今日が「ボジョレヌーボー」の解禁日ってことは特に意識していなかった。だから一杯目に飲んだのはいつもの「シンガポールスリング」。もう木枯らしも吹いたのに、やっぱりこの南国っぽい味が好き。フレッシュパイナップルとレモンジュースとジン。そこにチェリーブランデーを加えたこのカクテルはパインの風味がさわやかで飲みやすい。
カウンター席に座り、マスターのKさんと昔乗っていたバイクの話で盛り上がっていた。
静かにドアが開いた。お客さん? バーだから一人で来るお客さんは珍しくない。本当にバーが好きな人や宴会後の幹事さんなんかが、一人でフラっと立ち寄って お気に入りのカクテルを飲んでいく。でも今日みたいに女の人が一人で来店するのはやっぱり珍しいんだと思う。Kさんがちょっと間があいたけど、「いらっしゃいませ」と声をかける。
コートを脱ぐと 彼女はぼくの2つ向こうのカウンター席に肩を並べるように座った。サックスブルーのセーターが似合ってる。緩やかにウェイブがかかった髪が軽く肩にかかっていて大人っぽい雰囲気。だけど、表情は「飲めるんだろうか?」って心配になってしまうくらいあどけない。
ぼくはKさんとバイクの話の続きをしていて、もう一人のバーテンさんが彼女と話していた。
「やっぱりバイクはカワサキっすよね。7本スポークのシンプルなデザインが好きでした」
「今度乗るならアメリカンバイクにしたいと思っているんです」
「Tシャツだけで走れる夏のツーリングはサイコーっすね」
バイクの話は彼女にも聞こえていたはずだ。
彼女ともう一人のバーテンさんの話も聞こえていた。ストーリーはつかめないけど、ときどき
「で・しょぉ」
とか
「へぇ、そうなんだ」
とか楽しそうな声が聞こえてくる。彼女はこういう場にはあまり慣れていなくて、アルコールもあまり強くないことが前後の話からわかった。
「この際、4人で話した方が・・・」
そこにいたみんな、心の中でそう思っていたんじゃないかな。
Kさんと目が合う。 「どうしようか?」と目できいてみる。
Kさんは軽くウィンクすると カクテルを作り始めた。
Kさんが作っていたのは「アメリカンレモネード」というカクテル(写真右側)。
レモネードに赤ワインを浮かべた鮮やかなカクテルで、今日の赤ワインはもちろん「ボジョレヌーボー」。上に浮かぶワインを最初に味わった後、かき混ぜればレモネード感覚でグンと飲みやすくなる。
ちょうど彼女たちの話が切れて、カクテルを作るKさんの華麗な動きにみんなの注目が集まっていた。Kさんはにこやかに彼女の方に振り向くと
「ボジョレヌーボーを浮かべたアメリカンレモネードです。このカクテルはあちらの方からのプレゼントです」と言った。
一度でいいからやってみたかったシチュエーション。できればプレゼントされる側がよかったけど、この際 贅沢は言えない。
彼女は一瞬とまどい、「私に?」と小さな声でつぶやいた。
目と目があい、お互いの表情に笑顔が広がる。
ぼくがひとつ右の座席に移ると 彼女はひとつ左の席に移ってきた。
グラスを合わせる音がカチッと響く。
「うれしいわ。とてもきれいなカクテルね」
「君の瞳にはかなわないさ」
静かなバラードが流れるバーに笑い声がはじけた。
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え~、毎度お騒がせでございます。このブログ「東京日記」にたま~に登場するショートストーリー。
前半部分と飲んだカクテルは事実ですが、後半部分はすべて想像&願望の世界でして (^^;) 。ま、いいと。
実際は日本橋のオフィスの同居人 H君と二人で飲んでおりまして、もちろん今日がボジョレヌーボーの解禁日ということも知りませんでした。
このショートストリーの舞台になったのは 素敵な恋の予感がするバー・オーシャン 。Kさんも「もう一人のバーテンさん」ことTさんも とても親切な方々で 本格的なバーテンさんです。
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「君の瞳にかなわないさ」という言葉まで、本当に信じて読んでいましたよ♪
その言葉をとしたかさんが本当におっしゃったのかと、一瞬Σ( ̄◇ ̄;)となりましたが、後半はショートストーリーだったのですね゜m゜*)プッ!
でも最近本格的なカクテルを作れるバーテンさんが少なくなったらしいですよね
こちらの田舎には無論そんなバーすらありません
行ってみたいなー
Bar OceanのK&Tより。
どうも失礼しました。飲んでいたときのことの書こうと思ったら空想が広がって止まらなくなりまして・・・ (^_^;) 。
ruruさん、最後のセリフ。あんなこと言われたら引きますよね (^_^;) 。でもあのセリフを言わせるために浮かんだショートストーリーでした。ま、笑い流してやって下さい。
東京に出てこられる機会があればぜひ!ひとみんさんご夫婦といっしょに行きましょう。もともとこちらのお店を紹介してくれたのはひとみんさんのダンナさんなのです。
Ocean K&T さん、どうもお騒がせしました。また昨日はおいしいカクテルをどうもありがとうございました。
確かに一人の女の人が来店していましたが、自分は実際はH君との話に夢中で、その方の服とか髪型とか雰囲気などは全然覚えていませんでした。
でもそんなことが起きても不思議じゃないくらい素敵なBARですよね。またおじゃまさせて下さいね~。