ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Jerrod Niemann ジェロッド・ニーマン- Free the Music

2012-12-22 | カントリー(男性)
 正真正銘の次世代カントリー。と同時に、カントリーの父ジミー・ロジャースへのオマージュ。

 前作のメジャーデビューアルバム"Judge Jerrod & the Hung Jury"で、人を食ったようなユーモラスなスキットを随所に散りばめつつ、ミニマムな自身のバンド・サウンドと幾分軽めなディープ・ボイスによるストレート・カントリーを展開するという独特の世界感を提示して、その奇才ぶりを世に知らしめたジェロッド・ニーマン。待望のセカンドです。デビューでは、ドゥーワップ調コーラスが際立つ"Lover, Lover"が、カントリー・チャートのトップを獲得し、好調なデビューを果たしました。対して今作、さすがにスキットは踏襲せず音楽のみで勝負していますが、本作は全面的にホーン・セクション(!)をフィーチャーしたモダンな曲想を持つ楽曲をラインアップし、しかもオーガニックなカントリー・ベースはキッチリ守るという、次世代カントリーと言いたい作風を展開しています。しかも、その管群によるレトロなオープニングのイントロ、そして中盤とラストに配したトラディショナルなキー・ナンバーによって、カントリー・ミュージックの生みの親で、既にそのカントリーに管楽器を持ち込みモダンサウンドを提案していたジミー・ロジャース(1897-1933)の影響をも感じさせるという、見事な手腕を発揮しているのです(とある本国レビューで、ボブ・ウィリスの影響とか書いてたけど、違うと思うな)。

 オープニング、アメリカ大恐慌時代(ジミー・ロジャースの全盛期ね)の古い映像のバックに流れていそうな、ノイズ混じりのホーン・アンサンブルがフェードインしたのも束の間、突如”レコード針”が停止。クールなカウント後に飛び込んでくるのは、グルーヴィーなファンキー・チューン"Free The Music"です。引き続きフィーチャーされるホーン、ここではニューオリンズ・スタイルで緩く跳ねます。マイルドなラップも飛び出し、カントリーの固定観念を打ち破ろうとするジェロッドの意欲を強力に感じるタイトル・チューンですね。そして、曲間ゼロで間髪入れずに続く2曲目が、実に美しく感動的なカントリー・バラード"Whiskey Kind of Way"。デビュー作でも、"What Do You Want"や"Bakersfield "など、”恩師”であるカントリー・レジェンド、レフティ・フリゼルの影響を強く感じさせるバラードを聴かせてくれた彼らしいナンバーです。この、冒頭からめまぐるしく変わる落差の大きさが、ジェロッドの真骨頂だな。でも、しっかりトータリティも保たれてる。


 さらに続く"Get On Up"に到る頃には、善良な(?)カントリー・ファンの皆様は、頭がクラクラするのではないでしょうか?ここでのサウンド・テーマはビートルズ!。初期ビートルズ的なハーモニカと、中期のフルート(当時はメロトロンで出していた)っぽいキーボードとクリアなホーンで、ビートリーな先進性をアピールしています。アルバム中、ハイライト曲のひとつ。先進性という意味では、"Only God Could Love You More"も双璧、こちらは美しいピアノがイメージを創る情緒溢れるナンバーで聴きものです。"Shine On Me"はリードシングルとなった、キャッチーなカントリー・ロック。素直でハッピーなホーンが爽やか。

 究めつけの曲者が、"Honky Tonk Fever"と"Guessing Games"。前者は、ボードビル調と言いたい古風なスタイルのナンバーで、管群(クラリネットもフィーチャ)もエンターテインメントに徹してユーモラス。アルバム中盤にこのスタイルを持ってくることで、オープニングのレトロなアンサンブルの事がふと思い出されます。"Guessing Games"は一転、R&B調のムーディーなリズム・ナンバー。アーバンなホーンが、緊迫感をもたらします。

 ポップ・フィールドの女性アーティストで、グラミー受賞暦もあるコルビー・キャレイColbie Caillatがデュエットで参加した"I’m All About You"。ユニークな作品が多いアルバムにあって、ひと時の憩いを提供してくれるクリーンなポップ・バラードです。"Real Women Drink Beer"は、ハイ、タイトルから容易に想像がつくようなストレート・カントリー・スタイルね。トワンギーなカントリー・ギターがフィーチャーされますが、それ以上にド派手でラスベガス的なホーン・アレンジで煽りたて、一筋縄ではいきません。


 そして閉めはアーシーな弾き語りスタイルの必殺カントリー・チューン"Fraction of a Man"。”俺は闇雲に無駄な買い物はしない/スーツを着た金持ち連中にビビッたりしない、けっしてね/でも法律やその類の事は当然大切にしてるんだ/それに、俺の仕事、訛り、そして出身について聞いてくる奴ら/そいつらの問いには答えない/俺は自分自身で生き方を選んできた事をちゃんと分かってるのさ/(コ-ラス)俺はまっとうな人生を歩んでいる/信仰に光を照らしている/俺は情熱や愛と共に人生を生きているんだ/面倒を起こすような男じゃない”アメリカ国内では相対的に経済的に恵まれず、偏見の目で見られる事もたびたびなアメリカ南部人の、強烈なプライドを表現したナンバー。そしてこの曲の間奏パートで、オープニングで聴けたあのホーン・アンサンブルが鳴り響きます。これによって、アルバムにコンセプト・アルバム的統一感や重厚感が一気に増幅される共に、ジェロードのジミー・ロジャースへの強い愛情を感じさせてくれるのです。「今ジミーがいたら、きっとこんな音楽を創るだろうよ」それがジェロッドの思いであり、このアルバムを制作する基本のコンセプトだったのでしょう。そして、それこそが「音楽を自由に解き放つ」のだ、と。

 こういうやり方は、カントリー・フィールドにおいてはリスキーとも捉えられ、まず広い支持を受ける事は困難というのが定説です。このアルバムのチャート・アクションを見ても、デビュー作に比べると少しですが動きはよくありませんでした(トップを取れなかった)。しかし、ホーンセクションを同行させたライブ・ツアーはなかなかに熱狂的な支持を受けているとのレビューもあり、彼の挑戦は現場では着実に実を結びつつあるようです。ジェロッドが、メジャー・レーベル、アリスタの一角を末長く担い続けてくれる事を切に祈ります。歌声、メロディ・センス、そしてそのスマートさなど、素晴らしいアーティストです。

 それにしても、このジャケットは何とかならなかったのかなぁ。


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