スモーキーなシティ・ブルースを歌うAJ。
まもなく新作「Good Time」がリリースされるAlan Jacksonですが、その前に2006年の前作をおさらい。プロデューサー Alison Kraussが仕掛けた挑戦的な異色作、しかし結果、ビューティフルな作品になり、目前に迫った第50回グラミー賞(Vocal部門)にもノミネートされています。つまり、あろうことかAlanのトレード・マークであるストレート・カントリー・サウンドを封印。ジャケットのイメージのとうり、夜のナイトクラブでジックリと聴くような、ピアノをバックにしたジャジーで少しソウル臭も漂うスローと、アーバンなアコースティック・バラードがずらりと並んでいます。どの曲も深く沈みこむような優しさをたたえており、明るい曲はありません。エレクトリック・ギターもホンキー・トンクのクリアな音ではなく、70年代ソウルのような陰影に富んだ乾いたエフェクトがかかったもの。そして、その音にAlanのクールでクリアな、そして優しみと憂いを帯びた「あの歌声」が見事に溶け込んでいるのです。改めてAlanが、幅広い許容力とゆとりの奥行きを持った有能なシンガーである事が確認できます。カントリー・ミュージックの懐の深さったら!
楽曲は1曲を除いて他人の曲(これも有能なソングライターである彼には珍しい事)。その1曲とは、1998年「High Mileage」収録の、今回シングルにもなった"A Woman's Love"のリメイク。オリジナルはソフト・タッチの穏やかな(地味目の)カントリー・バラードでしたが、ここではタメを利かせたリズム・アレンジでソウルフルに蘇りました。Alisonのバンド、Union StationのRon Blockがツインのエレクトリック・ギター(彼に敢えてエレキを弾かせて、しっかりクレジットしてます)で印象的なテーマ・フレーズを奏でます。ジャジーやアーバンなどとは言いましたが、けしてその手の楽曲を多く取り上げているわけではありません。Alisonのヒット・ソングを多くモノにしているRobert Lee Castlemanの絡んだ曲が4曲(その中で、"Like Red on a Rose""Nobody Said That It Would Be Easy"はCastleman自身の2000年のアルバムにオリジナル有り)あるほか、Herb Pedersenや、コチラもお仲間Sidney Coxのペンによるもの、そしてAlison自身の「Two Highway」に収録されていた"As Lovely as You"などカントリー・フィールドからの楽曲は多いです。しかしAlison Kraussによるバックのアレンジが、先にも触れたギターを始めピアノやキーボードをフィーチャーしての、一貫して都会的な夜のイメージに溢れている事がこのアルバムのカラーを決定付けているのです。そしてそれが、レイ・チャールズの"Don't Change on Me"にいたっては、ほぼストレートなソウル・ゴスペルに。その中でもAlanの声が気持ちよく自然にグルーヴしてるのが嬉しいです。それにしても、Alison KraussがここまでR&B感覚に精通していたとは。チーフタンズとの共演ビデオ「Down the Old Plank Road(ダウン・ジ・オールド・プランク・ロード)」でのインタビューで、「暗めの曲が好き」とコメントしていましたが、ブルースやR&Bなどもしっかり聴いているのでしょう。だからこそ、ロバート・プラントやジョン・ウェイトら、ロック・アーティストとも柔軟に共演できるんだと思います。
元はといえばこのアルバム、Alanがブルーグラス・アルバムを作りたくてAlisonにプロデュースを依頼したそう。とても素直なアイデアで、それはそれで素晴らしいアルバムにはなったでしょう。しかし、Alisonはその上を行くクレバーさを持っていたと思います。意外性と、それだけには終らない安定したクオリティをしっかり両立したのですから。気になるのが同じ2006年の、せいぜい半年前にリリースされたセイクリッド集「Precious Memories」との関係。こちらもカントリー・ゴスペルということでいつもと違って、ピアノがフィーチャーされた荘厳な響きを持つサウンドが基調でした。この2枚、カントリー・ガイによるゴスペルとアーバン・ブルース。つまり表と裏のような関係の姉妹作と見れないでしょうか?そう見ると、Alison Kraussはなんてしたたかな人なんだろうと関心してしまうのです。
昨年のCMAアワードでは本アルバム関係は全くノミネートされておらず、世代交代とも思われましたが、グラミー賞で"A Woman's Love"が Country Vocal Performanceでノミネート。CMAアワードで取り上げられなかったのは、この作風がカントリーのメイン市場のファンにはピンと来なかったからでしょう。カントリー・チャートでも1位は獲得したものの、落ちるのも早かったように思います。このあたりの、アメリカの地域性というか、文化の多様性は面白くて、カントリーに親しんでいるとそれとなく感じ取れます。それでもこの「Like Red on a Rose」は彼のキャリアに重要な役割を果たしたでしょうし、彼の才能のレンジを見せ付けたことがグラミー賞のノミネートにつながったのでしょう。この挑戦的な作風が、或いは好きではないと言う方も多くいらっしゃるかもしれませんが、これでAlanに一目置くようになった方がいても良いと思います。カントリーのトラディショナリストであるAlanは、実は歌手としては結構クールでコンテンポラリーな資質も持っていて、それこそが今カントリー界での地位を築く個性であり原動力だったのだと、この意欲作は改めて示したのではないでしょうか。しかし大丈夫、次は本来に姿に戻るでしょう。既に新曲のストレート・カントリー"Small Town Southern Man"がヒットしてますから。
1958年ジョージア州はNewnan生まれ、だから今年でいよいよ50歳の大ベテラン。昨年は、妻Dennisの本「It's All About Him」が発売されるトピックもありました。フライト・アテンダントだったDennisが、飛行場で偶然見つけたレジェンドGlen Campbell(グレン・キャンベル)にデモテープを渡した事がキッカケで、キャンベルの出版社のスタッフ・ライターになった話は有名。1990年のデビュー以来、CMAアワードで16回ウィナーに輝くなど、今やカントリー界の皇帝です。そして90年代早々にカントリーに出会った私にとっても、カントリー・ミュージックと言えば、まずAlan Jacksonなのであり、彼の現代的なホンキー・トンク・サウンドこそが現代カントリー・ミュージックの雛形、スタンダードだと思っています。
●AlanのMySpaceページはコチラ●
まもなく新作「Good Time」がリリースされるAlan Jacksonですが、その前に2006年の前作をおさらい。プロデューサー Alison Kraussが仕掛けた挑戦的な異色作、しかし結果、ビューティフルな作品になり、目前に迫った第50回グラミー賞(Vocal部門)にもノミネートされています。つまり、あろうことかAlanのトレード・マークであるストレート・カントリー・サウンドを封印。ジャケットのイメージのとうり、夜のナイトクラブでジックリと聴くような、ピアノをバックにしたジャジーで少しソウル臭も漂うスローと、アーバンなアコースティック・バラードがずらりと並んでいます。どの曲も深く沈みこむような優しさをたたえており、明るい曲はありません。エレクトリック・ギターもホンキー・トンクのクリアな音ではなく、70年代ソウルのような陰影に富んだ乾いたエフェクトがかかったもの。そして、その音にAlanのクールでクリアな、そして優しみと憂いを帯びた「あの歌声」が見事に溶け込んでいるのです。改めてAlanが、幅広い許容力とゆとりの奥行きを持った有能なシンガーである事が確認できます。カントリー・ミュージックの懐の深さったら!
楽曲は1曲を除いて他人の曲(これも有能なソングライターである彼には珍しい事)。その1曲とは、1998年「High Mileage」収録の、今回シングルにもなった"A Woman's Love"のリメイク。オリジナルはソフト・タッチの穏やかな(地味目の)カントリー・バラードでしたが、ここではタメを利かせたリズム・アレンジでソウルフルに蘇りました。Alisonのバンド、Union StationのRon Blockがツインのエレクトリック・ギター(彼に敢えてエレキを弾かせて、しっかりクレジットしてます)で印象的なテーマ・フレーズを奏でます。ジャジーやアーバンなどとは言いましたが、けしてその手の楽曲を多く取り上げているわけではありません。Alisonのヒット・ソングを多くモノにしているRobert Lee Castlemanの絡んだ曲が4曲(その中で、"Like Red on a Rose""Nobody Said That It Would Be Easy"はCastleman自身の2000年のアルバムにオリジナル有り)あるほか、Herb Pedersenや、コチラもお仲間Sidney Coxのペンによるもの、そしてAlison自身の「Two Highway」に収録されていた"As Lovely as You"などカントリー・フィールドからの楽曲は多いです。しかしAlison Kraussによるバックのアレンジが、先にも触れたギターを始めピアノやキーボードをフィーチャーしての、一貫して都会的な夜のイメージに溢れている事がこのアルバムのカラーを決定付けているのです。そしてそれが、レイ・チャールズの"Don't Change on Me"にいたっては、ほぼストレートなソウル・ゴスペルに。その中でもAlanの声が気持ちよく自然にグルーヴしてるのが嬉しいです。それにしても、Alison KraussがここまでR&B感覚に精通していたとは。チーフタンズとの共演ビデオ「Down the Old Plank Road(ダウン・ジ・オールド・プランク・ロード)」でのインタビューで、「暗めの曲が好き」とコメントしていましたが、ブルースやR&Bなどもしっかり聴いているのでしょう。だからこそ、ロバート・プラントやジョン・ウェイトら、ロック・アーティストとも柔軟に共演できるんだと思います。
元はといえばこのアルバム、Alanがブルーグラス・アルバムを作りたくてAlisonにプロデュースを依頼したそう。とても素直なアイデアで、それはそれで素晴らしいアルバムにはなったでしょう。しかし、Alisonはその上を行くクレバーさを持っていたと思います。意外性と、それだけには終らない安定したクオリティをしっかり両立したのですから。気になるのが同じ2006年の、せいぜい半年前にリリースされたセイクリッド集「Precious Memories」との関係。こちらもカントリー・ゴスペルということでいつもと違って、ピアノがフィーチャーされた荘厳な響きを持つサウンドが基調でした。この2枚、カントリー・ガイによるゴスペルとアーバン・ブルース。つまり表と裏のような関係の姉妹作と見れないでしょうか?そう見ると、Alison Kraussはなんてしたたかな人なんだろうと関心してしまうのです。
昨年のCMAアワードでは本アルバム関係は全くノミネートされておらず、世代交代とも思われましたが、グラミー賞で"A Woman's Love"が Country Vocal Performanceでノミネート。CMAアワードで取り上げられなかったのは、この作風がカントリーのメイン市場のファンにはピンと来なかったからでしょう。カントリー・チャートでも1位は獲得したものの、落ちるのも早かったように思います。このあたりの、アメリカの地域性というか、文化の多様性は面白くて、カントリーに親しんでいるとそれとなく感じ取れます。それでもこの「Like Red on a Rose」は彼のキャリアに重要な役割を果たしたでしょうし、彼の才能のレンジを見せ付けたことがグラミー賞のノミネートにつながったのでしょう。この挑戦的な作風が、或いは好きではないと言う方も多くいらっしゃるかもしれませんが、これでAlanに一目置くようになった方がいても良いと思います。カントリーのトラディショナリストであるAlanは、実は歌手としては結構クールでコンテンポラリーな資質も持っていて、それこそが今カントリー界での地位を築く個性であり原動力だったのだと、この意欲作は改めて示したのではないでしょうか。しかし大丈夫、次は本来に姿に戻るでしょう。既に新曲のストレート・カントリー"Small Town Southern Man"がヒットしてますから。
1958年ジョージア州はNewnan生まれ、だから今年でいよいよ50歳の大ベテラン。昨年は、妻Dennisの本「It's All About Him」が発売されるトピックもありました。フライト・アテンダントだったDennisが、飛行場で偶然見つけたレジェンドGlen Campbell(グレン・キャンベル)にデモテープを渡した事がキッカケで、キャンベルの出版社のスタッフ・ライターになった話は有名。1990年のデビュー以来、CMAアワードで16回ウィナーに輝くなど、今やカントリー界の皇帝です。そして90年代早々にカントリーに出会った私にとっても、カントリー・ミュージックと言えば、まずAlan Jacksonなのであり、彼の現代的なホンキー・トンク・サウンドこそが現代カントリー・ミュージックの雛形、スタンダードだと思っています。
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私も大好きでCMTなどの記事も読みますが、こんなには行間を理解出来ません。 廻りにCountry Music好きは一杯いますが、こんな話は出来ません。
このAlan Jacksonの記事もそうだそうだとうなずきっぱなしでした。セイクレットソングはCountry Singerなら避けては通れない様な所が有る様ですね。
個人的にはMark ChesnuttがCharlie RichのRollin' With the Flowをカバーしたのが気に入ってます。
異色作は、ついいろいろと詮索をしてみたくなるもので・・・お付き合いいただき、感謝しています。セイクリッドとカントリーの関係は、ブラック・ゴスペルの場合と少し違うようで、ここらも興味をそそります。
"Rollin' With the Flow"はチャーリー・プライドの曲でしたか。Markのカバーはビルボードのトップ20に迫っているみたいで、気を吐いていますね。
これからもよろしくお願いいたします。
Alan、Bradからカントリーにお入りになるとは、正統派ですね。私、カントリーのスコア・ブックは見た事がありません。amazonでそれらしきものは売っているみたいですが、中身分かりませんしね。色々なカントリーのライブハウスに行きましたが、プレイヤーの方々もその類は持っていません。皆さんインターネットから歌詞とコードを拾ってられますね。有名なのは、cowpieかな。
http://www.roughstock.com/cowpie/songs/
専門店などで聞いてみるのも手かも。ブルーグラスがお得意な通信販売のショップです。
http://www.bomserv.com/index.htm
カントリーは日本のレコード会社の無理解で国内盤がほとんど出てないので、現時点、ツタヤは厳しいです。でも、ブルース、R&B、ゴスペルらとは同程度のリスナーはいると思います。タワー・レコードの売り場面積からの推測ですが。
ライブは、チャーリー・永谷さんというBradも尊敬する日本のカントリー・シンガーが主催されてる熊本でのイベントで、10月のカントリー・ゴールドと、4月のカントリー・サンシャイン(昨年のゴールドと4月のサンシャインはこのブログでもご紹介)があります。カントリー・ゴールドがビッグなイベントで、Brad Paisleyは2回来てるのです。私は1回目を見ました。カントリー・ゴールドのWebはこのブログのブックマークにリンクを貼ってますので、是非ご覧ください。
これからも宜しくお願いいたします。
私もデビュー・アルバム「Here in the real world」のジャケを見た時、渋いイカした風情に虜になった記憶があります。カントリーってカッコイイ!私自身はけしてウェスタン・ファッションを楽しんだりするわけではないのですが、音楽も含め、熱いテンションと和み感が混ざり合って、イイ感じなのです。
アメリカまで見に行かれましたか!私は、もう10年前ですがファンフェアでアランのステージを見ました。キレとユッタリ感が同居した気持ちいいステージだったように記憶してます。アランこそライブDVDが出て欲しいですね。デビュー当時からのアンソロジー的な集大成版が出ても良いくらいの人です。
またよろしくお願いいたします。