発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

双極性障害の治療に「光の調整」〜うつ状態には「照射」、躁状態には「遮断」

2017-09-06 12:34:13 | 双極性障害
 睡眠障害には「朝日を浴びる」ことが推奨されて久しいですが、双極性障害にも効果があるという報告を紹介します;

 単純に、
・うつ状態の時は明るい光を浴びる
・躁状態の時には光を遮る
 と効果が期待できるというもの。

■ 双極性障害の治療に「光の調整」〜うつ状態には「照射」、躁状態には「遮断」
2017年09月05日:メディカル・トリビューン
 光と気分には関係があることが科学的に解明されつつある。うつ状態の改善には光の照射が、躁状態の改善には光の遮断が効果的だという。大分大学精神神経医学講座の平川博文氏らは、双極性障害の治療に日常生活における光の調整を取り入れ、患者の気分安定化を図っている。うつ症状の強い患者には朝に太陽光を浴びることを指導、あるいは光線療法を導入躁状態の強い患者には夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラス着用を指導している。難治性の患者には両者を併用することもあるという。

朝に太陽光を浴びるよう指導

 晴れた日にはすっきりした気分になり、曇りや雨の日にはうっとうしい気分になるのは多くの人が自覚するところだろう。平川氏らは健常者を対象にした検討で、普段から光を多く浴びる人ほど抑うつの程度が低いこと〔Psy­chopharmacology(Berl)2011; 213: 831〕、環境光が増えると小脳虫部の機能が抑制されることを明らかにしている。小脳虫部の血流が増加すると抑うつ気分が出現するという報告もあることから(Neuro­image 1998; 7: S901)、同氏は光を浴びるとすっきりした気分になる機序として、「環境光により小脳虫部の機能が抑制されることで抑うつが予防される可能性がある」と指摘する。

 この他にも、年間の総日照時間が長い都道府県ほど自殺率が低い(Lancet 2002; 360: 1892)、午前中あるいは勤務時間内に光を多く浴びている会社員の方が抑うつの程度が低い(Sleep Health 2017; 3: 204-215)などの研究がある。

 そこで、同氏は双極性障害患者に対し、外出時間を記入させたりアクチウォッチを装着させることで、その患者が浴びている環境光を推測あるいは実測し、生活指導に役立てている。抑うつ症状が出現した際は、意識して光を多く浴びるよう指導。症状に応じて光を浴びる時間を調整することで、気分安定化を図る。妊婦や高齢者といった薬剤調整が困難な場合でも、朝に太陽光を浴びるように指導することで、抑うつ症状が改善した症例を経験しているという。

朝の時間帯に高照度または"夜明け"の人工光を照射
 光の抗うつ効果をより積極的に活用する試みが光線療法だ。その1つ、高照度光療法は2,500~1万ルクス程度の人工光を朝の時間帯に30分~2時間程度照射する治療法である。
 季節性感情障害の治療法として普及したが、最近は非季節性うつ病、双極性障害の抑うつ状態の治療にも用いられている。また、dawn stim­ulationという治療法もある。これは起床時に1~2時間をかけて、夜明けの薄暗い光に相当する2~300ルクスの人工光(wake up light)を徐々に照度を上げながら照射するものだ。
 これまでに発表されたメタ解析では、高照度光療法は季節性感情障害患者および非季節性うつ病患者のうつ症状を、dawn stimulationは季節性感情障害患者のうつ症状を有意に改善(Am J Psychiatry 2005; 162: 656-662)、さらに高照度光療法は双極性障害患者のうつ症状を有意に改善している(Eur Neuropsy­cho­pharmacol 2016; 26: 1037-1047)。

 大分大学病院では、抑うつ状態にある双極性障害患者にこれらの光線療法を試みており、症状が改善した症例を経験している。

夕方から夜間にかけて
オレンジ色のサングラスを着用

 一方、躁状態の強い患者には、夕方から夜間にかけて室内光を遮断することの有用性が指摘されている。最初に行われたのは患者を暗室に隔離するdark therapyだ。躁状態の双極性障害患者16例を午後6~8時に3日連続で暗室に隔離したところ、対照群に比べ躁状態が改善した(Bipolar Disord 2005; 7: 98-101)。

 汎用性が低いdark therapyに代わって考案されたのが、夕方から夜間にかけてオレンジ色のサングラスを着用させるvirtual darkness conditionという方法である。
 睡眠障害を有する双極性障害患者21例に午後8時から就寝時までオレンジ色のサングラスを着用させたところ、半数の患者が睡眠障害の改善を自覚。そのうちの多くがサングラスの着用を中止したところ効果が消失し、再着用により効果を再確認したという(Med Hy­poth­eses 2008; 70: 224-229)。また、双極性障害患者23例を対象に、1週間にわたり午後6時から翌日の午前8時までオレンジ色または透明のサングラスを着用させたランダム化比較試験では、オレンジ色サングラス群で躁症状の有意な改善が確認された(Bipolar Disord 2016; 18: 221-232)。

 平川氏によると、患者を隔離することなく540nmより短い波長の光(青色光を含む)を遮断することができるのがvirtual darkness conditionの特徴。青色光が網膜に届くとメラトニンの分泌が抑制されるが、オレンジ色のサングラスで青色光を遮断することでメラトニンが安定して分泌されるためよく眠れると考えられる。

 さらに同氏らは難治性双極性障害患者に対しては、高照度光療法とvir­tu­al darkness conditionの併用を試みている。薬物療法のみでは精神症状が安定しない双極性障害患者に対して、この2つの方法を併用して光の調整を行うことで、症状が安定する症例を経験。同氏らは、このような併用療法をlight mod­u­la­tion ther­apyとして提唱している。
(本記事は、第113回日本精神神経学会の発表を基に構成)

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双極性障害と季節性

2017-06-30 06:10:43 | 双極性障害
 大うつ病には「季節性うつ」という、冬期に悪化するタイプがありますが、双極性障害ではあまり季節性は言及させません。
 でもやはり、日照時間が長い季節は躁状態、短い季節はうつ状態になる傾向があるようです。

■ 双極性障害の入院、5~7月はとくに注意
ケアネット:2017/06/30
 イタリア・トリノ大学のAndrea Aguglia氏らは、双極性障害患者における光周期の影響について検討を行った。Revista brasileira de psiquiatria誌オンライン版2017年6月12日号の報告。
 イタリアの入院患者に焦点を当て、双極性障害患者を24ヵ月間にわたり追跡調査した。2013年9月~2015年8月までにイタリア・トリノ(オルバッサーノ)のSan Luigi Gonzaga Hospitalの精神科に入院したすべての患者より抽出した。患者背景および臨床データを収集した。
 主な結果は以下のとおり。

・対象患者は730例であった。
・双極性障害患者の入院率に季節的なパターンは認められなかったが、最大日光曝露であった5、6、7月は有意に高かった。
・躁病エピソードを有する患者は、うつ病エピソードを有する患者と比較し、春および光周期(の昼の長さ)が長い時に入院が多かった。

 著者らは「光周期は、双極性障害の重要な要素であり、環境因子としてだけでなく治療中に考慮すべき臨床パラメータである」としている。


<原著論文>
Aguglia A, et al. Rev Bras Psiquiatr. 2017 Jun 12.
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双極性障害、リチウムは最良の選択か

2017-06-01 07:31:23 | 双極性障害
 双極性障害の基本役であるリチウムに関する報告を紹介します。
 肯定的な論調ですが、ラミクタールの紹介スライドを見ると、再発予防効果はあまり高くないという印象が拭いきれず。

■ 双極性障害、リチウムは最良の選択か
2017/06/01:ケアネット
 双極性障害の治療ではリチウムが頻繁に使用されており、最も確立された長期治療法と考えられる。実際に、リチウムは再発リスクを最小限にとどめ、エピソード間の症状を改善するための治療の基本である。イタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学のGabriele Sani氏らは、双極性障害治療におけるリチウムの入手可能なエビデンスを検討した。それには、効能、限界、潜在的な利点や、別の製剤を考慮した有効性も含まれた。また、双極性障害患者への抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬の長期的代替使用に関する、顕著な比較をオーバーレビューした。Clinical drug investigation誌オンライン版2017年5月5日号の報告。
 主な結果は以下のとおり。

・入手可能なエビデンスによると、双極性障害患者は主としてリチウムで治療し、いくつかのケース(とくに急性期治療)では抗精神病薬と組み合わせ、リチウム不耐性または無効例では抗てんかん薬を用いるべきであると考えられる。
・補助的な抗うつ薬の使用は、ブレークスルーうつ病エピソードに限定されるべきである。
自殺念慮や自殺行為に、リチウムの長期的な利点と潜在的な副作用についての十分な情報を有している場合には、双極性障害患者の多くに初期治療としてリチウムを使用すべきである。
・疾患または抗精神病薬の経過を悪化させる、重大で長期的な副作用を引き起こす可能性があるなどの抗うつ薬との併用を行うことなく、多くの患者でリチウムは許容可能である。


<原著論文>
Sani G, et al. Clin Drug Investig. 2017 May 5.
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うつ病・双極性障害の動物モデル

2017-05-13 06:59:38 | 双極性障害
以前、加藤忠史先生の著書「双極性障害の人の気持ちを考える本」を読んで、双極性障害はミトコンドリア障害と関連がある、ということを知りました。
以下の記事を読むと、動物モデルが開発されてその後の研究も着々と進んでいる様子。

■ 「自発的なうつ状態を繰り返す初めてのモデルマウス
(2015年10月20日 理化学研究所)
<背景>
 日本でうつ病や躁うつ病により治療を受けている人は約100万人に上り、日本人の健康寿命を奪う主な疾患の1つとなっています(厚生労働省による2011年患者調査)。抗うつ薬や気分安定薬などによる治療が行われていますが、すべての人に有効とはいえず、副作用もあることから、新たな薬の開発が期待されています。しかし、半世紀にわたる研究でも、その原因は完全には解明されておらず、画期的な新薬の開発は成功していません。抗うつ薬の創薬研究がもっぱらストレスによる動物の行動変化を指標に行われてきたことが、同分野での創薬がうまく進まなかった理由の1つと考えられています。
 精神疾患動態研究チームは、ミトコンドリア病という遺伝病の1つである「慢性進行性外眼筋麻痺」が、しばしばうつ病や躁うつ病を伴うことに着目し、その原因遺伝子の変異が神経のみで働くモデルマウスを作成しました。そして、このマウスが、日内リズムの異常や性周期に伴った顕著な行動量の変化などを示すことを2006年に報告しました。この研究の過程で、このモデルマウスが、2週間ほど、輪回し行動をあまりしなくなる時があることに気づきました。
<研究手法と成果>
 この活動低下の状態は、モデルマウスでは平均すると半年に1回の頻度で出現し、中には半年に複数回繰り返す個体も見られました。今回、共同研究グループは、このモデルマウスが活動低下状態にある時の行動を詳しく解析しました。その結果、興味喪失、睡眠障害、食欲の変化、動作が緩慢になる、疲れやすいといった症状、および社会行動の障害を示し、精神疾患の診断基準であるDSM-5[5]のうつ状態の基準に合致することが分かりました。また、この状態は、抗うつ薬治療により減少し、気分安定薬であるリチウム投与を中止すると増加するなど、うつ病や躁うつ病のうつ状態と同様の治療薬に対する反応を示しました。さらに、この状態の間には、副腎皮質ホルモンの増加など、うつ病患者と同様の生理学的変化が見られました。
 次に、この活動低下の原因となる脳部位を調べるため、異常なミトコンドリアDNAが多く蓄積している脳部位を探索しました。その結果、視床室傍核という、これまでうつ病との関連が知られていなかった脳部位に著しく蓄積していることが分かりました。同じようなミトコンドリア機能障害は、うつ症状を示すミトコンドリア病の患者の脳の視床室傍部でも見られました。
 続いて、この部位がうつ状態の原因かどうかを明らかにするため、正常なマウスの神経回路を人為的に操作して解析しました。その結果、視床室傍核の神経細胞の神経伝達を遮断することにより、モデルマウスによく似た活動低下状態が現われました。この結果は、モデルマウスのうつ状態が、視床室傍核の病変により生じていることを示しています。
<今後の期待>
このモデルマウスは、自発的で反復性のうつ状態を示すモデルマウスとしては初めてのものです。このモデルマウスを用いることにより、これまでとは全く作用メカニズムの異なる抗うつ薬や気分安定薬の開発が可能になると期待できます。また、もし、うつ病や躁うつ病の一部が、視床室傍核の病変によって起きることが分かれば、これらの病気をこころの症状ではなく、脳の病変により定義することができると考えられます。更に、精神疾患を脳の病として理解する道が開け、脳の病変に基づく診断法の開発につながる可能性もあります。



★ 「Medical Note」より
国立研究開発法人理化学研究所脳科学総合研究センター副センター長:加藤 忠史先生
双極性障害(躁うつ病)を生物学的精神医学からみる
双極性障害(躁うつ病)とミトコンドリアの関係
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双極性障害の再発リスク、1年目で4割超

2017-04-11 06:01:09 | 双極性障害
 躁状態が目立たない双極性障害II型は、Ⅰ型より軽症というイメージがありますが、いろいろ情報を集めると、そうとは言えない印象があります。
 うつ状態がずっと続き、自殺企図リスクも高い。
 この報告では再発率もI型よりII型の方が高い・・・見た目にはわかりにくいけど、心の中にずっと闇を抱えているつらい病気なのですね。

■ 双極性障害の再発リスク、1年目で4割超
2017/04/11:ケアネット
 双極性障害(BD)の再発、再燃率の報告は、研究間で著しく異なる。大部分のデータは、選択基準の狭いスポンサードランダム化比較試験に参加している高度に選択された患者を対象としている。リアルワールドでの再発、再燃の気分エピソード(subsequent mood episode:SME)の真のリスクを推定するため、スペイン・FIDMAG Germanes HospitalariesのJoaquim Radua氏らは、自然主義BD研究で報告されたSMEの割合についてメタ解析を行った。Psychotherapy and psychosomatics誌2017年号の報告。
 PubMed、ScienceDirect、Scopus、Web of Knowledgeより2015年7月までの研究を検索した。個々のデータまたはKaplan-Meier plotよりSEM出現までの期間を報告した研究を含んだ。
 主な結果は以下のとおり。

・5,837例を含む12研究が、選択基準を満たした。
・インデックスエピソード後の成人におけるSME出現までの平均期間は、1.44年であった。
SMEリスクは、最初の1年目で44%であった。この1年目のSME症例がいなくなったため、2年目は19%に低下した。
・このリスクは、双極I型障害(BD-I)よりも双極II型障害(BD-II)において高かった(HR:1.5)。
・BD-Iにおけるその後の躁病、混合性、うつ病エピソードリスクは、同じインデックスエピソード後に高かった(HR:1.89~5.14)。
・SMEの全体的リスクは、亜症候群性症状が持続していた患者で高かった(HR:2.17)。

 著者らは「本研究データより、リアルワールドでのBD患者のSMEリスクについて、より信頼性の高い推定値が算出できた。SMEのリスク要因を明らかにするためにも、BD-II患者を対象とした長期間のさらなる研究が必要とされる」としている。

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