ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Brad Paisley ブラッド・ペイズリー- This Is Country Music レビュー

2011-06-30 | Brad Paisley ブラッド・ペイズリー レビューまとめ
 カントリーであると言うこと、つまりそれはこういうことだ。

 メインストリーム・カントリー界の貴公子であり、真のカントリー・ミュージックの継承にその身を捧げ続けるブラッド・ペイズリーの新作、そのタイトルはズバリ!「これがカントリー・ミュージック」。彼の音楽制作のポリシーを今一度再確認するかのような名を冠されたアルバムの音楽は、基本的にこれまでの作品のキープコンセプトで、安定した楽曲とパフォーマンスのクオリティを備えた、ファンならずとも安心して楽しめるものになっています。そして、そのほとんどでブラッド自身がソングライティングに関わっているところに、いつもながら彼の希有のタレントを感じさせますね。適度にポップな装飾や他ジャンル音楽の要素が散りばめられていて、アルバムタイトルから受ける印象程にはトラディショナル・スタイルへの固執はないように見えますが、主軸の楽曲スタイルやソリッドなギターサウンドにこそ彼の主張する現代流カントリーの真骨頂があるのです。


 さらに、豪華ゲスト陣が多数参加している事も本アルバムのポイント。その顔ぶれは、キャリー・アンダーウッド、ブレイク・シェルトン、マーティ・ステュアート、そしてアラバマ!らのカントリー・フィールドの大物にとどまらず、イーグルスのドン・ヘンリー、シェリル・クロウ、そしてなんと!ブラッド流ウェスタン・ソング"Eastwood"ではその名の通り、ハリウッド俳優で名監督のクリント・イーストウッドが口笛で参加するという凄さです。ブラッドが既にカントリー・フィールドにとどまらず、アメリカ・セレブ界の大物になっている事を痛感させられますねぇ。

 ブラッドならではのハイ・スピードなギターが堪能できるのが、゛Camouflage゛ 。クールなギター・リックとシャープな早弾きがエキサイティングで、現代カントリーならではの魅力を楽しめます。またこれも定番のトラディショナルなシャッフル・チューンが ゛Don’t Drink the Water゛。今回は昨年大躍進したブレイク・シェルトンとの豪華デュエットで楽しさ倍増です。一方、サーフィン・ミュージックの影響を感じさせる゛Working on a Tan゛のヴェンチャーズ的ギターには、彼のルーツの一端が垣間見えて聴き逃せません。


 ロマンチックなバラードもブラッドの魅力の一つ。すっかり御馴染みとなったキャリー・アンダーウッドとのデュエット、今回は゛Remind Me,゛で楽しめます。出会った当時のような、新鮮な関係をもう一度よみがえらせようと望む、ポップながらも南部風コクを織り込んだスタイルのバラードです。11月に開催されるCMAアワードでのデュエットが楽しみですね。より軽めで、ウェストコースト・ロックの香りがたっぷりの゛Love Her like She’s Leavin’では、かつてその音楽を席巻したドン・ヘンリーがハーモニーでデュエット。イーグルス・ライクなぶ厚いコーラスが雰囲気です。70年代カントリー風のドラマティックなスロー゛I Do Now"は、この世の不運にさいなまれる人たちへの同情を歌った、なかなかにシリアスな曲。


 セカンド・シングルとしてヒットした ゛Old Alabama,゛は、80年代カントリーのスーパースター、アラバマの3人が参加した注目曲。楽曲は、アラバマの名曲"Mountain Music"を結構ストレートにモチーフにしたもの(イントロがズバリそれ)で、半分くらいはノベルティ・ソングっぽいなぁ。とにかくハッピーに楽しむ為の作品ということね。

 そして、タイトル曲゛This Is Country Music.゛。オープニングでのアーシーなアコースティック・ギターとバンジョーの響きで聴き手に”カントリー”を意識させます。そしてコーラスから参入する切れのあるエレクトリック・サウンドに、60年代ベイカーズフィールド・サウンドの現代版が展開されている事を感じるのです。ここで歌われる、ブラッドによるカントリー・ミュージックの定義は、まず、カントリーが他のジャンルでは決して取り上げない深いテーマを歌っていること。そしてもう一つ大切な事が、ゴスペルと共に「Jesusこそが答え」である音楽だということです。それを裏付けるよう、いつものブラッドのアルバム同様、クロージングにカントリー・ゴスペル曲である゛Life’s Railway to Heaven,゛を持ってきてアルバムを締めくります。この曲はマーティ・ステュアートとシェリル・クロウがコーラス(マーティはマンドリンも披露)で参加した、ブルーグラス・スタイルのトラディショナルな仕上がり。シェリルのコーラスが見事にブルーグラスしてて素晴らしい。


 現代カントリー・ミュージック・ソングを分析した邦書「カントリー音楽のアメリカ」で、著者ロバート・T・ロルフ氏が"There Goes My Life"(ケニー・チェズニー)の項で、カントリー・ミュージックの定義に関してこんな記述をしています。

 この議論は、少なくとも1950年代~1960年代に持ち上がった、ナッシュビル・サウンド騒動同様に、古い話題である。ある歌が「カントリー」となる決め手は、演奏形態や歌い手の声によるのか、それとも、歌の主題やものの見方なのか?ナッシュビルや、南部のカントリー史上名高い町で録音しさえすれば、カントリーと呼ばれるに値すると考える者は、ほとんどいないであろう。ハンク・ウィリアムス、アーネスト・タブ、カーター・ファミリー等、典型的なカントリー歌手からどれくらい隔たってしまうと、カントリーではなくなるのだろう。中には、自分はカントリー歌手であると宣言するだけで、多くのカントリーラジオ局に登場できる歌手もいるようだが。ともあれ、家族問題を描いた"There Goes My Life"は、まさにカントリーと呼ぶべき「メッセージ」が盛り込まれた重要な一曲である。
 
 家庭問題を始めとしたカントリーならではのテーマに、カリフォルニア・カントリーのソリッドなギター・サウンドをアメリカン・ロック・マナーでフィーチャしたものが、ブラッドが提示する唯一無二の”Country Music”なのです。


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2 コメント

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初めまして (レッド・ストーバル)
2011-07-02 15:49:11
初めまして、クリント・イーストウッドとジョニー・キャッシュを愛する16歳です。

"Eastwood"を聴いてみましたが、セルジオ・レオーネ監督、イーストウッド主演のマカロニ3部作でのエンニオ・モリコーネを彷彿とさせますね。口笛は涙を誘うな・・・(笑)。

2年くらい前に『ウォーク・ザ・ライン』を観て以降ジョニー・キャッシュのファンになり、以降『ジョニー・キャッシュTV』やクリントが監督・主演した『センチメンタル・アドベンチャー』を観たり、東理夫氏著の『アメリカは歌う』などを読んでカントリーを楽しく学んでいます。周囲からはからかわれてますが(笑)。

初コメントで長文失礼いたしました。どうぞよろしくお願いします。
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カントリーって、本当に良いですね~ (カントリー親爺)
2013-03-06 21:46:33
初めまして、エルヴィス・アーロン・プレスリーと、カントリーミュージックの好きな60代の親爺です。
16歳の日本の青年がジョニー・キャシュが好きですなんて、もう泣けてくる位、うれしいです。また、東理夫氏の本を読んで、カントリーを学んでいるなんて、君は、すごいですね。
私の若い頃は、マール・ハガードやバック・オーエンスが人気でしたが、今は、アラン・ジャクソンとブラッド・ペイズリーが好きです。どうぞ、よろしくお願いします。
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