発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「うつと気分障害」(岡田尊司著)

2014-04-06 20:22:34 | 
幻冬舎新書、2010年発行

岡田先生は小説家でもあり、文章の流れがなめらかで読みやすいのでついつい買ってしまいます。
「子どものうつ」への興味が再燃し、本棚から取り出して読んでみました。

新書版ながら、必要十分な内容。
いや、興味が無いと読破しにくいボリュームかもしれません。
特に薬物療法の項目は、医師の私でも辟易するほど詳しく解説されています。

まず、「うつ」の頻度の高さに驚きました。
「生涯において一度はうつ病に罹患する人の割合は全人口の15%」
「従来は生涯有病率1%とされてきた躁うつ病は、近年定義が変わり程度の軽いものを含めると10~15%」

そういえば、私の勤務医時代の最後の方は燃え尽きて「うつ状態」と云われてもおかしくない状況だったことを思い出しました。
若い頃は「感情は理性で抑えられる」と信じていましたが、感情や気分の暴走をコントロールするのが如何に難しいかを思い知らされました。

著者はうつ病を「ストレスに対する過敏反応」と表現しています。
何百万年も続けてきた狩猟採集の生活スタイルがこの数千年(特に直近100年)のうちに激変する中で様々なストレスが発生し、それを処理するシステムの構築が追いつかない状態、と。

なんだか、アレルギーに似てますね。

また、「うつ病」と「双極性障害」(従来の躁うつ病)の鑑別が大切なことを繰り返し述べています。
双極性障害でも、躁状態が軽くて目立たないタイプ(双極性II型障害)はうつ病と誤診されてしまう傾向があると。
なぜ問題なのかは、治療薬が異なるから。
双極性障害に抗うつ薬を投与すると、効かないばかりか躁状態を助長して自殺を含めたトラブルの元になり得るのです。
ただ、両極に「うつ病」と典型的な「双極性障害」を置き、その間に様々な病型が分布していると考えるべきだ、とも記されています。

診断の項目では、私にはどうもピンと来ないアメリカ精神医学会の診断基準「DSM-」について、フムフムとうなずける解説がありました。
病気/疾患を分類する方法には2つあり、一つは病因(病気の原因)分類、もう一つは症状分類。
病因で分類できればそれに越したことはないけれど、うつ病は完全に原因が解明されておらず、症状で分類せざるを得ない。
そしてDSMはこの症状だけによる仮の分類レベルにとどまっているとのこと。
だから将来原因が判明すれば、どんどん診断名も変わっていく可能性がある・・・ちょくちょく変わると混乱して困ります(苦笑)。
なお、「気分障害」というイメージの湧きにくい分類名も、このDSM-からだそうです。

薬物治療の重要性を説く一方で、ライフ・スタイルを変えないと再発の危険から免れないことも強調しています。
「完璧主義よ、さようなら」
というフレーズがうまい(座布団一枚!)。
「完璧主義の人は、100%できていなければ失敗だと思いがち。その結果、よい結果が出ていても不満な部分の方に目が行ってしまい、喜びよりもストレスを生んでしまう。」
「100点にこだわる考えを卒業し、50点で満足、60点・70点なら大満足できるような体質に心の持ち方を変えていくことが、ストレスを減らし、対人関係をスムースにし、うつや躁を防ぐことにつながる。100点にこだわると何事も苦行になってしまうが、50点で満足できるようになれば、何事も気楽に楽しむことができるようになる。50点で満足できると云うことは、できなかったことやよくなかった点ではなく、できていた点やよかった点に目を注いでいるということ。」
「よくなる人というのは、よい点に目を向けられる人。逆に悪いことの方にばかり、どうしても目が向いてしまう人はなかなかよくならない。」

素晴らしいアドバイスです。
でも、50点ではテストが不合格になってしまうなあ・・・。


メモ
 自分自身のための備忘録。

うつ状態が認められるのは、動物の中では哺乳類から。
 乳を与えて育てるという愛着の仕組みを持つ哺乳類は、子どもや仲間を失った時(対象喪失)に、うつを思わせる反応をしたり、喪の儀式のように見える行動を取る。他にも絶望感がある限界を突破してしまったとき(疲労困憊と絶望)、仲間から拒絶された時(見捨てられ)にも動物はうつになる。

双極性II型障害の発見とソフト・バイポーラー
 1970年代に双極性障害にも従来知られていた激しい躁状態とうつを繰り返すタイプとは別に、軽い躁状態とうつを示すタイプがあることが報告された。ダナーは前者を双極性1型、後者を双極性II型と名付けた。
 アメリカの精神医学者アキスカルは、病状としてだけでなく、性格においても気分の循環性の波(躁状態が無い場合も含めて)が見られる場合には、双極性スペクトラム(スペクトラムは「連続体」の意)として理解することを提唱した。その状態は「軽度双極性障害」(ソフト・バイポーラー)とも呼ばれた。
 今日、カテゴリー(分類範疇)ではなくスペクトラムとして、気分障害を理解する考え方は広く受け入れられ、単極性うつ病と双極性1型障害を両極として、その間に様々な程度の双極性の傾向が存在しているのだと考えられている。
                     
うつでみられる睡眠障害
 不眠になる場合と過眠になる場合がある。メランコリー型では早朝に目が覚めて眠れないというのが典型だが、非定型うつ病や季節性うつ病、双極性障害のうつ状態では、うつになると長く眠るようになり、朝が起きられなくなると云うことが多い。

双極性障害の場合には、励ましや誘いが、必ずしもマイナスとならない

子どもの気分障害では、症状が軽く見えたり、反応性があって、楽しいことをしているときには元気そうに遊んでいたりするので、病気だとは気づきにくい。

体内時計
 体内時計のリズムは視交叉上核が刻んでいる。それに合わせて副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモン、メラトニン(松果体由来)などのホルモンの分泌も日内変動し、体温など生体のリズムが作られている。
 視交叉上核は24から25時間の固有のリズムを持っているが、同時に外界の明るさによってリズムを調整している。この調整の成否は、朝の訪れる時間と、日照時間の長さにかかっている。つまり、体内時計のずれを修正するためには、朝、太陽光に触れることがまず大切になる。もう一つ大事なのは、十分長く太陽光の射す、明るい場所で過ごすことである。
 太陽光にこだわるのには理由がある。人の光りに対する感受性は弱く、通常の照明の明るさでは昼間と見なされず、体内時計の修正は起こりにくいのである。体内時計の固有のリズムは24時間より少し長目であるため、外の光りに触れずに生活していると、次第に生活時間が後ろにずれていきやすい。つまり、遅寝遅起きになってしまうのである。

体内時計の狂いと対策
 うつになると朝起きられず昼過ぎまで布団で過ごしてしまうのに、躁になると早朝から目覚めて活動を始めるというケースも多い。
 起きにくい時期もダラダラ眠ってしまわないように、努力して起きることが大事である。どんなに遅くとも午前中のうちに起きるようにする。眠ってしまう場合も、一旦起きて、できるだけ布団で撥ねずに、ソファなどでうたた寝するなどの仮眠に止めておく。午前中寝てしまう場合も、カーテンを開け、部屋はできるだけ明るくし、日の光が降り注ぐようにしておく。夜にテレビやパソコンなどの画面を長時間見たり、運動したりすることは避ける。
 体内時計をリセットする上で重要なのは、一日のうちで、最初に太陽の光を浴びる時刻と、太陽の光に触れる時間である。

夜型生活はうつの温床となる
 うつ病の人では徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠が減少し、REM睡眠と呼ばれる、夢を見る浅い眠りが増加する。徐波睡眠が減少すると、疲労が蓄積しやすくなり、意欲や気分の低下が助長される。
 現代人の睡眠は質量共に劣悪化している。現代人は短く湿の悪い睡眠で、過酷なストレスに耐えているのである。暗くなると眠り、日の出と共に起きる狩猟採集民は平均10時間の睡眠を取るという。19世紀までは、人々は9時間たっぷり眠っていた。ところが現代人は7時間の睡眠を確保するのがやっとであり、ビジネスマン達は5-6時間の睡眠で仕事に駆り立てられている。日本人の平均的な睡眠時間は、この20年だけでも1時間以上短くなっている。

社会で孤立する個人
 うつ病がほとんどみられない狩猟採集民では「一人の時間」という概念自体が存在しない。常に人々は気心の知れた家族や仲間と行動を共にしている。幸福度が世界で一番高いというブータンでの生活も、家族や村落の人々とのつながりが基本になっている。彼らが、多くの日本人が一人で暮らしているという話を聞くと、なんて可哀想な、と涙を流して同情するという。
 日本における戦後の社会の変化は、人と人とのつながりを希薄にし、個人が孤立しやすい状況の進行を加速してきた。大家族から核家族へと移行してきたとき、多くの人は煩わしい伝統や家父長制から解放されたことを喜んだ。だがそれが、さらに単身世帯の急増という事態にまでなると、寂寥感や孤立感を覚えるようになっている。

ノルウェイとデンマークは自殺率が大きく異なる。
 うつ病や自殺の増加の背景には、社会の解体という現実がある。社会の解体が進み、社会が共感的な絆よりも、契約や利害というドライな関係で動くようになると自殺が増加することに、一世紀近く前に活躍してデュルケームはすでに気づいていた。同じ北欧の国ながら、ノルウェイとデンマークは自殺率において大きな違いを示すが、家父長的で共同体的な人間関係を基本とするノルウェイでは自殺が少なく、核家族化し、個人の経済的な自立を優先するデンマークでは自殺が多いのである。

悲しみや落ち込みや失敗を受け入れ、共有する心理・社会的絆の崩壊がうつや気分障害に苦しむ人を増やしている。
 一方で、自殺の防止を叫びながら、もう一方で、失敗することを許さない風潮が強まっている。本当に自殺を減らそうと思うのなら、一度や二度失敗しても挽回することができる、もう少し寛容で、懐の深い社会を目指す必要があるのではないだろうか。

本当の豊かさを経験できない子どもたち
 子どもにとっての豊かさとは、物質的なものよりも心理・社会的な豊かさである。
 受験戦争や習い事に追われ、母親の監視する視線に晒され、子どもの本当の気持ちよりも、周囲の期待や思惑を押しつけられているということが、多くなっていないだろうか。