術前のAさんとBさんとを比較した場合、Aさんが悪化しているのは誰の目にも明らか
です。カーブが酷くなればなるほど、そのねじり曲がった脊柱を元の状態にもどす
ことの困難さも増大します。手術をよく理解されていない方は、手術をすれば
術前がどんなに酷くても結果は同じものが得られるだろう、と単純に考えるかも
しれません。
現実はそんな甘いものではありません。どんなに数多くの症例をこなした医師でも
側弯症を専門とする医師であっても、酷い状態にまで進行したカーブを矯正する
ことは非常に難儀なことになります。医師が難儀という意味は、患者さんにとって
も手術に伴うリスクが増大する。ということです。
脊椎の手術では神経損傷がもっとも怖いわけですが、神経損傷を起こしうるリスク
も、カーブが大きければ大きいほどそのリスクが増す。という事を知っておいて
いただきたいと思います。
三次元にねじり曲がった状態の脊柱を、ことばで再現して説明しにくいのですが、
カーブが強いということは、それはイコール「捻り」も強いということです。
その捻りを元に戻さなければカーブは減少しません。
一連に繋がった脊柱、......脊柱の解剖がおわかりになる方は思い出してみて
ください。おわかりにならない方は、後で、ネットで検索するなりして調べて
いただきたいのですが、脊椎というものは単に骨が連なっているだけではありません。
ひとつひとつの椎体からは、脊髄から伸びた神経が左右に広がり、またその周囲には
動脈や静脈が配列している。それが脊椎という構造の全体図になるわけです。
脊柱が捻り曲がることにより、その配列が複雑なものになってしまう。そのことを
まずは頭に描いて欲しいと思います。しかもその「捻り」はコチコチに固まった
状態であり、ちっとやそっとの力でひねり返せるというものではありません。
しかも、その大きな曲がりにより、神経は本来ある生理的位置からも大きくずれた
位置にあります。いわば、ちょっとでも触れたら切れてしまいそうなくらいに張り
つめた糸を、切らないように少しづつ、少しづつ元の位置に戻す。というような
操作をしなければなりません。
神経損傷が発生しないように手術するのが医師の技術です。しかし、カーブがひど
ければ酷いほど、それが発生しうる状態を持ってしまっている。という面を知らず
に、神経損傷が発生したのは「医師のミス」だ、と非難することは妥当なのでしょうか ?
そこまで酷いカーブになる前に、なぜ手術をしなかったのでしょう? なぜ決断が
できなかったのでしょう ? もっと安全に手術をする機会があったのでは ?
その機会を失ってしまったのは理由は何なのでしょう?
(脊椎の解剖については下記も参照ください)
「(追記あり) 側わん症手術における合併症 下半身不随や脊髄損傷について」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/7bfa0d26ae8d1283c0c9a41c4d3663da
次に別の面から考察してみたいと思います。
カーブが大きければ大きいほど、それを元の状態に戻すためには、固定範囲を広げ
る必要があります。AさんとBさんを比較してみますと、私がここで説明しようと
していることが視覚的にご理解できると思います。
そして、固定範囲が伸びれば伸びるほど、当然のことですが、術後の生活動作にも
不自由さが発生することになります。
特に、腰椎の3番(L3)、4番(L4)、5番(L5)にまで固定が広がりますと、腰を前屈み
にする動作に支障が生じやすくなります。腰の回旋運動にも影響がでてきやすく
なります。......人の身体はどこかが動かないとそれを代償する動きを自然に覚え
ますので、最初は違和感があっても次第に慣れてくるのですが。
でもできれば腰椎の4番、5番は固定しないように先生がたは手術で努力されている
と思います。
大きなカーブを矯正する手術は、その矯正が難儀であることから、手術時間も長く
なりがちです。手術時間は長くなればなるほど、出血量が増えます。また感染の
リスクも増えます。
このように、大きくなりすぎたカーブの手術はリスクばかりが増大し、かつ、
リスクが大きいがゆえに、矯正することが困難となり、結果として矯正率も小さく
なりがちです。つまり、術後レントゲンを見たときの印象として、まだカーブが
残っているじゃないか、という印象を抱いてしまいがちです。
外見的にはほとんどまっすぐなのですが、レントゲン写真で見ると、ちょうどAさん
のように、カーブが完全にはまっすぐになりきれていない。という印象が残って
しまうわけです。
もう一度説明しますが、もし神経のことを何も気にする必要がなければ、おそらく
どんな大きなカーブも手術によってほとんど真っすぐにできるはずです。
しかし、まっすぐにするという操作は、同時に神経のテンションを高めることに
繋がりますので、神経損傷のリスクが増すということになるわけです。
あちらを治そうとすれば、こちらが危険になり、こちらの危険を回避しようとすれば
あちらの成果もそれほど芳しいものではなくなる。という、そういう矛盾した相互
関係にあるのが、脊柱固定手術といえます。
側弯症において、装具療法が効果を得られず進行性とわかった場合、カーブが40度
を超えるといわば黄色信号が点滅しはじめたようなものです。
そして、50度を超えると、医師は手術を真剣に勧められるわけですが、それは
いわばできるだけ「安全」が確保できて、しかも、手術の成果が得られやすいうち
に手術したほうが良いですよ。という、そういう理由があるわけです。
50度を超えた場合、早晩カーブはさらに進行し、60度になり、70度となるであろう
ことは医学的知見として得られているわけです。特に、まだ骨成長が終了していな
い場合は、カーブが急激に悪く可能性が高いために、さらに注意が必要となるわけ
です。
手術は、医師が自分がやりたいから勧めているのではありません。
でも、決めるのは皆さんご自身です。皆さんが手術がどういうもので、どういう
メリットがあり、そしてどういうリスクがあるのか、ということを十分にご理解
したうえで、皆さんご自身が判断しなければなりません。
手術とは、誰かに聞いて決断するものではありません。それは同時に、誰かに
言われて手術をしないと結論をだすものでもありません。自分の身体と自分の人生
を他人まかせにしてはいけません。行くにせよ、退くにせよ、それはあなた自身が
判断したものでなければ、一生後悔が残ると思います。
(手術にはつねにリスクは伴います。手術にともなう合併症については、
カテゴリー「手術による合併症」も同時に参照ください)
手術を託せる医師の選択については患者さんのお母さんからのコメントをご参照
ください
「医師とのつながり-- 側弯症専門医師選択にあたり」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/e5bbbb683eef4122e7a2be0ab5b46685
☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?
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「医学を信じますか? 側わん整体を信じますか?」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/671eab191b61f4de8b89856dd34800ec
「側わん症 手術のタイミングを逃さない事 ! それは親の責任です」
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「(追記 後わんの要素) 手術を受けるタイミングについて」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/a5f5e103e2d9fcf50fa426be10894f20
「側湾症手術のタイミングについて」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/137b907b3e7e5b9dbb099d72161b6a92
です。カーブが酷くなればなるほど、そのねじり曲がった脊柱を元の状態にもどす
ことの困難さも増大します。手術をよく理解されていない方は、手術をすれば
術前がどんなに酷くても結果は同じものが得られるだろう、と単純に考えるかも
しれません。
現実はそんな甘いものではありません。どんなに数多くの症例をこなした医師でも
側弯症を専門とする医師であっても、酷い状態にまで進行したカーブを矯正する
ことは非常に難儀なことになります。医師が難儀という意味は、患者さんにとって
も手術に伴うリスクが増大する。ということです。
脊椎の手術では神経損傷がもっとも怖いわけですが、神経損傷を起こしうるリスク
も、カーブが大きければ大きいほどそのリスクが増す。という事を知っておいて
いただきたいと思います。
三次元にねじり曲がった状態の脊柱を、ことばで再現して説明しにくいのですが、
カーブが強いということは、それはイコール「捻り」も強いということです。
その捻りを元に戻さなければカーブは減少しません。
一連に繋がった脊柱、......脊柱の解剖がおわかりになる方は思い出してみて
ください。おわかりにならない方は、後で、ネットで検索するなりして調べて
いただきたいのですが、脊椎というものは単に骨が連なっているだけではありません。
ひとつひとつの椎体からは、脊髄から伸びた神経が左右に広がり、またその周囲には
動脈や静脈が配列している。それが脊椎という構造の全体図になるわけです。
脊柱が捻り曲がることにより、その配列が複雑なものになってしまう。そのことを
まずは頭に描いて欲しいと思います。しかもその「捻り」はコチコチに固まった
状態であり、ちっとやそっとの力でひねり返せるというものではありません。
しかも、その大きな曲がりにより、神経は本来ある生理的位置からも大きくずれた
位置にあります。いわば、ちょっとでも触れたら切れてしまいそうなくらいに張り
つめた糸を、切らないように少しづつ、少しづつ元の位置に戻す。というような
操作をしなければなりません。
神経損傷が発生しないように手術するのが医師の技術です。しかし、カーブがひど
ければ酷いほど、それが発生しうる状態を持ってしまっている。という面を知らず
に、神経損傷が発生したのは「医師のミス」だ、と非難することは妥当なのでしょうか ?
そこまで酷いカーブになる前に、なぜ手術をしなかったのでしょう? なぜ決断が
できなかったのでしょう ? もっと安全に手術をする機会があったのでは ?
その機会を失ってしまったのは理由は何なのでしょう?
(脊椎の解剖については下記も参照ください)
「(追記あり) 側わん症手術における合併症 下半身不随や脊髄損傷について」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/7bfa0d26ae8d1283c0c9a41c4d3663da
次に別の面から考察してみたいと思います。
カーブが大きければ大きいほど、それを元の状態に戻すためには、固定範囲を広げ
る必要があります。AさんとBさんを比較してみますと、私がここで説明しようと
していることが視覚的にご理解できると思います。
そして、固定範囲が伸びれば伸びるほど、当然のことですが、術後の生活動作にも
不自由さが発生することになります。
特に、腰椎の3番(L3)、4番(L4)、5番(L5)にまで固定が広がりますと、腰を前屈み
にする動作に支障が生じやすくなります。腰の回旋運動にも影響がでてきやすく
なります。......人の身体はどこかが動かないとそれを代償する動きを自然に覚え
ますので、最初は違和感があっても次第に慣れてくるのですが。
でもできれば腰椎の4番、5番は固定しないように先生がたは手術で努力されている
と思います。
大きなカーブを矯正する手術は、その矯正が難儀であることから、手術時間も長く
なりがちです。手術時間は長くなればなるほど、出血量が増えます。また感染の
リスクも増えます。
このように、大きくなりすぎたカーブの手術はリスクばかりが増大し、かつ、
リスクが大きいがゆえに、矯正することが困難となり、結果として矯正率も小さく
なりがちです。つまり、術後レントゲンを見たときの印象として、まだカーブが
残っているじゃないか、という印象を抱いてしまいがちです。
外見的にはほとんどまっすぐなのですが、レントゲン写真で見ると、ちょうどAさん
のように、カーブが完全にはまっすぐになりきれていない。という印象が残って
しまうわけです。
もう一度説明しますが、もし神経のことを何も気にする必要がなければ、おそらく
どんな大きなカーブも手術によってほとんど真っすぐにできるはずです。
しかし、まっすぐにするという操作は、同時に神経のテンションを高めることに
繋がりますので、神経損傷のリスクが増すということになるわけです。
あちらを治そうとすれば、こちらが危険になり、こちらの危険を回避しようとすれば
あちらの成果もそれほど芳しいものではなくなる。という、そういう矛盾した相互
関係にあるのが、脊柱固定手術といえます。
側弯症において、装具療法が効果を得られず進行性とわかった場合、カーブが40度
を超えるといわば黄色信号が点滅しはじめたようなものです。
そして、50度を超えると、医師は手術を真剣に勧められるわけですが、それは
いわばできるだけ「安全」が確保できて、しかも、手術の成果が得られやすいうち
に手術したほうが良いですよ。という、そういう理由があるわけです。
50度を超えた場合、早晩カーブはさらに進行し、60度になり、70度となるであろう
ことは医学的知見として得られているわけです。特に、まだ骨成長が終了していな
い場合は、カーブが急激に悪く可能性が高いために、さらに注意が必要となるわけ
です。
手術は、医師が自分がやりたいから勧めているのではありません。
でも、決めるのは皆さんご自身です。皆さんが手術がどういうもので、どういう
メリットがあり、そしてどういうリスクがあるのか、ということを十分にご理解
したうえで、皆さんご自身が判断しなければなりません。
手術とは、誰かに聞いて決断するものではありません。それは同時に、誰かに
言われて手術をしないと結論をだすものでもありません。自分の身体と自分の人生
を他人まかせにしてはいけません。行くにせよ、退くにせよ、それはあなた自身が
判断したものでなければ、一生後悔が残ると思います。
(手術にはつねにリスクは伴います。手術にともなう合併症については、
カテゴリー「手術による合併症」も同時に参照ください)
手術を託せる医師の選択については患者さんのお母さんからのコメントをご参照
ください
「医師とのつながり-- 側弯症専門医師選択にあたり」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/e5bbbb683eef4122e7a2be0ab5b46685
☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
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