ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Holly Williams ホリー・ウィリアムス - Here With Me

2009-10-04 | カントリー(女性)

 どうしても、現代カントリー・ミュージックに留まらず、アメリカン・ミュージックの源泉であるハンク・ウィリアムス Hank Williams の孫で、アウトロー・カントリーで一時代を築いたその息子、ハンク・ウィリアムスJrの娘、との枕詞がつきまとう、若干28歳のホリー・ウィリアムス。2004年にポップ・フィールドでデビューしていましたが、2006年の自動車事故によるアクシデントを乗り越え、セカンドはチョッとカントリー・フィールドにシフト(本作はペダルスティール・ギターがフィーチャーされてる)。アルバムの質感は、パッケージの雰囲気とも共通する、必要最低限のバンドによるミニマムのアコースティク・サウンドで、”良心的”なもの。それが故に、ホリーの憂いを帯びたシワガレ声がしみます。祖父譲りのトラディショナルなスタイルもありますが、それだけでなくフォーキーな弾き語りや美しいバラード、ソウルフルな曲調など、各曲、絶妙にバリエイションが付けられた、上々のアメリカーナ・カントリー風スタイルです。劇的な仕掛けがあるわけでもないので”地味”かもしれませんが、”滋味”に溢れているのです。

 
       Hank Williams         Hank Williams Jr

 オープニングからの3曲"He's Making A Fool Out of You""Mama""I Hold On"は、カントリーらしく、自身の母親の素晴らしさをたたえた曲。父ハンクJrと離婚という不幸があったにもかかわらず、娘に対しては前向きな姿勢を見せ続けた母親への賛辞と感謝が歌われています。"Mama"では、”貴方は彼を嫌うこともできたのに。ウィスキーや愛人の事を話すことも出来たのに。戦っても良かったのに。彼が私達を求めていない事を話すことも出来たのに。ママ、貴方は一晩中泣くことなく、笑顔であり続けた。貴方は全てが大丈夫なんだと私に信じさせてくれた。私はそれを感謝しているわ”と、シンプルでトラディショナルな2ビートのアップテンポに乗って歌われます。フォーキー・ブルースと言えるのが、"Three Days In Bed"。ホリー曰く、「この曲は、真実とファンタジーにインスパイアされたもの。私自身のギターの弾き語りでライブ・レコーディングした、アルバム唯一の作品よ。完全に”生”で、このレコードに収録した事は、私にとってとても重要なことなの」スタイルはシンプルの極地なのに、パリを舞台にした愛の情景が、ヴィジュアルに訴えかけてきます。



 "Alone"は、スロー・バラードの逸品。ピアノの耽美的な響きと共に、ホリーの表現力が聴きものです。プロデューサであるJustin Niebankが、彼女のシンガーとしての成長を語っています。「今回は詩的にはチョッと良くなり、ボーカルではもっと良くなったよ。彼女のデビュー作ではボーカルは内省的だった。今回はより外向きに、彼女らしさが感じられるようになった。自身の個性を人々とコミュニケイトさせようと試みたんだよ」リードシングルとなった"Keep The Change"はソリッドなギターによる個性的なリフがペースを作る、なかなかハードなミディアム・チューン。Justinの言葉どおり、強く訴えてくるホリーのボーカルがインパクトです。自動車事故での傷を癒すプロセスで感じた、スピリチュアルな感情を綴ったのが、"Without Jesus Here With Me"。音数は少ないものの、切なく響くスティールギターがイイです。「私は光を見たの(I saw the lightでなく、I did see the lightと語っています)。そして、神様の下にたどり着いたかのような瞬間だったわ」とホリーはこの曲について語っています。治療中は父親ハンクJrも24時間付きっ切りで彼女を見守ったそうで、ホリーは父にも大変感謝をしています。

 ラストを締めくくるのが、ニール・ヤングの"Birds"の勇気あるカバー。ニールがシンガー・ソングライターとしての個性を確立した名盤「After the Gold Rush」に収録されていた名曲です。ピアノだけをバックにしたアレンジはそのままですが、ニール・バージョンが、ゴスペル・タッチのコーラスをフィーチャーした荘厳さと、唯一無二のボーカルによる切なさが同居した名演だったのに対し、ホリー・バージョンは小さなクラブでひっそりと歌われているかのような、パーソナルな感じになっています。




 事故の後、ホリーはかねてからやりたいと思っていた、小さなブティックH. Audreyを始めました。Audreyとは彼女のミドル・ネーム。そして、ハンク・ウィリアムスにアメリカン・ミュージック永遠の名曲を書くインスピレーションを与えた伝説的な祖母の名前。「祖父母はHank and Audrey's Corralというお店で、洋服やカウボーイ・ブーツやいろんな物を売っていた。私はいつも、こういうビジネスをやりたかったの」彼女の言葉から、自身の栄光の血統に対する気負いは感じられず、自然体で向き合っている様がうかがえます。九死に一生を得た体験と、そこで再確認出来た家族の愛情によって、周囲からの雑音に惑わされることなく、本当に大切な物を見極める精神力を獲得したのかもしれません。

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