Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 88

2020年07月22日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

東西の医学に、勿論日本にも。現在に至るまで最も影響を及ぼしたのは、やはりイブン スィーナーの『医学典範』でしょう。この本に焦点を当てて述べようと思います

 

イブン スィーナーは『医学典範』で、以下の3つの方法を挙げています。

1.衛生と栄養

「衛生」は体の習慣に基づくもので、健康を保つためには薬の処方と適合しなければならない。「栄養」は、患者の気質や体液の状態、病気の度合いを念頭に置き、食材の性質を考慮して、その内容を指導せねばならない。食事を禁止したり、量を調整することも必要です。

2.生薬を使った治療

病気の質と反対の質の薬を処方する。医師は、病にかかっている器官の性質および病気の度合いを把握し、患者の性別、年齢、習慣と癖、季節、環境や気候、職業、体力や体格に合わせて薬を処方しなければならない。

3.身体摩擦法

現代でいうマッサージ、整体などによる身体調整法で、瀉血も含まれます。

タクリイェ(下痢・嘔吐・瀉血などで悪い体液を排泄する治療)、ヘジャーマット(吸玉療法)、焼灼術(中国の鍼灸の影響を受けているようです)も行われました。又、精神療法、音楽療法を取り入れ、電気ウナギを使った療法も行ったといいます。また、『医学典範』の第4巻整骨篇では、本書を日本語に訳したサイード・パリッシュ・サーバッジュー( Saeed Sarvatjoo、1957 -、武道医学を継承 ) によれば、アンブロワーズ・パレ( Ambroise Paré, フランスの王室外科医1510-1590 )の外科書の整骨編に多く引用されており、パレを通して日本の整骨技法に影響を与えています。

 

イブン スィーナーの『医学典範』はウイグル語にも翻訳されています。パキスタン、インド等のユナニ医学校では今も教科書として用いられています。

    

中世のオスマン帝国の外科医、SabuncuoğluŞerefeddin(セレフェディン・サボンジュール、1385 - 1468)は、彼自身の実験から作成した薬学と治療法の本で医学界を導きました。焼けた鉄を皮膚に押し当て治療する焼灼術。https://karishmachugani.com/wp-content/uploads/2017/11/boum-blog-illustrations-karishma-chugani-23.jpg

新疆ウイグル自治区にみられるウイグル医学は5-11世紀にかけてイスラム地域からもたらされました。400年代にはネストリウス派によって、800-900年代にはペルシャのイブン スィーナーの『医学典範』が、1000年代にはスペインを経由してユナニ医学が伝搬したのです。中央アジア、インド、マレーシア、ジャワはイスラム教とともにユナニ医学が伝搬しました。(イスラム教を信仰している国には何らかの影響を及ぼしていると言うわけです。)

ユナニ医学はすでに述べたようにギリシャが起源ですが、エジプト、ペルシャ、シリアの医学知識の上にギリシャ、インドの医学が入り、さらに東ローマ帝国の迫害から逃れたネストリウス派のキリスト教徒が交流した結果生まれたものです。アラビア語で表現された文化と言えます。現在最も発展したユナニ医学が存在するのはインドとパキスタンです。

  

Physicians employing a surgical method. From Şerafeddin Sabuncuoğlu's Imperial Surgery (1465). Turkish manuscript, 15th Century, reproduction in Lebedel, "Les Croisades, origines et consequences"

外科手術をする医師。 セラフェッディンサブンクオウル(1385–1468) の帝国外科(1465)から。15世紀のトルコの写本から、レベデルの複製、「レクロワサデ、起源など」

     

  ディオスコリデスのアラビア語訳『薬物誌』より、薬酒を作っているところと思われます

       

        アラビア語訳『薬物誌』より、クミンとディル (ca. 1334) , 大英博物館蔵

https://ww w.wikiwand.com/ja/%E3%83%A6%E3%83%8A%E3%83%8B%E5%8C%BB%E5%AD%A6

       

        右がディオスコリデスのクミン London: printed Josias Rihelius 1561

      上の絵はおそらく銅版画でしょうからアラビア語訳の絵とは随分と異なります。

アラビア医学を代表する医師イブン スィーナーは、古代ローマの医師ディオスコリデスの本草書『薬物誌』を基に『医学典範』の薬物に関する巻を著し、約811種の生薬が収録された。ユナニ医学の薬物学は、ギリシャ、ローマの薬物学を受け継いで発展し、インド医学の薬物も多く取り入れている。アラビアの薬物書に載せられた薬物は、初めは数百種類であったが、最も充実していると言われています。      

 

イヴン・ズフル( Avenzoar, 1094-1162 )は、薬の調剤は医師ではなく薬剤師が行うべきだと考え、アラブ世界で一般的だった医薬分業を強調しました。12世紀のアラビア世界では、調剤業務に関する規則が定められ、薬局の監督官が置かれるなど、薬局制度の基礎が確立されました。その結果、医学と薬学の法律上の地位を同等とする考えが広まり薬学の研究が進みました。

生薬製剤には、錠剤、トローチ剤、麝香入り製剤、丸剤、ミロバラン練り薬、消化剤、健胃剤、バラやスミレの保存剤、点眼剤、カルシウムコーティング剤、練り薬の一種、口中で徐々に溶解させる練り薬、蜂蜜入り練り薬、軟膏、興奮剤、保存剤、解毒剤、水薬、座薬、歯磨きなどがあります。また、錬金術の発達で蒸留などの化学技術も進んだため、精油や芳香蒸留水が作られ治療に利用されました。薔薇を含むスパイスは、油やアルコールに溶かして用いられたのでしょう。

薬の性質は、その薬が身体の気質に及ぼす作用によって決められ、患者に投与された時の反応から判断された。「緩和性、熱性、寒性、湿性、乾性、これらの増強型である強熱性、強寒性、混合型である熱乾性、寒乾性」の9種に分けられています。

緩和性の薬剤を除いた「熱、寒、湿、乾、強熱、強寒、熱乾、寒乾」の性質のものは、体の状況や性質に影響を与える。緩和性を除いた8種類の性質は、強さによって4度に分けられます。

 

第1度;効果が感じられない程度におだやかで、副作用はない。

イチジク(熱の1度)、アスパラガス(熱の1度)、サヤインゲン(熱の1度)、カブ(熱の1度)、干しぶどう(熱の1度)、ひよこ豆(熱の1度)、山羊の肉(熱の1度)、仔ウシの肉、アーモンド(熱の1度)、カモミール(熱の1度)、スペインカンゾウ(乾の1度)、スミミザクラ(湿の1度)、ニオイスミレ(寒の1度)、薔薇(寒の1度)など。

 

第2度;効果が体で感じられる程度にあり、副作用はない。

松の実(熱の2度)、バジリコ(熱の2度)、サフラン(熱の2度)、ラード(熱の2度)、蜂蜜(熱の2度)、ヤツメウナギ(寒の2度)、米(寒の2度)、小麦(寒の2度)、ショウガ(乾の2度)、ヨザキスイレン(湿の2度)、レタス(湿の2度)など。

 

第3度;第2度より強い効果があり、副作用があっても致死的ではない。

カラシナ(熱の3度)、ニガハッカ(熱の3度)、カミメボウキ(熱の3度)、ハシバミ(熱の3度)、カラシナ(熱の3度)、西洋ねぎ(熱の3度)、アニス(熱の3度)、スベリヒユ(寒の3度)、ブラッククミン(乾の3度)、ビターオレンジ(湿の3度)、モモ(湿の3度)スイートチェリー(湿の3度)マンドラケの実(湿の3度)など。

 

第4度;第3度より強い効果があり、有毒なものもあります。

雨水(寒の4度)、湧き水(寒の4度)、春の水(寒の4度)カラシナ(熱の4度)、ニンニク(熱の4度)、玉ねぎ(熱の4度)、ナス(熱の4度)、ケシ(寒の4度)、ホオズキ(寒の4度)、チョウセンアサガオ(乾の4度)など。

 

このような生薬の性質の分類は、アラビア世界以外に、中世ヨーロッパの養生書、近世ヨーロッパの本草書で見られ、現在の欧米のハーブ療法でも一部で利用されています。

生薬は単体で用いられる単純薬剤(Mufradat)と、ガレノス製剤と同様に、数種の生薬を混ぜた複合薬剤(Murakkabat)があります。ユナニ医学を含むアラビア文化は、モンゴル帝国の破壊によって衰退の道を辿りますが、南アジアを中心とするイスラム文化圏に現在まで受け継がれ、パキスタンやインド、エジプト、新疆ウイグル自治区などで広く行われています。

  

Physician letting blood from a patient. Attributed to Aldobrandino of Siena: France, late 13th Century. British Library, London,

瀉血をする医師。 シエナのアルドブランディーノに帰属、13世紀後半のフランス。 大英図書館蔵

病根は傷口の近くにあると考えられた為、その部分の血液を出して病を治すと判断したのです。

 

 

 

 

 


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