ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Don Williams ドン・ウィリアムス - Volume 1 & Volume 2

2016-07-18 | カントリー(男性)
2つ前の記事で、今年2016年に突如リリースされたDVD「Don Williams In Ireland :The Gentle Giant In Concert」を取り上げさせていただいた、70年代から活躍し続ける重鎮、ドン・ウィリアムス。その記事の最後でも少し触れましたが、彼の全盛期のオリジナル・アルバムが近年リイシューされており、今回はその中でも、歴史的なデビュー作とセカンド・アルバムが2in1された、実に贅沢な盤をご紹介します。こういうのってあまりアメリカの人はやらなくて、このリイシュー盤もやはりイギリスのHUX RECORDSからリリースされたもの。ドンの音楽がイギリスを始めとしたヨーロッパで根強く愛され続けている事による恩恵です。先の記事で紹介したプロフィールの中での、"I Wouldn't Want to Live If You Didn't Love Me"でメジャーブレイクする前、JMIレーベル所属期の作品集になります。デジタル・リマスター済。



2作ともプロデューサーは、若き日のAllen Reynolds。後にキャシー・マティアや、90年代にモンスター的人気を誇ったガース・ブルックスを育て、ニュー・トラディショナル世代を引っぱった人と言えます。その彼のキャリアの起点の一つが、ドン・ウィリアムスとの仕事でした。2作がリリースされたのは、それぞれ1973年と1974年。当時はまだロレッタ・リンマール・ハガードら、今で言うクラシック世代の音楽がメジャーな人気を誇った時期。対してこれら2作で聴かれるドンの音楽、つまりシンプルでレイドバック気味でありながら、とても絶妙な表現力で心に響くモダンなアコースティック・サウンドは、当時の主流の音とは一線を画した、とても新鮮なものだったよう。JMIは所詮はインディー・レーベルだった事もあり、ドンやAllenらは、売れ筋やラジオ・プレイの事など考えずに、若い自分達の理想とする新しいカントリー・ミュージックを追求できた結果だったのです。

「Volume 1」では、既に"Come Early Morning""I Recall a Gypsy Woman""Amanda"らの、今でもライブでプレイしている永遠の名曲をモノにしています。いずれも、ドンのヒット曲といえばこの人、Bob McDillのペンによる作品。ただ、当時カントリー・チャート上はブレイクとは行かず、"Amanda"で33位、"Come Early Morning"でもトップ20程度まで。しかし、作品自体やこのアルバムのクオリティは見事なもので、現在のカントリーで聴ける殆どのスタイルが既にココに詰まっているな、と感じました。トワンギーなアップテンポ、ローダウンなスロー・バラード、アイリッシュなミディアム、軽快なラテン調、そしてラウドなロック・サウンドまで、なかなかバラエティに富んでいて楽しめるのです。Bob McDill作品の重厚さは特筆モノですが、ドン自身のペンによる滑らかなメロディの作品群もアルバムを豊かにしており侮れません。特にアイリッシュ・フィドルがフィーチャーされた"Too Late to Turn Back Now"の創造性の高い音作りには驚かされました。



「Volume 2」では、幾分カントリー色が強まってきます。代表曲は、メジャー契約へのきっかけとなったブレイク作"We Should Be Together"、90年代のライブ作でも演奏されていたBob McDillによる名曲"She's in Love With a Rodeo Man"あたり。ドン自身ペンによる、フォーキーとも言えるモダンなスロー・バラードが多く収録されており、アルバムを穏やかな雰囲気にしています。ドンのマイルドで優しみ溢れるバリトン・ボイスを活かす方向に、徐々にスタイルが洗練されていく様子が窺えますね。元々、60年代は中堅のフォーク・ポップ・グループ The Pozo-Seco Singersに所属していた人なので、クラシック世代のようなどカントリー・ヴォイスでない、スムーズな歌声がその持ち味ですから。

メジャー級のヒットを飛ばしていくのはこの直後からになりますが、その音楽性は既にこの2作でほぼ完成していた事が分かります。ドン・ウィリアムスのプロデューサーとしてはこの後、トリーシャ・イヤーウッドを育てる等これまたニューカントリーの隆盛に一躍買ったGarth Fundisも加わってきます。つまり、ドンは今のカントリー・サウンドにつながる礎を築いた重要人物なのであり、そのスタイルが確立される貴重な記録として、この2作は全カントリー・ファン必帯の名盤と言って良いと思っています。さらに、その影響力はカントリー界のみにとどまらず、ロック界のエリック・クラプトンやザ・フーのピート・タウンゼントも受けていた、と言われているほどです。


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