ここ最近、ビルボードのカントリー・エアプレイ・チャートのトップ20に食い込んだ新顔、ジャクソン・ディーンが気になりまして、取り上げさせて頂きます。目下シングル―・チャートを賑わせている、ポスト・モーガン・ウォレン(?)と思しき、ネイト・スミス Nate Smith("Whiskey On You")、ベイリー・ジマーマンBailey Zimmerman("Fall In Love""Rock and a Hard Place")らの路線寄りの、ラフなボーカルが持ち味ですが、近年はびこるデジタル・ビートとは無縁の、まさに骨太のサザン~カントリー・サウンドが逞しいです。
プロフィールです。メリーランド州はOdentonで生まれ育ちました。年齢は不明。18の頃に家出して、祖父の家の裏手にある暖房も水道もない、石敷きのワンルームという過酷な環境の中で、ソングライティングの技を磨きました。そのうちに、ミランダ・ランバートの最新作「Palomino」のプロデュースも担当したルーク・ディックLuke Dickらと曲を書くようになり、本作もルークがプロデュースしています。ケイン・ブラウンやブラザーズ・オズボーンらともステージを共にするようになり、2020年にBig Machineレーベルの目に留まりました。2021年に雰囲気ある"Wings"でデビューし、EPをリリースした後、今年2022年にデビュー・アルバムをリリースしました。
リード・シングルの"Don't Come Lookin"が、ネットフリックスの「The Ice Road(アイスロード)」や、パラマウントの「Yellowstone(イエローストーン)」(ケビン・コスナー出演)などのドラマでサウンドトラックとして使われた事が、ヒットのきっかけのようです。楽曲的にはシンプル極まりないのですが、地を這うようなダウンホームなビートが強力で、艶やかすぎないアーシ―なギター・サウンドが、ジャクソンの粘り有るソウルフル・ボイスと呼応する様が聴きモノです。゛窓を開けて、上手くいくと祈って/ただ迷子の新たな道を探すんだ/さらば、四輪が回ってる/タンクを満タンにして道を燃やすのさ/やれるとも言えないし、やれないとも言えない/もし戻らなくても、探しに来ないでくれ゛
一見、ラフでマッチョなイメージのアーティストと思いがちですが、デビュー曲のスロー"Wings"はその固定観念を壊してくれます。エモーショナルで力強くも陰影に満ちた歌声と曲想が、メインストリーム・カントリーのスロー曲としては異例で、要所でのファルセットが曲のトーンを決定するのも個性的です。"Fearless"も同様なスロー曲で、楽曲はシンプルですが、ヴァースでの思いを秘めたような歌い口と、コーラスでの伸びやかな歌声の対比が聴きどころです。
ざっと全体のスタイルとしてはサザン・ロック系~トラディショナル系までカバーしたという感じで、もっとも古典寄りなのが"Don't Take Much"でしょう。よくあるミディアムのホンキー・トンク曲ですが、イントロとエンディングに少しアンニュイなパートが付けられ、あまりこんなアレンジは聴かないので、面白く聴きました。その一方で、”Red Light”や"Greenbroke"のようなアップ・テンポでも鋭いノリを聴かせてくれて、なかなか幅広いタレントを見せます。
まだ大ヒットとまでは言えないですが、こんな骨太なアーティストがメインストリーム界の一角を担って欲しいと思えるシンガーソングライターです。
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