前にも書きましたが、同じ作品の公演が近い時期に重なるんでしょう?
最近でも、昨年のびわ湖と東京春祭の「マイスタージンガー」とか、同じ作品を続けて聴くことが多い。
今年の夏の「蝶々夫人」(二期会と兵庫)もそうだけど、このくらいポピュラーな作品ならあり得るだろうけれど。
とにかく、今年の3月は“トリスタン月間”となりました。
ワーグナー好きの私ですが、私の中での好きなワーグナー作品ランキングでは、実は下のほうです。
上演された回数も多くはないこともあり、実際観に行った回数はワーグナー作品の中では圧倒的に少ない。
最初は確か1990年の日生劇場で、その後は新国立劇場の2010年と二期会の2016年の計3回。
テレビ(BS)で放映された回数も少ないので、手持ちに録画した映像もない気がする。あれば何度も観て、体にしみこんだかもしれないのだけど。
とは言え、ひとたび聴くと、ワーグナーらしさ全開の部分も多く、第1幕の男声合唱なども好物。今回続けて何度も聴いたので、好き度はかなり上がりました。
春祭のワーグナーシリーズには、ここのところ足を運んでいたけれど、やや優先度が低い作品ということと、今年は春祭の「エレクトラ」に行くことにしたので、「トリスタン」は配信で楽しむことにしました。もちろん時間とお金があれば生で観たかったけど。
ということで、東京春祭の子供のためのワーグナー(23日、28日)と、ヤノフスキ指揮の公演(27日と30日)を配信で、そして新国立劇場の公演千穐楽(29日)を観た感想を。
子供のためのワーグナー、田崎尚美さん金子美香さんらこのシリーズのご常連で間違い無しのキャスト。トリスタンが伊藤達人さん。70分のショートバージョンですが、主役のお二人も良くて、満足♪ 最後、『あちら側』で二人が手をつないで幸せに、というラストの演出はFOR KIDSらしくて良かったです。いつかこのキャストで本公演を観てみたい!
特にクルヴェナールの青山貴さん、良かった(お痩せになった?)! 春祭のマルクス・アイヒェ、新国立のエギルス・シルンスに負けてない、と個人的には思いました。
山下浩司さんがマルケ王でしたが、伊藤さんもIL DEVUに入れそう……。せっかくワーグナーヒーローも歌える貴重なテノールなので、恰幅がいいorぽっちゃり程度に踏みとどまって欲しい……。
29日の新国立劇場の千穐楽は金曜昼というのにほぼ満席。
(おそらく30日の春祭も土曜日だったしほぼ満席だったのでは?)
最近足を運んだ公演が、空席が目立つことが多かったので、嬉しくなりました。
新国立劇場のマクヴィカーの演出は前回観た時から好印象。動きはほぼなくて、時に眠くなるけど、演奏を邪魔しない。きれいにまとまっていて、演奏会形式を観た後だと特に、舞台上演の良さを感じさせてくれました。
ゾルターン・ニャリのトリスタン、テノール独特の変なクセもないし、意外と良かったのでは? 太ってないしね。
リエネ・キンチャのイゾルデも健闘、だけどラスト、陶酔には今一歩かな。ヴィルヘルム・シュヴィングハマーのマルケ王、声がいいしイケメン! シルンスのクルヴェナール、さすがの声と存在感。そして藤村実穂子さんのブランゲーネ、素晴らしかった!
そして、春祭は、“スチュアート・スケルトンの”「トリスタンとイゾルデ」という感じでした。
生で聴いたら声の印象もひょっとしたら違うかも知れないけれど、音色的にはバリトンに近い? 硬さのない音色に聴こえました。
さすが歌い慣れているようで、正直歌自体より、パフォーマンスに惹きつけられました。楽譜なし、登場のシーンから「トリスタン」でした。演奏会形式は彼にとっては物足りないのでは、と思われ、今にもイゾルデに寄って行って抱き寄せるのでは、と思うくらいでした。距離のある中もイゾルデを見つめて愛を表現。
1幕のラスト、マルケ王は歌わないけど、しかも演奏会形式なのに登場、キッとトリスタンがマルケ王を観てにらみ(?)合う終わるというシーンはとても印象的。第2幕、第3幕も注目で、トリスタンが死んだ後さえ注目でした。
カーテンコールでイゾルデでなくトリスタンが最後だったのも頷けます。
見た目も少年のようで魅力的。カーテンコールで涙ぐんでいたのも好印象。
すっかり魅了されました。
……が、かなりの巨漢でいらっしゃる。歩くのもちょっと大変そう。
ヴィジュアルにうるさいわたくしですが、オペラ公演の『絵的』な点以外でも、健康面で心配になります。
ヨハン・ボータにしても、ステファン・グールドにしても、第一線で歌っていた中での訃報はショッキングだった。肥満は癌や様々な病気を引き起こすというし、本当に、気をつけて! と言いたいです。
他のキャストの皆さん、特に男声陣、アイヒェのクルヴェナール、マルケ王のフランツ=ヨゼフ・ゼーリヒも役柄に合っていたし、しっかり演技もしていました。聴きごたえ抜群!
イゾルデのビルギッテ・クリステンセンは楽譜を見ながらほぼ棒立ち歌いで、演奏会だからそれでもいいのですが、トリスタンを始め、男声陣があれだけ演技しているのだし、ちょっと残念でした。歌は30日のほうが良かった気がしました。でも、愛の死での陶酔感は今一つ。ブランゲーネのルクサンドラ・ドノーセも良かったけど、藤村さんのほうが上の印象。
両公演のその他のキャストの日本人の方々も良かったです。役不足では、と感じるくらい。
オケはお馴染み、マレク・ヤノフスキ指揮のN響。大野和士さん指揮の都響も良かったのですが、ステージでの演奏ということもあって、春祭の演奏は、極上で満足でした。
ヤノフスキ氏、御年85歳。ピットの中ではなく、ステージ上でこの長い作品を全曲立って指揮するってすごい!
とにかく、この楽劇はラストが肝ですよね。
イゾルデの愛の死、歌唱に100パーセント満足ではなかったとしても、音楽と演奏が素晴らしいので陶酔できます。ああ、これがこの楽劇の最大の魅力・魔力だなあと思うのですが。
(個人的に印象的なのは、2016年の二期会の池田香織さんのイゾルデ。最後心が浄化されていくようで感動しました)
そんなラストに水をさしたのが終演後のフライング拍手。
27日はラスト、音楽が終わるか終わらないかという時にパラパラと。マエストロに「まだたよ」と手で制されました。
30日は第2幕でやはり特に一人の人が大きな拍手。でもマエストロはタクトを置かない。まるで戦っているようでした。多分同じ人が第3幕の終演の際も一人で力強い拍手。マエストロはまた「ダメ!」のジェスチャー。拍手していた人も、意地になっていたとしか思えない。
(NHKのニュースで、春祭実行委員長の鈴木氏が、ヤノフスキのことを『こわいおじさん』と言っていたけど、よくヤノフスキに勝負を挑めたな、あのお客は、と思う)
早く拍手したい気持ちもわかるけれど、そこは空気とマエストロの気持ちを読まなきゃ。
フライング拍手はないだろうな、とヒヤヒヤしながら聴くのもストレス。
29日の新国立もややフライングの拍手がありました。イゾルデが消えて完全に暗転するまで待とうよ。
ついでに書くなら、終演するなり拍手もせずに席を立つ人。それは自由かもしれないけど、少なくともカーテンコール1サイクルまでは演奏会の一部と思うので、よほど遅い時間で終電が間に合わない、という場合でない限り座っていて欲しい。
また立つのなら速やかに、周囲に気を遣ってほしい。
ゆっくり立って席で上着を着ながら、そして半端に拍手しながらゆーっくり出て行く人も多いけど、そういう人は本当の音楽好きじゃないと思うな。
いろいろな人が観に来ていて(義理で来ている人、スポンサー絡みの人とか)、そういう人たちがいて公演が成り立っているのだろうけど、なけなしのお金をはたいて純粋に楽しむために来ている身からするといらっとします。
配信で観られるのはとっても助かるし嬉しいのですが、春祭のトリスタンもやはり生で聴きたかったな。いろんなお客がいてイラッとしたりハラハラしたりも含めての生鑑賞だし。
来年のパルジファルは、時間とお金に都合をつけて、観に行きたいと思います。