この2月7日に、アメリカNFLスーパーボウルのキックオフで、ジ
ャズミン・サリヴァンと共にアメリカ国歌を歌ったエリック・チャ
ーチ。わが国でも、瞬間風速的に大きな注目を集めたようですが、
その彼が待望の新作2枚を、1週間のインターバルを挟んでリリー
スしました。
先行してリリースされた「Heart」は、すでにシングル・ヒット済
みの"Stick That in Your Country Song"、"Crazyland"を含む9曲。2
月にアップした先行情報(下方に収録)によると、収録曲が多く
2枚組でも収まらないので、ファン・クラブ限定の「&」にも分け
て、3枚でリリースする事にしたとの説明でしたが、その「&」も
6曲程度なので、一般リリースの2枚に振り分けてくれたらよいのに、
と思ってしまいます。チョッと違和感を感じるリリース形態ではあ
りますね。
オープニングは、まさに彼らしいアメリカン・ロックの"Heart on
Fire"。この手が好きな身にはストレートにカッコイイと思える、大
人のロック・ナンバーです。続く、"Heart of the Night"は途中でテ
ンポが三拍子に変わる意欲的なナンバーですが、テンポ変速は"Mr.
Misunderstood"でもやってましたね。「Heart」を通じて感じるの
は、2枚前の「Mr. Misunderstood」ほどの濃密度はないけれど、
エリックのこれまでの音楽テクニックや近年取り入れているアメ
リカ南部ルーツのサウンドを、より余裕をもって自分の表現にし
ていることです。「Desperate Man」では一部粗削りな部分もあ
りましたが、ここでは全体的にこなれた感じで聴かせてくれます。
昨年、リード・シングルとしてリリースされた"Stick That in Your
Country Song"は、「Mr. Misunderstood」以前によく取り組んで
いたアメリカン・ハードとカントリーのミックス。自動車工業が
疲弊したデトロイトや治安の悪いボルチモア、そして帰還兵の苦
難に触れ、゛カントリーソングで取り上げろ/それをNo1にする
んだ/世界中で一緒に歌おう゛と、アメリカが抱える課題に目を
向けるべきと歌われる、アイロニカルなメッセージ・ソングです。
特に耳に残ったのが、R&B風のミディアム"Never Break Heart"で
す。「Desperate Man」では、結構肩に力が入っていたソウル・
スタイルを、ここではリラックスした感じで歌っています。その
一方で、トラディショナルなカントリー・ストンプ“Bunch Of
Nothing”もやったりで、マルチ・アルバムという空間を生かして、
さらに音楽的テリトリーを広げようとしているようです。
「Heart」と同じく9曲が収録された「Soul」。1枚目に続いてさら
にソウル路線を展開するかと思ったら、ここでキーとなるのは「フ
ァンク」なナンバーでした。オープニングはソフトでクールに幕を
開ける"Rock & Roll Found Me"。゛アンプのスイッチを入れたとた
ん、僕の視界が開けたんだ/ロックン・ロールが僕を見つけたんだよ゛
エリック自身と言うより、アダルトなカントリー・ファンの結構多
くが、ティーン時代にそんな体験をして音楽に目覚めた人が多いの
が現実。そんな人々の若かりし日へのノスタルジーに共鳴するナン
バーです。
さらに、「Soul」のハイライトと言えるのが、"Break It Kind of Guy"
と"Bad Mother Trucker"。骨太なビートがウネり、ほぼほぼ1コー
ドで押し通されジャム・セッションのようなファンキーなパフォー
マンスが展開されます。前者はスライ・ストーンとかKC&ザ・サン
シャイン・バンドにトワンギーなカントリー・ギターが絡んだ、っ
てな感じでしょうか。この辺りのバンドとの一体感に、エリックも
大いに充実感を感じたように思います。
"Bright Side Girl"、" Jenny"では一転、穏やかな生音でバラン
スを取ります。いずれもカントリーというよりフォーキーな雰囲気
で、前者のコード展開は、無難な循環コードが常のカントリーでは
意欲的に聴こえます。アルバムのラストを静かに締めくくる"Lynyrd
Skynyrd Jones"、こちらはカントリー調の弾き語りスタイルです。
”レイナード・スキナード・ジョーンズ/全部で4つのyがある/70年
代に生まれた/"Sweet Home (Alabama)"と"You Got That Right"の間
だ/レイナード・スキナード・ジョーンズ/アラバマのGadsden出身
/生まれてこのかたママがファンだった人達を背負い続けている/
゛私にもう聞かないで゛/゛あなたに嘘はつかないから゛/彼女が彼
に言い続けたことだ/彼女がなくなる日まで゛レイナード・スキナ
ードの曲名や歌詞を巧みに挟みながら、南部の白人層にとってこの
バンドの存在がいかに大きいかを、しみじみと感じさせます。
さすが、しっかりポップとしてのエンターテイメント性を確保しな
がら、一定以上のクオリティの音楽を提供してくれるエリック。
残念ながらまだ謹慎中のモーガン・ウォレンの大作の穴をしっかり
埋める、カントリー界随一のエンターテイナー渾身の意欲作だと思
います。
【以下は、2021年2月6日アップの、リリース情報紹介記事です】
2020年のCMAアワードで、遂にエンターテイナー賞受賞!という
頂点を極めたエリック・チャーチですが、「Desperate Man」に
続く新作リリース予定を、先月ファンクラブChurch Choir向けに
発表しました。なんと、3枚連続リリースのビッグ・プロジェク
トの様です。ライブ・ツアーが出来ない分、アーティスト達は
スタジオ・レコ―ディングに力を注いでいるのです。
"Stick That In Your Country Song"
それぞれのタイトルは、「Heart」「&」「Soul」と、とてもシン
プルなもの。ただ、6曲入りの「&」だけは、ファンクラブ限定リ
リースになるのだそう。一般のファンにはチョッと複雑ですね。
リリース予定は以下の通りです。
・「Heart」 4月16日
・「&」 4月20日
・「Soul」 4月23日
“Hell Of A View”
エリックの弁によると、今回のアルバムは、ノース・カロライナの
山中に28日間籠った成果だとの事です。彼は言います。゛部屋の中
でマジックが起こって曲が生まれる時、僕はいつも陰謀を企ててい
るような気になったよ。毎日、朝に曲を書き、夜にレコーディング
するのさ、そうする事でソングライターはレコーディングのプロセ
スにのめり込み、ミュージシャン達を巻き込んでいくんだ。チョッ
と特別な事を秘密裏に進めているような気分だったよ。「世界がこ
れを知るまで、フ~ム、待っててくれ」てな感じさ゛
"Through My Ray-Bans"
さらに3枚に分けた事についても語っています。゛「神様、これは
本当にキツイよ。たくさんの曲がある。2枚組アルバムにする?そ
うだとすると、5、6曲をどうやってお蔵入りにするんだ?」僕は、
レコードに入れる曲を選定する時は最も厳しい批評家だよ。でも、
これは僕たちが最高の状態で、特別な、特別な時間を過ごした特別
な、特別なプロジェクトだったんだよ゛
"Doing Life With Me"
で、2枚半と言えるような変則スタイルになったんですね。エリッ
クの音楽への熱い気持ちが分かる、いい話です。あと、久しぶり
に、サングラスを掛けない姿を見せている事も、気になります。
彼ならではのシャープなキレのある音世界を展開してくれそう
で、いつもながら楽しみです。
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