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帯とけの金玉集
紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。
公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。
金玉集 雑(七十一)仲 文
あひしれりける女の田舎にいきたりけるほどになくなりにければ、かへりきて聞きければ、その姉の許にいひつかはしける
(関係のあった女が田舎へ行った間に亡くなったので、帰ってきて聞いたので、その姉の許に言い送った歌……合い交わった女の井中に入っていた間に、女が亡くなったので、家に帰り来てから聞いたので、その姉の許に遣った歌)、
ながれてと頼みしことは行末の なみだの川をいふにぞありける
(ともに流れてと我を頼りにした言葉は、ゆく末の三途の涙の川を言ったのかあ……汝離れるので泣けてきてと、我を頼りにした言葉は、逝く末の喜びの涙の川を言ったのだなあ)。
言の戯れと言の心
「しり…知り…親しく交際し」「ゐなか…田舎…井中…女の中」。
「ながれて…流れて…田舎へ下りて…泣かれて…汝涸れて…汝離れるので」「汝…おとこ」「かれ…涸れ…離れ」「て…してそして…のに…ので」「頼みし…頼りにした…夫にとあてにした…身を任せた」「こと…言…事」「行末…将来…行く末…逝く末」「なみだの川…悲しみの涙の川…三途の川…喜びのなみだの川」「ける…けり…詠嘆の意を表す」。
歌の清げな姿は、親しくしていた女を亡くした男の心情。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、頼みとするわと告げて後に亡くなった女への男の思い。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。