2. 耳
このレシピには2つのレシピが挿入されています。
一つは、コインの大きさのペイストリィを作ってそれをラードでフライするもの。
二つ目は、レタスの葉の形をしたものを、大小作ってそれをラードでフライするものです。
意味が取りにくいのは、2つのレシピが押し込まれているからですが、一つのレシピ(と我々が勝手に思い込んでいるのが間違っているのだけれど)の中に二つ以上のレシピが混在することは、中世料理書にはままあることです。ページを飛ばすようなミスもたまにあります。この時代、字が書けるのは、聖職者と貴族です。写本をして知識とお金を得なければならないのは聖職者ですが、新たに書き写す時に、一冊は依頼者のために、二冊目は自分のために作業をすることはよくあることでした。一冊の本から、二冊の本に書き写すとき、上のようなミスを犯すことは十分に考えられることです。
フランスリール市長であり、ブルゴーニュ公の秘書、しかも翻訳者であるジャン・ミッシェル( Jean Michel、1472 )は、今まさに写本の真っ最中です。 https://script.byu.edu/Pages/Italian/es/history.aspx から
料理書;ル・ヴィアンディエはこのような作業を経た結果、現在我々の目の前にあるのです。
最初に書かれているのが、今話題にしている「耳」のレシピです。小麦粉を練って筒状に延ばし、それを切り分けてスプーンのようなものでボード上に擦り付けてカールしたパスタを作ります。それをラードでフライしたものです。
ロリーパスタのロリーとは;
Lorez ; この単語は最初の音節にストレスがあり、ラテン語のlura、そこから派生したloure(ルール;現代フランス語 )につながる言葉です。ルールはブルターニュ、ノルマンディ地方で使われていたバグパイプの一種です。又、ラテン語では財布を示すことからLorezは小さな袋状のものを指すと思われます。
バグパイプはスコットランド、アイルランド、スペイン、ポーランド、トルコ、バルカン半島の広い範囲に存在するので、「Lorez」という言葉は広い範囲で理解されていたと考えられます。
因みに、ヴァチカン図書館に保存されている写本(下)では「ロリー」は直前のレシピ; PASTEZ NOURROYS 内に含まれています。
( http://www.staff.uni-giessen.de/gloning/tx/vi-vat.htm から )
PASTEZ NOURROYS
Prenez chair cuite bien menue hachiée, pignolet, raisin
de Corinde et frommage de gain esmié bien menu, et ung
pou de succre et ung petit de sel.
Pour faire petis PASTEZ LOREZ, comme pastez d'un blanc
ou au dessoubz, et les frire, et qu'ilz ne soient pas si hault de
paste, et qui veult faire des laictues et des oreillettes, fault
faire couvercles de pastez, les ungs plus grans que les autres,
et les frire en sain de lart porc doulx tant qu'ilz soient
durs comme cuitz en ung four; et qui veult, on les dore de
fueil d'or ou d'argent, ou de saffren.
次回は「ロリー」から「耳」につながる証拠の品をお見せしましょう。
夏の終わりには固くしっかりとした、香りをため込んだ葉に成長するでしょうから、その時またお持ちしましょう。