昨年から泉鏡花(1873-1939、明治6年-昭和14年)の小説をいくつか立て続けに読んだ。「外科医」、「歌行灯」、「高野聖」、「夜叉ヶ池」、「婦系図」、「日本橋」などであり、今回は「天守物語」である。「歌行灯」、「婦系図」、「日本橋」は長編なので登場人物などあらかじめ調べて予習して読まないとストーリーが理解できなくなるが、それ以外は短編であり、いきなり何の予備知識が無く読んでも楽しめる内容だ。そして、鏡花の小説・戯曲はKindleやネットで検索すると無料でダウンロードできたり見れる。もちろん本屋で買えば有料である。権利関係がどうなっているのかわからないが、上記の全ての作品は無料のKindleで読んだ。
泉鏡花の小説・戯曲は意外と親しみやすかったので、今後もっと多くの作品を読みたいと思っている。鏡花はその生い立ちから、母思いの情、鮮やかな色彩姓、夢幻性を併せ持ち、幻想的な作品に特色があると解説させている。「日本橋」、「婦系図」、「歌行灯」では風俗生の濃い作品を書き、「夜叉ヶ池」、「天守物語」などの戯曲では、俗世間の迫害に耐える女たちの哀れさを、華やかな幻想性に包み込んで描きあげる、とある(日本大百科全書より)。
「天守物語」は短編であり、戯曲形式になっている。2時間程度で読了するが、読んでみて1回で全容を理解するのは難しかった。読後にネットであらすじなどをもう一度確認して「ああ、そういうことだったのか」と気づき、もう一度該当部分を読み返してみて納得した。
簡単なあらすじは、ネタバレで言えば、姫路城の天守に幻の富姫と侍女が住むが祟りがあるとして誰も近づけない、地上の殿様が鷹狩りをしていたその鷹を姫が魔法で捕まえる、それを鷹匠の若いイケメン武士が取り戻しに天守に昇ってくる、姫と鷹匠が恋におちる、地上の武士たちの攻撃で姫と鷹匠の目が見えなくなるが、彫り師が出てきて救う、というようなもの。
鏡花がこの戯曲で何を言いたかったのか、それを富姫や彫り師に言わせているように思われる。すなわち、天守(天上界)から見れば地上の愚かな殿様や武士たちはどうでも良いことで争いをしたり、切腹したり、血を流し合っているがその横では蝶が舞い、花が咲き、祭りが行われているぞ。馬鹿なやつらめ、というようなことか。これを上記に引用した解説によれば「俗世間の迫害に耐える女たちの哀れさを、華やかな幻想性に包み込んで描きあげる」と言うことになるのか。
鏡花の小説・戯曲は今まで何度も演劇化、映画化、歌舞伎化されているが全然見ていなかった。今年の月イチ歌舞伎では鏡花の4つの作品(全て坂東玉三郎出演)の上映が予定されているので是非見に行きたいと思っている。