いま国内は後期高齢者医療制度の問題で騒然としています。医療とはどうあるべき
なのか、医療制度とはどうあるべきなのか..... これはいわば「かくあるべき」
という「思想」を巡っての議論と言い換えることができると思います。
法律の条文それ自体は表現が難しく、無味乾燥で、専門的すぎていったい何を述べ
ようとしているのか、述べられているのか、一般人にはまず理解不能です。あたかも
理解させないように書いているのが法律文と言ってもいいかもしれません。しかし
一般人に読めるか読めないかは別としても、そこには、ちゃんと目的が記載されて
います。その法律が目指している思想が書かれていると言ってもいいでしょう。
後期高齢者医療制度が、保険制度を規定しているように、VEPTRを巡る新しい医療
機器の認可制度は、薬事法という法律によって規定されています。そして、その法律
をさらに具体的に実施するために行政よりだされるものに「通知」という規則が
あります。
日本に導入されていない医薬品、医療機器を使用できるようにするには、まずその
製品について厚生労働省に申請をして、国の認可を受ける必要があります。
薬事法とその関連する通知によって規制されています。
日米ともその薬事法の法理念や規制要件はそれほど大きく異なるわけではありません。
でも、このVEPTRのような「人道的医療機器」という概念は日本の薬事法には見あた
りません。
日本の薬事法では、認可を与える条件として、その製品の「有効性」と「安全性」
を証明することが求められています。参考として薬事法と通知からその記述部分を
抜粋してみました。
平成17年2月16日薬食発第0216002号
局長通知「医療機器の製造販売承認申請について」
法第14 条及び法第19 条の2 の規定に基づき、これを製造販売しようとする者から
申請があった場合に、申請に係る医療機器の使用目的、効能又は効果、構造、原
理、原材料、構成部品、品目仕様、操作方法、使用方法、不具合等に関する所要の
審査を行った上で、厚生労働大臣が品目ごとにその承認を与えることとされてお
り、製造販売承認申請に当たっては、その時点における医学、薬学、工学等の学問
水準に基づき、倫理性、科学性及び信頼性の確保された資料により、申請に係る医
療機器の品質、有効性及び安全性を立証するための十分な根拠が示される必要があ
る。
薬事法より
(医薬品等の製造販売の承認)
第14条 医薬品、医薬部外品、又は医療機器の製造販売をしようとする者は、
品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければ
ならない。
第2項 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の承認は、与えない。
その1. 略
その2. 略
その3.申請に係る医薬品又は医療機器の名称、成分、分量、構造、
用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、
有効性及び安全性に関する事項の審査の結果、その物が次のイからハまでの
いずれかに該当するとき。
イ 申請に係る医薬品、医薬部外品又は医療機器が、その申請に係る
効能、効果又は性能を有すると認められないとき。(ロ~ハ.略)
第5項 (前半略)
当該品目の品質、有効性及び安全性に関する調査(略)を行うものとする
---------------------------------------------------------------------
製品の中には、「有効性」を科学的に証明できないものもありえます。あるいは
証明するには、膨大な時間と費用を必要とするものもあります。何をもって有効
とするのか、その定義付け自体を巡って侃々諤々と議論が続き結論のでない範疇の
ものもあります。例えば、ガンという病気では、患者側からすればガンが治る、
ガンに有効なクスリと言った場合、その定義は、まさにガンが体内から消滅して
健康体に戻ることを意味するわけですが、医薬品の認可制度のものでは、ガンに
有効なクスリとは、ガンがもとある大きさから小さくなることを「このクスリは
有効である」と定義することがあります。
(ここでいう「科学的」というのは、ある一定の判断ルールに基づいては証明できない。
という意味で使っています。医学の世界では、無作為比較試験、つまり患者さんに
クジをひいてもらい、Aさんには新しい医療機器を使用する、Bさんには、これまで
使われていた医療機器を使用して、その比較データをとることがもっとも証明力が
あるといわれています)
VEPTRの場合も、米国内で臨床試験を実施してFDAの認可を得ています。
でも、その試験はくじ引き試験ではありませんでした。なぜならば、VEPTRが適用と
なる患者さん自体が非常にまれな疾患で、患者数自体が少ないことと、これは外科
手術なわけですから、対照とする「相手」を設定することができません。
仮にVEPTRで治療することが必要な患者さんが100人いたとき、その比較対照として
誰を100人、集めてきたら良いのでしょうか? しかも、その対照群に、必要もない
のに外科手術によってVEPTRをインプラントする ?
あるいは、従来の治療法で治療する患者群を対照とする.....しかし、この場合の
従来の治療法とは、手術をせずに対処的に人工呼吸機で呼吸管理をする。という
方法になります。そしてその結論は、患者はやがて衰弱して死亡するか肺炎で死亡
する、ということになります。
そのような臨床試験デザインは非人道的、非倫理的なもので許されることでは
ありません。そもそも、臨床試験自体が言葉を変えればボランテイアによる人体実験
なわけですから、その実施は慎重かつ倫理的配慮がなければ許されるものでは
ありません。
そこで、VEPTRの臨床試験では全ての患者さんにVEPTRを手術して、その結果を
データとして集める。という方法がとられました。これをオープン試験法と言います。
対照をおかずに、患者さんだけでデータを得る試験方法です。この方法からは
科学的な定義としての「有効性」を推察することはできません。VEPTRが科学的に
有効であったかどうかは、米国の臨床試験からも判断ができません。
しかし、このようにして集められたデータから、FDAは、VEPTRが患者さんにとって
「有益」である、「安全性はある」ということを認めて認可を与えています。
その法的よりどころが、「人道的医療機器」Humanitarian Use Device という法律
です。
http://www.fda.gov/cdrh/devadvice/hde.html
科学的データからは有効であることは証明されてはいないけれど、患者を救うには
この医療機器は役立つ(有益)。という法の思想です。
VEPTRの場合、患者であるこどもたちを毎日看病している両親が、VEPTRの有益性を
証明し、支持したのです。
残念ながら、いまの日本の薬事法の中には、この米国の法思想にあるような、
「人道的に救うために」
「少なくとも安全性は認められ」
「リスクを上回るベネフィットがある」
「特定疾患の患者を救うには、この医療機器しか他に方法がない」
このような場合は、有効性が証明できずとも認可を与える、という発想の法律は
まだ存在しません。
米国FDAのサイトを読んでいて、米国人の合理性、合理的ものの考え方、そして
情報開示の広さには驚くばかりです。良い意味で、大人の国、開かれた国、という
印象を受けます。100%完全なものはない、リスクをゼロにすることは不可能である
これだけのリスクが残っている、しかし、これこれのベネフィットもありえる、
プラスとマイナスを全て開示するから、結論は自分で判断しなさい。その代わり
必要最小限の時間で審査をして、患者が使用できるようにしてあげる。
一から十まで全て「お上」である行政が決めて、国民は黙ってその指示に従えば
よいのだ、というのが善かれ悪しかれ、日本という国の制度です。
VEPTRベプターというたったひとつの医療機器を通じて、日本の医療制度が抱える
様々な問題点が見えてきます。
なのか、医療制度とはどうあるべきなのか..... これはいわば「かくあるべき」
という「思想」を巡っての議論と言い換えることができると思います。
法律の条文それ自体は表現が難しく、無味乾燥で、専門的すぎていったい何を述べ
ようとしているのか、述べられているのか、一般人にはまず理解不能です。あたかも
理解させないように書いているのが法律文と言ってもいいかもしれません。しかし
一般人に読めるか読めないかは別としても、そこには、ちゃんと目的が記載されて
います。その法律が目指している思想が書かれていると言ってもいいでしょう。
後期高齢者医療制度が、保険制度を規定しているように、VEPTRを巡る新しい医療
機器の認可制度は、薬事法という法律によって規定されています。そして、その法律
をさらに具体的に実施するために行政よりだされるものに「通知」という規則が
あります。
日本に導入されていない医薬品、医療機器を使用できるようにするには、まずその
製品について厚生労働省に申請をして、国の認可を受ける必要があります。
薬事法とその関連する通知によって規制されています。
日米ともその薬事法の法理念や規制要件はそれほど大きく異なるわけではありません。
でも、このVEPTRのような「人道的医療機器」という概念は日本の薬事法には見あた
りません。
日本の薬事法では、認可を与える条件として、その製品の「有効性」と「安全性」
を証明することが求められています。参考として薬事法と通知からその記述部分を
抜粋してみました。
平成17年2月16日薬食発第0216002号
局長通知「医療機器の製造販売承認申請について」
法第14 条及び法第19 条の2 の規定に基づき、これを製造販売しようとする者から
申請があった場合に、申請に係る医療機器の使用目的、効能又は効果、構造、原
理、原材料、構成部品、品目仕様、操作方法、使用方法、不具合等に関する所要の
審査を行った上で、厚生労働大臣が品目ごとにその承認を与えることとされてお
り、製造販売承認申請に当たっては、その時点における医学、薬学、工学等の学問
水準に基づき、倫理性、科学性及び信頼性の確保された資料により、申請に係る医
療機器の品質、有効性及び安全性を立証するための十分な根拠が示される必要があ
る。
薬事法より
(医薬品等の製造販売の承認)
第14条 医薬品、医薬部外品、又は医療機器の製造販売をしようとする者は、
品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければ
ならない。
第2項 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の承認は、与えない。
その1. 略
その2. 略
その3.申請に係る医薬品又は医療機器の名称、成分、分量、構造、
用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用その他の品質、
有効性及び安全性に関する事項の審査の結果、その物が次のイからハまでの
いずれかに該当するとき。
イ 申請に係る医薬品、医薬部外品又は医療機器が、その申請に係る
効能、効果又は性能を有すると認められないとき。(ロ~ハ.略)
第5項 (前半略)
当該品目の品質、有効性及び安全性に関する調査(略)を行うものとする
---------------------------------------------------------------------
製品の中には、「有効性」を科学的に証明できないものもありえます。あるいは
証明するには、膨大な時間と費用を必要とするものもあります。何をもって有効
とするのか、その定義付け自体を巡って侃々諤々と議論が続き結論のでない範疇の
ものもあります。例えば、ガンという病気では、患者側からすればガンが治る、
ガンに有効なクスリと言った場合、その定義は、まさにガンが体内から消滅して
健康体に戻ることを意味するわけですが、医薬品の認可制度のものでは、ガンに
有効なクスリとは、ガンがもとある大きさから小さくなることを「このクスリは
有効である」と定義することがあります。
(ここでいう「科学的」というのは、ある一定の判断ルールに基づいては証明できない。
という意味で使っています。医学の世界では、無作為比較試験、つまり患者さんに
クジをひいてもらい、Aさんには新しい医療機器を使用する、Bさんには、これまで
使われていた医療機器を使用して、その比較データをとることがもっとも証明力が
あるといわれています)
VEPTRの場合も、米国内で臨床試験を実施してFDAの認可を得ています。
でも、その試験はくじ引き試験ではありませんでした。なぜならば、VEPTRが適用と
なる患者さん自体が非常にまれな疾患で、患者数自体が少ないことと、これは外科
手術なわけですから、対照とする「相手」を設定することができません。
仮にVEPTRで治療することが必要な患者さんが100人いたとき、その比較対照として
誰を100人、集めてきたら良いのでしょうか? しかも、その対照群に、必要もない
のに外科手術によってVEPTRをインプラントする ?
あるいは、従来の治療法で治療する患者群を対照とする.....しかし、この場合の
従来の治療法とは、手術をせずに対処的に人工呼吸機で呼吸管理をする。という
方法になります。そしてその結論は、患者はやがて衰弱して死亡するか肺炎で死亡
する、ということになります。
そのような臨床試験デザインは非人道的、非倫理的なもので許されることでは
ありません。そもそも、臨床試験自体が言葉を変えればボランテイアによる人体実験
なわけですから、その実施は慎重かつ倫理的配慮がなければ許されるものでは
ありません。
そこで、VEPTRの臨床試験では全ての患者さんにVEPTRを手術して、その結果を
データとして集める。という方法がとられました。これをオープン試験法と言います。
対照をおかずに、患者さんだけでデータを得る試験方法です。この方法からは
科学的な定義としての「有効性」を推察することはできません。VEPTRが科学的に
有効であったかどうかは、米国の臨床試験からも判断ができません。
しかし、このようにして集められたデータから、FDAは、VEPTRが患者さんにとって
「有益」である、「安全性はある」ということを認めて認可を与えています。
その法的よりどころが、「人道的医療機器」Humanitarian Use Device という法律
です。
http://www.fda.gov/cdrh/devadvice/hde.html
科学的データからは有効であることは証明されてはいないけれど、患者を救うには
この医療機器は役立つ(有益)。という法の思想です。
VEPTRの場合、患者であるこどもたちを毎日看病している両親が、VEPTRの有益性を
証明し、支持したのです。
残念ながら、いまの日本の薬事法の中には、この米国の法思想にあるような、
「人道的に救うために」
「少なくとも安全性は認められ」
「リスクを上回るベネフィットがある」
「特定疾患の患者を救うには、この医療機器しか他に方法がない」
このような場合は、有効性が証明できずとも認可を与える、という発想の法律は
まだ存在しません。
米国FDAのサイトを読んでいて、米国人の合理性、合理的ものの考え方、そして
情報開示の広さには驚くばかりです。良い意味で、大人の国、開かれた国、という
印象を受けます。100%完全なものはない、リスクをゼロにすることは不可能である
これだけのリスクが残っている、しかし、これこれのベネフィットもありえる、
プラスとマイナスを全て開示するから、結論は自分で判断しなさい。その代わり
必要最小限の時間で審査をして、患者が使用できるようにしてあげる。
一から十まで全て「お上」である行政が決めて、国民は黙ってその指示に従えば
よいのだ、というのが善かれ悪しかれ、日本という国の制度です。
VEPTRベプターというたったひとつの医療機器を通じて、日本の医療制度が抱える
様々な問題点が見えてきます。