうか。ネット上の虚偽情報チェックのため、ブラウザー(閲覧ソフト)に認証アイコン付きで表示するという。
筆者がこの語を初めて目にしたのは、1月17日付け読売新聞朝刊だった。読売、朝日、毎日、産経、中日の大手新聞と一部放送など計11社が協力して技術研究組合を設立し、「ネット上の記事、広告などの情報に、デジタル化した識別子を付与する」(読売新聞から)という。「識別子の付与」は分かりにくいが、昔からあるコトバに置き換えるなら「お墨付き(マーク)」といったところか。細部の青写真が完成しているわけではないから先走ったことは言えないが、問題があるとすれば「言論の自由」との兼ね合いである。運用次第では検閲になりかねない。マイナスの認証子を付与された発信者は、必ずや「言論への不当な検閲・干渉だ」と反発することだろう。
アナログ(新聞)主導でデジタル(ネット)のチェック?
1月17日付け読売新聞に「オリジネーター・プロファイル(OP)技術研究組合の組合員(50音順)」として、発足時11社の会員名が紹介されている。以下の通り。
< 朝日新聞社、一般社団法人WebDINO japan、産経新聞社、ジャパンタイムズ、中日新聞社、日本テレビ放送網、News Corp、fluct、毎日新聞社、Momentum、読売新聞社 >
将来の会員構成がどうなるかは知る由もないが、発足時の顔ぶれから判断する限り、新聞社の主導で作られた、という印象が強い。しかも、いわゆる活字メディアを二分する週刊誌や月刊誌などの出版社系は参加せず、新聞社と言っても大手のみ。新聞と競争関係にある放送関係からは、日本テレビ放送網1社の参加にとどまった。
既存活字メディアが、新興のデジタル・メディアのチェックに乗り出した、という構図だろう。デジタル・メディアの業界が自主的に作った「研究組合」ではないようだ。
判断する側の立ち位置
トランプ前大統領は、敗北した大統領選を振り返って「選管の開票作業に不正があった」と断じた。ウクライナの非軍事施設をミサイル攻撃するロシア・プーチン大統領は「ロシアはナチスドイツと戦っている」と強弁している。いずれも敵方にとって、いや中立的立場の日本人にとってさえ明白な「フェイク」なのだが、それぞれの国民の半数近い人たちが「フェイク」にあらずと信じている事実に驚く。
右翼や極右にすれば、国民の大半が左翼に見えるかもしれない。反対側から、つまり左翼や極左から見れば、世の人はおしなべて右翼的と映るだろう。往々にして人は自分こそが中道つまり真ん中にいて、物事を捉え、判断していると考えがちだ。しかし、右左翼を分ける基準に絶対はない。判断する個々人の立ち位置次第、視座次第の、つまり相対的・主観的な基準に従っているだけなのである。「フェイク」か否かの状況判断にも同じことが言える。
であれば「オリジネーター・プロファイル(OP)」の判断に際しても、国民は判断者の立ち位置を注視すべきだ。大手活字メディア自身が思い込んでいるほど、国民は現在の大手活字メディアを信頼しているわけではない。むしろネットにあふれる「フェイク」の裏側に、大手活字メディアに対する強い不満や不信がひそんでいることを、忘れてはなるまい。
トランプ前大統領とともに世に出た観がある「フェイク」や「フェイクニュース」といったコトバ。ホワイトハウスを去った後もコトバは消えず、ウクライナ戦争や新型コロナ禍に場を変えて、より広く人の口の端(は)に上るようになった。
トランプ前大統領の頃は、米CNNなど大手メディアの流す情報が標的だった。しかし現在の日本で標的になっているのは、ネット上にあふれる個人発信の虚偽情報である。非難は個人レベルへ。コトバそのものも変質しつつあるように思える。
チェック機関OPの発足
耳慣れない「オリジネーター・プロファイル(OP)」という語。originatorは「創作人」「発起人」の意味。profileは、ご存じ「プロフィール」、つまり「横顔、輪郭、人物寸描」だ。2語を合わせて「発信者のプロフィール」「発信元(発信者)の信用度・信頼性」といった意味だろうか。ネット上の虚偽情報チェックのため、ブラウザー(閲覧ソフト)に認証アイコン付きで表示するという。
筆者がこの語を初めて目にしたのは、1月17日付け読売新聞朝刊だった。読売、朝日、毎日、産経、中日の大手新聞と一部放送など計11社が協力して技術研究組合を設立し、「ネット上の記事、広告などの情報に、デジタル化した識別子を付与する」(読売新聞から)という。「識別子の付与」は分かりにくいが、昔からあるコトバに置き換えるなら「お墨付き(マーク)」といったところか。細部の青写真が完成しているわけではないから先走ったことは言えないが、問題があるとすれば「言論の自由」との兼ね合いである。運用次第では検閲になりかねない。マイナスの認証子を付与された発信者は、必ずや「言論への不当な検閲・干渉だ」と反発することだろう。
アナログ(新聞)主導でデジタル(ネット)のチェック?
1月17日付け読売新聞に「オリジネーター・プロファイル(OP)技術研究組合の組合員(50音順)」として、発足時11社の会員名が紹介されている。以下の通り。
< 朝日新聞社、一般社団法人WebDINO japan、産経新聞社、ジャパンタイムズ、中日新聞社、日本テレビ放送網、News Corp、fluct、毎日新聞社、Momentum、読売新聞社 >
将来の会員構成がどうなるかは知る由もないが、発足時の顔ぶれから判断する限り、新聞社の主導で作られた、という印象が強い。しかも、いわゆる活字メディアを二分する週刊誌や月刊誌などの出版社系は参加せず、新聞社と言っても大手のみ。新聞と競争関係にある放送関係からは、日本テレビ放送網1社の参加にとどまった。
既存活字メディアが、新興のデジタル・メディアのチェックに乗り出した、という構図だろう。デジタル・メディアの業界が自主的に作った「研究組合」ではないようだ。
判断する側の立ち位置
トランプ前大統領は、敗北した大統領選を振り返って「選管の開票作業に不正があった」と断じた。ウクライナの非軍事施設をミサイル攻撃するロシア・プーチン大統領は「ロシアはナチスドイツと戦っている」と強弁している。いずれも敵方にとって、いや中立的立場の日本人にとってさえ明白な「フェイク」なのだが、それぞれの国民の半数近い人たちが「フェイク」にあらずと信じている事実に驚く。
右翼や極右にすれば、国民の大半が左翼に見えるかもしれない。反対側から、つまり左翼や極左から見れば、世の人はおしなべて右翼的と映るだろう。往々にして人は自分こそが中道つまり真ん中にいて、物事を捉え、判断していると考えがちだ。しかし、右左翼を分ける基準に絶対はない。判断する個々人の立ち位置次第、視座次第の、つまり相対的・主観的な基準に従っているだけなのである。「フェイク」か否かの状況判断にも同じことが言える。
であれば「オリジネーター・プロファイル(OP)」の判断に際しても、国民は判断者の立ち位置を注視すべきだ。大手活字メディア自身が思い込んでいるほど、国民は現在の大手活字メディアを信頼しているわけではない。むしろネットにあふれる「フェイク」の裏側に、大手活字メディアに対する強い不満や不信がひそんでいることを、忘れてはなるまい。