帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 雑(七十一) 藤原仲文

2013-01-04 00:07:31 | 古典

    



             帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。

公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。



 金玉集 雑(七十一)仲 文

 あひしれりける女の田舎にいきたりけるほどになくなりにければ、かへりきて聞きければ、その姉の許にいひつかはしける
 (関係のあった女が田舎へ行った間に亡くなったので、帰ってきて聞いたので、その姉の許に言い送った歌……合い交わった女の井中に入っていた間に、女が亡くなったので、家に帰り来てから聞いたので、その姉の許に遣った歌)、

 ながれてと頼みしことは行末の なみだの川をいふにぞありける

 (ともに流れてと我を頼りにした言葉は、ゆく末の三途の涙の川を言ったのかあ……汝離れるので泣けてきてと、我を頼りにした言葉は、逝く末の喜びの涙の川を言ったのだなあ)。


 言の戯れと言の心

 「しり…知り…親しく交際し」「ゐなか…田舎…井中…女の中」。

「ながれて…流れて…田舎へ下りて…泣かれて…汝涸れて…汝離れるので」「汝…おとこ」「かれ…涸れ…離れ」「て…してそして…のに…ので」「頼みし…頼りにした…夫にとあてにした…身を任せた」「こと…言…事」「行末…将来…行く末…逝く末」「なみだの川…悲しみの涙の川…三途の川…喜びのなみだの川」「ける…けり…詠嘆の意を表す」。


 歌の清げな姿は、親しくしていた女を亡くした男の心情。歌は唯それだけではない。

歌の心におかしきところは、頼みとするわと告げて後に亡くなった女への男の思い。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。