今回の最大のテーマは、成績に関する言い訳でもなんでもなく、ストリング選びだった。初めてポリエステル系ストリングを常用し始めてから使い続けてきた廉価で馴染んできたブランドがどうも会社ごとなくなってしまったようで、代わりを探さなければならなくなったのだ。条件としては、手や指の関節に響かない衝撃吸収力、だがフェイスの小さなフレームを補う反発力、そして極力廉価なこと。僕はハイブリッド張りにしていて、しかも縦糸として組み合わせるのはモノマルチ型で柔らかいナイロンストリングなので、ポリエステルの横糸が問題なくとも摩擦で縦糸の劣化が非常に早い(つまり張替えが早い)のだ。総ナイロンも試してみたが、いい感触の糸はハードヒット時にボールをホールドする時間が長すぎてかえって手に響く。
上記の条件で探して最初に目につくのがシグナムプロの製品だった。そこでまずプラズマピュア(1.23mm)を取り寄せて試したが、衝撃吸収力は非常に優秀だったものの、反発力が期待ほどではなく、パワフルな球を打つのに以前より力が必要だった。次にポリプラズマ(1.23mm)を取り寄せ、プラズマピュアは、縦糸をより細くしたものと組み合わせて比較した。これは地元の市民大会の予選で試したが、ポリプラズマの方が満足できるスピードとスピンを備えたショットを打てた。が、翌日手の関節に違和感が若干残る。そこでテンションを3ポンド下げて張りなおしたものと、新たに細い1.18mmのポリプラズマを取り寄せて同じテンションで比較した。これらを2週間後の市民大会の決勝トーナメントとその翌日の県のベテラン大会で試したのだが、前回より飛びは若干よくなったが衝撃吸収力の方は未だ満足できるレベルではなかった。多分毎週の練習であれば何とか許容範囲だろうが、ニューボールでガツンガツン打ってくる相手と試合するのはちょっとつらい。今シーズンの最後の試合が11月の頭にあるので、スペック的にはプラズマピュアとポリプラズマの中間の柔らかさがあるらしい、ハイペリオンを試すつもり。
さて、日曜日に参加した市民大会の決勝トーナメント、引き続きグリーンサンド。相手には関係なくこの日のテーマは前述のストリング評価に加え、日頃プレイが少ない土のサーフェイスへの対応、そして2日連続の試合を乗り切るよう体への負担を考えること(土では踏ん張るせいか、特に股関節が疲れる)、さらに風がある状況でのサービスの品質。
1回戦、またロブの徹底攻撃でもされるかと思ったが、それほどあからさまなものでもなく、しかし徹底したバック狙いできた。こちらは課題のサービスが入らない状況が続き、あきらめてスピン系の入れるサービスに切り替え、ストロークも返して続けることを主体に、叩けるボールがきたら叩くというパターン。ひとつのゲームが決まるまではポイントを取ったり取られたりという感じだが、スコア的には最初の1ゲーム与えただけで終盤になり、ここで「気持ちよくサービスもストロークも打てていないなー」と思いどうしようかと考えているうちに2ゲーム取られてしまう。が相手の追い上げもここまでで終了。
正直なところ、2週間前の予選と同じく、心の余裕の差で決まったという印象。まず、最初の数ポイント打ち合って相手のショットと動きのレベルがわかる。わかるとゲーム内で競っていても「最終的には負けないだろう」という気持ちで打ち合いを続けながら、チャンスは逃さないつもりでプレイしていた。一方相手はこちらにチャンスボールを渡さないために配球でリスクをより多く取り、さらに自分に来たチャンスボールは逆襲されないよう強く決めなければならないというプレッシャーにさらされていた。そして何といってもこちらがチャンスボールを提供したり、ミスをしがちなポイントを結局相手が見つけられなかった(識別できなかった)。まあスポーツの試合の典型的な例。これは自慢や何かで書いているのではなく、翌日は僕がその立場になったのでつくづく身に染みたのだ。
2回戦は前回の優勝者。年配だが背が高くスポーツマンタイプ。打ち合っていても取り立ててすごいショットは無い。が、自分からはなかなかミスをせず、守備が堅い。こういうタイプは珍しくない。テニス歴や学生時代にハードなスポーツの経験はなくとも、サイズからくる守備範囲と筋力、反射神経、集中力でなんとかしてしまうのだ。
日本人の普通の体格で筋力も普通かそれ以下の人が、硬式テニスを始めて最初に戸惑うのが男女問わずラケットとボールの重さ、打球の速さと軌道だろう。が、サイズ、筋力がある人は格好よくは打てないかもしれないし、相手を圧倒する威力のあるボールを打てないとしても、大げさに言えば卓球のラケットであしらうように力まずラリーを続けてしまうのだ。相手は大男が縦横無尽に動いて全身を使って機械の様に強打してくるわけではない。日本で社会人がアマチュアレベルで楽しむ分にはこれで充分足りてしまうのである。これがフェイスが大きく、軽く、反発力がある、つまり扱いやすいラケットが普及することでより顕著になった。早期に余裕を持ってラリーできてしまうと、精神的にも余裕が出来てテニスというゲームで得点するコツをまた早く見極めることができる。具体的には配球、早く的確な守備、そして相手の弱点を見つけることに徹底的にフォーカスする。この手の連中は大概それ以上の色気を出さない。あくまでゲームであり、たくさん勝って楽しむものなのだ。徹底した現実主義者なのだ。
試合後に色々話してくれたのだが、彼はまず強いサービスを打たれるより自分が先にサービスをすることを選んだ。次に、序盤こちらがフォアの強打で得点をしていたので(攻められると防ぎきれないポイントが続いた)、バック側中心に、深いボールを打つようにした。ただ、弾むボールは避けて低い弾道にして上から叩かれることを避けたようだ。
こちらといえば、翌日と見た目は違うが同じ間違いをした。調子が上がっておらず、適切に動けていないのに自分の好きに、気持ちよく打とうとしてしまったのだ。結果、一言で言えば自滅というやつである。風があって不安定なのにサービスを強く決めようとする。バックに打ち頃の球が来れば、踏み込みが甘い状態で強打してアウトする。そのうちフォア側に来たチャンスボールも踏み込まず打ってミスる。
相手は前日まで泊りがけのゴルフ合宿をしていて、年齢はしばらくしたら還暦。それでも、近隣の市民大会でも上位の成績を出し続けており自信にあふれていた。が、前段からわかるように、結局そういう相手に関係なく負けたと言える。試合前に掲げたテーマからして勝ち進むためのものではなかったのだ。
翌日の試合は平均レベルが段違いに上がる大会。コートはオムニ。相手は同じ年代とは思えない外見で、よく訓練され鍛えられていることがよくわかるフォームから強打を中心とした、体育会的なパワフルなテニスをする。
試合が始まってみると、タコ殴りにされるかと思ったが、相手はミスもするしカウンターで反撃できてしまったりして最初はお互いにキープ。が、僕は既に致命的な判断ミスをいくつかしていた。まず、確かに相手の打つボールは速いが、実はそうでもない。というのは、飛んで来るときは速いが、跳ねた後はそれほど伸びていなかったのだ。それでも「速い」という意識を過剰にしてしまって、またいつもの悪い癖である、ボールを長く見すぎてしまう癖が出てしまったのだ。おかげでストロークのタイミングが合わず(でも振り遅れにはならない)、落下点の予測を誤ることもあった。もう一つは大きな“失点源”となった、バックへ来るスピンサーブのレシーブミスだが、これも最初の印象ほど伸びては来ないので、しっかり踏み込むか、試合の後半にしたように、ポジションを下げて処理すれば問題はなかったのだ。
序盤はノータッチのサービスエースやフォアハンドのエースを決めたので、相手は警戒したようだが、ミスも多かったので、相手はペースを少し落としてミス待ちに出た。ここで僕は前日の2回戦と同じ間違いをした。「調子が上がっておらず、適切に動けていないのに自分の好きに、気持ちよく打とうとしてしまった」。技術的に顕著に出たのが、余裕があるのに前ではなく横に踏み込んで打ちアウトやネットするパターン。それが続くとますます相手は余裕が出て、前日の1回戦の逆のパターンになっていった。
自分の理想のプレイを最初からやろうとするのではなく、しっかり試合に馴染むことでミスを防ぎ、主導権を容易に渡さないことで相手に精神的な余裕を与えないこと。相手が気持ちよく打てない状況をつくり続け、チャンスボールをきちっと決めてゆくことで徐々に自分のしたいテニスにもってゆくこと。しっかり打てたときには相手のほうが食い込まれてミスするパターンが多かったし、スコア的には大きく離されてしまったが、チャンスはいくらでもあった試合だった。結局相手も人間なので、とにかくポイントを取り続けていけば崩れてゆく。逆にいいショットを打たれても、スコアがそうでもなければ崩れないのだった。そういうことを無視した、ゲーム的頭の悪さがはっきり出た二日間だった。