続・世界に恥ずべき、アメリカの選挙制度――これでどうして、民主主義を世界に押し売りすることが出来るのか?
大統領候補 Jill Stein(緑の党) 大統領候補 Bernie Sanders(民主党)
アメリカ大統領選挙の予備選が激しく闘われています。しかし通信社ロイター(Reuters)と調査会社イプソ(Ipsos)の調査によると、アメリカ人の半分以上は特定の候補者にたいして不正がおこなわれていると感じているようです。
そして約71%が、大統領候補の指名を代議員にまかせるのではなく直接に選びたいと思っていることも、この調査で分かってきました。代議員を選んで彼らに大統領の指名を任せる間接選挙ではなく、直接選挙で選びたいというのです。
また何ヶ月にもわたる予備選ではなく、全ての州が同日に選挙すれば一日で済むと思っているひとたちも半数近くにのぼっています。しかも、これらの結果については共和党も民主党も変わらなかったことを、調査結果は示していました。
「有権者の50%が大統領候補者の選挙制度は『不正操作されている』―世論調査」
50% of US voters say presidential candidate system 'rigged' – poll
https://www.rt.com/usa/341153-rigged-presidential-voting-system/
この予備選が不正に満ちていたことは、以前のブログ(2016/03/30)でも紹介しましたが、とりわけアメリカの選挙制度に大きな歪みがあることを世界にさらすことになったのはニューヨークの選挙でした。
この選挙で勝ちを制したものが大統領候補の指名を確実にするだろうと予想されていましたし、民主党ではサンダース氏が各州予備選のたびに票を伸ばしてきていましたから、ひょっとすると、ニューヨーク州でもサンダース氏がヒラリー女史をおさえて一挙に指名への階段を駆け上るのではないか、という声すら出始めていました。
ところが4月19日(火)、ふたを開けてみたら、ヒラリー女史が得票率 58 %対42%でサンダース氏を制して勝利宣言をすることになりました。サンダース氏は大多数の郡で勝利しましたが、ニューヨーク都市圏ではクリントン女史が大勝したのです。ところが同時に、ニューヨーク市の選挙制度の腐敗ぶりも暴露されることになりました。
というのは、数百万人のニューヨーカーたちが、ニューヨーク州の制限的な投票法のおかげで投票できなかったからです。
同州では期日前投票ができませんし、予備選当日の投票も許されません。
不在者投票をする場合も正当な理由を認められた場合に限られます。当日は町にいないことを証明しなければなりませんし、障害者の場合は当日どうしても投票所に行くことができないことを示す証明書が必要です。
また選挙日に登録して投票しようとしても、それはできません。投票者登録の締め切りは投票日の25日前だからです。
これは、候補者たちがニューヨークでキャンペーンを始めるはるか以前ですから、自分の意見を決める材料がありませんから、これでは全く無意味です。
「数百万人のニューヨーカーたちがニューヨーク州の制限的な投票法のおかげで選挙権を奪われる」
Millions of New Yorkers Disenfranchised from Primaries Thanks to State's Restrictive Voting Laws
http://www.democracynow.org/2016/4/19/millions_of_new_yorkers_disenfranchised_from(April 19, 2016)
一方、独立または無党派の有権者たちが2016年4月19日の民主党と共和党の「非公開予備選」で投票するためには、190日以上前の2015年の10月に彼らの党員登録を変えなければなりませんでした。
「非公開予備選」というのは、あらかじめ党員として登録しているひと以外は、立候補者に投票できない仕組みです。
トランプ氏の子どもたちも、父親に投票するために無党派から共和党へと登録変更しようとしましたが、「190日以上前の2015年の10月に党員登録をしなければならない」仕組みの中で、やむをえず涙をのむことになりました。
こうして、『ネイション』誌の記者アリ・バーマンによれば、このような仕組みの中で30%ちかくのニューヨーカーが、公民権を奪われたそうです。
しかし、どの候補者がどのような意見をもっているかは、各政党候補者の論戦を聞いてからでなくては判断しようがありません。サンダース氏の意見を聞いて民主党の党員に登録し、サンダース氏に票を投じたくなっても、すでに手遅れになっているのです。
特にサンダース氏が生まれ育ったブルックリンでは不正が目立ちました。有権者の名前が選挙人名簿から削除されていることが投票所で判明したり、自分の投票所で投票できなかった有権者の数が何万人にもおよびました。
WNYCラジオは、ブルックリンの登録民主党員が6万人も減っていて、そのはっきりした理由はわからないと報じています。
それどころか、ニューヨーク市選挙管理委員会は、2015 年 11 月以降、ブルックリンの 12 万 5000人以上の有権者の名前が選挙人名簿から削除されたと認めました。
ところが、この同じ期間にニューヨークの他の地区では、民主党の党員登録数は増えているのです。
ニューヨーク市のビル・デ・ブラシオ市長でさえ、「有権者と投票権監視人たちから、ブルックリンの選挙人名簿者には多数の誤りがみられ、中には建物ごと、あるいは 区画ごと、まるまる有権者の名が排除されていた例もあったという報告が入っている」と発表しました。
「ニューヨーク予備選:投票所が混乱、スキャナーの故障、選挙人名簿から1区画分の登録者名がごっそり消滅」
New York Primary: Chaos at Polling Sites, Broken Scanners & Whole Blocks Purged from Voter Rolls
http://www.democracynow.org/2016/4/20/new_york_primary_chaos_at_polling(April 20, 2016)
また、自分の政党所属が理由不明のまま変更されていることに気づいたニューヨーク州民も少なくありませんでした。
たとえば、『ニューヨーク・デイリーニュース』紙は、ジョアンナという19歳の女子学生の例を紹介しています。彼女は2014年に大学のオリエンテーション時に民主党員として登録したのですが、先週になってから無党派として登録されていることに気づいたというのです。
そこで慌てて選挙管理委員会に電話をしたところ、「昨年の9月に所属変更手続きをして、それを書類を10月に送付してきている」という返事だったそうです。
彼女は、「今度初めて投票権を行使するのだから、そんなバカなことはあり得ないと抗議したが、全く取り合ってくれなかった」「私はとつぜん選挙権を奪われた」と怒りの声を記者に語っています。
このような声はニューヨークの各地から聞こえてきて、政党所属が理由不明のまま変更されていることに気づいたニューヨーク州民は集団訴訟を起こし、自分たちが投票できるように同州の「非公開」予備選を「公開」のものに変更するよう要求しました。
彼らは、予備選当日の投票を「公開」とし、選挙人登録をしている有権者は共和党であろうが民主党であろうが、どの候補者に投票してもよいようにする訴訟を起こしたのでした。そして裁判官の緊急判決を求めたのでした。
しかし選挙当日までに間に合うはずがありません。
このように日本では常識となっているようなことが、「民主主義のモデル国」と称されるアメリカで実現していないことは、まさに驚きとしか言いようがありません。
このような事例は、次にみるように、まだまだ続きます。
たとえば、「投票所に行ったら職員が遅れてきて、投票時間に会場が開いていなかった」あるいは「投票所のスタッフが投票機を操作できなかった」なとといった苦情が900件以上もあったそうです。
それだけでなく、「機械が故障しているが、いつ回復するか分からないと言われた」「機械が故障しているから別の投票所に行くよう指示された」などといった苦情が、州の各地で絶えなかったようです。
それどころか、当日になってから「別の投票所に行くよう言われた」「別の投票所に行くよう誤った指示を出され、その投票所に行っても受け付けてもらえなかった」など、つじつまの合わない情報を伝えたという事例もあります。
もっとひどい事例は、選挙管理委員会が予備選の期日を有権者に正しく伝えず、その通知を出しなおしをしたり、予備選の期日と秋におこなわれる本選の期日と混同させるような通知を出して、通知を3回も出し直しをするというところもあったようです。
このようにアメリカでは、まるで発展途上国の選挙と見間違えられるような光景が展開されています。とりわけニューヨーク州は選挙制度の不備が指摘されてきたところですが、似たような光景はアメリカ全土で見られると『ネイション』誌は指摘しています。
ただしニューヨーク市は、サンダース氏が生まれ育ったところであるだけに、ここでヒラリー女史が敗北するようなことがあれば、アメリカの政界財界に激震が走るわけですから、裏で不正操作がおこなわれるよう工作された可能性も否定できません。
だからこそ、先にも述べたように、通信社ロイター(Reuters)と調査会社イプソ(Ipsos)による世論調査で、アメリカ人の半数近くが「予備選で特定の候補者にたいして不正がおこなわれている」と感じているのでしょう。
日本では成人に達すれば自動的に選挙権が与えられますし、投票所で混乱することもありません。ところがアメリカでは発達した資本主義国では当然とされているような民主的選挙制度が、いまだに実現していません。
なぜこのような仕組みが維持されているのか、それは財界・支配階級が権力者として政界を牛耳るためには、なるべく選挙権を制限する必要があるためです。
長い間、黒人に選挙権が与えられなかったのも、2大政党以外から立候補し大統領に当選することが事実上、不可能であることも、同じ理由からです。
(現在でも、新しい選挙法で黒人は投票権を行使するのがさらに困難になったことは以前のブログ(2016/03/30)でも紹介したとおりです。)
アメリカでは大統領候補として「緑の党」からも内科医のジル・スタイン女史が立候補しているのですが、大手メディアはそれを報道しませんから、日本人はもちろんのことアメリカ人でさえ、このことを知らないひとも少なくないのです。
共和党ではトランプ氏に、民主党ではサンダース氏に、若者や貧困層の支持が集まる理由が、ここにあります。アメリカでは1%の富裕層に富と権力が集中し、99%の民衆は貧困層に転落して、日々の生活をしのいでいくことに苦しんでいるからです。
民衆は不満と怒りを誰に向けて発散してよいか分かりませんから、共和党や民主党の旧支配層から離反して、その票が一方ではトランプ氏に、他方ではサンダース氏に向かうことになりました。
トランプ氏の支持者は主として白人の貧困層ですし、サンダース氏の支持者は主として有色人種の貧困層です。
ふつうアメリカ民主党と言えば労働組合がその支持者で、財界寄りではなく労働者寄りと見られていますが、実態はまったく違います。ヒラリー女史は、むしろウォール街のお気に入りです。
それはCNNが「クリントン夫妻は、2001年2月から2015年5月までの間に、729回の講演で、1億5300ドルの講演料を受け取っており、平均謝礼210,000ドルだ」と報じていることからも明らかでしょう。
上記の事実は元財務省高官のポール・グレイグ・ロバーツ氏の言によるものですが、さらに氏は次のように述べています。
ヒラリー・クリントンが民主党大統領候補となる可能性が高いことが明らかになるにつれ、彼女は更に金をもらうようになっている。ドイチェ・バンクは、一回の講演で、485,000ドル支払い、ゴールドマン・サックスは、三回の講演で、675,000ドル支払った。バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、UBSとフィデルティ投資は、それぞれ225,000ドル支払った。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-7ce5.html
ヒラリー女史は同時に「戦争屋」「殺人好き」でもあります。
アメリカとNATOが主導して、アフリカで最も生活水準が高く自由だったリビアを侵略し、その結果、カダフィー大佐が惨殺されたとき、ヒラリー女史が嬉しげに「来た、見た、死んだ」と叫んだ映像は、あまりにも有名です。
"We Came, We Saw, He Died"
https://www.youtube.com/watch?v=Fgcd1ghag5Y(動画11秒)
先に紹介した元財務相高官のロバーツ氏は、「戦争屋ヒラリー」を 「殺し屋キラリー」「殺し屋大統領 President Killary」とも呼び、次のように述べています。
ヒラリーは戦争屋だ。中国を東リビアの石油投資から追い払うため、CIAが支援した聖戦士集団を利用した“アラブの春”で、安定して、基本的には協力的だったリビア政府を破壊するよう、オバマ政権を押しやった。
彼女は夫に、ユーゴスラビア爆撃を促した。彼女は、シリアでの“政権転覆”を推進した。
彼女は、ホンジュラスの民主的に選ばれた大統領を打倒したクーデターを監督した。民主的に選ばれたウクライナ大統領を打倒するクーデターを画策したネオコンのビクトリア・ヌーランドを、国務省に引き入れたのは彼女だ。
ヒラリーは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を“新ヒトラー”と呼んだ。大統領ヒラリーは、ますます多くの戦争を保障する。
「大統領キラリー、世界はヒラリー大統領を生き延びることができるか」
President Killary: Would the World Survive President Hillary?
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-7ce5.html
よりにもよって、「ヒトラーと戦って大量の犠牲者を出しながらも第2次世界大戦の流れを逆転させる原動力となったソ連」の後継者プーチン氏を、“新ヒトラー”と呼ぶのですから、ヒラリー女史の倒錯ぶりはここに極まれり!と言うべきかも知れません。
それに比べてトランプ氏の方はどうでしょうか。
氏は、民主党からはもちろんのこと、共和党幹部からも、大手メディアからも攻撃され続けていますが、4月27日(水)にワシントンDCのメイフラワー・ホテルで演説した外交政策を見るかぎり、ヒラリー女史よりはるかにハト派なのです。
トランプ氏は、アメリカが今までやってきた「政権転覆」「クーデター」外交を否定し、ロシアや中国を敵視する政策をやめると明言しています。「NATOを解体する」とまで言っているのですから、旧支配層が動転したのも無理はないでしょう。これでは、ますますトランプ叩きが激しくなること請け合いです。
「『国内政策を優先』:ワシントンDCで、トランプが語る外交政策」
‘America First’: Trump lays out foreign policy vision in Washington speech
https://www.rt.com/search/?q=Trump(27 Apr 2016)
トランプ氏はイスラム教徒の移民を禁止すると言っていますが、イギリス在住の有名なジャーナリストであるジョン・ピルジャーの意見では、イギリス首相キャメロン氏の意見と本質的には何も変わらないものです。
キャメロン氏の言う「EU脱退」も、その裏の理由は「EUによる移民の割り当て」に反対だからです。オバマ氏やヒラリー女史も、やっていることは何も変わりません。EUに大量の難民が流れ込んでいるのは、リビアやシリアの内戦をつくり出したのは、当のアメリカだからです。
またオバマ氏は、クリントン女史と一緒になって、中米ホンジュラスでクーデターを起こし、民主的に選ばれたゼラヤ大統領を放逐しました。貧困と闘い、成果を上げつつあった大統領です。しかし、いまホンジュラスは中南米で最も貧困で危険な国になっています。
先日もホンジュラスの世界的に著名な先住民女性活動家が暗殺されましたが、それを黙認しているのもヒラリー女史ですし、このような貧困と危険が蔓延する国を逃れてアメリカにやってきた大量の移民を百万人単位で危険極まりない本国に強制送還してきたのも、オバマ大統領や元国務長官ヒラリーでした。
ところが安倍政権は、このようなオバマ大統領やヒラリー女史と一緒になって戦争政策を推進しようとしています。日本の大手メディアも「アメリカ初の女性大統領」が誕生するかも知れないと持ち上げています。
しかしニューヨークにおけるアメリカ大統領の予備選とその混乱ぶりをみれば、「アメリカ民主主義」なるものがいかに内実の乏しいものかがよく分かるはずです。
トランプ氏やサンダース氏の功績は、この予備選を通じてアメリカ民主主義の空洞化ぶりが世界中にさらけ出されたことだと、『ネイション』誌の記者は述べていましたが、まさにそのとおりだと言うべきでしょう。
と同時に、ヒラリー大統領が誕生すれば、最悪の場合、第3次政界大戦になるかも知れませんし、核戦争になるかも知れません。そして日本の戦争法案はいよいよ本格的に始動することになるでしょう。
私たちは「英会話学習」「英語で授業」にうつつを抜かしている場合ではないのです。