11月10日、芝で旧藩士の会合が開かれた（江戸会議）。参加者は、大石、堀部、原、進藤、奥野、河村、岡本、奥田、高田である。堀部は、浅野大学が閉門中に討ち入りをすれば、大学の赦免後にも「人前」が立つし、君臣の礼儀にもかなう、と述べた。一方大石は、大学の安否を見届けることを主張した。結局、先乗りしていた上方の同志をすでに説得していた急進派が優勢のまま会議は進んだ。期限を区切らないと皆の士気が下がる、という堀部の主張を大石も受け入れ、翌年3月に結論を出すことを約束した。
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大石内蔵助
「今会議は、急進派の安易な行動を戒め
主家再興に於ける最善の方策を協議する事を目的とする」
岡本次郎左衛門
「内蔵助太傅が
西本願寺に願い出ておる事を無駄にせぬように
急進派の皆共には、軽はずみな行動は慎んで頂く」
原惣右衛門
「次郎左衛門殿は江戸の状況に疎いようじゃ」
「我ら江戸急進派は
庶民の支持を受けておるぞ」
堀部安兵衛
「惣右衛門殿の申す通りじゃ」
「討ち入りは、庶民の望むところ」
「我らは、主の無念を晴らす為に
吉良の首を取らねばならぬ」
岡本次郎左衛門
「江戸庶民など面白がって騒いでおるだけじゃぞ」
奥野将監
「大学様の安否も分からぬうちに
御家再興の道を閉ざすのは
不忠でござるぞ！」
進藤源四郎
「吉良を討ち取るのは
大学様の安否を確認してからでも遅くはない」
「無暗に、討ち入りなどすれば
大学様にも沙汰が御座るぞ！」
奥田孫太夫
「左様な弱気な事を申しておれば
吉良を取り逃がす事になりはしないか」
大石内蔵助
「吉良の首を取れば、
我らの忠義を果たす事にはなろうが
幕府からは、仇討ちの許可は得られてはおらぬ」
「今、吉良を討ち取れば
幕府は浅野赤穂の再興を許すとでも思うのか！」
「よくよく考えてものを申せ！」
岡本次郎左衛門
「我らの本願は主家再興にある」
「大学様を保護する事が先決じゃぞ」
原惣右衛門
「幕府に囚われておるのじゃぞ」
「大学様が人質になっておったから
赤穂城も手放した」
「本来であれば、
籠城して幕府軍と一戦しておったところじゃ」
「これ以上、幕府の言いなりになるのは嫌じゃ！」
堀部安兵衛
「開城して逃げたのは誰じゃ！」
岡本次郎左衛門
「大筒を奪われたのが原因じゃぞ」
「大筒が奪われなければ
籠城しておった」
奥野将監
「大学様も、人質になっておったから
籠城は無理じゃ」
「籠城しておったら
主家再興の道は完全に閉ざされ
我らは、全員、獄門となった筈」
進藤源四郎
「広島の本家も連座じゃぞ」
奥田孫太夫
「主の恩に報いる為に戦うのであれば致し方ない」
大石内蔵助
「主の恩に報いるのであれば
主家再興を懇願するのが正しき道じゃ」
岡本次郎左衛門
「江戸老中には我らの再興を望む御方もおられる」
原惣右衛門
「誰ですかな？」
堀部安兵衛
「希望的観測じゃ」
岡本次郎左衛門
「江戸老中は力を増しておるぞ
もう、大老格の言いなりではないぞ」
奥野将監
「老中も意見が分かれておるようじゃ」
「我らに同情する御方もおられる」
「よいな」
「軽率な行動は慎め」
進藤源四郎
「討ち入りなどすれば、
我らの味方になって下さるお方を裏切る事になりますぞ」
奥田孫太夫
「味方の御方は誰じゃ」
大石内蔵助
「老中は我らに温情を示しておられる」
「現に、儂の江戸入りを妨害する事もなかった」
「幕府に悪意があれば
儂は関所で捕らえられておった筈じゃ」
「幕府は、我らに温情を持っておる筈じゃ」
岡本次郎左衛門
「なァ」
「太傅を困らせてはならぬ」
「西本願寺も我らに同情しておるぞ」
原惣右衛門
「なァ安兵衛」
「ここは、大石殿の申すように
暫く討ち入りを見合わせては如何じゃ？」
堀部安兵衛
「そうじゃな・・」
岡本次郎左衛門
「おおォ」
「自粛してくれるか！」
奥野将監
「それがよい」
進藤源四郎
「では、今会合では様子見という事で
同意為されよ」
「宜しいな」
高田郡兵衛
「言いたいことはそれだけですかな」
大石内蔵助
「郡兵衛」
「不服があるのか！」
高田郡兵衛
「どうもこうもない」
「この会議は、
上方漸進派主導じゃぞ、
我ら江戸急進派は受け身ではないか！」
「同等にするには、
内蔵助殿は中立の立場であらねばならぬぞ」
大石内蔵助
「ぐゥ・・」
「郡兵衛！」
「其方は、急進派の頭ではない
頭は、堀部安兵衛殿じゃぞ」
「黙っておれ！」
