戦時下。ついつい沈みがちな昭和天皇の気持ちをやわらげていたのは皇后である。皇后の微笑みは戦時下の宮廷を明るく照らしていたが、時としてあまりのおおらかさに側近たちが戸惑うこともあった
真夜中に空襲警報が発令され、B29が鳴り響いているというのに両陛下が一向に避難しないことが続き、大問題になる。侍従長が天皇にもっと急ぐようにお願いしたが、その後も一向に改まる気配がない
最長老の侍従、甘露寺受長に頼んで、再度きつく申し上げることにした
「お上、みなの心配をお考え頂かなければなりません。どうぞ急いで待避なさいますように。。。」甘露寺の直言に陛下は
「うん、実はね、良宮が待避の準備に手間取るものだから、、、」
なんと、天皇は皇后の着替えを待っていたのだ
空襲警報が発令されると、皇后は慌てふためくことなくいつも通りゆったりと服装を整える
ベッドの端にちょこんと座った天皇は、マイペース過ぎる皇后をたしなめるわけでもなく、支度ができあがるのを時っ待っていた
思いがけない告白に甘露寺は「はいそうですか」と引き下がるわけにもいかない。皇后にも釘をさす
「皇后さまもお急ぎいただかなければなりませぬ。もし警報が鳴った時、皇后さまが裸でいらっしゃいましたなら、そのままでもよろしいではございませんか!」
皇后さまは軽く「はい、仰せのとおりに致しましょう」と受け流された。何事も動じることなく、抜群な安定感を見せる皇后の側にいると、こわばりがちな天皇の表情は自然とほぐれてゆく