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帯とけの枕草子〔百五〕見ぐるしきもの
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔百五〕見ぐるしきもの
見ぐるしきもの(見苦しい情況)
衣の背縫を片方に寄せて着ている。又、のけくびしたる(後襟をのけ反らせて着ている)。
馴染みでない人の前に子どもを背負って出てくる者。
ほふしおんやうじのかみかぶりしてはらへしたる(法師陰陽師が紙冠して祓えをしている…ほ伏し陰陽子が白いもの被って振っている)。
色黒く見にくげな女が、かつら(鬘)しているのと、髯面でかじかんだように痩せた男、夏に昼寝しているのだけは、ひどく見苦しいことよ。なにの見るかひにて(何の見る甲斐にて…何をみる貝があるために)、そうして寝ているのでしょうね。夜ならば、容貌も見えず、また、だれだってそのようなこと(寝乱れ)になるけれど、われは醜いと起きだすこともないし、そうして、翌朝早く起きると、いとめやすかし(とっても見た目にも安らかよね…とってもめが安らかよね)。
夏、昼寝して起きたのは、よき人ならば、いますこし趣もある。何ということもない容貌は、つやめきねはれて(顔は・てかてかで寝腫れして)、気づかずに頬がゆがみもしてしまっているでしょう。お互いに見交わすときの生きている甲斐のなさよ。
痩せて色黒い人が、生絹のひとえ着ている、いと身ぐるしかし(とっても見苦しいよね)。
言の戯れを知り言の心を心得ましょう。
「ほ…お…おとこ」「陰…女」「陽…おとこ」「し…師…子…名詞に付いて親愛なる物の意を表す」「はらへ…祓え…ぬさなど振る」「見る…目で見る…夫婦となる…まぐあう」「見…覯…媾」「かひ…甲斐…期待した効果…峡…貝…交い」「かつらの女・色黒…他でもない、わがことよ、女たちは皆知っていること」「め…目…見…女」「かし…よ…強めていう言葉」「生絹のひとえ…薄物で裏地なし…黒い肌色が透けて見える」。
「色黒くにくげな女のかつらしたる」は自嘲。自らを自らがあざけり笑っている。これも人の笑いを誘う。
宮に初めて参りたる頃、宮のお付けになられた「わがあだ名」は、かつらぎのかみ(鬘着の上…葛城の神…明るいのは苦手な神…髪の筋目も色黒も見られるので明るい時は苦手な女)」。これを知る女たちには自嘲とわかる。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による