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キング・クリムゾンの来日公演:1995年

2018-10-27 09:42:54 | 日記
前回の来日が1984年であり、ほぼ10年の時を経て再結成されたキング・クリムゾンが再び日本を訪れたのは、日本が大きな災厄に遭遇した衝撃的な年であった。この年の1月には阪神淡路大震災が発生し、3月には東京でオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生している。キング・クリムゾンは10月に来日し、2週間で11公演というハードスケジュールにも関わらず、演奏は質の高い素晴らしい内容であった。特に阪神地区の被災者の人々で彼らの来日公演を心待ちにしていたファンには大いに慰めになったはずだ。

メンバー編成は80年代の4人から6人に増えており、新しいメンバーはスティック奏者のトレイ・ガンとドラマーのパット・マステロットである。つまり、ギターとドラムとベースのような低音部の弦楽器を演奏するミュージシャンがそれぞれ2人存在することになった。来日前にスタジオアルバムも2枚リリースしており、「ブルーム」という短縮版の作品と「スラック」という本編が発表された。アルバムを聴くとまず打楽器が増えたことで音の厚みが幾層にも増した迫力に圧倒される。またトレイ・ガンがスティックで、フルートやヴァイオリンのような音色を奏でており、繊細な表現も研ぎ澄まされたように感じる。これは過去の代表作「太陽と戦慄」における静と動の好対照の妙を再現しているかのようだ。

事実、ライブではその「太陽と戦慄」のアルバムから「トーキング・ドラム」という名曲が演奏された。私が観た東京公演では、アンコールにビル・ブラフォードとパット・マステロットとエイドリアン・ブリューの3人がステージ中央に現れて、木製の銅鑼のような古代的な趣きのある大きな太鼓を叩きはじめたところからはじまった。その3人のコラボレーションが終わった後に「トーキング・ドラム」の演奏に流れていくわけである。これは観客にも受けた実に面白い演出で、太鼓を叩く3人もとても楽しそうであった。またステージの布陣も前列と後列に分かれ、前列左がスティックのトレイ・ガン、中央にギターとリード・ヴォーカルのエイドリアン・ブリュー、右にベースのトニー・レヴィン。後列は左がドラムのパット・マステロット、中央にギターのロバート・フリップ、そして右がドラムのビル・ブラフォードという構成で、視覚的にも十二分に楽しめた。

私が体験したこの公演では、コンサートで演奏された最初の曲が何だったのか、今となっては覚えてはいないのだが、前回の1984年の時と違い、メンバー6人全員がステージに集合して演奏が始まったように記憶している。それから、この来日公演で私が一番驚いたのは、「スラック」という曲である。スタジオ録音されたバージョンとはかなり変質しており、原曲そのものが即興演奏の部分が多いのだが、その即興演奏の中身が新鮮であった。まず打楽器群のリズムや音が見事に変容している。さらにはギターでピアノの音色を絶妙に表現していた。これは当時の先端デジタル技術を駆使してやってのけたことなのだが、過去のキング・クリムゾンのアルバムでは「ポセイドンのめざめ」、「リザード」、「アイランズ」でゲスト参加したジャズピアニストのキース・ティペットが奏でていた音を思い起こさせた。全く予想外な展開である。しかもこうした即興演奏の雰囲気が70年代にライブ演奏された「暗黒の世界」、「神の導き」といった過去の名演を彷彿とさせる。この時は流石に10年ぶりに再会したキング・クリムゾンの凄さに改めて感じ入った次第である。

この来日公演の後に、ダブルトリオとも評された6人編成のキング・クリムゾンは「スラック・アタック」という1995年のライブ活動における即興演奏を編集した作品を発表するのだが、このアルバムは全米公演と日本公演の演奏から編集されている。キング・クリムゾンはスタジオ・アルバムだけではなく、ライブ・アルバムにも優れた作品が多い。私にとってこの「スラック・アタック」は、ひょっとするとキング・クリムゾンのライブ・アルバムの中では、一番聴いた時間が長いかもしれない。なぜなら通勤電車の中で聴く機会が非常に多いからだ。あと、このライブの演奏が素晴らしいのは、パット・マステロットという新加入したドラマーが、プロのセッション・ミュージシャンになる以前からずっとキング・クリムゾンのファンで、特にビル・ブラフォードを尊敬していたという理由もあるかもしれない。実際、パット・マステロットは日本の音楽誌のインタビューで、「暗黒の世界」においてビル・ブラフォードの刻むリズムが8年間、頭にこびりついて離れなかったと発言している。またこの時期の6人編成でのライブ映像は、来日公演がDVDで発売されているし、ユーチューブで検索すると視聴も可能だ。来日公演とアルゼンチン公演はフルタイムでコンサートの模様を体験することができる。



































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