山に生い茂る木の中で、一本だけ神様に選ばれる木があります。その木は神様が地上に降りて来るときに天と地上の架け橋のお役目を任され神様にお仕えする木です。
その木になるのは山の木々にとって一大出世です。その後何百年も神様と色々話しができる力を貰えるので、山の木々は次は誰かなぁと話し合っていました。
どの木が選ばれるかは、神様が決め、決まった後はその木は他の木々と話す力を取り上げられてしまう約束があります。だから、神様に選ばれる条件は選ばれた木と神様だけの秘密になるわけです。
木々はあれこれ、ざわざわ噂話しをしています。
神様に選ばれる日までは、自分を立派にみせたいから、木の葉一枚、実ひとつ落とさないように、なるだけ大きく、美しく、高く、凛々しい姿になる事だけをどの木も考えていました。
木に止まる鳥や蝉も、あれこれ噂しています。
「たぶん、クスノキ君だと思うよ。」
大きなクスノキに白鷺くんが停まって伝えます。
「だって、一番かっこいいもん」
「そうかなぁ。」
クスノキ君もまんざらではありません。
「いやぁ、トチノキさんだと思うわ。だって、沢山枝が分かれてて、私たちが木に穴を空けても黙って見守ってくれるもの」
森の大工さんキツツキはトチノキが御神木に選ばれると信じています。
トチノキ君は苦笑いしました。穴を開けなかったらもっとかっこいい姿を見せられたのにと、内心悔しく思っていました。
「銀杏くんだと思う。だって、一番太くて幹の数なんて、この周りのどの木より多いよ。」
沢山の野鳥が話しています。
銀杏くんは、太さと迫力で選ばれるなら自分しかないと内心思っています。
森の昆虫達は
「桜さんだと思う。」
と言いました。
「だって、春の美しさなんて、誰にも負けないしね。」
ざわざわ木々が喋るのを、もう朽ちてしまいそうな枯れかけた一本の梅の木が、そばで穏やかにみんなの話を聞いていました。
つづく
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