発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

オーバードーズ(市販薬乱用)2024

2024-09-19 16:06:51 | 精神科医療
日本思春期学会で薬物依存の講演を聴講しました。
最近増えてきた「市販薬乱用」の話を興味深く聴きました。

2014年にはなかった市販薬乱用・・・
どうやらその主因は「危険薬物禁止」であり、
それが激減すると同時に増加し、
つまり「簡単に手に入る依存性薬物」として注目を浴びたことらしい。

さらに市販薬は個人で入手し個人で乱用できるという、
現代社会の抱える「孤独」「孤立」とリンクしやすい特徴がさらに拍車をかけた、
という説明で、頷きながら聞きました。

ポイントと感じた箇所をメモしておきます。

▢ 乱用された市販薬ランキング
1.ブロン錠・ブロン液(せき鎮静・痰除去薬)
2.パブロン・パブロンゴールド(総合感冒薬)
3.ウット(睡眠鎮静剤)
4.ナロン・ナロンエース(鎮痛剤)
5.イブ・イブクイック・イブプロフェン(鎮痛薬)
6.ドリエル(睡眠薬)
7.バファリン(鎮痛薬)
8.コンタック(総合感冒薬)
9.トニン・新トニン・シントニン(せき鎮静・痰除去薬)
10.セデス(鎮痛薬)
11.ベンザ・ベンザブロック(感冒薬)
12.レスタミン(抗アレルギー薬)
13.ロキソニン(鎮痛剤)
14.ルル(総合感冒薬)
・・・
と馴染みのある市販薬の名前が並び、驚かされます。

▢ 乱用市販薬の二大成分
・メチルエフェドリン(覚醒剤の原料)
・ジヒドロコデイン(麻薬の一種)

これも医療関係者にはお馴染みの成分です。

▢ 市販薬を乱用する背景
・つらい気持ちをやわらげたいが、誰にも相談できない。
・生きるための手段・・・「死にたい」気持ちから一時的に逃れることができる。
・居場所としてのインターネット(SNSの匿名性)、家庭・学校に居場所がない。

リストカットの背景も「死ぬため」ではなく「生きるための手段」と説明されており、
現代社会が抱える病理が別の形で現れているということでしょう。

▢ 市販薬乱用者の共通する要因
・体質(ドーパミン放出機能の弱さ)
・幼少期の経験・生育環境
(例)親からの虐待・冷遇、学校でのいじめ、
   褒められる・認められる経験の乏しさ
 ・・・脳内報酬系(褒められ認められることによる天然のドーパミンの快感)を経験していない。
・トラウマ(性暴力、凶悪犯罪との遭遇)
 → 以上の要因があると薬物により得られる快感に絶大な魅力を感じやすい(感じるのはしかたない?)
 → 依存症になりやすい。

・・・脳内報酬系が自然に日常的に稼働する経験がないので、薬の快感に抵抗できないということ。
 演者は「生育環境など過去の話を聞くと、“薬に依存してもしょうがない”というひどいエピソードばかり」と話していました。

▢ 「孤立の病」としての薬物依存
・社会的孤立・・・人とのつながりがない
・薬物に手を出すキッカケは「つながり」を得るため
  → 「仲間」と見なされる
  → 大切な人との絆が深まる
  → 薬物使用・・・対人的な緊張感・不安の緩和、劣等感の解消
       ⇄ ひと付き合いの苦手さ、自尊心の低さ
・「助けて」が言えない・・・援助希求能力の低さ
・依存症の「自己治療仮説」(苦痛の回避)
・(安心して人に依存できない病気)

・・・市販薬乱用者は、従来の「楽しむためにクスリを使う」薬物中毒のイメージと異なり、みな真面目で孤独です。
人付き合いが苦手で人を頼るのも下手、つらさから逃れるためにクスリに手を出す、そしてそのクスリは近所の薬店で売っている・・・という悪循環ができやすい構図が浮かび上がります。

▢ 薬物依存啓発運動の功罪
・薬物乱用防止教育「ダメ、ゼッタイ!」
・薬物自体についての知識伝授としては意義あり。
・しかし依存症者への誤った理解と偏見を生じやすい。
・刑罰による排除・規制の強化は必要な支援と逆方向
・依存症者はさらなる孤立へ

薬物乱用者は病気なので、本人の意志があっても止められない、
それを非難すると逃げ場がなくなってしまい、孤立が深まる悪循環・・・。

▢ ハーム・リダクション
・薬物問題は刑罰や規制では解決しないことが世界共通の認識
薬物問題を抱える人に必要なのは刑罰ではなく、治療と支援
・WHO「薬物問題を非犯罪化し、健康問題として扱うこと」(2014年)
・ハーム・リダクション(被害の低減):薬物を強制的に止めさせることよりも、薬物による健康被害を減らし、命を守ることが重要。

・・・日本はこの考え方がまだまだ浸透していませんね。

▢ 支援者にできること
・薬物を使用したことを否定しない。
・止めること・止め続けることの難しさへの理解(簡単に手放すことはできない)
・根気強くつながり続けること(ゆるくつながり、時にはお節介も必要)。

<オーバードーズに対して周囲はどうする?>(NHKのHPより)
・つらい気持ちにより添う。
・解決には時間がかかると心得る。
・専門機関に迷わず相談する。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ASD(自閉症スペクトラム)に対する薬物療法(西洋医学)

2024-08-29 14:08:36 | ASD 自閉症スペクトラム
これは児童精神科の領域であり、小児科医の私には縁遠い世界です。
基本的に「ASDを治す薬は存在しない」ことになっています。

しかし「発達症(ASD/ADHD)の困り事に漢方を」という小文をまとめてから、
西洋医学による介入はどうなっているんだろう?
と素朴な疑問が生まれました。

検索するといくつかの記事がヒットしましたので、読み込んでみました。

まずは小児ASDに対する薬物療法の報告を。

<ポイント>
・多動性、衝動性、興奮、気質性立腹、自己または他者への攻撃性に対する介入では、リスペリドンやアリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が第1選択薬として用いられている。
・三環系抗うつ薬は、有効性が不確実であり、重大な有害事象が懸念されるため、使用が減少している。
・SSRI、とくにfluoxetineとセルトラリンは、反復行動(不安症状や強迫症状)や過敏性/興奮の治療に有効である可能性があり、ミルタザピンは睡眠に問題を抱える患者に役立つ可能性がある。
・精神刺激薬(程度は低いがアトモキセチン)は、ASDとADHDが合併した症例においても多動性、不注意、衝動性の軽減に効果的であるが、特発性ADHDと比較すると、有効性はやや劣り、副作用発現率は増加する。
・クロニジンとグアンファシンは、多動性や情動行動に対し、ある程度の有効性が期待できる。

攻撃性には精神疾患同様、非定型抗精神病薬が用いられている様子。
古典的な三環系抗うつ薬は効果より副作用が懸念され使われなくなってきており、
SSRIでは、fluoxetineとセルトラリンは強迫症状や過敏性/興奮に有効(かもしれない)、
ミルタザピンは睡眠障害に有効(かもしれない)

さらに報告ではこの領域の2つの大きなハードルとして、
・ASD患者では、臨床反応と副作用の感受性に個人差が大きい。
・ASDの中核症状を直接的に改善する向精神薬はなく、併存症状の軽減や間接的な改善がいくつかの薬剤で報告されているにとどまっている。
ことを挙げています。

やはりASDを治す薬が存在しないことは現在でも事実で、
症状が強い場合は精神疾患に使われる薬剤を流用するけど、
効果や副作用は個人差が大きく、手探りで行っている様子が窺えました。

■ 自閉スペクトラム症に対する小児精神薬理学~システマティックレビュー
ケアネット:2021/05/18)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 自閉スペクトラム症(ASD)は、一生涯にわたる重度の神経発達障害であり、社会的費用が高く、患者やその家族のQOLに大きな負荷を及ぼす疾患である。ASDの有病率は高く、米国においては小児の54人に1人、成人の45人に1人が罹患しているといわれているが、社会的およびコミュニケーションの欠陥、反復行動、限定的な関心、感覚処理の異常を含むASDの中核症状に対する薬理学的治療は十分ではない。イタリア・メッシーナ大学のAntonio M. Persico氏らは、ASDに対するベストプラクティスの促進、今後の研究のための新たな治療戦略を整理するため、小児および青年期のASDに対し、現在利用可能な最先端の精神薬理学的治療についてレビューを行った。・・・

 主な結果は以下のとおり。

多動性、衝動性、興奮、気質性立腹、自己または他者への攻撃性に対する介入では、リスペリドンやアリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が第1選択薬として用いられている
三環系抗うつ薬は、有効性が不確実であり、重大な有害事象が懸念されるため、使用が減少している
SSRI、とくにfluoxetineとセルトラリンは、反復行動(不安症状や強迫症状)や過敏性/興奮の治療に有効である可能性があり、ミルタザピンは睡眠に問題を抱える患者に役立つ可能性がある
・低用量のbuspironeと行動介入との併用は、限定的かつ反復的な行動に対し、ある程度の有効性が示唆されている。
精神刺激薬(程度は低いがアトモキセチン)は、ASDとADHDが合併した症例においても多動性、不注意、衝動性の軽減に効果的であるが、特発性ADHDと比較すると、有効性はやや劣り、副作用発現率は増加する
クロニジンとグアンファシンは、多動性や情動行動に対し、ある程度の有効性が期待できる
・他の薬剤については、症例報告や非盲検試験で有効性が報告されており、ランダム化比較試験は実施されていない。

 著者らは「ASDの小児精神薬理学の研究は、依然として少なく、2つの大きなハードルがあると考えられる。1つはASD患者では、臨床反応と副作用の感受性に個人差が大きい点があり、この低レベルの予測には、薬剤選択をサポートするうえで、症状固有の治療アルゴリズムやバイオマーカーが寄与する可能性がある。もう1つは、ASDの中核症状を直接的に改善する向精神薬はなく、併存症状の軽減や間接的な改善がいくつかの薬剤で報告されているにとどまっている点である」としている。

<原著論文>


次にASDのADHD症状に対する薬物療法についての報告を。

<ポイント>
・メチルフェニデートは、多動、易怒性、不注意などの症状に対し、プラセボと比較し有効であることが示唆された。定型的症状に対する影響は認められず、メチルフェニデート誘発性の副作用による脱落率が大きな影響を及ぼしている。
・アトモキセチンは、プラセボと比較し、多動および不注意症状に対し有効であることが示唆されたが、定型的症状または易怒性には影響を及ぼさなかった。
・グアンファシン、クロニジン、bupropion、モダフィニルなどの薬剤に関する情報は、限定的であった。

 → メチルフェニデートは、多動、不注意、易怒性に有効であるが、安全性に懸念がある。一方、アトモキセチンは、多動および不注意に緩やかな有効性を示し、副作用プロファイルは比較的良好であった。

当然というか、ADHDに使用されている薬物(メチルフェニデート、アトモキセチン)が適用されており、
効果はメチルフェニデート、安全性はアトモキセチン有利、という内容でした。


■ 自閉スペクトラム症のADHD症状に対する薬理学的介入〜メタ解析
ケアネット:2024/08/08)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 自閉スペクトラム症(ASD)患者における注意欠如多動症(ADHD)症状の治療に対する薬理学的介入の有効性に関するエビデンスを明らかにするため、ブラジル・Public Health School Visconde de SaboiaのPaulo Levi Bezerra Martins氏らは、安全性および有効性を考慮した研究のシステマティックレビューを行った。・・・
 ASDおよびADHDまたはADHD症状を伴うASDの治療に対する薬理学的介入の有効性および/または安全性プロファイルを評価したランダム化比較試験を、PubMed、Cochrane Library、Embaseのデータベースより検索した。主要アウトカムは、臨床尺度で測定したADHD症状とした。追加のアウトカムは、異常行動チェックリスト(ABC)で測定された他の症状、治療の満足度、ピア満足度とした。
 主な結果は以下のとおり。

・システマティックレビューの包括基準を満たした22件のうち、8件をメタ解析に含めた。
・メチルフェニデートと比較した、クロニジン、モダフィニル、bupropionによる治療に関する研究が、いくつか見つかった。
・メタ解析では、メチルフェニデートは、多動、易怒性、不注意などの症状に対し、プラセボと比較し、有効であることが示唆された。しかし、定型的症状に対する影響は認められず、メチルフェニデート誘発性の副作用による脱落率が大きな影響を及ぼしていることが、データ定量分析より明らかとなった。
アトモキセチンは、プラセボと比較し、多動および不注意症状に対し有効であることが示唆されたが、定型的症状または易怒性には影響を及ぼさなかった
・さらに、研究からの脱落原因となった副作用に、アトモキセチンは影響を及ぼさないことが明らかとなった。

 著者らは「メチルフェニデートは、多動、不注意、易怒性に有効であるが、安全性に懸念がある。一方、アトモキセチンは、多動および不注意に緩やかな有効性を示し、副作用プロファイルは比較的良好であった。グアンファシン、クロニジン、bupropion、モダフィニルなどの薬剤に関する情報は、限定的であった」としている。

<原著論文>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「依存症」は「孤独な自己治療」

2024-08-24 16:58:04 | 精神科医療
「依存症は治療可能な病気である」ことが最近指摘され、
実践されるようになりました。

万引きや痴漢を繰り返すヒトを“犯罪者”として扱うのではなく、
“治療が必要な病人”と考えるのです。

そんな私の感覚の中で、
表題にあるような、興味ある記事が目に留まりましたので紹介します。
読んでいて、

「従来の依存症診療は治療というより説教に終始し効果がなかった、
 説教でうつ病がよくならないのと同じ」
「根底にある「孤独」に向き合い癒やさなければ解決しない」

という文言には大いにうなづきました。

我々は時々、よかれと思ってやったことなのに、
間違いを犯していることがあります。

例えば、いじめ問題。
いじめる側を悪、と捉えて対処します。
例えば、虐待。
虐待した側を悪、と捉えて対処します。

もちろん、いじめも虐待も、
その行為に対する罰は受けるべきです。

しかしいじめも虐待も増える一方で、
全然解決されていません。

私は片手落ちだと思うのです。
「いじめる側の事情」
「虐待する側の事情」
を理解し、寄り添う行為がなければ解決しないのではないか?
日本ではその視点による対応が後手後手です。

<ポイント>
・法令違反として罰しても依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念。
・日本では、「ダメ、ゼッタイ!」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されている。依存症診療においても、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていた。
・自分の力ではやめられないのが依存症という病気。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じ。
・精神科の診療の基本は「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援すること。どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まない。
・依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、依存症に至る背景を理解する必要がある。すると皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きていることが判明した。
・依存症患者は「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用している。
・そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても無理。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけ。
・依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ると、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱にとどまった。
・意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であると説明している。依存症患者に「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえない。医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していく。
・本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する。人を信頼できるようになり、人に癒されることで、依存症は回復していく。
・やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性がある。

■ 依存症は“孤独な自己治療”
 依存せざるを得ない背景の理解を埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也氏に聞く
聞き手:小板橋律子=日経メディカル
2023/08/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ハームリダクションと呼ばれる薬物施策を「薬物汚染が深刻な国が、取り締まることができないためにやむなく採用した施策」と誤解していないだろうか。法令違反として罰しても、依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して、困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念だ。違法薬物の依存症患者に対しても、ハームリダクションの理念に沿う患者中心の診療を実践している埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也氏に、その実際を聞いた。

──成瀬先生は、ハームリダクションという概念が国内で注目されるようになる前から、依存症患者への関わりにおいて「やめさせようとしない治療」を続けていたそうですね。

成瀬 日本では、「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されています依存症診療においても、長らく、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていました。私自身、そう教育を受け実践していた時期がありましたが、この方法が有効であるとする科学的根拠はありません。厳しいことを言うと患者さんは受診しなくなるだけです。

 そもそも、自分の力ではやめられないのが依存症という病気です。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じです。本人はやめられないから困っているのですから、どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まないと考えるようになりました。

 実際、精神科の診療の基本は、「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援することです。しかし、なぜか依存症診療はその基本から外れていたのです。私の診療は、本来の精神科の診療を依存症にも適応させているだけです。

 依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、私は、依存症に至る背景を理解する必要があると考え、患者さんにご自身のことを教えてもらいました。そして分かったことは、皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きているということです。以下に示すような共通する特徴があるのです。

<依存症患者に共通した特徴>(成瀬氏による)
1. 自己評価が低く自分に自信を持てない
2. 人を信じられない
3. 本音を言えない
4. 見捨てられる不安が強い
5. 孤独でさみしい
6. 自分を大切にできない

 依存症患者さんは、「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用しているのです。そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても、無理というものです。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけです。

──「孤独な自己治療」とは胸に刺さる言葉です。先生は、覚醒剤のような違法薬物を使用している場合でも、初診時に依存症患者さんを「ようこそ!」と迎えるそうですね。

成瀬 覚醒剤も含めて依存性物質を始めるきっかけは、好奇心や快感希求です。しかし、それだけの目的で使う人は依存症には至らず、依存性物質から卒業していきます。一方、やめられなくなるのは、「孤独な自己治療」として用いる方々です。

 実際、私の患者さんの多くは「生きているのがつらい」と言います。依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ったことがあるのですが、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱でした。加えて、自殺未遂歴がある方が6割もいました。孤独で追い詰められている方が最後の命綱のように薬物に依存しているのです。
・・・
 医療につながっていてもらうことが大切ですから、初診が勝負だと思っています。初診時に「来てよかった」と思ってもらわないと2回目以降につながりません。初診では、受診したことを褒め、困りごとをうかがって一緒に対応していくこと。また、覚醒剤には通報の義務はありません薬物を使用している場合、逮捕されると治療が継続できないという弊害が生じるので、決して通報しないと保証しています。ただし、治療に影響するので、使用した際は正直に教えてほしいとお願いしています。その際、意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であるとも伝えています。

 違法薬物の場合、逮捕されること自体を阻止するつもりはありませんが、治療の中断につながるため、「逮捕されてほしくない」という思いを伝えています。また、自身の生命の安全を確保するという意味で、使用時の注意点を教えています。例えば、誰かと一緒にもしくは誰かに連絡した上で使用する、使用した後は出歩かない、お酒と併用しない、睡眠を確保する、などです。

 がまんできずに使って、来院する方もいますが、そのような方にも、「よく来たね」と伝えています。使用後に来院するのはとてもたいへんなことですし、もし来院できなければ、孤立を深め、状態が悪化し、死か逮捕かとなるわけで、そう考えるとやはり、「よく来たね」という言葉が心から出てきます。
 とはいえ、外来治療中に逮捕される方は珍しくありません。そのような方には、「出所したらすぐにおいでね」と伝えています。

 依存症患者さんに「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえません。本音で話せる場所がなかった方々の「安心できる居場所」になる、これが治療を行う上で何よりも大切だと思っています。

──患者さんにそこまで親身に接していると、先生に依存する患者さんが出てくるのではと危惧しますが、それは大丈夫なのでしょうか。

成瀬 依存症診療で長らく言われていたことの1つに、「共依存になるので、熱心に関わるべきではない」というものがあります。巻き込まれてはダメ、甘やかしてはダメ、手を貸してはダメ、というものです。
 
 もちろん、医師一人で対応すべきではなく、救世主になってはいけません。多職種と一緒にチームで関わります。その際の基本的な考え方として、「本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する」です。本人ができることまでやってしまうのはよい支援ではないですし、本人ができないことを放置してしまったら、悪化してしまいます。また、治療にマイナスになることははっきり断るなど、線引きは心掛けています。ただし、巻き込まれないと見えないものがたくさんあるとも思うのです。関わった上で、適切な距離感を見つけていく、というプロセスが必要ではないかと思います。

 医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していきます。「やめなさい」と一度も言っていないのに、ある時、「先生、やめれたよ」という報告を受けるという経験を数多くしてきました。無理にやめさせようとせず、関わり続けるだけで回復は生まれるのです。まさにこれは、ハームリダクションの理念に沿うもので、図らずも、実践の場で実感しているという状況です。

──まさに「北風と太陽」の寓話のようで、心温まるお話です。

成瀬 依存症は回復します。しかし、そのためには、人を信頼できるようになり、人に癒されることが不可欠だと私は考えています。

──ところで、欧米のような、無償の注射針提供などのハームリダクション施策は日本に必要とお考えでしょうか。

成瀬 海外と日本では、主に使用される薬物や社会状況が異なることから、必要な施策も異なると思います。欧米など海外で問題となっているヘロインは、大量使用時に呼吸抑制で死亡するリスクが高く、強い離脱症状も出ます。そのため、より安全な代替麻薬に置換する治療が実施されています。また、注射針の回し打ちによるHIV感染が激増したため、注射針の無償提供が行われていますが、日本では回し打ちでのHIV感染は少ないというのが現状です。日本で使用されることが多い覚醒剤は、興奮系の薬物で、呼吸抑制リスクがなく、離脱症状もあまりなく、代替療法はありません。

 ただ心配なのが、違法薬物に対する社会の目が厳しく、違法薬物依存者の回復の道を閉ざしかねない風潮が強いことです。通報のリスクから受診のハードルもとても高い。実は、覚醒剤による逮捕者は年々減っていますが、再犯率がとても高く、逮捕者の高齢化が進んでいます。

 加えて、「違法薬物でなければ使って問題ない」という社会風潮が強い点も心配です。「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の最新データでは、睡眠薬・抗不安薬が、覚醒剤をわずかに抜いて、やめられない薬物として初めて1位になりました(図3)。市販薬の乱用も急増しています。法による厳罰主義だけでは、薬物依存の問題は解決できないと感じています。


図3 1年以内に使用あり症例の「主たる薬物」の比率に関する経年的推移(出典:令和4年度厚生労働行政推進調査事業費補助金による「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」2022年)

 私は、違法薬物も含めて薬物への依存症は、一般の精神科外来で診ることができないかと考えています。これまで紹介したように、覚醒剤であっても私は基本的に外来で診療していますので、病床のない精神科診療所でも実践できます。

 特に、処方薬や市販薬の乱用は、今後ますます増える可能性があり、依存症の専門医療機関だけで全ての患者に対応するのは不可能です。そもそも、処方薬の場合、処方している医師がいるわけですから、その責任もあります。

 処方薬や市販薬への依存症に対してどうアプローチすべきかの具体的な指針は現状ありませんが、依存症患者さんの背景は皆、同じです。人間不信と自信喪失を抱えて生きづらい人たちです。無理にやめさせようとせずに、患者さんと関わり続けていただきたいです。やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性があります。悪い方向にはいかないでしょう。
 
 アルコール依存症には、内科などの、かかりつけ医に関わっていただきたいと思っています。国内には、アルコール依存症患者は107万人存在すると推定されています。一方、診断が付いているのは5万~8万人程度で、その多くは重症化した後です。軽症患者さんは自覚がなく、治療も受けていませんが、本来、軽症の段階で関与して重症化を予防するのが医療でしょう。
・・・

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

早産児と発達症(ADHD/ASD)リスク

2023-08-20 12:12:39 | 発達障がい
私が小児科医になった35年前は、
「肺サーファクタント」という画期的な薬が登場し、
それまでは救命できなかった超早産の低出生体重児が救命できるようになった、
新生児医療の転機ともいえる時期でした。

30年ほど前、新生児医療にかかわっていました。
肺サーファクタントは魔法の薬でした。
1000g前後の赤ちゃんが生まれると、
3日間は付きっ切りで呼吸管理をする必要がありましたが、
この薬のおかげで呼吸状態が安定し、
患者さんの傍を離れることができるようになりました。

救命できる赤ちゃんは増えましたが、
しかし後遺症を残す赤ちゃんもいました。
「この子の一生はどうなるんだろう?」
と退院の際にも憂いの気持ちが消えませんでした。

そして現在、
未熟児医療の進歩で以前よりも多くの赤ちゃんが救命できるようになりました。
一見、問題がなくNICUを退院できた子どもたち…
しかし近年、早産児に発達障害(現在は“発達症”)が多いことが判明し、
徐々にデータがそろってきました。

先日聴講したセミナーでこのことを扱っていましたので、
備忘録としてメモしておきます。

ポイント
・生後5-6か月児の足の踏ん張り方を確認すると足底の感覚過敏がわかり、
 それを訓練に応用できる。
・併存障害として、従来は脳性麻痺と精神運動発達遅滞だけだったが、現在は発達性協調運動症(DCD) 、限局性学習症(SLD) 、注意欠如多動症(ADHD) 、自閉スペクトラム症(ASD) など、多彩な疾患の可能性を考慮する必要がある。
・知的発達症(知恵遅れ)の在胎週数と発生率の関係は
 一般の赤ちゃん:1%
 24週以下:14.5倍
 32週  :3.6倍
 37週  :1.5倍
 38週  :1.3倍
 40-41週  :1.0倍
 42週  :1.2倍
・ADHDは、早期産、SGA、巨大児でリスク上昇
・ASDは、
 一般児(5歳時):2.8%
 超早産児(<32週):7%
 超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%
・超早産児ASDは幼児期には診断に至らないグレーゾーンが多く、学童期に顕性化する(preterm behavioral phenotype )

「赤ちゃんは泣くもの」と考えているので、今まであまり気にしてこなかったのですが、診察時にずっと泣いている赤ちゃんを時々見かけます。
もしかしたら「感覚過敏」で触られることさえ嫌がっていたのかも…と思えてきました。


▢ 早産児はASD(自閉スペクトラム症)のハイリスク
・ASD/ADHD と DCD と SLD はオーバーラップして出現する。

▢ 早産児の精神運動発達面での併存障害(神経発達症)

1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・脳出血(ICH)
・脳室周囲白質軟化症(PVL)
・びまん性白質障害
・Punctate white matter lesion(PWML)
・小脳機能的/器質的障害

2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・Encephalopathy of prematurity:大脳白質・灰白質障害、小脳萎縮
・栄養障害:子宮外発育不全(EUGR)

3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・過剰で不快な感覚刺激(光・音・触覚・嗅覚)
・日内リズムの異常
・睡眠障害
→ 刺激に過剰反応、自己鎮静の苦手さ、泣きやみにくさ

4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・痛みを伴う処置(採血・点滴・気管吸引)
・母子分離
・ストレスの多い体外環境
→ 自己防衛反応、苦痛からの回避、外界遮断

▢ 併存障害の評価・診断方法
1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・MABC-2
2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・発達テスト:新版K式 WISC-Ⅳ
3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・M-CAHT、ADHD-RS
4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・PARS、ADOS-2

▢ 感覚過敏の評価は生後5-6か月児の足の踏ん張り(腋窩支持立位)で
(正常)ピョンピョンする→つかまり立ちにつながる
(足底の感覚過敏)足の踏ん張りを嫌う
 → sitting on air position → 独歩の平均は1歳6か月
 + shuffling なら、独歩の平均は1歳9か月

▢ 感覚過敏児の足の踏ん張りの発達過程
 足の踏ん張りを嫌う(足底が付くかどうかがポイント)
  ↓
 少し踏ん張れる…足底の感覚過敏軽減
  ↓
 腰が逃げる(腰を曲がげているかどうかがポイント)
  ↓
 腰がふらつく…バランス未熟
  ↓
 ピョンピョンできる

▢ 感覚過敏児の腋窩支持立位訓練・練習
・脇を支えて立位練習(全身的な筋緊張正常なら)
・ピョンピョン練習
 → 踏ん張り可なら体を傾けてバランス練習

▢ 感覚過敏児の訓練・練習
・腹臥位が嫌いなので寝返り、ハイハイをしない、立位も嫌い
・遊びながら腰をひねって寝返らせる
 限界時間×0.8を繰り返すと慣れてくる
・乳児早期からの腹臥位練習(Tummy Time)は発達促進にも効果的

▢ 発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)のDSM-5診断基準

A. 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、物にぶつかる)、運動技能(例:物をつかむ、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

B. 運動技能の欠損は、生活年齢にふさわしい日常生活活動(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇および遊びに影響を与えている。

C. この症状の始まりは発達段階早期である。

D. この運動技能の欠如は、知的障害や視力障碍によってはうまく説明されず。運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
「ふつうより明らかに不器用で、遅いうえに不正確。学校や職場で困るほどの状況。不器用さは乳幼児期から始まり、神経学的基礎疾患は認められない。」
★ DCDはADHDを50%合併、ADHDはDCDを50%合併、SLDはDCDを50%合併

▢ 発達性協調運動症(DCD)の特徴
・初期運動のマイルストーン(座る、這う、歩く)の達成はほぼ正常
・就学前:階段を上る、ペダルをこぐ、ボタンかけ、パズルを解く、
  靴ひもを結ぶ、ジッパーを使うなど特定のスキルの習得困難/遅延
・物を落としたり、つまづいたり、障害物にぶつかったり、転びやすい。
・小学生:チームスポーツ(特に球技)、自転車、手書き、モデルやその他の物の組み立て、地図の描画など、細かい運動能力などが遅い/不正確。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
バランス感覚・視覚認知・微細運動が苦手→ 不器用

▢ 知的発達症の在胎週別発生頻度
・遺伝的要因のない知的発達症の有病率は1%。
・妊娠40-41週での出生が発症頻度が最も少ない。
・在胎週数と知的発達症のOR;
 24週以下 14.54
 32週   3.59
 37週   1.50
 38週   1.26
 39週   1.10
 42週   1.16
以上より、
・発達遅延を疑えば、在胎週数を要確認
・早産児は知的発達症のハイリスクだが、過期産も注意
・予定帝切は38週以後で
しかし問題点あり…
・極低出生体重児以下は長期フォローされているが、在胎32週以下、出生体重1500g以下はフォローアップ体制が不十分(マンパワー不足?)

▢ 低出生体重児と知能指数
・新版K式発達検査の3歳暦年齢DQ値(中央値);
         超低出生体重児  極低出生体重児
(全領域)      82        89
(姿勢・運動)    86        92
(認知・適応)    82        89
(言語・社会)    81        88
★ 正常:85以上、境界:70-84、遅延:69以下

▢ 低出生体重児と後遺症頻度(3歳暦年齢、%表示)
         超低出生体重児 極低出生体重児
(生存率)      86       96
(脳性麻痺)     6.6       3.8
(発達遅滞)     21.8      11.0
(発達境界領域)   19.4      14.0
(視覚障害)     3.5       0.7
(聴覚障害)     2.7       1.2
(NDI)       25       13
★ NDI:neurodevelopmental impairment

▢ 限局性学習症(SLD, Specific Learning Disorder)
・知的能力は平均域以上、学習・環境問題なし
・読字、書字、計算、数的概念など、特定の領域で学習の習得困難
・7~8歳頃から困り感 ↑

▢ 読字障害
(症状)
・読みの正確性が低い
 類似した文字の区別がつかない(わとれ、めとぬ)
 読み飛ばしが多く、どこを読んでいるのかわからなくなる
 文字・単語はわからないが、音としては認識可
・流暢さ・速度に難がある
 緊張してスムーズに読めない
(対策)
・乳幼児期から毎日の読み聞かせは言語発達に有用
 読める字を探す→親子交代で読む→母への読み聞かせ(一人で読む)
・遊び道具→パラパラめくりのみ→
 →徐々に親の読むペースに合わせられる(相手の話を聞く+集中力の練習)
・TV、ビデオ、You tube は控える

▢ 書字表出障害
・綴り字、文法、句読点の正確性が低い
・3~5歳は図形模写、5~6歳で名前を書いてもらう
・3歳で〇、4歳で▢、5歳で△が書けるようになるのが普通
・6歳では〇と▢を組み合わせる
・自力×お手本を見せて達成感

▢ 算数障害
・計算、図形、算数推論の困難さがある
・誕生日/年を足し算・引き算で当ててもらう

▢ ADHD(注意欠如多動症)と在胎週数の関係
・標準体重で最低、SGA、巨大児でリスク上昇
→ ADHDを疑えば、在胎週数だけでなく出生体重と身長のバランスも確認
・在胎週数が短いとリスク上昇:24週でOR10、27週でOR5、30週でOR3、33週でOR2…
→ 早産児はADHD優位のASDに注意

▢ ASD(自閉スペクトラム症)と在胎週数・出生体重との関係
・5歳児全体での累積発生率:2.75%
・超早産児(<32週)の有病率:7%
・超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%

▢ 超早産児ASDに特有の発達臨床像
・preterm behavioral phenotype(学童期に早産児特有の行動様式へ)
・自閉スペクトラム特性は高いが診断には至らない「診断閾値以下群」が多数存在
・その本質は、言語発達ーコミュニケーション機能の異常

1.乳児早期:社会的関心は正常
・周囲への関心→〇
・アイコンタクト→〇
・あやし笑い→〇

2.乳幼児期
・言語発達遅延→△
・限定的な興味→〇(なし)
・反復行動→〇(なし)
・執着→〇(少ない)
しかし…
・マイペース
・手をつなぐ→△(いやがる)
・言葉のキャッチボール→△(苦手)
・ほかの子への興味→〇(ある)

3.学童期
・社会性→✖(乏しい)
・不注意→✖(その通り)
・不安に陥りやすい→✖(その通り)
そして…
・統語能力が低い
・語用の間違いをしやすい
・「なぜ」を説明できない

▢ 早産児ASDの特性(Preterm behavioral phenotype)
・WISC-Ⅳで計れる語彙、言語記憶などの単純な言語能力は伸びていく。
→ 見かけ上IQは維持される→ 発達正常と誤解される
・超早産児の感覚過敏は一過性で改善し、常同的行動、こだわり、執着が少ない。
→ 定型ASDほど手がかからない→ 見過ごされやすい
・複雑な言語能力、状況や文脈の中で総合的に理解する力について、同世代とのgapが年齢とともに開いていく。
→ 実生活での過ごしにくさ、人間関係構築の苦手さ、社会性が乏しい、不注意、KY
→ 自信喪失、社会生活での失敗、不安・自己否定につながりやすい
・状況に応じた言語の理解度が低い→会話がかみ合わない→トラブルに発展
→ 自分の置かれた状況や気持ちを他者にうまく説明できずに立ち往生

▢ 幼児期以後のフォローアップ外来のポイント
・発育、精神運動発達、神経発達症を意識しながら診察
・1歳からの片づけ練習
 はじめは一緒に→代わりばんこ→「遊んだ後はどうするの?」
 「片づけなさい」という命令は△
・自分で仕事を選んでもらうお手伝い(自主的に考えて行動してもらう言葉がけ)
・読み聞かせ、図形模写がおススメ
 → 書字、手の回内回外(スムーズさ、鏡像運動誘発の有無)
  TV/You tube は好ましくない
  粗大運動:ジャンプ→ケンケン→片足立ち
・子どもの力を推測してやれそうなことからやってもらう
・困っていることがないか探しながら、アドバイス
・本人と相談して、やれそうなことを一つだけ約束して、最後はサヨウナラの挨拶、次回、できるようになったかを確認→ 自信アップ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023

2023-06-17 21:50:32 | 自殺企図
双極性障害はDSM-Ⅴから「双極症」と訳語が変わったそうです。
それに伴い、診療ガイドラインも「双極性障害(双極症)2023」として改定されました。
こちらの記事からポイントを拾ってみました。

・薬物療法と並んで推奨されている心理教育を実臨床で実施しやすいよう、現場で実施可能な「ミニマム・エッセンス」を推奨。
1) 規則正しい生活習慣の維持
2) 病状悪化につながる要因の把握
3) 悪影響を与える問題への対応
4) 新たな再発の兆候把握と予防策の策定・実践
5) 疾患への誤解やスティグマの解消
6) 効果的な薬物療法の実現
7) 物質乱用や不安への対応
・患者の大きな関心事の一つである周産期に関する記載も充実させ、「双極性障害を持つ人も子を持つことを妨げられるべきでないことは当然」である旨を明記。
・抑うつエピソードの治療と維持療法において、第2世代抗精神病薬(クエチアピン、ルラシドン、オランザピン)と気分安定薬(リチウム、ラモトリギン)の併用を初めて推奨。
・今回、双極症という疾患名を併記したのは、2022年3月に発行されたDSM-5-TRの日本語版が今年6月に発行され、「bipolar disorder」の日本語訳が「双極性障害」から「双極症」に変更されることを受けたもの。

私が「おや?」と感じた点は、
リチウムなどの気分安定薬が基本ではあるものの、
第二世代抗精神病薬の併用が明記されたことです。
従来は「躁転」のリスクがあるため、
実際には行われているものの、
ガイドラインには記載されないという矛盾がありましたので。

(加藤Dr.の意見)
・これまでの研究から、私は、感情に関わる神経細胞におけるカルシウムシグナリングの変化が病因と考えています。遺伝的要因などで、神経細胞内のカルシウム濃度が高くなりやすく、細胞の興奮性が上がりやすい、その結果、感情(情動)と認知のバランスが偏る、という機序です。そのため、細胞のカルシウム濃度を下げるリチウム、細胞の興奮性を抑えるラモトリギン、セロトニンを介して神経回路の興奮性を下げる第2世代抗精神病薬の併用が有効と受け止めています。
・情動性が高まると論理的に考えることが難しくなり、白か黒かという二律背反の考え方が主体になります。そのため、薬物療法に加え、そのバランスを改善する、認知行動療法などの心理教育の併用も有効というわけです。
・2000年前半までは、見逃される患者が多かったと思います。抗うつ薬投与で躁になる(躁転)リスクがあるため、双極性障害の存在を疑うよう、うつ病のガイドラインなどでも強調してきました。
・昨今は、地域差はあるかもしれませんが、都心部では、特に双極II型障害は、疑い例も含めて、過剰診断が多いように感じています。実際、双極性障害として私の外来を受診する患者の約半数は半構造化面接では双極性障害とは診断されません。
・軽躁病エピソードがないにもかかわらず、うつ病が治らなかったり、うつ症状の再発を繰り返すから双極性障害だと考えるべきではありません。

<参考>
▢ 双極性障害に「心理教育のミニマム・エッセンス」を推奨
〜順天堂大学医学部精神医学講座主任教授の加藤忠史氏に聞く

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする