「アノ曲」のおかげで、好戦的な”タカ派”のイメージが強いダリル・ウォーリー。その彼の、トータル6枚目、そして盟友で名プロデューサーJames Stroud(Clint Black、Clay Walkerらをプロデュース)の興したレーベルStroudavariousからの第一号アルバムです。本作は話題性のある政治色は抑え、タイトで力強いアップテンポが中心のコンテンポラリー・ロッキン・カントリーが満載のアルバムになっています。鋭いまなざしの、かなりハンサムなルックスから繰り出される声は、超キレまくりのテナー・ボイス。相当にダウンホームなクセを持つ声でもあり、彼に親しむには聴き手にもある程度の熟練が必要とされるかもしれません。
リード・シングルのタイトル・ソング"Sounds Like Life To Me"は、穏やかなエレクトリック・サウンドがダリルの力強い声をバックアップするミディアム曲。辛い事だらけの人生~妻の車は今にも壊れそう、毎日母親を介護ホームに送り届け、そして自分は今週十分な仕事が得られない・・・・~に耐えかねてバーで一人飲みふけっていた友人を、ダリルは勇気付けます。”僕には人生ってそういうものだよ。ファンタジーなんかじゃない。キツイのは分かるよ。でも乗り切らなきゃ”この経済不況の時代に対する、ジワリと訴えかけてくるメッセージです。意気の良いカントリー・ロック集の中で目を引くのが、ロマンティックなミディアム・スロー"Tequila on Ice"。ソフトなキーボード・サウンドをフィーチャーしたミニマムのサウンドに、ダリルの伸びるテナー・ボイスが絡み、新鮮な響きを聴かせてくれます。リズム・ナンバーでは、ファンキー・ビートとブルース・ハープが緊迫した雰囲気を演出する"Don't Show Up (If You Can't Get Down)"が注目。そんなサウンドのスポーツ・バー賛歌に、ビル・アンダーソンBill Andersonやメル・ティリスMel Tillis、ジョン・アンダーソンJohn Andersonらのレジェンドがゲスト参加してるってのが面白い。硬派カントリー・ファンには、ストレートなカントリー・ロック"Messed Up in Memphis"がお奨めですね。ウェストコースト・ロック的な疾走感に自然と引き込まれます。
ここでやっぱり、「アノ曲」、"Have You Forgotten?(忘れてしまったのかい?)"について触れておかなくてはいけないでしょう。この曲は、「9・11」の報復として、ウサマ・ビン・ラディンをかくまっていたアフガニスタンのタリバン政権との戦争に反対する声をけん制した、コンテンポラリーなミディアム・チューン。その歌の中では、アメリカが自国の自由と領土を、あくまで攻める事で維持してきた事、9・11のWTC襲撃映像を(自粛などせず)日々放映してあの日を思い返すべきである事、そして”その日”テロリストの被害者が経験した恐怖の描写などが描かれています。我々日本人にはチョッと信じられないメッセージですね。ただ当時を冷静に思い出してみると、我が国でもアフガン戦当時は、テロの首謀者を倒さんとするアメリカを支持するトーンの報道がされていたように思います。しかしダリルの試練は、2003年の春にこの曲がラジオで流れる頃には、既にイラク戦争が始まっていた事。リスナーはこの曲を、戦争の大儀が明確でないイラク戦争支持の歌と誤解したのです(確か当時、「ニュース・ステーション」でダリルの事がネガティブに取り上げられていたんだっけ・・・)。ダリルは説明しようとしましたが、理解されませんでした。コーラスでビン・ラディンの名を何度も繰り返しているにもかかわらず、です。大衆は往々にして、真実などよりも、自分達が理解しやすい誤解の方を信じるものなのですね。ここら、先にご紹介したインタビューで(ブラッド・ペイズリーと共作多数の)Chris Duboisが繰り返し語っていた、時事問題を作曲する時期とリリースするタイミングのズレの問題についての、好サンプルと言える事例です。しかし、幸か不幸か、凄まじい批判と議論のおかげで"Have You Forgotten?"は大ヒット。カントリー・チャートで7週連続1位をキープしたのです。ダリルは自分の政治的立場を明確にする事にやぶさかでない人で、ブッシュ大統領の2回目の選挙キャンペーンや共和党大会でも堂々パフォーマンスをしています。
9・11と、それに端を発する戦争については、それに関わらざるを得なかった市民の、さまざまな方向からの目線で数多くのカントリー・ソングが創られリリースされています。ダリルの"Have You Forgotten?"はその中でも、最も強烈なメッセージ性を持つ曲の一つでした。その一方で、アラン・ジャクソンの"Where were you?"のように、スピリチュアルで穏やかな問いかけの形でその心情を表現した曲があった事も忘れてはいけないでしょう。アランのこの曲は、CMAアワードでソング賞を獲得しています。9・11からイラク戦争に至るまでの世論の変化に応じて、カントリーがこの問題をどう扱い、そしてそのカントリー・ソングがどう扱われてきたかについて、今回参考にさせていただいたロバート・T・ロルフ氏著の「カントリー音楽のアメリカ」に詳しく述べられています(他にも、家族、階層、社会などのテーマもあり)ので、ご興味のある方は御一読されることをお勧めします。
1964年、テネシー州の小さな町、テネシー川沿いのPyburn生まれ。父は地元の新聞社をやめてメソジスト派の説教師になった人。一方、母は教会のリード・シンガーでした。家は歴史ある農場で、南北戦争の時代のシャイロー戦場に隣接していて、当時北軍に占領された歴史を持っていました。ダリルは少年時代から、その占領時の様子や、層祖父母が北軍の馬に餌を与えさせられたり兵士にも食料を作らされた逸話などを聞いて育ったのです。こうして彼は、アメリカの歴史について深く学ぶようになり、現在の政治的なスタンスを築くに到ったのです。有機化学の学位をとりながら、ホンキートンクでプレイしていた彼が最初に得た音楽の仕事は、アラバマはマッスル・ショールズのフェイム・スタジオにおけるソングライター契約でした。そう、かつてのソウル・ミュージックのメッカも今はカントリー・スタジオになっているのです。そして1999年、メジャーのDreamWorksとアーティスト契約にこぎ着け、2000年に 「Hard Rain Don't Last」でデビューしたのです。ハンク・ウィリアムスを始めジョージ・ジョーンズ、そしてマール・ハガードらからの影響を存分に感じさせる、ルーツィーなホンキー・トンク・スタイルがとても素晴らしかった名アルバムで、当時日本のカントリー・ファンの間でも大いに話題になったものでした。2000年のカントリー・ゴールドで、チャーリー・永谷さんのバンド・キャノンボールがダリルの曲をカバーしていたくらいです。
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リード・シングルのタイトル・ソング"Sounds Like Life To Me"は、穏やかなエレクトリック・サウンドがダリルの力強い声をバックアップするミディアム曲。辛い事だらけの人生~妻の車は今にも壊れそう、毎日母親を介護ホームに送り届け、そして自分は今週十分な仕事が得られない・・・・~に耐えかねてバーで一人飲みふけっていた友人を、ダリルは勇気付けます。”僕には人生ってそういうものだよ。ファンタジーなんかじゃない。キツイのは分かるよ。でも乗り切らなきゃ”この経済不況の時代に対する、ジワリと訴えかけてくるメッセージです。意気の良いカントリー・ロック集の中で目を引くのが、ロマンティックなミディアム・スロー"Tequila on Ice"。ソフトなキーボード・サウンドをフィーチャーしたミニマムのサウンドに、ダリルの伸びるテナー・ボイスが絡み、新鮮な響きを聴かせてくれます。リズム・ナンバーでは、ファンキー・ビートとブルース・ハープが緊迫した雰囲気を演出する"Don't Show Up (If You Can't Get Down)"が注目。そんなサウンドのスポーツ・バー賛歌に、ビル・アンダーソンBill Andersonやメル・ティリスMel Tillis、ジョン・アンダーソンJohn Andersonらのレジェンドがゲスト参加してるってのが面白い。硬派カントリー・ファンには、ストレートなカントリー・ロック"Messed Up in Memphis"がお奨めですね。ウェストコースト・ロック的な疾走感に自然と引き込まれます。
ここでやっぱり、「アノ曲」、"Have You Forgotten?(忘れてしまったのかい?)"について触れておかなくてはいけないでしょう。この曲は、「9・11」の報復として、ウサマ・ビン・ラディンをかくまっていたアフガニスタンのタリバン政権との戦争に反対する声をけん制した、コンテンポラリーなミディアム・チューン。その歌の中では、アメリカが自国の自由と領土を、あくまで攻める事で維持してきた事、9・11のWTC襲撃映像を(自粛などせず)日々放映してあの日を思い返すべきである事、そして”その日”テロリストの被害者が経験した恐怖の描写などが描かれています。我々日本人にはチョッと信じられないメッセージですね。ただ当時を冷静に思い出してみると、我が国でもアフガン戦当時は、テロの首謀者を倒さんとするアメリカを支持するトーンの報道がされていたように思います。しかしダリルの試練は、2003年の春にこの曲がラジオで流れる頃には、既にイラク戦争が始まっていた事。リスナーはこの曲を、戦争の大儀が明確でないイラク戦争支持の歌と誤解したのです(確か当時、「ニュース・ステーション」でダリルの事がネガティブに取り上げられていたんだっけ・・・)。ダリルは説明しようとしましたが、理解されませんでした。コーラスでビン・ラディンの名を何度も繰り返しているにもかかわらず、です。大衆は往々にして、真実などよりも、自分達が理解しやすい誤解の方を信じるものなのですね。ここら、先にご紹介したインタビューで(ブラッド・ペイズリーと共作多数の)Chris Duboisが繰り返し語っていた、時事問題を作曲する時期とリリースするタイミングのズレの問題についての、好サンプルと言える事例です。しかし、幸か不幸か、凄まじい批判と議論のおかげで"Have You Forgotten?"は大ヒット。カントリー・チャートで7週連続1位をキープしたのです。ダリルは自分の政治的立場を明確にする事にやぶさかでない人で、ブッシュ大統領の2回目の選挙キャンペーンや共和党大会でも堂々パフォーマンスをしています。
9・11と、それに端を発する戦争については、それに関わらざるを得なかった市民の、さまざまな方向からの目線で数多くのカントリー・ソングが創られリリースされています。ダリルの"Have You Forgotten?"はその中でも、最も強烈なメッセージ性を持つ曲の一つでした。その一方で、アラン・ジャクソンの"Where were you?"のように、スピリチュアルで穏やかな問いかけの形でその心情を表現した曲があった事も忘れてはいけないでしょう。アランのこの曲は、CMAアワードでソング賞を獲得しています。9・11からイラク戦争に至るまでの世論の変化に応じて、カントリーがこの問題をどう扱い、そしてそのカントリー・ソングがどう扱われてきたかについて、今回参考にさせていただいたロバート・T・ロルフ氏著の「カントリー音楽のアメリカ」に詳しく述べられています(他にも、家族、階層、社会などのテーマもあり)ので、ご興味のある方は御一読されることをお勧めします。
1964年、テネシー州の小さな町、テネシー川沿いのPyburn生まれ。父は地元の新聞社をやめてメソジスト派の説教師になった人。一方、母は教会のリード・シンガーでした。家は歴史ある農場で、南北戦争の時代のシャイロー戦場に隣接していて、当時北軍に占領された歴史を持っていました。ダリルは少年時代から、その占領時の様子や、層祖父母が北軍の馬に餌を与えさせられたり兵士にも食料を作らされた逸話などを聞いて育ったのです。こうして彼は、アメリカの歴史について深く学ぶようになり、現在の政治的なスタンスを築くに到ったのです。有機化学の学位をとりながら、ホンキートンクでプレイしていた彼が最初に得た音楽の仕事は、アラバマはマッスル・ショールズのフェイム・スタジオにおけるソングライター契約でした。そう、かつてのソウル・ミュージックのメッカも今はカントリー・スタジオになっているのです。そして1999年、メジャーのDreamWorksとアーティスト契約にこぎ着け、2000年に 「Hard Rain Don't Last」でデビューしたのです。ハンク・ウィリアムスを始めジョージ・ジョーンズ、そしてマール・ハガードらからの影響を存分に感じさせる、ルーツィーなホンキー・トンク・スタイルがとても素晴らしかった名アルバムで、当時日本のカントリー・ファンの間でも大いに話題になったものでした。2000年のカントリー・ゴールドで、チャーリー・永谷さんのバンド・キャノンボールがダリルの曲をカバーしていたくらいです。
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