あなたは南風
いくつもの広い海を渡り いくつもの移りゆく季節を吹き抜けて来た南風
その優しい愛に触れて
花々は色とりどりに美しく咲き揃い 小鳥は喜びのうた楽しげに歌うでしょう
誰も思いもよらない長い道程と 遥かな時を超えての旅にも
あなたの明るさ温かさ優しさは 失われることなく守られていたのです
よせる波 かえす波
よせる愛の予感 かえす愛の想い出
海は何億年もの間 醜さをその大きさで包み込み
何億もの生命(いのち)を育みながら
飽くことなく同じ営みを繰り返し 時が来るのを待っていたのです
遠い遠い昔の愛の想い出と 遥か未来の愛の予感
ふたつの時がひとつに溶け合う時
深い悲しみの中 争いに海に流れた血が
陽光に照らされながら波間に漂い
悠久の時を経て やがて真珠のような白い美しい泡になり
その泡から 輝く愛の女神 アフロディテが誕生するのです
はじけた泡から 柔らかく馨しい風も生まれました
キプロスに上陸した女神のゆくところ
光溢れる春が一時に訪れ
樹々は芽吹き 若葉が輝き 花々は香り爽やかに咲き乱れ
小鳥達は女神の美しさを讃えて歌います
風はいつも女神に寄り添い従っていました
美しい女神の姿と春の風景を 歓喜に満ちたこの時をしっかり記憶にとどめるために
そして思い切って女神に別れを告げ 散り散りに吹き去って行ったのです
あなたはそんな泡から生まれた優しく馨しい南風
遠い遠い昔の愛の想い出と 遥か未来の愛の予感
ふたつの時がひとつに結ばれる時
あなたの旅は終わるのです
あなたは愛の予感に震える心に吹き込んで
記憶に刻まれている愛の想い出を甦らせます
心はあなたが生まれた あなたの鼓動のままのゆらめく海になり
明るく温かく優しい大気の中
悲しみが真珠のような白い美しい泡になり
輝く愛の女神 アフロディテが誕生するのです