今年の7月に第169回直木賞を受賞した永井紗耶子(さやこ)の「木挽町のあだ討ち」を読んでみた。木挽町というタイトルにこれは多分歌舞伎関係の小説ではと思い、新聞の書評などで確認してKindleでダウンロードして読んでみた。
永井紗耶子は46才、大学卒業後、産経新聞の記者を経てフリーランスのライターになり、2010年頃から小説を書き始めた。子供の頃から小説を書いてみたいと思っていたそうだ。今年の5月にこの本で山本周五郎賞を受賞したばかりだ。彼女は大の歌舞伎ファン、小学生の時はテレビの大河ドラマや時代劇を夢中で見たという。今は仕事前にスマホでよく落語を聞くそうだ。
この「木挽町の仇討ち」は、武家の18才の青年菊之助が、木挽町の裏通りで父を殺した下男の作兵衛に仇討ちを果たす、その仇討ちをめぐる物語だ。仇討ちの2年後、ある侍が参勤交代で江戸に来た際、木挽町の関係者に仇討ちのことを聞いてまわる。本当に仇討ちがあったのかどうか確かめるためだ。
筋の展開としては、各章ごとに聞いてまわった相手の人物描写、来し方、異なった生き様、芝居小屋での仕事などが描かれ、菊之助とのつながりがどうであったかが書かれている。それが歌舞伎好きには歌舞伎という伝統芸能をいろんな角度から理解する助けになる。その聞いた相手は、
- 木戸芸者の一八(劇場の前で客を呼び込む人、今はいない役割)
- 立師の与三郎(芝居の中で戦いの場を演じる役者たちに振りを付ける役目)
- 端役の衣装を整える衣装係の芳澤ほたる
- 芝居の小道具を作る久蔵とお内儀のお与根
- 戯作者の篠田金治(元は野々山正二)
それぞれにこの芝居小屋で働くまでの人生があり芝居小屋での役割があり、いろんな苦労がある、哀愁がある、歌舞伎を相当研究しないと書けないでだろう。それらの人たちの話を聞くうちに仇討ちのことがわかってくるのだが、最後にこの話を聞いた武士が国元に帰り菊之助と話をして、菊之助が仇討ちの回想をする。そして段々とこの仇討ちの真実が明らかになっていき、最後にどんでん返しが・・・
昔は芝居小屋界隈は「悪所」と呼ばれ、品行方正な武士などがそうそうと足を踏み入れる場所ではなかった、などの話は「そうだったのか」と参考になる。まあ、今はもう悪所ではないだろうが、歌舞伎役者と言えば、芸人の世界で男の花形役者の浮気騒ぎは当たり前、最近でも家族で自殺騒ぎなど、普通の世界とは確かにかなり違う世界とも言える。
小説の中で、当初の「仇討ち」が「徒打ち」になり、最後、「あだ討ち」になる変化が面白い。ただ、菊之助の父の清左衛門が菊之助を突然切りつけるところや、菊之助が「仇討ち」が「徒討ち」になるところが小説の中で大きなポイントとなるが、その話に少し無理があると思うがどうだろうか。
歌舞伎に興味がある人は読んで見て良いのではないか。
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