のんのん太陽の下で

初めての一人暮らしが「住民がいるんだ・・・」と思ったラスベガス。
初めての会社勤めが「夢を売る」ショービジネス。

優しさ

2006-11-25 | KA
 KAは2004年11月26日に幕が開け、2006年11月25日が2年間の契約の最後の日となりました。そして9名のアーティストにとって最後の日。
 ベスは二回目のショーを観たいからと一回目のショーを最後にしました。影絵で登場するときも、フルートを回すときも、いつも彼女の澄んだ歌声がありました。心まで澄み渡らせてくれる彼女の歌声に身を絡ませられるのも今日が最後です。
 繊細なのどを持つ彼女は、花火の煙からのどを守るために、いつもは花火が上がる前に舞台から去ります。でも、今日は私たちがお辞儀をし、ミュージシャンの方に振り返ると、彼女が舞台の中央にいました。
 ショーとショーの合間に去り行くアーティスト達のために集まりました。今日で辞めるアーティストはみなクリエイションのときからいたので、私たちにとって3年前後の付き合いです。彼らのスピーチを聞きながらまた涙。

 私は少し戸惑っていました。自分の心をどこにまとめたらいいのか。去り行くたくさんのアーティアストがいる中、私にはかぶりつきに日本からのお客様がいました。ご夫婦。あと3ヶ月で生まれる子と共に。

 ー優しさー

 母になる彼女のことを思っていたら思い浮かんだこと。

 クリフデッキに乗り込むと、山男の格好をしたウルディがいつものように横にいました。今日はショーの前、みなに彼主演の映画を上映してくれました。「ノリコ、ノリコ、コココココ…」とよく歌ってくれた彼をここで見るのも最後です。
 フルートを回し始めるとたくさんの人に見つめられている気がしました。優しい空気。スーッと上を見上げたときジュリの空気を感じました。彼女とはヨガとダンスのクラスをいつも一緒に受けていました。今日はカードが置いてあって、「森のシーンの待機を上でしながら、毎日あなたの踊りを楽しんでいました。」と書いてくれていました。彼女は彼女が一番輝けるダンスの道に戻ります。
 フルートの二本目を持つと、いつもより力強くドラムの音が響きました。がっしりとした体格のセイジ。笑った顔を見るまでは怖い人かと思っていました。でも今は彼の優しさも優しい顔も知っています。
 さそりの中にはダニエルが待機しています。男性にも女性にもセクシーなダニエル。昨日は私のフルートのシーンを観ていてくれて「とってもラブリーだったわ。」と喜んでくれました。彼はカニさんにも入っていました。パペットから飛び出して彼の跳躍力、柔軟性、表現力がより活きる世界に行きます。
 ぐるぐる回るカゴのアーティストは3人います。エリオは代役。同じ衣装を着て舞台上で待機をしていましたが、一度も本番でその役をすることはありませんでした。最後のお辞儀で花道に立った3人、いつもは縄跳びをするフランシスコが中央に立ちますが、今日はエリオがセンターにいました。
 そしてたたみのステージのほうを振り返ると、いつもヒトデに入ったままのバレンタインが、今日はヒトデから飛び出して笑顔で大の字に立っていました。それを見たら涙を抑えることができず、頬を流れていきました。
 そしてまたお客様のほうを振り返るとすぐそこにご夫婦が。優しく拍手を送ってくださっていました。
 いつもより時間をとってみなで拍手を送り合いました。
 私のいる更衣室からも一人去る人がいました。カティア。彼女のためにシャンペンを開けました。彼女の品のよさは女王様役にぴったりで、私生活でも舞台上でもパートナーのバレンタインとの王様、女王様は気品がありました。以前はカニにも入っていました。しかし腰を痛めてしまい、二度とカニができないようになってしまいました。彼女は8年間シルクでコントーションのアーティストとして働いていましたが初めての怪我だったそうです。ご主人と娘さんと共にカナダに戻ります。
 私の顔は涙を流すたびに塗り直したお化粧も、最後にまた流れてひどいものでしたが、2年間のショーを終えた去り行くアーティストたちの顔はいい顔でした。
 
 さてさて、同じように2年間の契約を終えた私にも、今日はプレゼントがありました。ライザミネリさんがショーの関係者のために特別にショーを開いてくださったのです。それも無料で。彼女もショーを終えてから、お客さんもショーを終えてから、真夜中を過ぎた1時に集まりました。
 始まったとたんに引き込まれる彼女の存在に目が潤んでいました。「エンターテイナー…」自分の青さを感じながら、彼女がこのショー開いてくださった意味を感じていました。会場は異様な盛り上がりで一曲終わるたびに総立ち。彼女も「あなたたちはショービジネスがわかる人たちだから…」と、とても楽しそうに話していました。
 その中で彼女は「多分この中で私が一番年上だと思うの。私は60歳。だから今日は子供たちのためにショーをしようと思ったの。」と。彼女の力強い歌声と心の優しさ、私は終始じっと彼女を見つめていました。
「私はね、歌は歌えないと思っていたの。でもね、いい役者であることはわかっていたわ。ある時、歌もダンスと同じと言われたの。音楽に身体の動きを載せてダンスをするように、声を音楽に載せていけばいいだけだと。」素敵だなと思いました。
 話から歌に入るまでの絶妙さ。お客さんとのコミュニケーション。バンドに向ける優しさ。ゲストで迎えた歌手を敬う目。彼女の大きな大きな心に包まれて、私の心も晴れやかになっていました。彼女から有り難いエネルギーをいただき、次の契約のためのすばらしい充電となりました。

 特別なショーなので通常より短いものと思っていたら2時間半。すっかりお待たせしてしまいましたが先ほどのご夫婦にお会いできました。妊娠8ヶ月なので多くの人の反対がある中いらしてくださったそうです。食事をしながらいろいろな話をし、朝5時のご出発までご一緒して、薄明るくなる中お互いの家に向かいました。
 
 いろいろな人のいろいろな旅立ちが良い旅立ちとなりますように。

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4 コメント

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今年一番の決断 (タター)
2006-11-29 16:24:33
のんのんさん
はじめまして。ブログをいつも楽しく読ませていただいています。
私の今年一番の良い決断は、2月にラスベガスへ行って「KA」を観たことでした。あまりお金に余裕があるわけではなかったのですが、なぜか「今しか行けないかもしれない」という気持ちに駆られて、「KA」を観ることができ、心を満たして帰ってくることができました。
その決断は間違っていませんでした!私は現在妊娠8ヶ月目。しばらくラスベガスは無理になってしまったからです。(文中の8ヶ月の妊婦さん、飛行機よくがんばられましたね!無事でなによりです)

私の夢は子供が10歳になったら、ラスベガスへ行って「KA」を見せて、世の中にこんなにすばらしい世界があって現実に目の前にあることを見せてあげることです。その舞台に立つために大変なご苦労があることでしょう。だから美しく輝けるのだなと思います。

のんのんさんが、そのときも舞台に立ってらしたら嬉しいな。

危険な舞台の中、お体を大切に。同じ日本人として誇りに思います。
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ありがとうございました (がるる)
2006-11-29 22:23:18
高橋さんへ

先日はステキな時間をありがとうございました。
最後は慌ただしいお別れとなってしまいましたが、今でもホテルを出るシャトルバスに向かって手を振ってくれている高橋さんの顔が浮かんできます。

昨年11月に続いて、2回目となる6:30の部。
格段にパワーアップしている主演者のみなさんに驚き、貫禄すら感じる高橋さんの演技にうっとりしていました。
1年間の重みを感じ、どんどん進化していく「KA」に期待が膨らみます。

そして、2年目最後の節目 9:30の部。
9人が舞台を去る日。

バックステージで高橋さんにその話を聞いて、高ぶっていた自分の気持ちが少し理解できた気がします。
というのは、終盤になるに連れて、演じている人たちの気迫というか言葉では表せないモノがどんどん体の中に入ってくるんです。
特に最後の花道に並ぶ皆さんの満ち足りた顔を見た時には、心の中から沸いてくる笑顔に混じって大粒の涙が溢れていました。
「感動する」ってこんな感じのことを言うんだなと、初めて体感した瞬間です。
特別な公演を観ることができ、最高な時間を過ごせたことは、非常に幸運だったと思います。

いや不幸かもしれない...
昨年にも増して、今すぐにでもラスベガスに飛んで行って、高橋さんに会いたくてしょうがない病が夫婦共々始まっているから...

最後に周囲の反対を押し切り、妊娠28週目という時期に渡米したために、高橋さんだけでなく、バトンの先生方にもご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。
皆様のアドバイスを生かし、ロサンゼルス経由の長いフライトもクリアし、無事帰国することができました。
妻に代わり、御礼申し上げます。
ありがとうございました。
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タターさま (のんのん)
2006-12-04 12:36:40
 はじめまして。
 2月にいらしてくださったのですね。ありがとうございます。それが今年一番の良い決断とおっしゃっていただけて嬉しく思います。
 また夢にまで…10年という年月は長いようで短いのかもしれません。特に子供の成長を見ているとすぐに過ぎていく日々かもしれません。タターさんにおっしゃっていただいたようにそのときまで私が舞台に立てていたら是非お会いしたいですね。素敵なことだと思いませんか。
 今、身近に妊娠7,8ヶ月の友人がいます。毎日いろいろな変化があって大変だなと思ったり素敵だなと思ったり。特に、おなかにいるときから親と呼応していることを聞くと感動します。
 タターさんも幸せなときを過ごしていることと思います。これからもお身体をお大事に素晴らしいときをお過ごしください。元気な赤ちゃんが生まれますように。
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がるる様 (のんのん)
2006-12-04 13:05:20
 無事ご帰国とのことほっといたしました。

 コメントを読ませていただきながら、あの日のショーのことを思い出しました。伝えるということではなく伝わるということ。涙が自然に溢れるということ…

 私が忙しい週でゆっくりとお会いする時間をとれずに申し訳ありませんでした。あんなに中途半端な時間にお時間をとっていただいてありがとうございました。いらしていただいたこと、お会いできたこと、素敵なコメントをいただいたこと本当に嬉しく思います。
 こちらで過ごした時間がお二人にとってリラックスできた時間であることを願っております。そしておなかの赤ちゃんに素晴らしい胎教となっていますように。
 奥様にもよろしくお伝えください。また近いうちにお会いできますように。ありがとうございました。

P.S.『恋愛成就』には笑いました!
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