AIJ投資顧問の闇 その3
本件については余り何回も書くことはないと思っていたのですが、直近の報道を見ていて「感ずる」ことがありますので、もう一度書くことにしました。
まず本日(2月29日)、金融庁が「投資一任業務」を行う金融商品取引業者(ほとんどが投資顧問会社だと思います)265社に対して、一斉調査を始めました。
2段階に分かれおり、まず第1段階では顧客属性(年金基金とか学校法人とか)、顧客ごとの契約内容・契約金額、顧客勧誘のパンフレッド等、監視委員会検査などの外部検査の有無、顧客トラブルの有無を3月14日までに報告するように求め、そこで「疑わしい業者」が出てくれば第2段階として顧客ごとの運用の内容、顧客ごとの運用利回りを求めるというものです。
ここまでは、あくまでも金融庁監督局証券課による「調査」であり、多分そこから「非常に疑わしい業者」が出てくれば、ここで初めて証券取引等監視委員会が「立ち入り検査」に踏み切るようですが、何とも「悠長」な気がします。
素朴に思うのですが、「火災を起こしている家屋(AIJ投資顧問)」を遠巻きにして「火の用心は万全ですか?」と同じ町内を聞きまわっているようなものです。
もう1つ、報道機関がAIJ投資顧問に運用を委託していた「厚生年金基金」などの特定を行っており、昨年末で総顧客数が94(うち厚生年金基金81)、委託金額総額が2043億円だったそうです。
これも、被害者の特定はAIJ投資顧問を「叩けば」分かるもので、わざわざ報道機関が全国を聞きまわって被害者を特定して大々的に実名報道する必要は無いはずです。
要するに言いたいことは、AIJ投資顧問への捜査が「驚くほど悠長」だということです。運用資産の9割が「消滅している」という報道が最初から出ているのですが、これは何処から出てきた数字なのか、そもそも「ちゃんと調べた数字」なのかも分かりません。
オリンパス事件でも、1990年代の損失が1000億円という「実際には考えにくい」数字が初期の段階で「どこからともなく」出てきて、時効の壁もあったものの最後まで「最初に1000億円の損失があった」ことを前提としてすべてが組み立てられているのです。
AIJについて、何をさておいてもやるべきことは、資金の流れを徹底的に調べて残っている財産を早急に保全することなのです。それこそ年金加入者の大切な資産なのです。「再発の防止」や「被害者の特定」などは後回しでよいのです。
聞くところによると関与者はまだ自由に動き回っているようで、仮に「残っている資産」がもっとあったとしても、完全に「闇の向こう」に消えてしまう恐れがあります。
捜査体制も固まっているようには見えません。そもそも1月下旬に調査に入ったのは証券取引等監視員会の開示調査課による「任意調査」でした。これは(多分)事業報告書に関する調査の担当が開示調査課だからなのですが、そこで「資産の9割が消滅しているらしい」ことが分かった段階で、すぐに強制調査権のある「特別調査課」なり捜査機関が出てきて関係資料をすべて押収する必要があったはずなのです。
繰り返しですが、最優先は年金加入者のために「残っている財産」を確保することなのです。あくまでも個人的感触ですが、AIJ投資顧問は最初から真面目に年金運用を行うのであれば、わざわざケイマンなどを使う必要は無かったはずで(最初から使っていたのか、損失が出始めてから使い始めたのかは不明ですが)、さらに「不自然に高い運用利回り」を誇示して直前まで運用資金の新規獲得を図っていたなど、「確信犯」的なところがあります。
ということは、いざという時(もちろん発覚した時)のためにいろんな手を打っていたと考える方が自然なのです。「驚くほど悠長」ではいけないのです。
話が変わりますが、2月29日付け
「ドラギECB総裁のジレンマ」についてコメントを頂いています。「AIJ投資顧問の闇」には驚くほど多数のコメントを頂いているのですが、ユーロに関しての重要なご質問なので、先にお答えしておきます。
まず、1月8日付け
「ユーロ急落の本当の理由」と矛盾するというご指摘ですが、基本的に「量的緩和は通貨安」は変えていません。従ってLTRO第2弾があれば当然ユーロ安になるのですが(正確にはLTROが予想より多いとユーロ安、予想より少ないとユーロ高かもしれません)、本日の結果をみて考えてもう一度書きます。
もう1つ、なぜギリシャをユーロに入れているのかとのご質問ですが、本誌でも歴史的背景を昨年7月に「ユーロの行方・ヨーロッパの歴史」に5回にわたって書き、昨年12月26日付け「
英国のEU離脱」ではEUの前身のEECの歴史について書き、いろいろ考えています(時間がありましたら読んでみて下さい)。
確かにギリシャはヨーロッパ文明発祥の地なのですが、それだけでは説明できません。やはり冷戦終了後のアメリカに対抗する勢力を結集する一環として、ドルに対抗する通貨として作られたのがユーロで、対アメリカという観点ではギリシャもドイツも同じ船なのでしょう。
これは非常に奥が深いテーマなので、今後も掘り下げて考えて行きます。
平成24年3月1日
AIJ投資顧問の闇 その2
やはり世間の注目度が高いようですので続編を書きます。
この事件の最大のポイントは、現行の年金運用の仕組みで「起こるべくして起こった」事件であり、最大の不幸は「たまたま最初に発覚した」この事件が推定被害総額2000億円近い「最大級」だったことです。
AIJ投資顧問は、実質運用を開始した2004年ころから「損失隠し」が始まっており、またその間の2009年に日本の格付投資情報センター(R&I)がニューズレターで警告を出していたにもかかわらず「野放し状態」だったわけです。
さて「被害」を受けた厚生年金基金(一部、確定給付年金もあるようですが同じ3階部分の企業年金です)の大半が、「総合型」という同一の業種や地域の中小企業が集まるタイプのもので、利回りを「約束」しているため「損失」が出れば「補填」しなければならないのですが、当然親会社にその余裕もなく大半が加入者の損失となってしまいます。
また、こういう厚生年金基金には「役員や職員」にそれほどの「運用のプロ」がいるとも思えず、当然運用不振で「積立不足」となっているため、いきおい「素晴らしい運用成績」の投資顧問会社に委託してしまうものなのです。
従って間違いなく社会問題になるため、金融庁が大慌てで年金運用を受託している「投資一任勘定」の投資顧問会社(263社)と、財産管理を行う信託銀行への「一斉調査」を始めるようです。つまり考えれば考えるほど「年金運用の構造問題」に行き着き「行政の監督責任」が問われるからです。
AIJ投資顧問の「手口」とは、「AIJ投資顧問」が「厚生年金基金」などから「投資一任契約」を取り付け、「厚生年金基金」と「信託契約」をしている「信託銀行」に、「アイティーエム証券」を通じて「ケイマン諸島のファンド」を購入するように指図します。
ここで、「信託銀行」は「AIJ投資顧問」(あるいはアイティーエム証券)から「ケイマン諸島のファンド」の運用成果を入手して半年に一度「運用報告書」を作成して「厚生年金基金」に送付するのですが、問題は「信託銀行」が「AIJ投資顧問」(あるいはアイティーエム証券)からの報告を「自ら確認することなく」そのまま伝えていたことです。
それが、金融庁が信託銀行も「調査」する理由なのですが、当然に信託銀行は「信託契約」を盾に取り「不可抗力」と主張します。まあオリンパス事件で監査法人の責任が問われなかったのと同じで信託銀行の責任を問うことは難しいと思います。日本の金融行政は「銀行」へは性善説、「証券」(投資顧問会社も含む)へは性悪説なのです。
AIJ投資顧問へは、金融商品取引法における「勧誘の際の虚偽告知」「委託先への虚偽報告」「財務局への事業報告書の虚偽報告」などで刑事罰に問えます。このうち「財務局への事業報告」には顧客数や運用総額などを書くだけですが、財務局へ「提出」していることは間違いなく「運用総額の虚偽報告」も間違いないため、まずこの件だけで関係者を逮捕することが出来ます。詐欺性の立証とか流用先(あれば)の特定などはその後でしょう。
それでは「ケイマン諸島のファンド」へ送金された巨額資金はどのように「消滅」したのでしょう?
海外籍のファンドには海外保管銀行と海外管理会社が必ずいます。とくにすべての送金業務を行う保管銀行が重要でバミューダの銀行のようですが、もしそうであればまず情報開示はされません(オリンパス事件でもそうだったようです)。
ただ、日経平均や日本国債の先物オプションを大量に売却していたはずなので、これを受注した証券会社から追跡は出来るはずなのですが、海外(香港など)の地場の証券会社経由で発注すれば、その地場の証券会社内での顧客の特定は難しくなります。
個人的には、大半の資金はこの「オプションの売却(ショートポジション)」による損失で消えたと思います。そこでコメントも頂いているのですが、昨年の東日本大震災後の日経平均の急落でオプション価格が「説明のつかない」高騰をして「オプションのショートポジション」が「理論的に説明のつかない損失」を被った時の損失もあるはずです(日経平均が急落しているのにコールオプションまで急騰したのです)。
この背景には、証拠金維持率が一定額を割り込むと「何が何でも機械的な強制決済」をさせた証券会社(主にネット証券)と、明らかな非常事態にもかかわらず「相場の一時停止」などの措置が不十分だった取引所があり、それぞれ大いに責任があります。
米国などでは、こういう事態が発生した時は必ず「克明な調査報告書」が出て再発の防止が図られるのですが、日本では知りうる限りは何も出ていません。
ちょっと調べれば、この「強制決済に伴う、あり得ない価格に高騰したオプション」をその時点で売却して「ごく短時間で巨額の利益を得た」(多分)外資系証券やヘッジファンドがいるはずです。せめてAIJ投資顧問もその「被害」にあっていたなら「その実態」だけでも明らかにしてほしいものです。
それから一部報道で、怪しげな株のブローカーの関与が報道されています。まあ、あまり関係ないとは思いますが、巨額の資金を「運用」する浅川氏のもとに怪しげなブローカーが多数出入りしていたことは事実なのでしょう。
話は全く変わりますが、日本時間本日(2月27日)にアカデミー賞の発表がありました。2月13日付け「
アカデミー賞の発表が近づく」で予想した主演女優賞(メリル・ストリープ)と助演男優賞(クリストファー・プラマー)は「当たった」のですが、肝心の作品賞と監督賞が「大外れ」でした。わざわざ「無理」だと書いた白黒・無声映画の「アーティスト」が作品賞・監督賞だけでなく主演男優賞などもさらっていきました。
予想で「無理」とした理由は、非英語圏の「フランス映画」であるだけでなく(昨年の「英国王のスピーチ」(英国映画)のように外国の作品が受賞することは珍しくないのですが、非英語圏の受賞は記憶にありません)、現在の3D・CG化にハリウッドとして「反対」のメッセージを送ってしまうことになるからだったのですが、本当にハリウッドは「反対」だったようです。
確かに、機械化によって仕事が奪われる(撮影などの裏方部門の)アカデミー会員も多いからです。また外国語映画賞にイランの作品が選ばれたことも、米国東部(行政)や戦争にアレルギーの強いハリウッドを象徴しているようです。