列車がぶつかると、お化け屋敷そっくりのドアがギーッと音を立てて観音開きに割れた。終点に着いたのだ。
巨大なベッドに男が横たわっていた。
こぼれ落ちそうなほど巨大な両眼、不自然なほど高いワシ鼻、ナイフで刻み込んだような深いシワ。男は、南ドイツのバートヴァルゼーの魔女の仮面をかぶっていた。
ジェフが真っ黒なゆりかごに寝かされていたマクミラを紹介した。「パパ、娘のマクミラです」
「長生きはするものじゃ。麝香の香りを持つ赤子にまさか巡り会えるとは。いや、久しぶりというべきか」ドイツ訛りの英語はしゃがれており相当の年寄りとわかった。
「わたしをしってるのでちゅか?」
「いかにも」
「なぜ?」
「儂の名前が、かつてパラケルススだったと言えばわかるかね」
赤子は、惚けたような、怒ったような顔をした。
「ホッホッホッ興奮させてしまったね。すべてはアポロノミカンに予言されていたよ。
・・・・・・竜延香の香りを持つ赤子
麝香の香りを持つ赤子
ナオミとマクミラが現る刻
パラケルススの運命が終わりを告げる
そしてゲームが始まりを告げる・・・・・・」
「いったい、なんのことでちゅ。ナオミというのはだれ?」
「儂はこれまで五百年近い歴史を眺めてきた。過去、現在、未来を通じて旅した年月を合わせれば、さあ、いったいどれだけの年月になるか。ある時はパラケルスス、ある時はファウスト、そしてこの時代ではジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグ。さまざまな名で呼ばれてきた。だが、儂もそろそろプルートゥの元に行く時が近づいているようじゃ」
「まだ、だめでちゅ。ちっていることをじぇんぶはなすでしゅ」
「マクミラよ。お前は父親より兄弟たちに似ているなあ。あるいは、儂の知らないお前の母親に似ているのか。心配せずとも必要なことはジェフに教えてあるし準備もしてある。我が孫よ・・・・・・・」
そこまで言うと、ヌーヴェルヴァーグ・シニアの姿はまるで日の光に当たった吸血鬼のようにボロボロと崩れていった。
彼の姿はひとかたまりの埃になって、ベッドの上には魔女の仮面だけが残った。
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