写真・「埼玉の小作争議ますます形勢悪化」(1921年12月23日時事新報)
1921年小作農民、空前の決起! (読書メモー「日本労働年鑑第3集」大原社研編)
小作農民、空前の決起
第11編 農村問題
(概説)
我らは我が国の農村にも遂に社会運動の烽火挙れりとの感想を抱かざるを得ない。
(小作争議)
1917年(大正6年) 85件
1918年(大正7年) 256件
1919年(大正8年) 326件
1920年(大正9年) 343件
1921年(大正10年) 1254件 愛知255件、大阪203件、兵庫116件、和歌山97件、静岡88件、埼玉74件、岐阜47件、神奈川46件
(空前の小作争議の数)
愛知での小作争議は昨年わずか29件に過ぎなかった。これをみても本年度1921年は小作争議が「いかに空前の盛況を呈したか」を示している。警鐘を乱打し地主に暴行に及ぶ騒ぎや、小作人が集まり地主に小作料の軽減を要求する程度のものも争議の中に含めたら、大阪府では小作争議のない町村は一つもない。全国的にみれば驚くべき巨数に上ったであろう。
(何が原因か)
水害・雹(ひょう)害のため米の不作で大減収をもたらしたことが主要かつ直接の原因である。
(小作人組合)
小作農民の一時的団結ではなく、永続的団結組織としての「小作人(小作)組合」の設立は、1875年(明治8年)に岐阜県に初めて設立されたが、この10数年来、特に1917年(大正6年)以後顕著となり、1920年(大正9年)は230組合に達し、全国で組合員総数2万数千名である。その内岐阜県は114組合で総数の半数を占め、小作人・農民運動の本場となっている。
(1921年の主な小作争議)
1月
岐阜県稲葉郡蘇原村争議
小作農民300名、小作料5割減を要求して公会堂の大集会に押し寄せる。公会堂が地主の命令により入場を拒否したたため、農民はおおいに怒り、錠前を破壊し公会堂に侵入し小作会議を開催し、「5割減」の決議を行った。岐阜警察署が解散を命じ、取締りをしたが、「従来の慣例である5分の*込米を田畑共全廃」で解決した。
*「込米」
江戸時代から続く地主側の不当な慣習で、もともとの年貢米より余計に「一俵につき一升程度余分に取られる米」で、戦前のこの時代まで残っていて農民の憎しみの的となっていました。
鳥取県米子町争議
小作料の支払い期間の延長を求めて争議になった。地主側の小作料減額で解決した。
神戸市兵庫西尻池農民互助会
小作人180名で組織された兵庫西尻池農民互助会。大地主石丸甚兵衛は、農民互助会会員の小作農民石田栄太郎に対し、借地料請求訴訟を起こしてきた。その無法ぶりに怒った小作人は石丸方を襲い大騒擾となり、「借地料の免除、訴訟の取り下げ、借地を取り上げない」で解決した。
2月
北海道蜂須賀農場争議
約1千人の小作人の蜂須賀農場で、小作料減額の嘆願に、農場側は絶対に拒絶したことで小作人は大いに憤激し、2月21日夕刻150余名の小作人が農場事務所に殺到し手当たり次第に器物を破壊した。深川分署の多数の警官が鎮圧し、小作農民を引致し取り調べをした。農場顧問の小林幸太郎が登場し、警察署を訪ね、検挙されている農民の救出を嘆願し、農民側も小作料減額要求を取り下げた。
兵庫県園田村争議
小作人50名は昨年の米の不作のため、個々の地主側に小作料減額を求めたが地主側は拒否してきたため争議になったが、「5分減」と「酒肴料」の支給で解決した。
3月
岐阜県安八郡三条村争議
安八郡三条村の小作人は、1919年(大正8年)、13人の地主に対して「込米」撤廃を要求して地主側から拒絶されたため、田土地30余町歩を地主に返上した。以来3ヵ年に及ぶ争議が続いていたが、ついに地主側は「込米」を全廃し全面解決した。
兵庫県飾磨郡廣村の5年越の争議解決
1917年(大正6年)、地主側が小作料増額に反対した120名の小作人側の耕地を取り上げ争議が続いていたが、地主側がついに屈服し妥協が成立した。
愛知県笠寺村争議
27名の地主が小作料減額に応じないため、小作人一同は結束して小作米の納入を拒否した。地主が譲歩して解決した。
4月
岐阜県網代村争議
小作人組合は小作料の減額を要求したが、地主側の回答に納得しない農民側は、集合・協議して、土地を全部地主に返却する決議をした。
群馬県南橘村争議
小作人300余名は小作人組合を結成し、団結して地主に小作料減額を要求し、ほとんどの地主は応じたが、一人の地主だけが拒絶してきたため、小作人は、この地主の田畑は以後借受けないことを決めた。
岐阜県日野村争議
小作人138名は小作人組合を結成して小作料減額を要求したが、地主側も「地主組合」を作り団結して頑強に拒絶してきた。小作組合は、耕地132町歩の返還を決議したため争議となり、「本年度に限り、小作料2割減。来年以降込米廃止と1割減」で解決した。小作、地主共組合を解散し「農友会」を両者で結成した。
5月
岐阜県安八郡今村争議
小作人70名と地主7名間の小作争議は両者頑強な態度で解決をみなかったが、遂に5月「込米廃止」「小作料の減額」「両者の組織の解散」で解決した。
兵庫県栗賀村争議
1919年(大正8年)以降続いていた争議が、調停が行われたが決裂した。
6月
福岡県粕屋郡争議
粕屋郡の席内、青柳、小野、立花、新宮の5か村の小作人約1千名は団結して小作人組合を結成し、地主側に対して小作料減額を要求した。地主側も団結して拒絶したため、小作組合は「不耕作同盟」作り、「地主側が応じない以上断じて耕作しない」と決議した。結局地主側の小作料減額で全面的に解決した。
兵庫県新宮村争議
小作料減額を拒絶する地主側に対し、小作人は田土地を地主に返還することを決めた。「7分減」で解決した。
8月
埼玉県秦村争議
小作料減額をめぐる争議が妥協解決した。
9月
富山県堀川村争議
大地主西村豊次郎の行為に憤激した小作人一同は、棺桶二個を持ち西村宅に乱入し逃げ惑う地主を捕まえた。地主を棺桶の中に投げ込まんとしたが、地主は隣村の親戚宅に逃げこんだので、一同はそこにも大挙して殺到し奥座敷に土足のまま上がり込み手当たり次第に器物を破壊するなど乱暴の限りを尽くした。
10月
神奈川県瀬谷村争議
瀬谷村小作人組合は10月4日、日枝神社境内において375名で小作人大会を開催した。小作料3割減要求を決議し示威運動を始めた。警官は厳重な警戒態勢を敷いた。15日、小作人側の要求を全部無条件で承認して解決した。
滋賀県西大路村争議
9月の暴風で多大な損害を受けた小作人一同は小作料3割減を求めたが地主側が拒絶したため争議となった。「一割減」で解決した。
11月
群馬県強戸村小作人組合結成(9支部520人)
愛知県東春日井郡小牧町小作人500人地主宅を包囲、小作料減要求獲得
三重県松阪町争議
大地主白塚大三郎の小作人農民は水害や雹害などによる小作料減額を要求したが、地主の頑強な拒絶を受けたため、10月31日天長節に期して100余名の小作人は地主白塚商店に押し寄せ、小作料5割減を要求し、もし拒絶すれば一歩も門前から退かないと叫んだ。11月3日、ついに「3割5分減」と「手当支給」で妥結した。
大阪春日村争議
46名の小作人は小作料減額を要求し、もし拒絶された時は小作田畑を返還すると申し入れた。事態は紛糾した。地主側は淡路島より人夫を雇い対抗した。4日妥協が成立した。
兵庫県宍栗郡争議
兵庫県宍栗郡は小作争議の中心地であり、各町村ほとんどで小作争議が発生しないところはなかったが、11月初旬までにほとんどが解決した。
東京府府中町争議
830名の小作人農民は小作料2割5分の減額を要求した。地主側は「小作人の態度は不遜なり」とし「1割以上の減額には絶対に応じない」と回答した。小作人側はあくまで初志を貫徹せんと結束を強め、事態は日に日に悪化の一途をたどった。最後は「1割8分7厘減額」で妥協解決した。その後小作人は強固な永続的団結の必要を悟り、「府中多摩兩町村聯合小作組合」を結成した。
岐阜県北長森村争議
小作人60余名は、地主13名に対して、小作料の4割5分~5割の減額を要求した。「1割~3割の減額、小作組合の解散、農友会の組織」で解決した。
福岡県七隅村争議
小作人約70名は結束して地主約30名に対して、本年度の不作により永久2割減を要求した。地主側が拒絶したため紛擾に紛擾を重ね、交渉は決裂し、小作人は全員小作地を返上した。27日にいたり、ようやく地主側が永久1割減を承諾して争議は解決した。
大阪府津田村小作争議(600人)
12月
岐阜県中村争議
小作料争議は、2割9分減で解決した。
栃木県三和村争議
小作人約200名は小作料3割減を決議したが、地主側は1割減以上の減額を拒絶したため小作人は憤激憤起して争議はおおきくなり、12月2日にはついに同村役場を包囲して2割8分減を認めさせた。これをみた足利警察署は、この解決は暴行脅迫によるものとして、25名の農民を検束した。怒りを爆発させた小作人側は小学児童313名を同盟休校に突入し、ますます結束を強め、検束者の釈放を要求した。あわてた足利署は、7名の検束者を残して他の全員を釈放した。6日ついに2割減で妥協したが、まだ7名の取調べが続いているので全村不安の心に覆われている。
埼玉県唐子村争議
小作人90名は3日神社に集合し、田畑山林の小作料軽減を協議し、翌4日には警鐘を乱打し再び集まり協議し「小作料永久3割減」を決議した。地主側に要求すると瞬時に拒絶されたため、憤激した小作人は役場に押し寄せて戸障子を破壊する等暴行した。松山署の圧迫は激しく農民のリーダーを検束した。小作人側は警察の干渉、圧迫の甚だしいやり方に反発し憤激し、ますます結束を強めた。6日、「本年に限り、田畑共小作料2割減」で妥協解決した。