2010年のCMAアワードで遂に男性ボーカリスト部門でウィナー獲得の栄光を勝ち取ったブレイク・シェルトンの、同年に発売された2枚の”Six Pack”です。それぞれ、3月と8月にリリースされています。つまり、両CDとも6曲のみ収録と、「アルバム」とは呼び難い体裁で、「EP」と言ったところ。ついつい損得勘定を考えてしまう音楽愛好家としては、「たった6曲だけのCDって、なんとなく割高・・・・」なんて考えてしまうのですが、これはレコード・レーベルの確かな戦略に基づくもので、その狙いは図星。ブレイクはこのおかげもあってビッグ・ウェイブを獲得したと言えるでしょう。
今のアメリカの音楽チャートは、アルバム中最もホットでフレッシュなリード・シングルが発売されてチャートのトップを狙うまでには、およそ半年くらいの時間がかかります。そして、現在のアルバム・リリースの間隔は2年というのがすっかり定着していますから、それまでにアルバム中の既に知られた曲の中からシングルカットして時間をつなぐのが通常の”ルーチン”になっています。しかし、この「Six Pack」だと今回のブレイクのように半年で新曲集をリリースが可能で、先のリードシングルがチャートをダウンしだした頃に矢継ぎ早にフレッシュな新曲を発表でき、マーケットの盛り上がりをつなぐ事が出来るというわけです。
そのスタートとなった、タイトルソング"HillBilly Bone"。”ニュー・ヨークの友人”にホンキー・トンクの洗礼を浴びせるというカントリー十八番のストーリーを持つ、南部賛歌のパーティ・ソングです。盟友トレイス・アドキンスTrace Adkinsによるディープ・ボイスを絶妙にアレンジしたリズミックな「B-Bone,B-Bone、Bone!」と、「YEE HAW!!」のギャング・コーラスがキャッチーでいかにも現代のヒルビリー。爽快なアメリカン・ロック調パワー・ギターも今のヒット・カントリーの王道です。続く"Kiss My Country Ass"、我が国の音楽ファンには伝説のハード・ロック・バンドKISSのトリビュート・アルバムを想起させるタイトルで、"HillBilly Bone"のイメージを繋ぎます。かつて、Son-of-a-bitchを洒落た"Some Beach"をヒットさせた彼らしく、ワーキング・クラスのスラングを引用したこの曲も、ブレイクのワイルドで南部人の誇りを掲げるキャラクターをバック・アップします。フィアンセ、ミランダ・ランバートの飼い犬にインスパイアされたと言う自作"Delilah"では、トラディショナルなストレート・カントリーのスタイルを展開。これもブレイクの持ち味の一つでとても魅力的なリアル・カントリー・ソングです。
一方、立て続けにリリースされた「All About Tonight」の方も音楽的にはキープ・コンセプト。リード・シングルのタイトル曲もしっかりカントリー・チャートのトップをゲットしました。ブレイクの若々しい強力なテナー・ボイスを、艶やかなパワー ・サウンドが煽ります。こちらのSix Packからはもう1曲、"Who Are You When I’m not looking"」もシングル・カットされました。この曲、ジョー・ニコルスのしっとり味わい深い名唱(「Real Thing」収録)が素晴らしかったナンバーですが、ブレイク・バージョンは気持ちテンポを上げてより親しみやすい雰囲気で聴かせてくれます。"Draggin’ the River"は、すっかりお約束となったミランダ・ランバートとのデュエットが聴ける、コクのあるミディアム・チューン。ある意味、現代のメインストリームでカントリーならでは歌声を持つ2人のハーモニーが楽しめるのはとても贅沢なことで、ミランダのクリアでアーシーな歌声が耳に残ります。"Suffocating"のほうは、そのミランダとレディ・アンテベラムの紅一点、ヒラリー・スコットのペンによるソウルフルなミディアム・スロー。ヒラリーが抑え目なハーモニーで色を添えます。たった6曲なのに、色々話題には事欠かないところが、安易な切り売りでない、キッチリと企画されたアルバムだと感じさせてくれますね。
同年、11月にはとどめのベストアルバム「Loaded: the Greatest Hits 」をリリースし、2010年を文字通りのブレイク・イヤーにして締めくくりました。今年2011年のアカデミー・オブ・カントリー・ミュージック・アワードAcademy of Country Music Awards では、リーバ・マッキンタイアと2人でホストの大役を務める事も決まっています。