お世話になっているイトウさんから頂いた小説。
相変わらず自身のセンスのみで書ききって、それでいて面白いという素晴らしい作品です。
本人いわく、まだまだ甘いところがある、とのことでしたから、実力の全ては出し切っていないというわけです。
その実力の全てを堪能したい方は、ぜひイトウさんのサイト「小説解体」を覗いてみてください。きっと満足できるはずです。
もちろん、その際にはこの作品の感想も残してきてください。あなたの素直な声が、作者にとってはなによりの喜びなのです。
前口上が長くなりました。ではこれより本編の方をお楽しみください。
ロリータ失格
私はロリータ。
ロリロリな恰好をして、ついつい男をメロメロにさせてしまう女の子です。ごめんなさ
い。ちょっと調子に乗りすぎたようです。
いっておきますが、ただのロリータではありません。ゴスロリです。
真っ黒なフリル付きのお洋服に身を包み、色白い肌を顔以外一切露出させない、正真正
銘のゴスロリです。首には十字架のチョーカー。腕には髑髏のブレスレット、たまに真っ
黒な手錠をお洒落にはめることもあります。
街に出れば奇異の眼差しで一瞥されることなんて、よくあります。別にそんなの平気で
す。だってお洋服は自分のために着るものだもん。
今日はロリ友 (ロリータのお友達、という意味です) のナナちゃんと一緒に買い物を
するのです。ナナちゃんはゴスロリではありません。純粋なロリータです。髑髏なんかは
身につけたりはしないコです。お互い違った生き物だけど仲は凄く良いです。そこらへん
……いけない、関西弁を使ってはいけないんでした。
話を戻しましょう。そのあたりで、健康な足を剥き出しにして歩いているようなギャル
と比べれば、私とナナちゃんは遥かに仲が良くなれるのは、当たり前のことです。
なかなか喫茶店が見つかりません。少し足が疲れてきました。ロリータは頑張ってはい
けません。近くのベンチに座ります。公園です。子供たちが遊具で遊んでいる最中に突然
現れ、颯爽とベンチに座った私を、子供たちは平然と見ます。まだ、幼いためでしょう。
私の恰好にあまり違和感を持たなかったようです。なので私は幼い子供が好きです。思い
込みのフィルターの少ない、子供が。
たぶん、今ごろナナちゃんは私が現れるのをブーブーいって待っているんだろうなあ。
急がねばならない、そう気持ちが焦るのですが、まるで身体が動いてくれません。
汗が少し流れてきました。夏に公園で休むなんて愚かな選択だったようです・
五分後、私は立ち上がると、例の喫茶店へ向かいます。
喫茶店に入ると、涼しい空気が私を包んでくれます。ざっとそこを見回しました。店内
の隅にナナちゃんはいました。気だるそうにオレンジジュースをストローでちびちびと飲
んでいます。私がナナちゃんに近づくと、ようやく彼女は気がついたみたいで、
「遅すぎ」
と、グチを溢しました。
「ごめんなさい」
私はしっかり謝罪の言葉をいいます。ナナちゃんは満足したように自分の前を指差しま
す。ここに座れ、という意味なのだと覚り、私は指示に従います。
今日のナナちゃんのスタイルはいつもと大して変わりはありません。たくさんフリルの
付いた白いお洋服。茶色の髪には白と水色の清潔そうなリボンが結ばれています。
店員さんがこちらにやって来ました。私たちはここの常連なので、店員さんはロリータ
な恰好に驚かず落ち着いた口調でメニューを取りに来ました。私はナナちゃんと同じオレ
ンジジュースを頼みます。コーヒーは飲みません。だって甘いものしか好きじゃないんで
すもん。
「犬行く?」
ナナちゃんがいいました。犬というのは『ブルドック』というお店のことです。髑髏と
かが置いてあって私のちょっとしたお気に入りのお店です。
「今日はいい」私はナナちゃんのリボンを見ながらいいました。「あそこに行きたい」
「あそこ?」
「あの、変なお店」
ナナちゃんがもっと疑問を私にぶつけようと口を開いたとき、店員さんがオレンジ
ジュースを持ってきました。話は一時中断され、少しの間が開きます。店員さんが「ごゆ
くり」といって去ると、話は再開されます。
「店主の趣味丸出し、みたいなお店のこと?」
「そう、血まみれの髑髏とか、古いレコードとか、可愛いアンティークドールとか置いて
るとこ」
「あれかあ」ナナちゃんは困ったように目を細めます。「あの雰囲気、嫌いじゃないけど
好きにもなれないんだよね。……ま、いっかァ」
「ありがと」
短く私は礼をいい、オレンジジュースのストローに口をつけました。冷たい液体をどん
どん吸っていきます。ロリータといえども、こういったことは大胆に、一気に飲むのが
私、黒須ミエのスタイルです。
「あの店主ってさー、何だか幽霊みたいじゃない?」とナナちゃんはいいました。
「なんでやねん」
はうっ! いけません。ついついまた関西弁が飛び出てしまいました。
「え?」ナナちゃんは驚いています。「今なんて?」
「えと、地球は何時滅びるか」
「…………」
「ここだね」とナナちゃんはいいました。
この雰囲気の暗さ、商品の不気味さ、店の小ささ、ここしかありえません。扉を開ける
とカランという音が鳴りました。店員さんは男の人です。怪しげなオカルト雑誌から顔を
あげ、私たちを一瞥すると小さな声で「いらっしゃいませ」といいました。
「あのぉ、チョーカータイプの髑髏がほしいんですけど」
と私が訪ねると、店員さんは無言で店の隅を指差しました。そこに髑髏グッズがあるら
しいです。後ろでナナちゃんが「あの店員キモい」といっていますが、ナナちゃんの集め
ている大量のキティとかいうクソ猫どもより、よっぽどマシだと思います。
私はさまざまな髑髏グッズを見ていきます。口から血を噴き出した髑髏、頭蓋骨に紐が
通っており、首にかけられるようになっている髑髏、口がぱくぱくと開け閉めの出来る髑
髏、エトセトラ、エトセトラ。
鎖に絡まれた髑髏のチョーカーを手に取ると、レジに向かいます。
「悪趣味ィ」とナナちゃんがいいました。むっときたので「うっさいわァ!」といってや
りました。ナナちゃんは驚いて、「か、かかか、関西弁……?」と口をぱくぱくしていま
す。はうっ! どうやら私はまたもや関西弁を使ってしまったようです。ロリータ失格で
す。
私は羞恥心に頬を朱色に染めながらレジの前に立ちます。千五百円でした。蜘蛛の巣の
描かれた財布を取り出し、お金を払います。
そのときでした。店員さんは私を見上げると、立ち上がりました。そして私を見据えて
いいます。
「ゴスロリの癖に足が露出しているなんて、ロリータ失格だよ」
ロリータだって、夏は暑いのです。
おわり
相変わらず自身のセンスのみで書ききって、それでいて面白いという素晴らしい作品です。
本人いわく、まだまだ甘いところがある、とのことでしたから、実力の全ては出し切っていないというわけです。
その実力の全てを堪能したい方は、ぜひイトウさんのサイト「小説解体」を覗いてみてください。きっと満足できるはずです。
もちろん、その際にはこの作品の感想も残してきてください。あなたの素直な声が、作者にとってはなによりの喜びなのです。
前口上が長くなりました。ではこれより本編の方をお楽しみください。
ロリータ失格
私はロリータ。
ロリロリな恰好をして、ついつい男をメロメロにさせてしまう女の子です。ごめんなさ
い。ちょっと調子に乗りすぎたようです。
いっておきますが、ただのロリータではありません。ゴスロリです。
真っ黒なフリル付きのお洋服に身を包み、色白い肌を顔以外一切露出させない、正真正
銘のゴスロリです。首には十字架のチョーカー。腕には髑髏のブレスレット、たまに真っ
黒な手錠をお洒落にはめることもあります。
街に出れば奇異の眼差しで一瞥されることなんて、よくあります。別にそんなの平気で
す。だってお洋服は自分のために着るものだもん。
今日はロリ友 (ロリータのお友達、という意味です) のナナちゃんと一緒に買い物を
するのです。ナナちゃんはゴスロリではありません。純粋なロリータです。髑髏なんかは
身につけたりはしないコです。お互い違った生き物だけど仲は凄く良いです。そこらへん
……いけない、関西弁を使ってはいけないんでした。
話を戻しましょう。そのあたりで、健康な足を剥き出しにして歩いているようなギャル
と比べれば、私とナナちゃんは遥かに仲が良くなれるのは、当たり前のことです。
なかなか喫茶店が見つかりません。少し足が疲れてきました。ロリータは頑張ってはい
けません。近くのベンチに座ります。公園です。子供たちが遊具で遊んでいる最中に突然
現れ、颯爽とベンチに座った私を、子供たちは平然と見ます。まだ、幼いためでしょう。
私の恰好にあまり違和感を持たなかったようです。なので私は幼い子供が好きです。思い
込みのフィルターの少ない、子供が。
たぶん、今ごろナナちゃんは私が現れるのをブーブーいって待っているんだろうなあ。
急がねばならない、そう気持ちが焦るのですが、まるで身体が動いてくれません。
汗が少し流れてきました。夏に公園で休むなんて愚かな選択だったようです・
五分後、私は立ち上がると、例の喫茶店へ向かいます。
喫茶店に入ると、涼しい空気が私を包んでくれます。ざっとそこを見回しました。店内
の隅にナナちゃんはいました。気だるそうにオレンジジュースをストローでちびちびと飲
んでいます。私がナナちゃんに近づくと、ようやく彼女は気がついたみたいで、
「遅すぎ」
と、グチを溢しました。
「ごめんなさい」
私はしっかり謝罪の言葉をいいます。ナナちゃんは満足したように自分の前を指差しま
す。ここに座れ、という意味なのだと覚り、私は指示に従います。
今日のナナちゃんのスタイルはいつもと大して変わりはありません。たくさんフリルの
付いた白いお洋服。茶色の髪には白と水色の清潔そうなリボンが結ばれています。
店員さんがこちらにやって来ました。私たちはここの常連なので、店員さんはロリータ
な恰好に驚かず落ち着いた口調でメニューを取りに来ました。私はナナちゃんと同じオレ
ンジジュースを頼みます。コーヒーは飲みません。だって甘いものしか好きじゃないんで
すもん。
「犬行く?」
ナナちゃんがいいました。犬というのは『ブルドック』というお店のことです。髑髏と
かが置いてあって私のちょっとしたお気に入りのお店です。
「今日はいい」私はナナちゃんのリボンを見ながらいいました。「あそこに行きたい」
「あそこ?」
「あの、変なお店」
ナナちゃんがもっと疑問を私にぶつけようと口を開いたとき、店員さんがオレンジ
ジュースを持ってきました。話は一時中断され、少しの間が開きます。店員さんが「ごゆ
くり」といって去ると、話は再開されます。
「店主の趣味丸出し、みたいなお店のこと?」
「そう、血まみれの髑髏とか、古いレコードとか、可愛いアンティークドールとか置いて
るとこ」
「あれかあ」ナナちゃんは困ったように目を細めます。「あの雰囲気、嫌いじゃないけど
好きにもなれないんだよね。……ま、いっかァ」
「ありがと」
短く私は礼をいい、オレンジジュースのストローに口をつけました。冷たい液体をどん
どん吸っていきます。ロリータといえども、こういったことは大胆に、一気に飲むのが
私、黒須ミエのスタイルです。
「あの店主ってさー、何だか幽霊みたいじゃない?」とナナちゃんはいいました。
「なんでやねん」
はうっ! いけません。ついついまた関西弁が飛び出てしまいました。
「え?」ナナちゃんは驚いています。「今なんて?」
「えと、地球は何時滅びるか」
「…………」
「ここだね」とナナちゃんはいいました。
この雰囲気の暗さ、商品の不気味さ、店の小ささ、ここしかありえません。扉を開ける
とカランという音が鳴りました。店員さんは男の人です。怪しげなオカルト雑誌から顔を
あげ、私たちを一瞥すると小さな声で「いらっしゃいませ」といいました。
「あのぉ、チョーカータイプの髑髏がほしいんですけど」
と私が訪ねると、店員さんは無言で店の隅を指差しました。そこに髑髏グッズがあるら
しいです。後ろでナナちゃんが「あの店員キモい」といっていますが、ナナちゃんの集め
ている大量のキティとかいうクソ猫どもより、よっぽどマシだと思います。
私はさまざまな髑髏グッズを見ていきます。口から血を噴き出した髑髏、頭蓋骨に紐が
通っており、首にかけられるようになっている髑髏、口がぱくぱくと開け閉めの出来る髑
髏、エトセトラ、エトセトラ。
鎖に絡まれた髑髏のチョーカーを手に取ると、レジに向かいます。
「悪趣味ィ」とナナちゃんがいいました。むっときたので「うっさいわァ!」といってや
りました。ナナちゃんは驚いて、「か、かかか、関西弁……?」と口をぱくぱくしていま
す。はうっ! どうやら私はまたもや関西弁を使ってしまったようです。ロリータ失格で
す。
私は羞恥心に頬を朱色に染めながらレジの前に立ちます。千五百円でした。蜘蛛の巣の
描かれた財布を取り出し、お金を払います。
そのときでした。店員さんは私を見上げると、立ち上がりました。そして私を見据えて
いいます。
「ゴスロリの癖に足が露出しているなんて、ロリータ失格だよ」
ロリータだって、夏は暑いのです。
おわり
特に最後の「うっさいわァ!」僕は「じゃかあしわボケェ!」くらい言います。まあ、僕の祖母が育った京都の言葉だと、また随分違うんですけど。この主人公は大阪弁くらいかな? という推測です。まさかカワチ(漢字忘れた……orz)の言葉じゃないでしょう。え? カワチの言葉? ……kouさんの癒し系blogでは書けないような口汚い言葉ですわ。
「なんでやねん」も有名ですけど、実はあんまり使わないんですよね。あの会話からいくと僕は「頭おかしいんちゃうの?」って言いますね。呆れ気味に。
それから、「そこらへん」は関西弁かと言われると微妙な線。「そこら」のほうが関西ちっく。
ええ、本気で書評しませんよ。関西弁に対する指摘だけ。
ちなみに僕は、千葉生まれの千葉育ちです。日常語は母の影響で関西弁ですが。
>関西弁が甘いですね。(キラリ)
眼鏡が光ってそうで怖い。(笑)
じゃかましいわボケェ! ですか、そうだ、それがありました。ご指摘感謝です。ああ、いいな大阪弁。汚い言葉だーいすき(笑)。
>カワチの言葉? ……kouさんの癒し系blogでは書けないような口汚い言葉ですわ。
草薙さんの自然破壊丸出しのような話し方だと(意味不明)、別段語っても……いや、語ってほしいですね。
僕の感覚からいうと、そこらへんの方がしっくりくるんですよねー。まあ、感覚の、ですが。
感想ありがとうございました。
というか、これに対する返事を僕がしてもいいのでしょうか? と少し悩みながら。
草薙さん
関西弁の指摘厳しいですね~(笑
僕は関西に限らず方言が大好きです。一度は小説に方言を喋るキャラを出したいのですが、今回みたく厳しい意見が飛んできそうなので恐くて出せません。機会があるようでしたら、関西弁について色々教えてくださいね。もちろん、河内(たぶんこれであってるはず)の言葉も歓迎です。
イトウさん
今回は小説ありがとうございました。感謝の気持ちを、スペシャルに口汚い言葉であらわそうと思いましたが、育ちのいい僕にはハードルが高すぎるみたいなので諦めます。上流階級の生まれでごめんなさい。今度下界に降りる機会があったら、爺やの目を盗んで勉強しておくので、それまで待っていてください。その日が早く来るとこを祈りつつ。
今日はこの辺で。