今回も、側わん症とは直接の関係はありませんので、ご容赦下さい。
私たちは普段の生活のなかで、「法律」を意識することはほとんどありません。
意識しなくても生活していける安心、安全な日本という国であることに感謝したいと
思います。しかし、こと、医療をとりまく環境においては、先の後期高齢者医療制度
などに代表されるように、どのような法律が施行されるかによって、私たちの生活は
大きな影響を受けることになります。
皆さんは「希少疾病医療用医療機器」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?
先日の“初夏の便り”さんのコメントに書いてあったのですが、知識がなかった
ので調べてみました。今回は、この「希少疾病医療用医療機器」に関する制度の説明と
日本に制定して欲しい新しい法律のコンセプトについて、書かせていただきます。
参照 : 「希少疾病医療用医療機器」 http://www.jaame.or.jp/kanren/ohphan.html
制度の主旨:難病、エイズ等の患者数の少ない「希少疾病」を対象とする
医薬品または医療機器は、医療上の必要性が高いにもかかわらずなかなか
研究開発が進まない、進みにくい状況にある。このため、国としてこれらのものの
開発に特別の支援をしようと平成5年の薬事法改正の時に導入された制度。
指定の基準:
対象者数:対象患者数が本邦において5万人未満であること。
医療上の必要性:当該医療機器の製造又は輸入の承認が与えられたならば、
その用途に関し特に優れた使用価値を有することとなること。
---------------------------------------------------------------------
(august03より)
この制度は一見すると、FDAがVEPTRを認可したときの Humanitarian Use Device
[人道的医療機器]に似ています。このような制度の背景を考えた場合、製品の開発
というものはその大半が民間企業(市井の研究者、技術者)によって行われている。
ということをまず思い浮かべる必要があると思います。それは医療に係らず、全て
の分野において同じことです。世界的に画期的といわれる製品も、その端緒は、
ちっぽけなガレージで誕生したというのは有名な話です(WindowsやApple)。
医薬品、医療機器も同様のこと....つまり、ベンチャーとか中小企業を想定した時
その開発にあたってはお金(開発費用)をどう工面するか、という悩みはつねにつきまとう
問題です。
また、例えば、大手の製薬企業の研究室で画期的なクスリが誕生しようとしていた
場合において、もしそのクスリを使用する患者が年間100人しかいなかったとしたら
その新しいクスリは完成し、患者に届けられることがあるでしょうか?
このような場合、非常にその実現は難しい、というのが現実世界です。
なぜならば、製品を開発し、完成させ、市場にだすというのは、あくまでもビジネス
として行われているのであって、慈善事業として行われているものではない。という
現実を私たちは認識する必要があります。製品の開発には、膨大なコストがかかります。
市場にだすには、厚労省/PMDAにより審査もあります。市場に出してからも、供給
するには様々なコストがかかります。
企業は、それらのコストを計算して、想定する利益を計算して、儲かるとわかれば
世の中に出す努力をするでしょう。しかし、儲からないとなれば、その製品が世の中に
でることはありません。100人の患者にそのクスリが届くことはありません。
(脱線した話になりますが、私august03が整体がやってることは、商売である、
あれは医療ではない、というのは上記の様な面からも同じことだと理解して欲しい
と思います。整体はあたかも慈善事業、救世主のような顔をして、患者を救える
のは私だけだ、というような言い方をしますが、それはそうやって患者を集めれば
「儲かる」からです。側弯症がおいしい商売だからです。儲かりもしなければ、
そのようなことをする民間人がいるはずもありません。全てはカネの為です。患者
のためなどではありません。)
いま日本では、上記のような問題が現実に発生しています。特に医薬品では、
難病といわれる病気の場合、その病気にかかっている患者さんの数というのは、
例えば、糖尿病とか高血圧とかの患者さんの数が100万人単位だとすれば、難病で
苦しんでいる患者さんというのは、百人とか、千人とか、そういう単位の数に
なります。
クスリを開発して製品化し市場にだすのには、10年の期間と100億円のコストが
かかると言われています。100万人の患者に使用するクスリでも、100人に使用する
クスリでも、同じ100億円のコストがかかるとしたら、企業はどちらの製品を選択
するでしょうか.....答えは考えるまでもありません。
“医療”という言葉は、清潔で聖心で高貴な領域、慈善と博愛に満ちた世界、という
イメージをどうしても抱きますが、たとえ医療とはいえ、企業活動である限り
そこには利益追求があるのは当然のことです。利益が生まれなければ、従業員に
給料も払えなければ、次の新製品を開発することもできません。
新聞等のニュースで聞く「ドラッグラグ」「デバイスラグ」というのは、実は背景
にはこのような一面があるわけです。
いま、日本において発生していること、これからさらに発生するであろうことは
企業は日本という市場に投資しなくなる。.....つまり、新製品を出さない。という
ことです。外資系はことさらですが、国内メーカーにしても、新製品を開発する
意欲が失われていると思います。それは
*日本の市場に製品をだすためにかかる期間(認可を得るまでにかかる年月)が
他の市場に比べて、あまりに長過ぎる。
*日本は人口が減少している....つまり市場のパイが小さくなっている
おなじコストをかけるなら、もっと早く認可を得られて(つまり早く販売開始でききる)
、もっと大きな市場例えば中国に投資したほうが企業は儲かる。ということです。
医薬品、医療機器における投資って何? と思われるかもしれません。外資系企業を
例に簡単に説明しますと、例えば、VEPTRベプターは欧米ですでに販売されています。
このVEPTRを開発した米国企業が、次の販売先に1億円の市場導入コストを予算づけ
したとします。この場合のコストとは、承認取得に要する費用(人件費その他)、
在庫費用等々です。どんなビジネスでも同じですが、投資は回収されなければなり
ません。1億円の資金を投入して、それが何年で、プラスアルファを伴って回収でき
るか。企業は、その財務計画を立てます。仮に、この企業が投入できる資金が1億円
しかなかったとした場合、そして、販売国の候補がふたつあったとします。
日本と中国です。
日本 中国
承認取得に要する期間 3年~5年 半年~1年
適応患者数(出生数xo.ooo1) 100人 2000人
日本の新生児数100万人/年、中国2000万人/年
0.0001をVEPTRが適応となる患者の発症率と仮定しています。これはあくまでも
仮説としての数値です。
ただし、中国での障害のある新生児発生数は次の記事を参照しました。
「障害のある新生児、30秒に1人出生―中国」年間100万人の障害児
http://www.recordchina.co.jp/group/g8740.html
これまで何度か、ブログで日本国内に側彎症患者がどれくらいいるかを分析して
みてきました。例えば「側わん症症例数全国調査」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/f9507d6dfe21512e1e830a92c9298e36
残念ながら、正確な患者数はだしえませんでしたが、先天性側彎症患者が国内に
2000~4000人ほどいるのではないかと試算しました。このうち、VEPTRが適用になる
ほどの重篤な患者を100人/年と仮定しますと、中国の出生数は日本の20倍ですから
2000人/年という仮定は、仮説としての論理性は成立すると思います。
もちろん、これは日本を10人/年、中国を200人/年としてもよいのですが。
次に販売単価ですが、これは国の保険償還制度により変わるので、金額の推定が
難しいのですが、日本を200万円、中国を50万円と差をもうけて計算してみますと、
販売金額(国別単価) 200万円 50万円
2009年売上 0 10億円
2010年売上 0 10億円
2011年売上 0 10億円
2012年売上 2億円 10億円
これでは仮説としての信憑性にかけるので、中国の単価をさらに下げて10万円とし
てみましょう。
販売金額(国別単価) 200万円 10万円
2009年売上 0 2億円
2010年売上 0 2億円
2011年売上 0 2億円
2012年売上 2億円 2億円
さらに下げて5万円とした場合でも
販売金額(国別単価) 200万円 5万円
2009年売上 0 1億円
2010年売上 0 1億円
2011年売上 0 1億円
2012年売上 2億円 1億円
2013年売上 2億円 1億円
2014年売上 2億円 1億円
皆さんが会社の経営者でしたら、どちらの国に投資されるでしょうか?
企業というのは、無尽蔵に投資資金を持っているのではありません。限られた資金
をいかに効率よく運用するかを経営者は考えています。
日本は金持ち国だから、大手企業はどんどん投資するはず....という時代はすでに
終わっています。
読売新聞(平成20年4月27日)「三菱化学生命研 2010年解散」という記事によりますと、
製薬業界相次ぐ国内撤退..ノバルティス筑波研究所閉鎖年内閉鎖、国内中央研究所を
閉鎖するファイザー製薬は韓国保健福祉省と抗がん剤開発で310億円の研究投資に
調印。
病気とは、患者にとっては“病気”以外のなにものでもなく、国内メーカーのクスリ
であろうが、外国メーカーのクスリであろうが、治療に供給してもらえればいいだけ
です。しかし、企業からみれば、病気(患者)とは製品を販売するための市場なのです。
利益がでない市場に投資するよりも、利益がでて、早く回収できる市場に投資する
というのがビジネスです。
シンガポールは、貿易立国から、次に医療立国を目指しています。最新設備と最新
医療技術を備えた施設と医師と環境を整備して、外国からシンガポールに来て病気
を治療してもらう。というビジネスモデルを国家プロジェクトとして押し進めよう
としています。当然、そこでは最新の医薬品と医療機器が使用できるわけです。
シンガポールの薬事法がどういう法体系になっているのか、厚労省のような組織が
あるかどうかすらわかりませんが、想像されるのは、仮にあったとしても、合理的
な審査をするだろう。ということです。情報開示において、このクスリは米国FDA
で認可されています。この医療機器は米国で治験が行われ、これこれの成績でFDAに
より認可されました....というような情報が患者側に提供されるならば、患者に
とっては、おそらくそれで十分でしょう。いま、全世界を見回しても、FDAに匹敵
する審査機関はありません。そこで審査され、承認を受けた製品をさらに審査に
何年もかけるなどと考えなければならないことのほうが非科学的です。
少し話しが脱線してしまいました。上記で述べたかったのは、
不合理で、非科学的な審査で承認を得るのに何年もかかるような国には
新しい医薬品、新しい医療機器を カネと時間を かけて導入しようという
メーカーはいなくなりますよ
と、いうことを言いたかったのです。
日本人は、国の....PMDAの厳正な審査によって守られています。
同時に進行しているのは、やがて、ジェネリックと中古機器しか使用できない
医療環境になってしまいますよ
と、いうことなのです。 (注:ジェネリックは比喩です)
さて、本題に戻します。
希少疾病用医療機器制度というのは、本来は、上記で述べたような状況を防止する
ためのもののようです。米国のHumanitarian Use Device[人道的医療機器]制度も
同様です。(おそらく米国のシステムをまねして希少疾病医療制度を作ったのでは
ないかと想像するのですが)
では、その成果がどうなっているかをご紹介します。
http://www.jaame.or.jp/kanren/ohphan.html
H6年 日本メドトロニック 植込型除細動器
H6年 鐘淵化学工業 吸着型血液浄化器
H13年 タカラバイオ 磁気細胞分離システム
H13年 エドワーズライフ 植込型補助人工心臓
H17年 日本メドトロニック 持続投与用植込み型プログラマ
平成5年からスタートした制度ですが、指定を受け、承認を受けたのはわずか5品目
です。
これ以外に指定を受けてまだ承認されていないものが5品目あります。
合計しても 10品目です。
これに対して、米国のHumanitarian Use Device[人道的医療機器]制度を見ますと、
http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfHDE/HDEInformation.cfm
2007年 Genzyme Biosurgery Epicel® (cultured epidermal autografts)
2007年 Cordis ENTERPRISE Vascular
2007年 EV3 Neurovascular Onyx® Liquid Embolic
2007年 Fujirebio Fujirebio Mesomark™
2006年 biomed, Inc. Abiocor® Implantable Replacement Heart
2006年 Karl Storz Semi-Rigid TTTS Fetoscopy
2005年 Boston Scientific Wingspan Stent System
2005年 CoAxia, Inc. CoAxia NeuroFlo Catheter
2004年 Synthes (USA) Vertical Expandable Prosthetic Titanium Rib (VEPTR)
2004年 Addition Technology INTACS® Prescription Inserts
etc etc と続くのですが、1997年~2007年までに合計で40数品目あります。
米国におけるこの人道的医療機器とは、年間の患者数4000人以下の疾病に適用に
なることが制度適用の条件です。これら40数品目を使用して治療する病気とは
日本に患者は存在しない病気なのでしょうか? 決してそんなことはないはずです。
企業は日本には導入を諦めた、あるいは計画すらも立てなかった、と考えるのが
妥当でしょう。つまり、希少疾病であればあるほど、患者数が少なければ少ない
ほど、新しい治療方法は、米国にはあるけど、日本にはない、という状態が、
1997年(平成9年)からずっと続いている、ということなのです。
なぜこのような「差」が生じるのか ? 似たような制度なのに、なぜ日本では
活用されていなのか ?
それは、日本の希少疾病用医療医薬品/医療機器制度は、製品としての認可を得る
ためには、“有効性と安全性”を科学的信頼性のもとで証明することが必要なのに
対して、米国のHumanitarian Use Deviceという制度では、
Safety and Possible Benefit 安全性と考えうる有益性(ありえる有益性)
によって審査される。というこの「差」にあると考えられます。
皆さんはきっと、「有効性」と「有益性」で何が違うのか ? と思われるでしょう。
ちょっと説明が難しいのですが、有効性が、二群比較により、その成績を統計解析
により、有意な差のあり/なし、によって評価するのに対して、有益性とは、
治療する患者にとって発生しえるリスクよりも、治療によって得られるベネフィット
のほうが大きければ、その製品は認可しましょう。というコンセプトということに
なると思います。
例えば、VEPTRを見た場合、VEPTR法で手術しない患者の余命は明らかに死亡の確率
が高くなります。もちろん、VEPTRを使用したとしても、完全に治るかどうかの可能性は
高いものかどうかは不明です。手術により、様々な合併症のリスクもあります。
しかし、手術することによって、こどもが寝たきりであったものが、歩けるように
なり、食事がのどにつまることなく食べられるようになり、お母さんと元気で話が
できるようになり、こどもに笑顔がもどった。
有益性とは、そういう範疇のものです。そして、人道的医療機器制度とは、
そのようなベネフィットが得られるならば、認可しましょう。という制度なのです
残念ながら、この日本にはこれに類した法律は存在しません。製品の認可には、
有効性と安全性を証明することがつねに求められます。しかも、日本の審査基準は
世界でもっとも厳しいものです。
ドラッグラグ問題に対する厚生労働省の説明では「海外で承認された薬が日本で
承認されるまで平均4年程度かかっている。これを平成23年度までに、米国並み
の1年半程度にする」というものがあります。日本では4年、米国では1年半。
この数値は希少疾病用のものではなく、通常の新規医薬品の審査期間を示しての
ものなのですが、それでも、目標は平成23年、いまから三年後のことです。
でもここに、さきほどの人道的医療機器の審査基準 「安全性と得られる有益性」
というコンセプトの新しい審査基準に対する法律が導入されたらば、どうなるでしょうか !
日本にも、人道的医療機器/人道的医薬品 という考え方にもとづく法律が制定
されることが必要だと思います。
この点についても、ぜひとも、嘆願運動の一環として大臣に訴えてほしいと期待
しております。
追記 :CU(コンパッショネート・ユース)が計画されていますが、これが保険適用も
含まれての制度導入かどうかが問題です。自由診療ということになれば、全ての
金銭的負担は患者がおわなければなりません。また混合診療であったとしても、
その未認可の医薬品、未認可の医療機器の代金はやはり患者が負担しなければ
なりません。保険が適用されること。私たちは、その点においても、よく事態を
見つめていく必要があります。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////
ブログ内の関連記事
「嘆願運動の皆様へ VEPTRベプター解説 No.6 人道的医療機器という法律」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/3c0a78ee28c0dd7d1fe1937715550772
「ひとつの仕事を達成するには2年は短すぎます」
医療行政シリーズ No.2
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/6a2ceac56fb5ed50f0170c0cb144978e
私たちは普段の生活のなかで、「法律」を意識することはほとんどありません。
意識しなくても生活していける安心、安全な日本という国であることに感謝したいと
思います。しかし、こと、医療をとりまく環境においては、先の後期高齢者医療制度
などに代表されるように、どのような法律が施行されるかによって、私たちの生活は
大きな影響を受けることになります。
皆さんは「希少疾病医療用医療機器」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?
先日の“初夏の便り”さんのコメントに書いてあったのですが、知識がなかった
ので調べてみました。今回は、この「希少疾病医療用医療機器」に関する制度の説明と
日本に制定して欲しい新しい法律のコンセプトについて、書かせていただきます。
参照 : 「希少疾病医療用医療機器」 http://www.jaame.or.jp/kanren/ohphan.html
制度の主旨:難病、エイズ等の患者数の少ない「希少疾病」を対象とする
医薬品または医療機器は、医療上の必要性が高いにもかかわらずなかなか
研究開発が進まない、進みにくい状況にある。このため、国としてこれらのものの
開発に特別の支援をしようと平成5年の薬事法改正の時に導入された制度。
指定の基準:
対象者数:対象患者数が本邦において5万人未満であること。
医療上の必要性:当該医療機器の製造又は輸入の承認が与えられたならば、
その用途に関し特に優れた使用価値を有することとなること。
---------------------------------------------------------------------
(august03より)
この制度は一見すると、FDAがVEPTRを認可したときの Humanitarian Use Device
[人道的医療機器]に似ています。このような制度の背景を考えた場合、製品の開発
というものはその大半が民間企業(市井の研究者、技術者)によって行われている。
ということをまず思い浮かべる必要があると思います。それは医療に係らず、全て
の分野において同じことです。世界的に画期的といわれる製品も、その端緒は、
ちっぽけなガレージで誕生したというのは有名な話です(WindowsやApple)。
医薬品、医療機器も同様のこと....つまり、ベンチャーとか中小企業を想定した時
その開発にあたってはお金(開発費用)をどう工面するか、という悩みはつねにつきまとう
問題です。
また、例えば、大手の製薬企業の研究室で画期的なクスリが誕生しようとしていた
場合において、もしそのクスリを使用する患者が年間100人しかいなかったとしたら
その新しいクスリは完成し、患者に届けられることがあるでしょうか?
このような場合、非常にその実現は難しい、というのが現実世界です。
なぜならば、製品を開発し、完成させ、市場にだすというのは、あくまでもビジネス
として行われているのであって、慈善事業として行われているものではない。という
現実を私たちは認識する必要があります。製品の開発には、膨大なコストがかかります。
市場にだすには、厚労省/PMDAにより審査もあります。市場に出してからも、供給
するには様々なコストがかかります。
企業は、それらのコストを計算して、想定する利益を計算して、儲かるとわかれば
世の中に出す努力をするでしょう。しかし、儲からないとなれば、その製品が世の中に
でることはありません。100人の患者にそのクスリが届くことはありません。
(脱線した話になりますが、私august03が整体がやってることは、商売である、
あれは医療ではない、というのは上記の様な面からも同じことだと理解して欲しい
と思います。整体はあたかも慈善事業、救世主のような顔をして、患者を救える
のは私だけだ、というような言い方をしますが、それはそうやって患者を集めれば
「儲かる」からです。側弯症がおいしい商売だからです。儲かりもしなければ、
そのようなことをする民間人がいるはずもありません。全てはカネの為です。患者
のためなどではありません。)
いま日本では、上記のような問題が現実に発生しています。特に医薬品では、
難病といわれる病気の場合、その病気にかかっている患者さんの数というのは、
例えば、糖尿病とか高血圧とかの患者さんの数が100万人単位だとすれば、難病で
苦しんでいる患者さんというのは、百人とか、千人とか、そういう単位の数に
なります。
クスリを開発して製品化し市場にだすのには、10年の期間と100億円のコストが
かかると言われています。100万人の患者に使用するクスリでも、100人に使用する
クスリでも、同じ100億円のコストがかかるとしたら、企業はどちらの製品を選択
するでしょうか.....答えは考えるまでもありません。
“医療”という言葉は、清潔で聖心で高貴な領域、慈善と博愛に満ちた世界、という
イメージをどうしても抱きますが、たとえ医療とはいえ、企業活動である限り
そこには利益追求があるのは当然のことです。利益が生まれなければ、従業員に
給料も払えなければ、次の新製品を開発することもできません。
新聞等のニュースで聞く「ドラッグラグ」「デバイスラグ」というのは、実は背景
にはこのような一面があるわけです。
いま、日本において発生していること、これからさらに発生するであろうことは
企業は日本という市場に投資しなくなる。.....つまり、新製品を出さない。という
ことです。外資系はことさらですが、国内メーカーにしても、新製品を開発する
意欲が失われていると思います。それは
*日本の市場に製品をだすためにかかる期間(認可を得るまでにかかる年月)が
他の市場に比べて、あまりに長過ぎる。
*日本は人口が減少している....つまり市場のパイが小さくなっている
おなじコストをかけるなら、もっと早く認可を得られて(つまり早く販売開始でききる)
、もっと大きな市場例えば中国に投資したほうが企業は儲かる。ということです。
医薬品、医療機器における投資って何? と思われるかもしれません。外資系企業を
例に簡単に説明しますと、例えば、VEPTRベプターは欧米ですでに販売されています。
このVEPTRを開発した米国企業が、次の販売先に1億円の市場導入コストを予算づけ
したとします。この場合のコストとは、承認取得に要する費用(人件費その他)、
在庫費用等々です。どんなビジネスでも同じですが、投資は回収されなければなり
ません。1億円の資金を投入して、それが何年で、プラスアルファを伴って回収でき
るか。企業は、その財務計画を立てます。仮に、この企業が投入できる資金が1億円
しかなかったとした場合、そして、販売国の候補がふたつあったとします。
日本と中国です。
日本 中国
承認取得に要する期間 3年~5年 半年~1年
適応患者数(出生数xo.ooo1) 100人 2000人
日本の新生児数100万人/年、中国2000万人/年
0.0001をVEPTRが適応となる患者の発症率と仮定しています。これはあくまでも
仮説としての数値です。
ただし、中国での障害のある新生児発生数は次の記事を参照しました。
「障害のある新生児、30秒に1人出生―中国」年間100万人の障害児
http://www.recordchina.co.jp/group/g8740.html
これまで何度か、ブログで日本国内に側彎症患者がどれくらいいるかを分析して
みてきました。例えば「側わん症症例数全国調査」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/f9507d6dfe21512e1e830a92c9298e36
残念ながら、正確な患者数はだしえませんでしたが、先天性側彎症患者が国内に
2000~4000人ほどいるのではないかと試算しました。このうち、VEPTRが適用になる
ほどの重篤な患者を100人/年と仮定しますと、中国の出生数は日本の20倍ですから
2000人/年という仮定は、仮説としての論理性は成立すると思います。
もちろん、これは日本を10人/年、中国を200人/年としてもよいのですが。
次に販売単価ですが、これは国の保険償還制度により変わるので、金額の推定が
難しいのですが、日本を200万円、中国を50万円と差をもうけて計算してみますと、
販売金額(国別単価) 200万円 50万円
2009年売上 0 10億円
2010年売上 0 10億円
2011年売上 0 10億円
2012年売上 2億円 10億円
これでは仮説としての信憑性にかけるので、中国の単価をさらに下げて10万円とし
てみましょう。
販売金額(国別単価) 200万円 10万円
2009年売上 0 2億円
2010年売上 0 2億円
2011年売上 0 2億円
2012年売上 2億円 2億円
さらに下げて5万円とした場合でも
販売金額(国別単価) 200万円 5万円
2009年売上 0 1億円
2010年売上 0 1億円
2011年売上 0 1億円
2012年売上 2億円 1億円
2013年売上 2億円 1億円
2014年売上 2億円 1億円
皆さんが会社の経営者でしたら、どちらの国に投資されるでしょうか?
企業というのは、無尽蔵に投資資金を持っているのではありません。限られた資金
をいかに効率よく運用するかを経営者は考えています。
日本は金持ち国だから、大手企業はどんどん投資するはず....という時代はすでに
終わっています。
読売新聞(平成20年4月27日)「三菱化学生命研 2010年解散」という記事によりますと、
製薬業界相次ぐ国内撤退..ノバルティス筑波研究所閉鎖年内閉鎖、国内中央研究所を
閉鎖するファイザー製薬は韓国保健福祉省と抗がん剤開発で310億円の研究投資に
調印。
病気とは、患者にとっては“病気”以外のなにものでもなく、国内メーカーのクスリ
であろうが、外国メーカーのクスリであろうが、治療に供給してもらえればいいだけ
です。しかし、企業からみれば、病気(患者)とは製品を販売するための市場なのです。
利益がでない市場に投資するよりも、利益がでて、早く回収できる市場に投資する
というのがビジネスです。
シンガポールは、貿易立国から、次に医療立国を目指しています。最新設備と最新
医療技術を備えた施設と医師と環境を整備して、外国からシンガポールに来て病気
を治療してもらう。というビジネスモデルを国家プロジェクトとして押し進めよう
としています。当然、そこでは最新の医薬品と医療機器が使用できるわけです。
シンガポールの薬事法がどういう法体系になっているのか、厚労省のような組織が
あるかどうかすらわかりませんが、想像されるのは、仮にあったとしても、合理的
な審査をするだろう。ということです。情報開示において、このクスリは米国FDA
で認可されています。この医療機器は米国で治験が行われ、これこれの成績でFDAに
より認可されました....というような情報が患者側に提供されるならば、患者に
とっては、おそらくそれで十分でしょう。いま、全世界を見回しても、FDAに匹敵
する審査機関はありません。そこで審査され、承認を受けた製品をさらに審査に
何年もかけるなどと考えなければならないことのほうが非科学的です。
少し話しが脱線してしまいました。上記で述べたかったのは、
不合理で、非科学的な審査で承認を得るのに何年もかかるような国には
新しい医薬品、新しい医療機器を カネと時間を かけて導入しようという
メーカーはいなくなりますよ
と、いうことを言いたかったのです。
日本人は、国の....PMDAの厳正な審査によって守られています。
同時に進行しているのは、やがて、ジェネリックと中古機器しか使用できない
医療環境になってしまいますよ
と、いうことなのです。 (注:ジェネリックは比喩です)
さて、本題に戻します。
希少疾病用医療機器制度というのは、本来は、上記で述べたような状況を防止する
ためのもののようです。米国のHumanitarian Use Device[人道的医療機器]制度も
同様です。(おそらく米国のシステムをまねして希少疾病医療制度を作ったのでは
ないかと想像するのですが)
では、その成果がどうなっているかをご紹介します。
http://www.jaame.or.jp/kanren/ohphan.html
H6年 日本メドトロニック 植込型除細動器
H6年 鐘淵化学工業 吸着型血液浄化器
H13年 タカラバイオ 磁気細胞分離システム
H13年 エドワーズライフ 植込型補助人工心臓
H17年 日本メドトロニック 持続投与用植込み型プログラマ
平成5年からスタートした制度ですが、指定を受け、承認を受けたのはわずか5品目
です。
これ以外に指定を受けてまだ承認されていないものが5品目あります。
合計しても 10品目です。
これに対して、米国のHumanitarian Use Device[人道的医療機器]制度を見ますと、
http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfHDE/HDEInformation.cfm
2007年 Genzyme Biosurgery Epicel® (cultured epidermal autografts)
2007年 Cordis ENTERPRISE Vascular
2007年 EV3 Neurovascular Onyx® Liquid Embolic
2007年 Fujirebio Fujirebio Mesomark™
2006年 biomed, Inc. Abiocor® Implantable Replacement Heart
2006年 Karl Storz Semi-Rigid TTTS Fetoscopy
2005年 Boston Scientific Wingspan Stent System
2005年 CoAxia, Inc. CoAxia NeuroFlo Catheter
2004年 Synthes (USA) Vertical Expandable Prosthetic Titanium Rib (VEPTR)
2004年 Addition Technology INTACS® Prescription Inserts
etc etc と続くのですが、1997年~2007年までに合計で40数品目あります。
米国におけるこの人道的医療機器とは、年間の患者数4000人以下の疾病に適用に
なることが制度適用の条件です。これら40数品目を使用して治療する病気とは
日本に患者は存在しない病気なのでしょうか? 決してそんなことはないはずです。
企業は日本には導入を諦めた、あるいは計画すらも立てなかった、と考えるのが
妥当でしょう。つまり、希少疾病であればあるほど、患者数が少なければ少ない
ほど、新しい治療方法は、米国にはあるけど、日本にはない、という状態が、
1997年(平成9年)からずっと続いている、ということなのです。
なぜこのような「差」が生じるのか ? 似たような制度なのに、なぜ日本では
活用されていなのか ?
それは、日本の希少疾病用医療医薬品/医療機器制度は、製品としての認可を得る
ためには、“有効性と安全性”を科学的信頼性のもとで証明することが必要なのに
対して、米国のHumanitarian Use Deviceという制度では、
Safety and Possible Benefit 安全性と考えうる有益性(ありえる有益性)
によって審査される。というこの「差」にあると考えられます。
皆さんはきっと、「有効性」と「有益性」で何が違うのか ? と思われるでしょう。
ちょっと説明が難しいのですが、有効性が、二群比較により、その成績を統計解析
により、有意な差のあり/なし、によって評価するのに対して、有益性とは、
治療する患者にとって発生しえるリスクよりも、治療によって得られるベネフィット
のほうが大きければ、その製品は認可しましょう。というコンセプトということに
なると思います。
例えば、VEPTRを見た場合、VEPTR法で手術しない患者の余命は明らかに死亡の確率
が高くなります。もちろん、VEPTRを使用したとしても、完全に治るかどうかの可能性は
高いものかどうかは不明です。手術により、様々な合併症のリスクもあります。
しかし、手術することによって、こどもが寝たきりであったものが、歩けるように
なり、食事がのどにつまることなく食べられるようになり、お母さんと元気で話が
できるようになり、こどもに笑顔がもどった。
有益性とは、そういう範疇のものです。そして、人道的医療機器制度とは、
そのようなベネフィットが得られるならば、認可しましょう。という制度なのです
残念ながら、この日本にはこれに類した法律は存在しません。製品の認可には、
有効性と安全性を証明することがつねに求められます。しかも、日本の審査基準は
世界でもっとも厳しいものです。
ドラッグラグ問題に対する厚生労働省の説明では「海外で承認された薬が日本で
承認されるまで平均4年程度かかっている。これを平成23年度までに、米国並み
の1年半程度にする」というものがあります。日本では4年、米国では1年半。
この数値は希少疾病用のものではなく、通常の新規医薬品の審査期間を示しての
ものなのですが、それでも、目標は平成23年、いまから三年後のことです。
でもここに、さきほどの人道的医療機器の審査基準 「安全性と得られる有益性」
というコンセプトの新しい審査基準に対する法律が導入されたらば、どうなるでしょうか !
日本にも、人道的医療機器/人道的医薬品 という考え方にもとづく法律が制定
されることが必要だと思います。
この点についても、ぜひとも、嘆願運動の一環として大臣に訴えてほしいと期待
しております。
追記 :CU(コンパッショネート・ユース)が計画されていますが、これが保険適用も
含まれての制度導入かどうかが問題です。自由診療ということになれば、全ての
金銭的負担は患者がおわなければなりません。また混合診療であったとしても、
その未認可の医薬品、未認可の医療機器の代金はやはり患者が負担しなければ
なりません。保険が適用されること。私たちは、その点においても、よく事態を
見つめていく必要があります。
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「嘆願運動の皆様へ VEPTRベプター解説 No.6 人道的医療機器という法律」
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