まーたテニス、だが、確実に興味を持続させてくれるだけのクオリティを何年も提供し続けてくれる大変有難い存在な訳で、しかもちょっと間空けて新刊も来月には出るということで…
全日本ジュニアの準決勝、この巻は難波江対荒谷の場面から始まる。日本のジュニアの中でも随一のパワーヒッターである荒谷に対し、力で五分に渡り合って見せることで「テニスの通知表オール5」を完成させようという難波江。当然荒谷の方は、そうそう気持ちよく「卒業」させてたまるかと、この試合に勝つためのプランをしっかり実行してゆく。
一方、相手をリズムに乗せない配球を徹底して続ける主人公と、スピードと球威で攻めの機会を与えない神田。第2セットのタイブレークでは、その大詰めで神田が視点を変える、つまり無意識につくっていた自分の限界から意識的に抜け出す動きをすることでブレークスルーを果す。
ここら辺でもフェイントの描写入れてたりして、コミック買ってるおっさんとしてはうれしいです。が、店頭で雑誌の立ち読みだったら見過ごしてるだろうなあ。また、テニス経験あまりない読者はわからんかもしれないな…
神田はお互いのメンタルの強さを認識しながら、その背景の違い、個人の意思と論理的思考に基づく主人公より、伝統的な日本の軍隊的ど根性で戦う自分が強いと考える。
ところで、神田が主人公をさして「こいつ」というのに丸尾「くん」という、るびがつくのは、教育的な見地からか、読者が神田に悪感情を持たないようにしようという配慮かなと思うが、不自然な感じなのは否めない。
それでも恐らく少年漫画屈指のメンタルモンスターである主人公は揺るがない。顔の汗を拭う間に心を落ち着け、すぐにフィードバック作業というルーチンワークを行う。最終セットの頭に立てた戦略は、相手に攻められていたポイントと、攻め切るために必要なポイント(フィニッシュするためのセットアップとなるショット)でのリスクを上げる(より攻撃的になる)こと。
実戦での経験と鍛錬によってつくりあげた体力、そして技術に裏付けられた自信を基にギアは上げてもシンプルなプレイスタイルは変えない神田。相手の絶対的な体力を意識しながらも、試合が長引くことを、データの蓄積量が増える利点に変えて対抗する主人公。理由は違えどお互いに早くリードして勝負を決める必要性を意識する両者。ジャパンオープンでも最終セットはタイブレークなのに(笑)、キープ合戦で延々続く最終セット。
とっくに他の準決勝が終わった中、最終セット8-7で神田のサービスゲーム。体力差が出始める前に勝負をつけるべく主人公は攻めに出ようとするが、結局鉄壁の神田は崩れず、主人公の体には限界を知らせるサインが。弱気になりかかった自分を奮い立たせる主人公に対し、辛うじてキープに成功したものの、サービスゲームで何度もフィニッシュまで打たせてしまったことに危機感を募らせる神田。
主人公はもう徹底的に攻め続けるしかないと腹を決め、サービスキープに成功、9-8。ここで主人公の体力が殆ど品切れに近いことを察知した神田は、リスクをやや下げるプレイで、攻めながら相手に付き合う戦略をとる。またお互いキープで11-10。
と、いうことでまだ終わらない準決勝ですが、改めて読み返してみると、この巻の最後のところでさすがに勝敗の行方が見えていた感じですね。そして実際、ここから少年漫画お得意のウルトラC(反則とも言う?)を許さないのがこの作品。トゲの無いタッチの絵柄と裏腹に孤高のストイシズムを貫いてます。巷で本格的と言われるスポーツ漫画が増えてますが、チラチラ雑誌でのぞく限り、やはりこの作品、特に試合の描写の濃さでは群を抜いてますね。作り手の方々は大変だと思うけど、そのご苦労にみあったすごい作品ということは読者も十分感じて評価しているのでがんばってね。