★2022年の「Where We Started」を取り上げました★
今年に入り、昨年CMAアワードのエンターテイナー賞を獲得した
エリック・チャーチや、残念ながらNワードで謹慎中のモーガン・
ウォレンが、新型コロナで失われたライブの機会をリカバーすべく、
充実したマルチ・アルバムをリリースしていますが、さらにこのト
ーマス・レットもそれに続きました。本作のタイトルに付けられた
「Side A」は見せかけでなく、今年の年末に続編「Side B」を計画
しているのです。トーマスといえば、モダンなR&Bのスタイルも
ふんだんに取り入れたポップな音楽が特徴でしたが、本作はそれを
期待すると肩透かしをくらうほど、穏やかで時に深みすらも感じる
音空間を展開しています。
今回のプロジェクトについて、トーマスは語ります。゛「Country
Again: Side A」は、19才の頃に言いたかったけれども、その頃は若
すぎてそれを表現することが出来なかった、そういったことについ
てなんだ。僕がこの10年の間世界中をめぐり、最後にはわが家に戻
ったクレイジーな旅のことであり、人生にとって何が大切かを深く
考えることを、今まで以上に中心においたことに満足している。い
くつかの新曲を、コロナの自粛中にアコースティックなスタイルで
披露した時、ファンのみんなの反応には驚かされたよ゛これまで積
み上げて来たキャリアとコロナ禍の経験を糧とし、新たな境地に達
したということでしょう。
リード・シングル"What’s Your Country Song"は、アルバムの広告
塔にふさわしい華やかさを持つ素直なポップ・ソング。ただ、そ
の歌詞はカントリーに溢れています。というのも、カントリーの
歴史を彩った沢山の名曲タイトルを織り込んで聴き手に問いかけ
ているのです。1番だけでも、ジェイソン・アルディーン"Big Green
Tractor"、アラン・ジャクソン"Drive"、ハンク・ウィリアムスJr
“Whiskey Bent and Hell Bound” 、マール・ハガード"Mama Tried"、
フロリダ・ジョージア・ライン"Cruise"、アラバマ“Dixieland Delight”、
再びアラン・ジャクソン”Chattahoochee"、そしてジェイク・オウ
ェン“Blue Jean Night”等のワードを散りばめるという見事な職人芸
でコーラスにつなげます。゛2車線のハイウェイを駆け抜ける時/ラ
ジオをつけるんだ/どの曲が君の心を捉えるか教えて/どれが君にと
ってのカントリー・ソングなんだい?゛
続いてシングル・カットされた、タイトル曲“Country Again”につい
ては、トーマスは一つの曲に留まらない、彼自身の一部だとまで言
います。゛この曲は本当に僕の人生についてなんだ。ちょっと落ち
着いて、自分の人生の優先するべき事、それが僕にとって何なのか
をよく見てみる。そして、少し立ち止まっても大丈夫な事を理解す
るんだ。だたシンプルに生きても大丈夫だ、それからその優先事項
をリストの一番上に置けばいい~一番大切なことをね。僕にとって
それは、よい父になる事だったり、或いは良い夫、良き友達、良き
息子、良き兄弟になる事であり、チョッとした自分のルーツに戻る
事なんだ゛
トーマスは、「カントリー」という言葉をどう捉えているかにつ
いて語っています。゛「カントリー」ってかなり強力な代名詞だと
思うんだ。沢山の事を意味するんだよ。多くの人たちにとっては、
ブーツだったり、フィドルやスティール・ギターだったり、自然の
中で過ごす事だと思う。確かにそれも意味するモノさ。でも僕には、
シンプルな生き方だったり、多くを求めずに幸せになるライフスタ
イルだったり、そして音楽的には「カントリー」は誠実なストーリ
ーを意味すると思っているよ゛ここら、あのアラン・ジャクソン
との違いが興味深いです。
本作は、その“Country Again”を始め、オープニングでイメージを決
定づける"Want it Again"や"To the Guys that Date My Girls"らのアコ
ースティック・バラード系が主軸を占めるアルバムだと思います。
それもトラディショナルではなくAOR系のそれで、元々トーマスは
スムーズなテナー・ボイスを活かしたそんなバラードがで得意でし
たが、ここではフィドルやバンジョーも聴かれオーガニックでアメ
リカ南部風のアットホーム感を感じます。上記したような彼のコメ
ントを体現した、成熟した音世界なのです。その分、アップテンポ
曲はサウンド的に地味目になりますが、トラディショナル系を贔屓
にする身には、今作は通してじっくり楽しめるものです。
実は今回のプロジェクトによる26曲程をまとめてリリースする案も
ありましたが、お兄さんからのアドバイスや、エリック・チャーチ
のマルチ・アルバムを見て、2パートに分ける事にしたようです。
゛この11曲を堪能する時間をとってもらって、それから「Side B」
がリリースされたら、その新たな12から15曲を楽しんで、プロジェ
クト全体を理解してもらえるんだ゛だいたいの傾向として、カント
リー・アルバムの曲数は10曲前後が好まれるようで、十数曲とか多
め入れてるのはポップ・ファンへのクロスオーバーを見込んだ大物
の作品に多いです。本作はそれ以上の曲数になったので、いろいろ
考えて2枚に分けたという事ですが、とにかく「Side B」も早く聴き
たいですね。
★前作、2019年の「Center Point Road」についてはコチラで取り上げました★