ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Sam Hunt サム・ハント - Southside ~「Montevallo」の成功との葛藤~

2020-04-11 | カントリー(男性)

 

2014年のデビュー・アルバム「Montevallo」で、カントリー界

に大胆なヒップ・ホップや現代R&Bのグルーヴィーなリズムと

クニック、そして折に触れて聴かせるダンディでクールな語り

よるモダンなムードを持ち込み、その後のカントリー・ヒット・

チャートがリズム・ループで席巻されてしまうほどのブームを巻

き起こした張本人がこのサム・ハントです。その彼が、6年とい

う異例のブランクでリリースした注目のセカンド・アルバムです。

もう6年ですからだいぶほとぼりも冷めて、意外にも落着きのあ

”カントリーらしい”曲が多くなっています。

 

 

まずプロフィールです。1984年、南部ジョージア州はCedartown

の生まれ。少年時代はアメリカン・フットボールで秀でた能力を

発揮していて、アメリカで権威ある、ウェンディーズ・レストラ

ンがスポンサーの高校ハイズマン・トロフィー記念賞にノミネー

トされるほどの存在でした。2003年にミドル・テネシー州立大学

に進学しましたが、あまり出場機会はなく、2005年にバーミンガ

ムのアラバマ大学に入学、2007年に卒業しました。バリバリの南

部人ですね。実はこのアラバマ大学時代にギターと歌を習得し目

覚めてしまい、2008年にNFLのカンザスシティ・チーフスのトラ

イアウトに応募はしたものの、そこへは行かず、音楽の道を目指

すべくナッシュビル入りしたのです。

 

 

多分に漏れずソングライターとしてキャリアをスタートし、最初

のヒットは2012年、ケニー・チェズニーの"Come Over"でした。

2014年にはキース・アーバンの”Cop Car”(「Montevallo」にも

収録)をモノにします。自身でも「Between the Pines」という作

品集を2013年に製作しており、2014年にアーティストとしてメジ

ャーMCAにアプローチ、見事契約を交わすのです。デビュー曲

"Leave the Night On"から早速、快進撃を開始し、いきなりビルボ

ードのカントリー・エアプレイ・チャートで1位、さらにプラチナ

セールスも記録しました。

 

 

2014年にリリースされたデビュー・アルバム「Montevallo」は、

オールジャンルのビルボード200でも初登場3位を記録。その後

も2015年にかけて、"Take Your Time"、"House Party"、"Break

Up in a Small Town"らのシングルがヒットし続けます(それぞれ

カントリー・エアプレイで1位、1位、2位。"Take Your Time"は

ビルボード・ホット 100でも20位到達)。2016年に入っても勢

いを保ち、5枚目のシングル"Make You Miss Me"もカントリー・

エアプレイで1位、アルバムもロング・セラーとなりました。

 

 

翌2017年に、満を持しての新曲"Body Like a Back Road"をリリー

スしたところ、これがとんでもないヒットに。ビルボードのカン

トリー・シングル・チャートで34週の1位を記録し、奇跡の記録

と思われたフロリダ・ジョージア・ラインの"Cruise"による24週

を軽く超えてしまったのです。デジタル時代への様変わりを象

徴する現象と言えるのでしょう。しかし続く2018年の"Downtown's

Dead"がトップ10に入らず、セカンド・アルバムもなかなかリリ

ースされない状態が続き、ようやく今年リリースされたのです。 

 

 

オープニングの”2016”から、泣きのカントリー・バラードを、渋

いバリトン・ボイスで聴かせます。"Body Like a Back Road"等の

既発曲や、リード・シングルで、無事(?)カントリー・エアプ

レイのトップを奪取した、タメの効いたミディアム"Kinfolks"を

けば、多くがアコギをフィーチャーしたおだやかなスロー曲で

す。そこにドラム・ループ(少々単調?)やトーキング・ボーカ

ルをまじえる事で、サムらしさをキープしているという感じです

ね。「Montevallo」の騒々しさからは隔世の感がありますが、そ

の前作が2014年で、間に1枚や2枚のアルバムをリリースしていて

もおかしくな時間が経っているのです。ジャケットで窺われるよう

年齢も重ねて少し落ち着いたのですから、これぐらいのスタイル

変化は当然でしょう

 

 

これも2017年の既発曲ですが、ラストの” Drinkin' Too Much”の、

懺悔の告白のような重さが印象的です。”アルバムに「Montevallo」

と名付けてごめん/君の名を有名にしてしまってすまないと思っ

てる/見知らぬ人がソーシャル・メディアで君を責める/ラジオも

聴けなくさせてすまないと思ってるよ” Montevalloは恋人ハンナ

の故郷であり、その名をデビュー・アルバムの名にしていたので

す。その大きな成功の陰で恋人のプライベートが壊された事への

後悔が綴られています。結局はハンナとはめでたく結婚したよう

ですが、最近もサムが酩酊状態で飲酒運転して逮捕されたとの

報道もあり、急激な成功の副作用に今も苦労しているよう。この

アルバムにはどうしてもそうした背景からくる影を感じてしまい

ます。

 

 

一方、意表を突くユーモアを見せる部分が、"Hard to Forget"。冒

頭、クラシック・カントリーの名曲、ウェブ・ピアースの”There 

Stands a Glass”が流れ(ビデオではサムも鼻歌で歌っています)、

ほどなくサンプリングで分断されて曲の中に挿入されていきます。

曲想はトワンギーと言える明るいもので、Cold HeartやBreakin'

Heartを歌う典型的カントリー・ソングでで。おそらくは、R&Bや

ヒップ・ホップの流儀を持ち込んだ事には多くの批判も受けたで

しょう。ここではカントリーの伝統に対するオマージュを示した

と云ったところでしょうかね

 

しかし、クラシックの時代から現在まで、他ジャンルや勿論ブラッ

ク・ミュージックからの影響を取り込み続けた事がカントリー音楽

の流儀の一つであり、サムが「Montevallo」でやった事は必然だっ

たと思います。それでもヒップホップそのままでなく、弦楽器の響

きや(バーンダンスで床板を踏みしめるような)武骨なリズムの音

色など、土埃のする洗練しきらない音創りを絶妙に構築し、見事に

隙を突いたのが成功に繋がったと云えるでしょう。

 

 

"Body Like a Back Road"を聴くと、雰囲気はまるで違うのですが、

ビリー・レイ・サイラスの"Achy Breaky Heart"を思い出します。

1992年のこの曲は、カントリーにダンス・ブームを巻き起こし、

ネオ・トラディショナル・サウンドが隆盛の中でしたが、アップ・

テンポ曲のドラム音は硬く強い音になっていったのです。両曲と

も一定の巡回コードが延々繰り返す構成は似てますね。ビリーは

再び"Achy Breaky Heart"に匹敵する曲を出す事はありませんでし

たが、現在まで精力的に活動し続け、リル・ナズ・Xの"Old Down

Road"でもフィーチャーされました。21世紀のカントリー・ダンス・

サウンドの革新者であるサム・ハントの末永い活躍を期待し

す。



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