オリジナルは脊椎専門誌SPINEに掲載されている文献Preoperative Medical and Surgical Planning for Early Onset Scoliosisを私 august03が自分の勉強の為に和訳したものです。 5歳未満の早期に発症・発見される乳幼児・小児期の側弯症に対する治療計画が概括的に記載された文献です。ドクターが読むことを目的とした文献ですので、内容的に難しいとは思いますが、この側弯症のお子さんを持つご両親にとっても役立つ情報があると思いますので、掲載してみました。 (注意:これはあくまでも私august03の個人の学習のために自身で和訳したものですので、和訳内容に過ちがあるかもしれないことは否定しきれません。お読みになる場合は、その点はご配慮のほどお願いいたします。なおここには、全訳ではなく抜粋を記載しています。)
早期発症側弯症に対する術前の内科的及び外科的計画
Charles E. Johnston, MD
早期発症側弯症(EOS)患者に対する手術計画には、その患者が、適切な適応とされた治療方法に適した候補であることを確認するための一連の評価と決定が関与する。第一の最も重要な決定は、患者が実際に、外科的治療又はdelaying tactic(引き延ばし法)という積極治療の適応であることを決定することである。この決定は、脊椎及び/又は胸郭の成長障害の進行、記録、及び考えられる障害、ならびに基礎的診断及び関連する共存症合併症に関する患者の診断及び予後の分析に基づく。
積極治療―客観的な基準
胸郭の成長を促しつつ変形を軽減又は抑制するための積極介入を進めることはEOSへの介入の2つの主要な目的であり、これは胸椎又は胸郭体積、もしくはその両方の成長障害のエビデンスを伴う脊椎変形の増大が認められることで決定するのが理想的である。Cobb角の増大は、受動的治療(観察、装具使用)を放棄し、積極治療を開始しなければならないことを評価する方法としてなじみ深く、ある程度直観的な方法である。この従来の評価に加えて、骨盤の幅の成長を連続的に測定し比較した、T1-T12セグメントの成長障害又は低下は 、胸椎を延長するための治療を開始する客観的な基準である。成熟時にT1-T12セグメントが過度に短い(18 cm未満)と、肺機能の予測値(有意な呼吸器疾患罹患に関連する肺障害の程度)が45%未満になるためである。胸郭のコンピュータ断層(CT)スキャンは、特に連続的に撮影した場合、胸郭体積の成長が低下しているかどうかを決定するためにGallogly が提供したデータと比較できる胸郭体積を記録するためだけでなく、脊椎貫通による軸平面の胸郭変形及び凸側の片側胸郭の狭小化に注意を向けるためにも有用である。
術前の検討
積極介入を選択すれば、手術方法に重大な影響を与えうる関連異常を評価しなければならない。麻酔を困難にする可能性のある心臓、腎臓、代謝性の症状は、明らかに特定すべき内科症状であり、たとえば先天性側弯症など、患者の3分の1に生じる可能性がある。脳脊髄軸異常はもちろん、脊椎変形治療の明確な懸念事項であり、先天性の変形の最大38%、小児の特発性変形では20%未満に生じる。そのため、脳脊髄幹のMRI評価はこの患者集団に対する術前評価として指示されることが多い。
肺系統はおそらく、介入の主要な指標となることから、多くの候補者で術前に問題がある可能性が高い。気道管理のための肺の内科的及び麻酔に関する協議は最も重要である。上気道の内径、限界に近い肺の状態による再挿管の可能性、頸部の運動を制限し再挿管が難しいか潜在的な不安定性があれば、脊髄を脅かす頸椎の異常に基づき、気管切開術を検討する必要がある。誤嚥から気道を保護するための胃底ひだ形成術及び細い気道の機能最大化(気道陽圧、気管支拡張)が必要になる可能性も高い。筋神経系疾患(脊髄性筋委縮症など)及び胸壁又は横隔膜の機能障害(関節拘縮症、肋骨癒合又は動揺、先天性横隔膜又は胸壁欠損)の患者における術後の呼吸器サポートは、適切な患者診断にて予想しなければならない。横隔膜又は胸壁の運動を評価するための術前のX線又はMRIは、特に胸壁の運動障害があるとわかっている診断では、術後に呼吸不全が生じうる重要な予測因子である。しかし、おそらく、麻酔及び肺の健康に適した最も重要な術前評価は可能であれば術前の肺機能検査である。これは、術後の呼吸器疾患に対する最良の予後検査として、また積極的治療の客観的基準を提供するのに適した最良の検査として十分認識されている。残念ながら、これらの検査は5歳以下の小児では実施できないため、治療の客観的適応を提供するため、すでに述べられた他の基準に頼らなくてはならない。
手術計画における次の検討事項は、患者の全体的な栄養状態を評価することである。手術手技の成功又は不成功のいくつかの重大な側面は、このパラメータに大きく左右される場合がある。創傷治癒や、インプラントが設置される可能性のある突出した骨部分を覆う十分な皮下組織は、絶対リンパ球数、血清タンパクなどの栄養学的パラメータに左右される。体重増加によって示される十分な摂取を保証するため、手術前の数カ月間カロリー摂取をモニターする必要がある。摂取不良の疑いがある場合は、Gチューブが推奨される。皮膚脆弱性は 得異常状態自体よりもエーラーズ=ダンロー症候群やマルファン症候群など、根底にある結合組織疾患に左右されるところが大きいが、本来の皮膚状態にかかわらず、栄養不良状態が創傷治癒不良や感染症にかかりやすい一因であることは広く認められている。最適な状態の皮膚状態が曖昧であれば、プロファイルに関してインプラント及び手術手技を慎重に選択しなければならない
栄養不足及び皮膚脆弱性による凝固メカニズム不全による過度の出血傾向は、全体の出血時間など、慎重な病歴及び標準的な血液学的検査によって評価する必要がある。
骨密度は、栄養状態を反映しており、栄養サポートにより改善できる可能性がある。骨密度の測定は、骨固定の完全性を改善するため、可逆的な骨減少特定に有用である。一方、骨減少は基礎的診断(例、骨形成不全)を反映する可能性があるため、骨固定部位を改善するため、抗破骨細胞薬(pamidronateなど)の開始や、元来予定していなかった追加部位の計画を検討するための代謝の協議が必要である。
手術適応
外科的管理に対する一般的な適応は、手術以外又は遅延させる方法を用いても脊椎変形(側弯、後弯、CTの貫通指標)がどうしても進行する場合、胸郭の成長(T1-T12セグメント長、胸囲、CT肺容量)の遅延又は障害がある場合、臨床的呼吸障害(成長障害、肺感染症発生率上昇、補助換気又は酸素補給の必要性の増大)がある場合が、単独でみられるか複数みられることが考えられる。
手術計画―手技とコンストラクト
EOSの外科治療は、発展途上にあり、議論を呼ぶ問題である。様々な病因及び重症度のEOSの患者シリーズで12人の経験豊富な外科医が好みの治療を行った最近の研究では、この患者集団の現在の「最新」の選択肢の有意差が示された。コンストラクトの計画に関する本考察では、計画の過程の一般的な概念のみレビューし、考察された計画を支持するアウトカムデータを提供する予定はない。
予備的なhalo-gravity tractionは基本的にどのようなタイプの変形にも有用であり、特定の施設では、非手術的方法(すなわち引き延ばし法)を続行させるため、脊椎又は胸壁ベースでの成長が可能なコンストラクトの設置を助けるため、あるいは最終的な矯正用コンストラクトとともに補助するため、矯正法として広く使用されている。この手法は、胸郭後弯変形の矯正の場合や、肺及び栄養状態が最適でない患者の場合に、特に有用である
halo- gravity traction使用に対する唯一の禁忌には、適切な頭蓋骨のピン固定ができない形成異常又は幼児の頭蓋骨、不明確な安定性がある頸椎異常、牽引不足を生じる髄腔内の塊病変又は重度の脊柱管狭窄、患者が牽引に耐えられない重度の認知障害がある。
Spine-to-spine growth-sparing(脊椎‐脊椎の成長温存)コンストラクト(最も一般的にはデュアル「グローイング」ロッド)は柔軟性があり矯正可能な非先天性の変形に最も適している。Akbarnia et alは、主に、通常歩行可能な小児にみられる特発性又は特発性のような変形に対し、デュアルグローイングロッドシステムを用いた大規模な実験を報告している。デュアルロッドコンストラクトは、終椎の1高位固定と組み合わせた二重の両側固定であり、1970年代にMoeが紹介した、古くからある皮下に設置するシングルロッドよりも本質的に安定しており、クランクシャフト現象 及び近位隣接椎間後弯変形、ならびにアンカーの抜けやロッド折損による不具合を最小限に抑えると報告されている。
両側の二つの椎弓根スクリュー固定は、遠位の固定には推奨されるが、近位の固定には両側の椎弓根―横突起又は椎弓根―supralaminarフック、又は両側の椎弓根スクリューが推奨される。後者のアンカー構成は、より安定した近位固定としても推奨されてきたが、椎弓根スクリューの抜けはやはり発生し、万一スクリューが脊柱管に入れば神経学的合併症が重篤になる可能性がある
Spine-to‐spineグローイングシステムは、異常椎体の上下に広がる長セグメントの変形を認め、そのために、短セグメントの切除/固定術では不十分な、選択された先天性側弯症患者に使用されてきた。Spine-to-spineコンストラクトの主要な禁忌には、少なくとも急には安定したアンカー固定ができない小さな脊椎要素、腹部方向の力により後方の骨付着部分からアンカーが抜けることが予想される胸郭上部の著しい後弯がある
Spine-t-rib growth-sparingコンストラクトは、より硬い変形に適用される。通常先天性であり、胸壁の異常(通常は肋骨癒合)があり、片側胸郭及び肺の成長障害が懸念される。肋骨癒合を伴う先天性側弯症は、拡張性胸郭形成術及びvertical expandable prosthetic titanium rib (VEPTR)のインプラントが開発されるきっかけとなった疾患である。これらのコンストラクトには、脊椎/胸郭の変形の頭側の肋骨セグメントに取り付ける「クレードル」により近位の肋骨に装着し、変形の尾側にはサブラミナフック又は椎弓根スクリューを用いて脊椎を固定する。小児の体の大きさによって、より有効に胸部フィステルを開き、2つ目のrib-to-rib デバイスを用いて、胸壁に2つ目のデバイスをさらに外側の位置にすることが多い。先天性癒合のない胸郭VEPTRかその他のインプラントを使用するかに疑問がある場合は議論が生じる。初期のVEPTR症例の慎重なフォローアップでは、胸壁の伸展性喪失 及び拡張術によって生じたextraresidual volumeの無効な利用27がみられ、そのためにこれらのコンストラクトを喜んで受けようとは思わない状況がみられた。このコンストラクトは先天的に拘束されている片側胸郭には明らかに有効だが、正常な胸郭における価値は疑わしい。正常な環境下では胸囲及び胸郭体積が10歳以降に倍増し、肋骨を不動化するインプラントは、正常な胸郭の成長を遅らせる可能性があることを考慮し、10歳以降に胸壁のデバイスを抜去し、正常な胸郭成長を妨げないようにしなければならない。
ここに説明したこれらの手法の主な欠点は延長するための手術を何度も行う必要があることであるのは明らかで、これには感染、創離開、最終的な脊椎又は胸壁の強直の可能性を伴う。効率的でない、又は無効な延長が強直により生じ、長期的に患者への恩恵を減少させる可能性がある。そのため、1回の手技又は再手術の数が限られている短セグメントの手技は、複数回の手技に伴う病的状態を減少させるため非常に望ましい。切除可能な1個の半椎など短セグメントの先天性疾患、又は5セグメント未満の異常部分の固定は、有意な医原性の成長障害をもたらすことなく、脊椎変形及び併存する肋骨変形を抑制できる1回の手技の例である。半椎の切除は従来の extracanal 前方及び後方アプローチ又は後方からのmore transcanal techniqueのみで行われる可能性がある。これらの手技は、短セグメントの先天性湾曲を大きく矯正することができ、のちに固定高位の延長が必要になる二次的な構造的湾曲の発現を予防する
現時点では、EOS治療のための手術計画及びアウトカムに関して多くの問題が未解決のままであり、集中的な研究の課題である。これらには以下が含まれる:
1. 後弯、特に近位胸椎後弯の管理。後弯を扱う場合、伸延法は生体力学的に不合理であるため、連続的な伸延を継続すればほとんどの場合、近位胸郭アンカーに不具合が生じることが予測される。
2. 先端部の回旋及び変位のコントロールと凸側の片側胸郭への脊椎貫通 胸壁又は脊椎の純粋な伸延は先端部の変形を有効に抑制するものではない。
3. 先天性でない胸郭変形患者に対する胸壁のコンストラクトの使用。インプラントの複数のセグメントでの拡張の存在及び設置及びリビジョン手術により生じた瘢痕により、胸壁のコンプライアンスが消失したというエビデンスは、脊椎の回旋変形によりゆがんだ胸壁に対するそのような治療の適切さについて重要な疑問を提議する。
4. この問題に対して導かれる結論は、胸郭体積と肺容量が成熟前に倍増することが予測される10歳以降にインプラントを抜去することの妥当性である。治療方法の本来の目的を無効にする、胸壁のインプラントがこの正常な胸囲拡張を妨げる可能性があることは無視できない。
5. 特に長期間使用した場合の胸郭周囲長発達に対する非手術的方法(Casting及び装具)の影響。矯正力が肋骨に加えられるため。
考察
EOS治療の目的は、生命を脅かす可能性のある変形を安全かつ有効に管理することである。EOS患者が若く、栄養不足であることが多く、さまざまな内科疾患、神経疾患、呼吸疾患に罹患しやすいため、医師は、積極治療を適応とする客観的基準を決定しなければならないだけでなく、障害、ならびに患者の一次診断及び関連共存症から派生する合併症の考えられる原因も考慮しなければならない。本レビューに示した概要に従った慎重な術前評価によって、また、適切な相談を用いて、この複雑な患者群の安全かつ有効な治療が可能であるはずである。
キーポイント
・EOS患児には、肺、心臓、神経、消化器、代謝/栄養状態など有意な寄与併存症があり、脊椎/胸壁の変形を安全かつ有効に治療するためこれらに対処しなければならない。
・積極的な矯正治療を行うための客観的基準には、変形の進行、胸椎及び/又は胸囲の発達障害、体重が増加しないことがある。
・脊椎又は胸壁のコンストラクト及び手技には多くの選択肢があり、その実施は、変形の長さ(局所又は長いセグメント)、患者の年齢、診断、病的状態の可能性、各手技の合併症によって決定される。
august03
☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?
早期発症側弯症に対する術前の内科的及び外科的計画
Charles E. Johnston, MD
早期発症側弯症(EOS)患者に対する手術計画には、その患者が、適切な適応とされた治療方法に適した候補であることを確認するための一連の評価と決定が関与する。第一の最も重要な決定は、患者が実際に、外科的治療又はdelaying tactic(引き延ばし法)という積極治療の適応であることを決定することである。この決定は、脊椎及び/又は胸郭の成長障害の進行、記録、及び考えられる障害、ならびに基礎的診断及び関連する共存症合併症に関する患者の診断及び予後の分析に基づく。
積極治療―客観的な基準
胸郭の成長を促しつつ変形を軽減又は抑制するための積極介入を進めることはEOSへの介入の2つの主要な目的であり、これは胸椎又は胸郭体積、もしくはその両方の成長障害のエビデンスを伴う脊椎変形の増大が認められることで決定するのが理想的である。Cobb角の増大は、受動的治療(観察、装具使用)を放棄し、積極治療を開始しなければならないことを評価する方法としてなじみ深く、ある程度直観的な方法である。この従来の評価に加えて、骨盤の幅の成長を連続的に測定し比較した、T1-T12セグメントの成長障害又は低下は 、胸椎を延長するための治療を開始する客観的な基準である。成熟時にT1-T12セグメントが過度に短い(18 cm未満)と、肺機能の予測値(有意な呼吸器疾患罹患に関連する肺障害の程度)が45%未満になるためである。胸郭のコンピュータ断層(CT)スキャンは、特に連続的に撮影した場合、胸郭体積の成長が低下しているかどうかを決定するためにGallogly が提供したデータと比較できる胸郭体積を記録するためだけでなく、脊椎貫通による軸平面の胸郭変形及び凸側の片側胸郭の狭小化に注意を向けるためにも有用である。
術前の検討
積極介入を選択すれば、手術方法に重大な影響を与えうる関連異常を評価しなければならない。麻酔を困難にする可能性のある心臓、腎臓、代謝性の症状は、明らかに特定すべき内科症状であり、たとえば先天性側弯症など、患者の3分の1に生じる可能性がある。脳脊髄軸異常はもちろん、脊椎変形治療の明確な懸念事項であり、先天性の変形の最大38%、小児の特発性変形では20%未満に生じる。そのため、脳脊髄幹のMRI評価はこの患者集団に対する術前評価として指示されることが多い。
肺系統はおそらく、介入の主要な指標となることから、多くの候補者で術前に問題がある可能性が高い。気道管理のための肺の内科的及び麻酔に関する協議は最も重要である。上気道の内径、限界に近い肺の状態による再挿管の可能性、頸部の運動を制限し再挿管が難しいか潜在的な不安定性があれば、脊髄を脅かす頸椎の異常に基づき、気管切開術を検討する必要がある。誤嚥から気道を保護するための胃底ひだ形成術及び細い気道の機能最大化(気道陽圧、気管支拡張)が必要になる可能性も高い。筋神経系疾患(脊髄性筋委縮症など)及び胸壁又は横隔膜の機能障害(関節拘縮症、肋骨癒合又は動揺、先天性横隔膜又は胸壁欠損)の患者における術後の呼吸器サポートは、適切な患者診断にて予想しなければならない。横隔膜又は胸壁の運動を評価するための術前のX線又はMRIは、特に胸壁の運動障害があるとわかっている診断では、術後に呼吸不全が生じうる重要な予測因子である。しかし、おそらく、麻酔及び肺の健康に適した最も重要な術前評価は可能であれば術前の肺機能検査である。これは、術後の呼吸器疾患に対する最良の予後検査として、また積極的治療の客観的基準を提供するのに適した最良の検査として十分認識されている。残念ながら、これらの検査は5歳以下の小児では実施できないため、治療の客観的適応を提供するため、すでに述べられた他の基準に頼らなくてはならない。
手術計画における次の検討事項は、患者の全体的な栄養状態を評価することである。手術手技の成功又は不成功のいくつかの重大な側面は、このパラメータに大きく左右される場合がある。創傷治癒や、インプラントが設置される可能性のある突出した骨部分を覆う十分な皮下組織は、絶対リンパ球数、血清タンパクなどの栄養学的パラメータに左右される。体重増加によって示される十分な摂取を保証するため、手術前の数カ月間カロリー摂取をモニターする必要がある。摂取不良の疑いがある場合は、Gチューブが推奨される。皮膚脆弱性は 得異常状態自体よりもエーラーズ=ダンロー症候群やマルファン症候群など、根底にある結合組織疾患に左右されるところが大きいが、本来の皮膚状態にかかわらず、栄養不良状態が創傷治癒不良や感染症にかかりやすい一因であることは広く認められている。最適な状態の皮膚状態が曖昧であれば、プロファイルに関してインプラント及び手術手技を慎重に選択しなければならない
栄養不足及び皮膚脆弱性による凝固メカニズム不全による過度の出血傾向は、全体の出血時間など、慎重な病歴及び標準的な血液学的検査によって評価する必要がある。
骨密度は、栄養状態を反映しており、栄養サポートにより改善できる可能性がある。骨密度の測定は、骨固定の完全性を改善するため、可逆的な骨減少特定に有用である。一方、骨減少は基礎的診断(例、骨形成不全)を反映する可能性があるため、骨固定部位を改善するため、抗破骨細胞薬(pamidronateなど)の開始や、元来予定していなかった追加部位の計画を検討するための代謝の協議が必要である。
手術適応
外科的管理に対する一般的な適応は、手術以外又は遅延させる方法を用いても脊椎変形(側弯、後弯、CTの貫通指標)がどうしても進行する場合、胸郭の成長(T1-T12セグメント長、胸囲、CT肺容量)の遅延又は障害がある場合、臨床的呼吸障害(成長障害、肺感染症発生率上昇、補助換気又は酸素補給の必要性の増大)がある場合が、単独でみられるか複数みられることが考えられる。
手術計画―手技とコンストラクト
EOSの外科治療は、発展途上にあり、議論を呼ぶ問題である。様々な病因及び重症度のEOSの患者シリーズで12人の経験豊富な外科医が好みの治療を行った最近の研究では、この患者集団の現在の「最新」の選択肢の有意差が示された。コンストラクトの計画に関する本考察では、計画の過程の一般的な概念のみレビューし、考察された計画を支持するアウトカムデータを提供する予定はない。
予備的なhalo-gravity tractionは基本的にどのようなタイプの変形にも有用であり、特定の施設では、非手術的方法(すなわち引き延ばし法)を続行させるため、脊椎又は胸壁ベースでの成長が可能なコンストラクトの設置を助けるため、あるいは最終的な矯正用コンストラクトとともに補助するため、矯正法として広く使用されている。この手法は、胸郭後弯変形の矯正の場合や、肺及び栄養状態が最適でない患者の場合に、特に有用である
halo- gravity traction使用に対する唯一の禁忌には、適切な頭蓋骨のピン固定ができない形成異常又は幼児の頭蓋骨、不明確な安定性がある頸椎異常、牽引不足を生じる髄腔内の塊病変又は重度の脊柱管狭窄、患者が牽引に耐えられない重度の認知障害がある。
Spine-to-spine growth-sparing(脊椎‐脊椎の成長温存)コンストラクト(最も一般的にはデュアル「グローイング」ロッド)は柔軟性があり矯正可能な非先天性の変形に最も適している。Akbarnia et alは、主に、通常歩行可能な小児にみられる特発性又は特発性のような変形に対し、デュアルグローイングロッドシステムを用いた大規模な実験を報告している。デュアルロッドコンストラクトは、終椎の1高位固定と組み合わせた二重の両側固定であり、1970年代にMoeが紹介した、古くからある皮下に設置するシングルロッドよりも本質的に安定しており、クランクシャフト現象 及び近位隣接椎間後弯変形、ならびにアンカーの抜けやロッド折損による不具合を最小限に抑えると報告されている。
両側の二つの椎弓根スクリュー固定は、遠位の固定には推奨されるが、近位の固定には両側の椎弓根―横突起又は椎弓根―supralaminarフック、又は両側の椎弓根スクリューが推奨される。後者のアンカー構成は、より安定した近位固定としても推奨されてきたが、椎弓根スクリューの抜けはやはり発生し、万一スクリューが脊柱管に入れば神経学的合併症が重篤になる可能性がある
Spine-to‐spineグローイングシステムは、異常椎体の上下に広がる長セグメントの変形を認め、そのために、短セグメントの切除/固定術では不十分な、選択された先天性側弯症患者に使用されてきた。Spine-to-spineコンストラクトの主要な禁忌には、少なくとも急には安定したアンカー固定ができない小さな脊椎要素、腹部方向の力により後方の骨付着部分からアンカーが抜けることが予想される胸郭上部の著しい後弯がある
Spine-t-rib growth-sparingコンストラクトは、より硬い変形に適用される。通常先天性であり、胸壁の異常(通常は肋骨癒合)があり、片側胸郭及び肺の成長障害が懸念される。肋骨癒合を伴う先天性側弯症は、拡張性胸郭形成術及びvertical expandable prosthetic titanium rib (VEPTR)のインプラントが開発されるきっかけとなった疾患である。これらのコンストラクトには、脊椎/胸郭の変形の頭側の肋骨セグメントに取り付ける「クレードル」により近位の肋骨に装着し、変形の尾側にはサブラミナフック又は椎弓根スクリューを用いて脊椎を固定する。小児の体の大きさによって、より有効に胸部フィステルを開き、2つ目のrib-to-rib デバイスを用いて、胸壁に2つ目のデバイスをさらに外側の位置にすることが多い。先天性癒合のない胸郭VEPTRかその他のインプラントを使用するかに疑問がある場合は議論が生じる。初期のVEPTR症例の慎重なフォローアップでは、胸壁の伸展性喪失 及び拡張術によって生じたextraresidual volumeの無効な利用27がみられ、そのためにこれらのコンストラクトを喜んで受けようとは思わない状況がみられた。このコンストラクトは先天的に拘束されている片側胸郭には明らかに有効だが、正常な胸郭における価値は疑わしい。正常な環境下では胸囲及び胸郭体積が10歳以降に倍増し、肋骨を不動化するインプラントは、正常な胸郭の成長を遅らせる可能性があることを考慮し、10歳以降に胸壁のデバイスを抜去し、正常な胸郭成長を妨げないようにしなければならない。
ここに説明したこれらの手法の主な欠点は延長するための手術を何度も行う必要があることであるのは明らかで、これには感染、創離開、最終的な脊椎又は胸壁の強直の可能性を伴う。効率的でない、又は無効な延長が強直により生じ、長期的に患者への恩恵を減少させる可能性がある。そのため、1回の手技又は再手術の数が限られている短セグメントの手技は、複数回の手技に伴う病的状態を減少させるため非常に望ましい。切除可能な1個の半椎など短セグメントの先天性疾患、又は5セグメント未満の異常部分の固定は、有意な医原性の成長障害をもたらすことなく、脊椎変形及び併存する肋骨変形を抑制できる1回の手技の例である。半椎の切除は従来の extracanal 前方及び後方アプローチ又は後方からのmore transcanal techniqueのみで行われる可能性がある。これらの手技は、短セグメントの先天性湾曲を大きく矯正することができ、のちに固定高位の延長が必要になる二次的な構造的湾曲の発現を予防する
現時点では、EOS治療のための手術計画及びアウトカムに関して多くの問題が未解決のままであり、集中的な研究の課題である。これらには以下が含まれる:
1. 後弯、特に近位胸椎後弯の管理。後弯を扱う場合、伸延法は生体力学的に不合理であるため、連続的な伸延を継続すればほとんどの場合、近位胸郭アンカーに不具合が生じることが予測される。
2. 先端部の回旋及び変位のコントロールと凸側の片側胸郭への脊椎貫通 胸壁又は脊椎の純粋な伸延は先端部の変形を有効に抑制するものではない。
3. 先天性でない胸郭変形患者に対する胸壁のコンストラクトの使用。インプラントの複数のセグメントでの拡張の存在及び設置及びリビジョン手術により生じた瘢痕により、胸壁のコンプライアンスが消失したというエビデンスは、脊椎の回旋変形によりゆがんだ胸壁に対するそのような治療の適切さについて重要な疑問を提議する。
4. この問題に対して導かれる結論は、胸郭体積と肺容量が成熟前に倍増することが予測される10歳以降にインプラントを抜去することの妥当性である。治療方法の本来の目的を無効にする、胸壁のインプラントがこの正常な胸囲拡張を妨げる可能性があることは無視できない。
5. 特に長期間使用した場合の胸郭周囲長発達に対する非手術的方法(Casting及び装具)の影響。矯正力が肋骨に加えられるため。
考察
EOS治療の目的は、生命を脅かす可能性のある変形を安全かつ有効に管理することである。EOS患者が若く、栄養不足であることが多く、さまざまな内科疾患、神経疾患、呼吸疾患に罹患しやすいため、医師は、積極治療を適応とする客観的基準を決定しなければならないだけでなく、障害、ならびに患者の一次診断及び関連共存症から派生する合併症の考えられる原因も考慮しなければならない。本レビューに示した概要に従った慎重な術前評価によって、また、適切な相談を用いて、この複雑な患者群の安全かつ有効な治療が可能であるはずである。
キーポイント
・EOS患児には、肺、心臓、神経、消化器、代謝/栄養状態など有意な寄与併存症があり、脊椎/胸壁の変形を安全かつ有効に治療するためこれらに対処しなければならない。
・積極的な矯正治療を行うための客観的基準には、変形の進行、胸椎及び/又は胸囲の発達障害、体重が増加しないことがある。
・脊椎又は胸壁のコンストラクト及び手技には多くの選択肢があり、その実施は、変形の長さ(局所又は長いセグメント)、患者の年齢、診断、病的状態の可能性、各手技の合併症によって決定される。
august03
☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?